ルイヒルのクセ




葉柱には、変なクセがある。
クセがあるというか、多分、オレが作ってしまったクセだと思う。

「ハバシラ」

コーヒー淹れろ、まで続ける前に、呼ばれた葉柱がソファの隣にちょこんと座って、期待した目でこっちを見てる。

長時間のPC作業に肩と目が疲れたのを感じて、ちょっと休憩するかなーと思ってたところ。
コーヒーでも飲んで一息いれて、残りはあと30分くらい、最後の追い込みかなーって。

隣りに座った葉柱は、にこにこしてちょっと顔を上げて、それから首を傾ける。

「……………………」

どうしようかなと思ったけど、まぁいいかと思って、葉柱が期待してる通り、その口にちゅっとキスをした。

つまり葉柱は、名前を呼ばれると、キスをしてもらえると思ってる。

「コーヒー」
「うん」

名前を呼ばれてから待ってる間の葉柱は、まるで犬みてェだなと思いながら、ついでに頭を撫でて要求を伝える。
返事をしてキッチンに向かう葉柱のケツには、尻尾すら見えそうだ。

なんで葉柱がそんなふうに思い込むようになったかっていったら、まぁ、オレのせいなんだよな。多分。

葉柱と居るときっていうのは二人っきりのことが多くて、そうすると、名前なんか呼ばなくても事足りる。
「オイ」とか「テメェ」とか、そう言うだけで、それが指すのはお互いだけなんだから。

で、確かに、これからイチャイチャしようかなーって時には、「ハバシラ」って呼ぶことが多い。
ボケっとテレビ見てる葉柱の名前を呼んで、顔を向かせてキスをする。

あとはセックスするときも、コイツすぐ夢中になって、首にかじりついたまま離れなくなるから、また「ハバシラ」って呼んで顔を向けさせないとキスができない。

そういうことを繰り返してるうちに、葉柱は「名前を呼ばれる=キスしてもらえる」と、パブロフの犬のように学習してしまった。

それで今みたいに、特に他意がなくポロっと名前が出たときにも、当然のようにキスしてもらえるものだと思って、にこにこしながらイイコで待ってるわけだ。

「はい」
「おー」

自分の分と2つ、マグを持って戻ってきた葉柱からコーヒーを受け取って、それからその犬を見てみる。

葉柱が両手でマグを持つと、手がデカいせいで、それがやたらと小さく見える。
葉柱は猫舌なので、そうやって両手でもったマグに、そーっと口を近づけて、思ったより熱いと、ビックリして離れたりする。

なんか、お前、そうしてるとバカみたいだな。

「ハバシラ」

今度は意識して名前を呼ぶと、葉柱が目をパチっと開いて、すぐにマグをテーブルに置いた。
そうだな。そんな熱いもん持ちながらキスすんのは、危ねェからな。

また、ちょっと身体をよせてイイコで待ってる葉柱の頬を触って、ちゅっと軽くキスをする。

葉柱のこの犬みたいなクセを、実は結構気に入ってる。

セックスしたいときの合図は、何で覚えさせるのがいいだろうな。


'13.07.08