買って買ってヒル魔




「お前さー、大学行ったら引っ越すの?」
「ア?」

高校も終わりに近づいて、部活を引退してもヒル魔を泥門へ迎えに行く習慣は変わらず、それからヒル魔の家に行って一緒に過ごすのも変わらず。
今のヒル魔の家は泥門にほど近く、高校の近くだからここに住んでるんだと思う。

最京にも通えない距離じゃないけど、高校卒業したら別にこの場所に拘る理由もないだろうし、もしかしたら今度は大学近くに引っ越すのかなーって。

「オレも一人暮らししようかと思ってさー」

オレの方も、別に大学まで実家から通えない距離じゃない。でもヒル魔が最京近くに引っ越すなら今より遠くなる。
もともとウチには門限らしい門限はないけど、だいたい日付が変わる前くらいには帰ってる。外泊するときは一応親に言っとかねーと、なんか延々携帯に電話かかってきたりもうるせーし。
そういうのが煩わしいから、だったら一人暮らししちゃったらどうかなーって。

「なんで。必要ねーだろ」
「え?まぁ、通えねー距離じゃねーけど、そしたら、ほら…………」

泊まったりとか、もっとできるし。いや言わせんなよ。察しろよ。

「一緒に住みゃいーだろ」

「え………………………………」





「ちょ、段ボールここ置いとくなよ!」

一緒に住もうと言われた日から、実際に引っ越してきた今日まで。一緒に部屋を選ぶとか家具を選ぶとか、面倒だろうけど楽しいイベントだとワクワクしたのは最初だけで、ヒル魔は借りる家の最寄駅だけ指定したら後はノータッチ。
「ここはどう?」とか見取り図なんか見せても「なんでも良い」だし、家具家電はまぁもともと一人暮らしのヒル魔のものをそのまま持ってきたのが大半だけど、それらについても「適当にやっとけ」で終了。

つまり「面倒」だけど「楽しい」イベントのうち「楽しい」ことはなにもなく、ひたすら「面倒」なことだけだった。

そもそもその指定した駅というも、最京に近く、且つ新幹線停車駅にアクセスが良いなど完全にヒル魔の都合だけで選ばれたとこで、もっと最京と賊大の中間くらいにしようとかあっても良いんじゃねーの?

「はー………………」

それでも引っ越し当日、荷物を運び入れてある程度大きい家具なんかを配置したら、「今日から一緒に住むのか」という思いで多少は胸が高まった。

新しい部屋。ヒル魔がいて、そこに「ただいま」って言って入ったり、「おかえり」って言ったり言われたりする。

「ここ、防音は?」

感傷に浸るような気持ちで部屋の入口に立ってしばらく中を見渡してたら、ヒル魔が後ろからひょいと現れて声をかけてきた。

「は? なんで?」

大学近いから、ここに友達呼んだりするとか?そんなん今までしたことねーじゃん。
つーか、何にもしねーけど文句も言わねーからまぁ良いかと思ってやってきたのに、まさかここに来て文句つけだす気じゃねーだろうな。

そもそもなんだよ。オレ的には結構感動というか、多少なりとも気持ちの盛り上がりがやっぱりある。
なのにヒル魔は特にそんな様子もなく普段どおりだし、自分の荷物の片づけもそこそこにいつものパソコン開いたりもしてるし。

浮かれてるのはオレだけかよ。

「うるせーじゃん。夜。特に今日は」
「…………………………………………」





「ハバシラ」

一緒に暮らし始めたと言っても、前から学校や部活のないときは一緒にいることが多かったし、地域も同じ関東圏内だし、ヒル魔はヒル魔だし、特にそう大きな変化があるわけでもない。

それでも多少の変化はあって、その中のひとつがこれ。

「あ?」
「これも」

コンビニなんかに行くと、レジに行く前にヒル魔がフラっと寄ってきて自分の欲しいものを渡してくる。

暮らすということは、家賃水道光熱費通信費食費等、当然お金がかかってきて、今まではどれだけ入り浸っても「ヒル魔の家に遊びに行く」というスタンスだったから、手土産的に何かを買っていったりすることはあっても、「家計」のような意味でお互いの金に干渉したことはない。

でも今は「一緒に住んでいる」わけで、一応最初に「毎月各自十万ずつ出し合って専用の口座に入れ、そこから家賃等引き落とし、残りは食費や雑費に使う」という取り決めにした。
取り決めにした、というか、ヒル魔は何にも考えてないし何言っても「適当にやっとけ」なので勝手に決めただけだけど。
ヒル魔がしたのは、同居が始まってから自分の通帳とカードをポイっと渡してきただけ。

正直預金残高が既に想像以上すぎたので、この金があれば細かいことなんか気にしなくても割と贅沢に暮らしていけるけど、全部ヒル魔に払ってもらういわれはないので、自分の収入に合わせた計画にした。
オレの親から仕送り十五万。十万家計に入れて五万は自分で自由に使う分。
だからヒル魔の通帳からも毎月十万を新しく作った通帳の方にうつして、各種引き落としや支払いに充ててる。

一応それをヒル魔に説明はしたけど、多分そんなに聞いてないというか、通帳を預けたので金に関しては自分は何も考えなくて良いだろうと都合良く解釈してると思う。

そういう経緯があって、二人でいるとヒル魔が財布を出すことはない。
一人のときはどうしてんのか知らないけど、外食するなら当然オレがその家計から払うし、コンビニやスーパーに入ると、フラフラどっかいって戻ってきたなーと思ったら、欲しいものを持ってくる。

「これ」
「お前、そんなん食わねーだろ」
「食う」

今日のヒル魔は、コンビニでなぜかアイスを持ってきた。期間限定新発売のレアチーズケーキ味。

ヒル魔が「これ」と欲しいものを持ってくるようになって分かったけど、なんかこいつ「新商品」と「期間限定」が異様に好きで、そういうのを目に留めるとすぐに買ってと持ってくる。

「嘘つくなよ。食わねーだろ」
「食うからこれも」

そのくせアイスやお菓子の類がそう好きなわけでもなくて、一口食べるともういらねーとか言って全然食わねーの。
そんなの勿体ないし、結局オレだってそう食いたくもねーのにその後始末をさせられるのが嫌で受け取るのをしぶっても、ヒル魔が強引に「これ」と押し付けて、自分はさっさと店から出て行った。

「もー」

最近は、ヒル魔がなんか買ってほしいときの声が分かるようにもなってきた。「葉柱」と名前を呼んでくる声に、オネダリのとき特有の響きがある。

最初は、ヒル魔がオネダリというかお願いみたいな感じで「買って」と渡してくるのになぜかちょっとした感動みたいなものがあった。
でもそんなの本当に最初の方だけで、だってヒル魔はあまりにも無駄なものを欲しがりすぎる。

だからって、元をたどればヒル魔の金なわけだから、そんなに強く否定もできずに結局買うことになるんだけど。

「ほら」

今日もアイスを買わされて、コンビニを出て渡してやったらすぐにそこで食べ始めた。
まぁ、可愛くなくもないんだよ。アイスが欲くてオネダリするヒル魔は、本音を言うとちょっと可愛かったりもするんだよ。


「もーいらね。やるよ」

これがなければな。





「ハバシラ」

買って買ってヒル魔は、店の中だけじゃなくて実は家の中でも発揮される。というか、家の中で出てくることの方が多い。
今日も寄ってきたヒル魔の声のトーンから、またなんか欲しいんだなということが察せられた。

「これ」

ヒル魔がそう言いながら見せてきたのはパソコンの画面。つまりは通販。

ヒル魔はどうやって見つけてくるのか分からない不思議なものたちをこの四角い機械の中から見つけ出して、それを買ってくれと要求してくる。

通販ならカード作って渡すから自分でやっとけとも言ってみたけど、ヒル魔はオレが荷物を頼むと、その支払いと受け取りはもちろんのこと、段ボールを開けてそれを処分しておくところまでオレの仕事になると思っているらしく、頑なに自分ではやろうとしない。
確かに、実際に注文したのが自分だと、なんとなくそういうのもやらなきゃいけないような気になるのは確かだよ。

「バカな子ほど可愛い」というのは、別に頭の悪い子が可愛いということじゃなくて、なんでも自分でできて自分でやってしまう子より、多少は自分でできないことがあって、頼ってきたり甘えてきたたりして手のかかる子の方が可愛い、という意味だと思う。
そういう点では、ヒル魔はまさに「バカな子」だ。まぁ、実際は「できなくて」じゃなくてできるけどやらないだけの怠け者だけど。

「なにこれ」
「銃」

それは見たら分かんだよ。
ヒル魔が「これ」と指す画面には、小ぶりのマシンガンのようなものが表示されてる。

「H&K」

いや、正式名称とかは別にいいけど。

「この前も同じの買っただろ」

確か先週だよ。ヒル魔が同じように「はばしらー」って寄ってきて、買ってくれとオネダリしてきたのは。
そのときもまたこんなものを……と思いながら注文したからよく覚えてる。

「チガウ。あれはHK53。これはHP5」

いや知らねーよ。

「こっちの方が弾倉が長い」

ホントどうでも良いから。

「似たようなのもういっぱいあんだろ」
「チガウ」

違くねーよ。つーか。

「買ったってあそこに置きっぱなしだろーが」

リビングの隅には、段ボール箱が一個置いてある。
そんなとこにそんなもの置いとくのはどうかと思ったけど、いくら言ってもヒル魔は部屋を散らかし放題で、勝手に片づけても持ち出してきてはまたその辺に置いとくから部屋の中はどんどん物であふれてくる。
しょうがないので、「自分の物はこの中に入れなさい」とそれだけを約束させて、大きな段ボールを一つ設置しておいた。

引き出しに入れるとかクローゼットにしまうとかは全然しないけど、とりあえず箱に入れとくだけなら本人的にも簡単だと思うのか、ソファやテーブルの上に物が放置されることは減り、一応ヒル魔の私物はその箱の中に放り込まれるようになった。

中には意味の分からない四角い機械とか、なぜか人形の頭みたいなものも入ってたりするけど、一番多いのが銃関係。

「つーか、なにしれっと箱増やしてんだよ!」

蓋を閉めてない段ボールからは、乱雑に突っ込まれた銃の銃身がにょきにょきと飛び出してる。
その様子からももう中が満員なことが見て取れるけど、いつからか急に箱の隣に、もう一つ箱が増やされてた。入りきらなくなった分が、2号の箱に入れられてる。

そーじゃねーんだよ。入りきらなくなったなら、もう要らなくなったものを処分するとか、使用頻度の低いものは収納の中にしまうとか、そうしろよ。なに当たり前のように領地を広げてんだよ。

そもそもあれは、仮置きの箱だから。いちいち片付けるのが面倒ならとりあえずあそこに入れて、時間のあるときにちゃんと片付けなさい、っていうそういう箱だから。

2号も既に半分くらい中身が入ってるし、このままいったら3号の登場だってもうすぐだ。そんでそのうちリビングが段ボール箱に占領されるだろう。

気が付いたときには増えてたから注意するタイミングをなんとなく逸して、もしかしたらそのうち片付けるのかもと静観してたけど全然そんな気配ない。
そもそも一個の時点でだいぶ見苦しいのを我慢してんだよこっちは。

「そんなあったってどうせ使わねーだろ」

ヒル魔が所持している銃の数を数えたことなんてないけど、ぱっと見だけでも相当な量がある。

ランボーだってターミネーターだって、あんな数の銃火器なんて持て余す。頑張ったって手は二本しかねーだから。
ハンドガン2、3丁にマシンガン、ショットガン、火炎放射器にロケットランチャーがあればもう十分だろ。

「ツカウ」

嘘つくなよ。

「とにかく、少なくともあの箱の中片付けるまではこれは買わねーから」
「…………………………」

ヒル魔が見せてくるノートパソコンを手で押しのけてそう言ったら、なぜかヒル魔はちょっとビックリしたような顔を作る。

いやお前、今のオレの話きいてたか?どう考えても、「よしじゃぁ注文しとくな」ってなるわけねーだろ。なにビックリしてんだよ。

「………………………………」

驚いたようにちょっと目を見開いたヒル魔は、無言のまましばらくすると今度はむっとしたような表情に変わる。

そんな顔したってダメ。ちょっと拗ねた顔見せたからってこんなもんホイホイ買ったりしねーんだよ。アイスじゃねーんだから。
アイスは食ったら終わりだけど、これは邪魔なんだよ。

「………………………………」
「…………………………………………」

無言の睨み合いがしばらく続く。どうやらそうやってこちらが折れるのを待ってるようだけど、オレは折れる気ねーから。

「これ」

そんで無言の圧力では埒があかないと思ったのか、また件の銃を買えとパソコンをぐいぐい押し付けてくる。

「買わねーの」
「なんで」

なんで? いやいやいや、言ったろ。なんで聞いてねーんだよ。

もう同じようなのいっぱい持ってるからだよ。そんでそれらを全然片付けねーからだよ。

ヒル魔は本気で、なぜいつものように買ってくれないのか分からないような顔をしてる。オレはお前が分かんねーよ。

「先にあっち片付けたらな」

本当だったらあんな箱が要らないように整理整頓しろと言いたいけどそこは譲るから、せめてあの2つに増えたヒル魔箱をもとの一つに戻したらな。

このバカ野郎にもよくわかるよう、丁寧に指でさして教えてやる。

「お前やっとけよ」

ふわー。やべー。コイツもうなに。なんなの。

なぜかヒル魔は嫌味っぽい口調で「怒ってます」というのをアピールしてるけど、この場合怒るのはオレだから。

「オレがやるなら全部捨てるからな」
「………………………………」

きっぱり言ったらヒル魔が立ちあがったので、あきらめたのかと思ったら立ち上がったヒル魔はその例のヒル魔箱の方に向かう。
まさか本当に片づけるのかなと思ったら、2号の方を持ち上げて、中身をざらーっと1号の中にうつした。
うつしたっていっても、1号だってすでにパンパンだったんだから、その上にただ山を作っただけで、箱の中に納まってるとは言い難い。

それでも2号を空にしたことでヒル魔は「箱は1つに戻った」とでも主張する気なのか、隣に戻ってくると「ん」とか満足そうにその箱を顎で指す。

「………………………………」

お前、それは、ないだろ………………。

唖然として見てたら、積み上げられた山の上から、不安定に乗っかっていた小さい銃が一つガチャンと落ちた。

「……………………………………」

その音が聞こえなかったわけないのに、ヒル魔は知らんぷりして何事もなかったような顔をしてる。

「ハバシラ」

なに、オネダリを再開してんだよ。片付けたから? 片付けたからもう買ってもらえると思ってんのか?

いやいや、はみ出してるよ。落ちただろ。今。まさに今ガチャンと音をたてて箱から転がり落ちただろ。

「フォアグリップがいーだろ」

は? なんて?

「ここの、この形が良い」

ヒル魔の神経質そうな指先が、画面の銃を指してる。

えーと、「良い」っていうのは?

「かっこいーだろ」
「………………………………」

かっこいい。かっこいい、か? え? かっこいいのか?

「あと、フロントサイトが良い」
「………………そうだな」

なんで急にそんなこと言い出したのか困惑しながら、なんとも言えないのでとりあえず適当な返事をかえす。

「そーだろ」

その返答が求めていた通りのものだったのか、ヒル魔がニンマリと満足そうに笑みを浮かべる。

これは、プレゼンか。この銃がいかにかっこいいかをプレゼンして、購入に値するだろうと説得してきてるのか。

つーかお前、銃好きなの?

いや、銃火器の類を好んで持ち歩てるのは知ってたけど、それはなんていうか、「威嚇」の分かり易い手段として用いていると思ってた。派手で目につきやすくすぐ分かって、そういうものとして最適だから。
髪を染めたりピアスをしたりするのと同じで、そういうパフォーマンスだって。

それが、違うのか。いや違くはないけど、そういう意味もあるけど、もっと単純に「かっこいい」から欲しいのか。

持ち歩ける量には限界があるんだから、威嚇用パフォーマンス用として必要な量なんて限られてる。だからなんでそんなに買うんだよと思ってた。
かっこいいからか。かっこいいから、欲しいのか。

「ハバシラ」

ヒル魔はなぜかご機嫌な様子で、多分もう買ってもらえる気になってる。
ウキウキすんなよ…………。

「………………………………」

例えば、バイク。オレが手間とかヒマとか金とかかけて、メンテしたり改造したりしてるアレ。
あれもまったく興味のない人から見たら、「そんな無駄なことを」と思われるのを知ってる。現に、オレの母親なんかもあれを見ていい顔はしない。

ヒル魔にとってこの銃火器たちは、オレにとってのバイクのようなものなんだろうか。それにしては扱いが雑すぎると思うけど。

つーかお前、カッコイイと思って銃を振り回してんだとしたら、それは、ちょっと、なんていうか…………イタくね?

あれ? じゃぁもしかしてその髪とピアスも、もしかしてカッコイイからやってんの? え? パフォーマンスじゃなくて?

ヒル魔の財力からしたら、とりあえず目についたもの纏めて片っ端から購入することもできるのに、たまーに「これ欲しいな」とチマチチマ増やしていくのは、やっぱり好きだからなんだろうか。
一つ一つをちゃんと愛でているというか、細かい好みや拘りがあるというか。

思えばヒル魔の趣味とか好きなものって、アメフト以外は知らない。知らないっていうか、あんまないんだと思う。新製品に飛びついて買ったって、二度はない。
つまり試してみたいだけで特に「これが好き」と好みを作ってることがない。

そう考えると、アメフト以外では、これはヒル魔の唯一の趣味というものだったりするんだろうか。

「ハバシラ」
「…………………………」

本当は自分でもなんとなく気付いてる。オレはこの時点で、この買って買ってヒル魔のオネダリを許可する理由を探してる。分かったよというタイミングをただ図ってる。
ヒル魔の唯一の趣味なら、まぁ細かいことには目をつむってもいいかなーなんて思ってる。

買い物とは、きっと誰にとっても結構楽しいものだ。そんで趣味のものを買うなんてその最たるもので、だから銃を買って買ってするときのヒル魔は、いつも結構ご機嫌なんだ。

ヒル魔がにこにこして寄り添ってくるのなんてこのときだけ。

ヒル魔のこんな様子を見たことがあるやつってのは、少ないと思う。
ヒル魔の私生活は実はかなりダラけてるのを知る者も少ないし、お風呂上りに頭を拭いてあげないといつまでもびしょびしょのまま暮らしてるとか、休日は放っておくとずるずるのスウェットでボサボサ頭で過ごしてることを知るやつも少ない。

少ないっていうか、もしかしたらオレしかいない。オレしか知らない。

弱小校に奇跡の勝利をもたらす司令塔で、チームの頭脳で、要で、きっと誰も、ヒル魔が「バカな子」なんて思いもしない。

このバカな子が買って買ってと甘えるのも、きっとオレにしかしなくて、そしたら、それを叶えてあげたいと思うのはもうしょうがないことだろう。

「分かったよ」

だから多分これからも、こうやって「ハバシラ」と甘えられて、何丁も何丁も、オレには同じものにしか見えない銃を買うはめになるんだろうな。

バカな子は、やっぱり、どうしようもなく可愛いんだ。








「ハバシラ」
「んー?」
「戦車買って」

いやそれはダメだろ。


'18.2.26