ヒルルイと腹ペコ
ヒル魔は、なんだか常に腹を空かせている。
蕎麦屋でさー、ソバとかつ丼、とか、まぁ普通に食うと思うんだけど、あのー、セットのやつな。
ミニ丼セット、みたいな。
それを、単品で食う。
普通のソバと普通のかつ丼を食う。
でも、それもまだ分かる。
多分、運動部の男子学生っていうのは、相撲取りに次いで世の中で食糧を消費している部類の人間だと思うし。
オレだって実家でメシ食うと、母親がヒクくらい食うから。
で、今日のヒル魔は、天ぷらソバ(大盛り)とかつ丼(大盛り)を食べて、食べ終わった後に「そばも、ラーメンみたいに替え玉できればいいのに……」とか呟いてた。しかも、ちょっと悲しげに。
どんだけ腹へってんだよ。
そんで家に帰ると、ちょっとパソコン弄って、日課になってる筋トレとストレッチするとまた腹ペコになるらしく、常備してあるバナナを食う。
1本を三口くらいで食べて、そんで牛乳飲んで、またバナナ食って、みたいなことを繰り返す。だいたい3、4本くらい。
ちなみにその後風呂に入って、風呂上りにもまた1本食う。
オレの周りのヤツだって大概大食漢だけど、多分ヒル魔が一番食う。
それにしては、イマイチ細いけどな。
まぁ、これは言ったら烈火のごとく怒るから言わねェけど。
燃費悪いんだろうな。
そういうわけで家にいるときのヒル魔っていうのは、ふと気が付けばバナナを食ってる。
よく飽きないよな。
多分、他に食うものないからなんだろうけど。
「なぁ、これ食う?」
ある日、ふと思いついてバナナを凍らせてみた。
「なにそれ」
「バナナ凍らせたの」
ヒル魔の生命線であるバナナを2本拝借して、剥いてからラップに包んで冷凍庫に入れといた。
最近暑くなってきたし、多分、バナナみたいな柔らかいものはあんまり食べごたえもないし、こうしてみたら喜ぶかなーと思って。
ラップに包まれた冷たいバナナを風呂上りのヒル魔に渡すと、それを珍しそうにしげしげと見つめて、それからそれに齧りつく。
凍ったバナナはカナリ硬いので、いつもみたいに一瞬に消費されたりはしない。
ソファに座ったまま、文句を言わずにバナナに延々と噛みつき始めたから、気に入ったんだろうか。
なんか、アレに似てるな。
あのー、犬が、前足で骨を抑えて噛みついてる様子に。
奥歯でせっせとバナナを噛み削ろうとしてる様子がまさに。
無心でそうしてるヒル魔をしばらく見て、それから自分用にも凍りバナナを一本取り出す。
なんか、懐かしい感じ。相当ガキの頃に食った以来だと思う。
ラップを剥いて口に入れてみると、やっぱり相当硬い。
まるごとじゃなくて、一口サイズとかに切って凍らせた方がよかったのかも。
手が冷たくなるのもネックだしなー。
「もっと食う」
「え?」
バナナを両手交互に持ち替えがら、舐めたり噛んだりしてると、横からヒル魔が膝で押すようにして要求してくる。
え? もう食ったの?
あの硬いバナナを?
ヒル魔の手元を見ると、中身のなくなったラップだけが握られてる。
お前の歯、凄ェな。見かけだけじゃないんだな。
「もうねェよ」
だって風呂あがりって、いつも1本しか食わねェじゃん。
あっさり返したら、ヒル魔がムっとした顔をして、それから目ざとくオレが握ってるバナナを見つけてじっと見る。
「…………これ食う?」
「うん」
しょうがないので渡してやると、また骨を与えられた犬みたいにせっせとバナナに噛みつき始める。
まぁ、いいけど。
なんか、それ食ってるお前おもしろいし。
観察してるとバナナはあっというまに短くなって、口に入るまで小さくなるともごもごと頬を膨らませながら最後まで消費した。
テーブルの上に投げ捨てられたラップを、すぐ横のごみ箱に入れると、上機嫌のヒル魔が首に手を回して抱き着いてくる。
顔を向けると、そのままキスしてくる。
ホントご機嫌だな。おなかが満たされると、幸せなんだな。
「お前、口冷たい」
「んー? うん」
服の下に突っ込まれた手も相当冷たくて、それに腹を触られたくなかったので手で捕まえて指をからめると、満足そうに鼻を鳴らして押し倒すようにすり寄ってきた。
「あれ、もっと作っとけ」
そんくらい、自分でやれよ。
バナナにラップまいて冷凍庫にいれるだけだろ。
「うん」
ただ、ご機嫌なヒル魔はなんだかとても可愛くて、頭を撫で返しながらそうやって答えた。
それからというもの、凍りバナナを切らさないよう準備しておくというのが、日課の一つに加わった。
部活終わるとヒル魔を迎えに行って、帰る途中でメシ食って、バナナを買い足して、翌日分用に凍らせる。
普通のバナナもそれはそれで食べるらしく、凍ったやつはもっぱら風呂上り専用になってる。
だいたい1本。気が向いたときは2本食べることもある。
「バナナ食う」
風呂上りのヒル魔が、目の前のテーブルに置かれてるバナナを無視してそうやっていうのは、凍ってるやつが欲しいとき。
とってこいってわけだ。
ホントにコイツは、何にも自分でしねェからな。
今更そのくらいのことじゃ文句を言う気にもならず、冷蔵庫まで歩いていって中身を確かめる。
冷凍庫のバナナを探してみるけど、さっきいれた明日用のしか見つからない。
でも、絶対まだ2本はあったはずなのに。
「あれ? お前、ここに入ってたやつ食った?」
「朝食った」
珍しい。
最近、気温が更に上がってきたからだろうか。
「じゃ、もうねーよ」
「なんでだよ」
いや、お前今のオレの話聞いてなかったのかよ。
お前が食ったから、もう無ェんだよ。
「テメェの仕事だろ」
そりゃ、用意しとくのはオレの役目だけど、お前が勝手に計算外に消費したんじゃん。
「普通のやつ食ってろよ」
「やだ。アレがいい」
嘘つけ。
腹に入ればなんでも満足するくせに。
「ねーもんはねーんだよ」
「グズ。使えねー。マヌケ」
お気に入りのオヤツが与えられないを分かったヒル魔が、思いつく限りの罵倒を投げてくる。
子供かよ。
「じゃ、コンビニ行ってアイス買ってきてやるから」
「やだ。バナナがいい」
意地はってんなよ。
凍ったバナナは、その辺になんて売ってねーの。
アイス渡したら渡したで、喜んで食うくせに。
オレを罵っても腹は空くばかりだと気づいたヒル魔は、ふてくされたようにソファに横になって、クッションに顔を埋めてる。
ぎゅーっとクッションを握る手が、オレは怒ってんだからなって、アピールしてる感じ。
まぁ、怒ってるっていうか、拗ねてるんだけどな。
そいういう姿を見てると、どうしても、なんとかしてやりてーなーとか思うんだよなー。
だって、腹減らして悲しんでるんだぜアイツ。
バカみてェ。でも可哀想で、なんか可愛い。
ダメだろうとは思いつつ、さっき冷凍庫にいれたばかりのバナナを確かめてみても、やっぱりちょっと冷たいくらいで普通のバナナだ。
他にヒル魔の気を紛らわせるもんはなんかないかなと、小さいキッチンの棚とかを漁ってみる。
まぁ、常に腹を減らしているヒル魔から隠れおおせた食糧が、そうあるとは思えないけど。
台がないと奥まで見えない一番上の棚を、少しだけ期待を込めて開けてみる。
パっと見空っぽだけど、手を伸ばして探ると指先になにかあたって、背伸びをしながらそれを引き出した。
おお、ご飯じゃん。
レンジで温めるやつの。
見えるとこにあったら、多分一番に消費されてただろうに、隠れてたおかげて生き残ってたヤツらしい。
米大好きだし、これを与えたら喜ぶだろうと思って、賞味期限を確かめてさっそくレンジにかける。
ボタンを押すピッっという電子音に、ヒル魔の耳がピクっと反応してる。
食糧の気配には敏感だ。
ピロリロ〜と温め完了のメロディが流れて、蓋をはがすとツヤツヤした白米が見える。
いくら米が好きだからって、これ、このまま出したらなんか寂しいよなと思う。
でも、他に食うもんなんてないしなぁ。
口に入れられるのであとあるのは、調味料くらいだ。
ふりかけなんて気の利いたものもないし。
しょうがないので、オニギリにしてみることにした。
だからって梅干しも海苔も無いので、塩だけの、ただの白いオニギリ。
まだ寂しいは寂しいけど、まぁパックのままのご飯よりはマシだろう。
「ほら、これ食う?」
何が出てくるか気になってるくせに、意地になって顔をあげないヒル魔の頭を撫でて声をかけると、ようやくブスっとした顔をしたままヒル魔が身体を起こす。
「うわっ」
渡してやろうと手を伸ばしたら、怒った顔のままガブっと噛みついてきたので驚いて手を引くと、手の中からひったくるように乱暴にオニギリが奪い取られて、ビックリしてる間に数口で消費された。
「もっと食う」
またそれか。
「じゃぁ、買ってくるから待ってろ」
「早くしろ」
オニギリ一個分満たされたヒル魔は、今度はさっきよりは多少機嫌がいいらしく、今度は素直にそう答えた。
コンビニに行って、またパックのご飯と、ついでだからと海苔も買ってみる。
あと、アイスも買っておけば完璧だろう。
帰る途中で、そういえば米じゃなくて普通にオニギリ買えばよかったと思ったけど、塩と海苔だけのオニギリをヒル魔は幸せそうに食べてたので、まぁ、よかったのかもしれない。
次の日からは、また凍りバナナを切らしたなんてことがないように、大目に凍らせておくようにした。
普通のバナナが無くなっても困るので、バナナも大目に買い足しておく。
「オニギリ食う」
「え?」
ストレッチが終わったヒル魔は、普通のバナナを食うんだろうなと思ってたのに、今日はそんなことを言いだした。
「だって、米ねーよ」
オニギリ食いたいなら、帰る途中に買ってこればよかったじゃん。
「ある。炊けてる」
「え?」
ビックリして、キッチンにある炊飯器を見てみる。
それが働いてるところなんて、今まで見たこともなかったのに、今は保温のランプが煌々と灯ってる。
なんで? 炊いたの? テメェが?
正直なところ、なんかメンドクセェことになったなーと思う。
だって、今までバナナを与えておけば満足してたのに、一度オニギリという贅沢品を与えたせいで、強請ればそれが出てくるとをこのハラヘラシに学習させてしまったってことだから。
まぁ、めんどくさすぎていつもバナナばっかり食べてるテメェが、腹へりの欲求からとはいえ、わざわざ自分で米を炊いたってことは評価できるかもなぁ。
「次からはテメェが炊いとけ」
そう言うとも思ったけどな。
ホントにちゃんと炊けてるんだろうかと思って炊飯器の蓋を開けてみると、白い湯気がふわっと上がってきて、中には窯一杯にツヤツヤしたご飯が入ってる。
え、これ、何合炊いてあんだよ。
「どんくらい食うの?」
「いっぱい」
あぁ、そう。
炊飯器に入ってる米なんて、久しぶりに見た。
なんとなく、美味しそうって気がしてくる。
自分も食べようと思って、5個くらい握ってみる。
多分、ヒル魔は3つくらい食べるだろう。
相変わらず塩と海苔だけの寂しいオニギリを、ヒル魔がもくもくと食べて、予想通り3つ食べると満足して風呂に向かった。
上がってきたら凍ったバナナを犬のように食って、ご機嫌になるとキスしてセックスして寝る。
そういうわけで、オレの日課には、バナナを凍らせる他に、朝タイマーでご飯をセットして、夜はオニギリを握るという作業がまた追加された。
素オニギリばっかりじゃやっぱり寂しいなーと思って、梅干しや明太子なんかも買ってみたりして、中に入れるとヒル魔が目をパチパチさせて、喜んで食べてるのが分かる。
特に、わかめごはんが好きらしい。
いつも3つしか食べないのに、わかめの混ぜご飯にすると、もっと食うって言い出すから。
炊きあがったご飯をちょっと冷ますためにボウルに移してると、たまに待ちきれなくなったヒル魔が歩いて寄ってきて、ペタっと背中にくっつきながら、「わかめごはんがいー」とか言う。
これを、可愛いと思うんだからどうしようもない。
今日も、そろそろオニギリ作ろうかななんてキッチンまで来たら、ヒル魔が後ろからぎゅっと抱き着いてきて「わかめのやつ」とかリクエストをしてきた。
「はいはい。座ってろ」
「んー」
返事はしたけど離れる気はないらしく、腰を抱いたまま耳の後ろあたりに吸い付いてきたりする。
母親にまとわりつく子供みたいだなーと思いながらヒル魔をくっつけたまま歩いて、炊飯器の蓋を開けたところで驚愕した。
水と米だ。
慌てて炊飯器の表示を見てみる。
点いてない。
「あ?」
後ろから炊飯器を覗き込んだヒル魔が不振な声を出して一歩離れる。
「あのー、ごめん。ご飯ない」
炊けてない。
多分、朝、スイッチを入れ忘れた。
「アァ?」
さっきまでご機嫌だったヒル魔が、一瞬にして顔を歪めて不機嫌な面を作る。
ヤバい。腹が減ってるときのヒル魔の凶暴さは、普段の三割増しだ。
「ごめん。コンビニ行ってくるから」
「フザケンナ。バーカ! 使えねーなテメェは!」
案の定プリプリと怒りだして、唇を尖らせたまま罵倒してくる。
「頭悪ィしノロマだし気が利かねーし……」
黙ってると延々と悪口が続いていく。
腹減って切り上げてくれないかなと思うのに、今日は空腹より怒りが勝ってるらしく、いつまでたっても終わりそうにない。
どうにか気を逸らさないとずっとこのままだなと思って、すぐ後ろの冷蔵庫から、例の凍りバナナを取り出した。
「ほら、これ食って待ってろよ。すぐ買ってくるから」
「いらねーよ」
食べ物を持たせればとりあえず機嫌がよくなるだろうと思ったのに、受け取ったヒル魔は怒り心頭って感じで、そのバナナを思いっきり投げ返してきた。
まさかヒル魔が食べ物から手を離すことなんてあるとは思ってなかったし、ほんの一歩程度の距離から投げられたバナナにとっさに反応できず、顔を背けて目を瞑るのが精いっぱいで、それがガツっとコメカミあたりに当たって床に落ちる。
投げたヒル魔も、まさか当たると思ってなかったのかちょっとだけ驚いたような顔をして、そのくせ悪びれもせずに「ドンくせーな」なんて言う。
この野郎。
なにしても、オレが怒らねェなんて思うなよ。
凍ったバナナなんてマヌケなもん顔に向かって投げつけられて、怒らねェわけねェだろ。
「あっそ! じゃ、ずっと腹へらしてろ! バーカ!」
言い返したっていいことないとは分かってたのに、あまりに頭にきすぎたんで、そうやって怒鳴り返した。
もう無視して帰ってやろうとヒル魔の横を歩いて抜けようとしたら、襟首を掴まれて引き寄せられる。
こいつ、まさか今度は殴る気じゃねェだろうな。
いっとっけど、殴り合いだったら負ける気なんてしねェからな。
「離せよっ」
手を振り切ろうとしたら、今度は強く横に引かれて、少しバランスを崩したところを壁に押し付けるようにして押さえつけられる。
「テメェ……ん、んーっ」
文句を続けようとしたら、ヒル魔が頭突きでもするつもりかってくらいの勢いでキスしてきて、歯がガチっと当たる。
それから肘で押すようにして身体を押さえつけたまま、すぐにベルトに手を伸ばしてきた。
「ヤメロバカっ!」
仲直りでセックスしようぜって感じじゃ絶対ない。
コイツ、空腹とイライラを紛らわすために、とりあえずセックスしようとしてやがる。
そんな使われ方されて、ホイホイ言うことなんて聞くわけねーだろ。
「コロスぞ!」
首を捻って口から逃れて、こっちのイラダチも相当なところまで来てたので、ほとんど遠慮なしに膝でヒル魔の腹を突き上げるように蹴りをいれる。
ちょっとは怯むかなと思ったのに、怯んだのはその後思いっきり首に噛みつかれたこっちの方で、そうやって押さえつけながら、ヒル魔の手は、今度は自分のベルトを外しにかかってる。
あの牙に噛みつかれてると、そのまま噛み千切られそうでなんとなく恐ろしい。
頸動脈の辺りに歯が食い込んで、そのまま血まで吸われそうな気になる。
「バカ! もう知らねーからなっ! 二度とオニギリなんて作らねェからな! バナナもやんねーからなっ!!」
なんとなくマヌケな物言いだけど、衝動的にそうやって怒鳴る。
だって、オレがせっかくそうやって献身的にバナナを与えたりオニギリを与えたりしてるのに、コイツはこんな勝手なことばっかするんだから。
ヒル魔の口が首から離れて、顔が見える。
目がぎゅーっとツリ上がって、激しく怒ってるのが分かる。
うるせーよバカ。
テメェの顔がどんなに凶悪だろうと、今更それにビビったりするわけねーだろ。
またなんか文句を言ってやろうと口を開いたら、それより前にヒル魔がぎゅっとしがみつくように抱き着いてきた。
それが、性的な気配が一切消えて、ほんとにただしがみつくだけの。
「…………なんだよ」
なんとなく気が削がれて、紡ぐ口調が拗ねたみたいになる。
ヒル魔は答えなくて、ただひしっと抱き着いたままだ。
そのまま膠着して、どうしようかなと思ったところで、タイミング良くヒル魔の腹が「くるる」と鳴る。
お前、こんな状態でもやっぱり腹減ってるんだな。
つい条件反射で、なぐさめるように頭を撫でると、抱き着いてくる腕がぎゅーっと強くなる。
あぁ、ダメだ。
オレのヒル魔が、お腹を空かせて悲しんでいる。
可哀想でなんか切ない。
「コンビニ行ってきてやるから」
しょーがないので諭すように言って、ゆっくり背中を撫でる。
「…………一緒に行く」
珍しい。
もしかして、ちょっとは悪いことしたと思ってんだろうか。
「うん。オニギリ買う?」
「米買う」
なんだ。作った方がいいんだ。
背中を撫で続けるとヒル魔が腕から力を抜いて、身体をちょっと離すと、今度はそーっとキスしてきた。
耳の後ろを撫でるようにして受け入れると、身体を押し付けてきながら熱心に口の中を探ってくる。
腹へってるくせに。
オレのことも食糧と思ってそうで、ちょっと怖ェよ。
「なぁ」
「なに?」
「一生、オレのためにオニギリ作って」
「………………」
なに、プロポーズみたいなこと言ってんだよ。
まさかホントにそういうつもりで言ってんのか?
それとも、ただただ腹がへってるから言ってんのか?
「…………いーけど」
オレだけそんなつもりだったらどうしようと思ったけど、とりあえずそうやって答えた。
ヒル魔は満足そうに鼻を鳴らして、それからまたすぐキスをしてくる。
手が、ゆっくり服を捲って腹や胸を探ってくる。
コンビニ行くんじゃなかったのかよ。
でもなんか、オニギリはねーよなオニギリは。
普通、味噌汁のシーンだよな今のって。
今度、オニギリを一緒に味噌汁を出してみたらどうかなんてちょっと思う。
作ったことねーけど。
でも、このハラヘラシに贅沢を覚えさせると、また面倒臭ェことになるなー。
もし気に入ったら、たまになんてのは許さないだろうし。
テメェが一生作って欲しいなら、一生作ってやってもいいけどさ。
'13.06.21