ヒルルイの自家発電
「なぁ」
「ん?」
ベッドでイチャイチャしてるときのヒル魔の声は、意外と優しい。
ヤルのかな? って雰囲気になって、多少身体を撫であったりして、それから服を脱がそうかってとこでかけられた声も、甘い感じで結構腰にクる。
「ハメ撮りしていい?」
「…………………………」
ベッドの上で、キスしてみたり、髪を撫でてみたりして、そうしてたはずなのに、ヒル魔の手にはいつの間にか携帯が握られてて、あぁ、今のは聞き間違いじゃないんだなと知る。
「なに言ってんだテメェ」
バカか。
そんなこと聞かれて、「いいよ」なんて言うやつがいると思ってんのか。
いや、いるかもしんねーけど、オレがそう言うと思うのか。
「動画か、写真でもいーけど」
いーけど、じゃねェよ。
「フザケんな」
「なんで? 別にオレしか使わねーよ?」
お前だけとかそういう問題じゃねーだろ。
え? ていうか、使うの? 見るんじゃなくて、使うわけ?
使うって、使うってことだよな?
「テメェしか見ねェなら、なおさら撮る必要なんてねーだろ」
「だから、テメェがいねーときに使うつってんだろ」
……………………。
だからその「使う」っての、テメェマジで言ってんの?
ていうか。
「…………お前、オナニーとかしてんの?」
ちょっと驚いたような心持で言ったら、上に乗ってるヒル魔の方がビックリしたような顔をする。
「え? テメェしねェの?」
いや、するけど。
オナニーくらい。
でも、テメェとこういうことするようになってからは、ほとんどねーよ。
だって、ほぼ毎日ってくらいセックスしてんじゃん。
「いつもセックスしてんじゃん」
「セックスとオナニーは別物だろ」
いや、それも分かるけど、オレが言いたいのは「いつも」ってとこだよ。
だいたい毎日テメェん家来て、すぐセックスに流れこんでるのに、一体いつオナニーなんてする暇があるんだよ。
いや、暇があっても、弾がねーよ。
「エロDVDでも使ってろ」
でもまぁ別に、テメェがしてたって構わねーよ。
普通のでもホモビデオでも、なんでも好きなの見てやりゃいーだろ。
「テメェでヌくのが一番気持ちいー」
「………………」
オレだって、テメェでヌいたことが、無いとは言わねーよ。
だからって普通、それを言うか? 本人に。
しかも、「セックスとオナニーは別物」って、オカズもセックスも一緒じゃ意味ねーだろ。
つーかコイツマジかよ。
マジで、ハメ撮りしてオカズに使おうと思ってんのかよ。
「……お前、まさか既に撮ってたりしないよな?」
わざわざ今聞いてきたくらいだから、過去の行為を撮ってたってことはないと思っていいんだよな?
「ん? まぁ、写真ならあるけど」
「…………どんな?」
ヒル魔が悪びれもせずに言うのに一瞬言葉を失ったけど、どうにか平然を装ってそれだけ返す。
だってこう言うってことは多分、コイツ全然悪いと思ってねーってことだからな。
掴みかかってシバキ上げたい衝動を抑えつつ、「オレにも見せろよ」とか言ってみる。
怒鳴ったりしたら、逆ギレして写真のありか吐かねーかもしれねーからな。
とりあえず写真出させて、破棄して、話はそれからだろ。
「別に、普通の写真だぜ?」
へー。普通の? 普通のハメ撮りの?
必死に穏やかな顔を保とうとすると、コメカミの辺りがピクピクと痙攣する。
それを隠すように手で覆って、それからそんな動きは不自然だったかなと思いその流れのまま手をヒル魔の顔に向かわせて、引き寄せるようにキスをしてみる。
「まぁ、いーけど」
ちゅっちゅっと唇を鳴らしてキスをすると、ヒル魔はちょっと機嫌を良くしたようで、そう言ってベッドのすぐ横にある引き出しに手を伸ばす。
そんなとこに入れてあんのかよ。
もっとうまいとこに隠しとけよ。いや、隠されてたって困るけど。
「ほら」
ヒル魔の手が引き出しを探って、掴みだした写真をひったくりたい衝動を必死に抑える。
拳に力を入れながら辛抱強く待ってると、ヒル魔がまるで自慢するかのような顔でそれを手渡してきた。
「な? 普通だろ」
「…………」
そうだな。
なんか、ちょっと拍子抜けしたけど。
ヒル魔が渡してきた数枚の写真は、普通に長ランを着てる葉柱が写ってるだけの写真。
目線があってないから隠し撮りなんだけど、なんだよ、オレこの流れだったら、当然のようにハメ撮りが出てくると思ってたのに、本気で普通の写真じゃねーか。
「この顔が一番可愛いーだろ」
ヒル魔がコロンと横に寝っころがって、腕を伸ばしてその中の1枚を指さす。
「いや……どうかな…………」
写真は、背景から泥門の部室だと分かる。
そんで、ヒル魔が指さしたのは、明らかに怒り狂って喚き散らしてる顔を、ちょっと下から撮ったような写真。
別に、可愛いって言われるのは、なんだかんだでもう慣れた。
どうやらコイツが、そんな恥ずかしいことを本気で思ってるらしいってのも知ってる。
ただ、お前、コレがいいわけ?
いや、自分の顔に文句つけるワケじゃねーけど、数ある中から、なんでこれを選ぶんだよ。
もっと普通っぽく写ってるやつあんじゃねーか。
それにしてもこの写真、初めて泥門に行ったときのヤツだよな、多分。
あの、練習試合の約束をしに行った時の。
だってそれ以外、泥門の部室で、こんなに怒り狂ったことなんか無かったハズだから。
写真を捲って他のを見れば、名前だけの顧問が見切れて写っていたので、やっぱりそうだと分かる。
最初に会ったときにこんな写真撮るなんて、一目惚れってことかよなんて思うと、ちょっとだけくすぐったいような気持ちにもなる。
まぁ、それにしたって行動が早すぎるけど。
そういえば、こっちには全然その気がなかったのに、熱心に口説かれて落とされたんだった。
その頃のことなんか思い出すと、ちょっと胸がじんわりする。
コイツ、片思い中、オレの写真なんか、大事に持ってたりしたんだ。
「でも、こっちの後ろ姿のやつが、一番ヌけた」
「………………」
そう言ってヒル魔が指さすのは、おそらく部室から出て帰って行こうとしている葉柱の後ろ姿。
「風で長ランが捲れて、ちょっといいだろ」
そうだった。
そうだったな。
片思いの相手の写真がどうって話じゃなくて、オカズの写真の話だったな。
っていうか、え? お前、これでヌいてたの?
服がめくれてるったって、本当に風でちょっと長ランがそよいでる程度だ。
エロい要素なんかどこにもない。
どうやったらこんな写真一枚でヌけんだよ。中学生か。
いや、今日日中学生だって、写真一枚じゃヌけねーよ。
ちょっとネット漁れば、裸の画像でもエロい動画でも、いくらでも出てくるこのご時世に、なんで着衣の後ろ姿の写真でヌいてんだよ。
ヒル魔がこんな普通の写真を持ってたってことが嬉しいような気もするし、でもこれを使われてたって思うと、胸中が複雑すぎる。
「でももう飽きた。だから新しいの撮らせろ」
並んで寝転がりながら、写真なんて見てた和やかな空気が一変して、ヒル魔がイヤラシイ色を込めたような声で言う。
正直、オカズにしてる写真なんて、渡されたら引き破って燃やして捨ててやろうと思ってたのに、あんまりにも普通な写真すぎてそんな気持ちがスッカリ萎える。
こんなもんで、飽きるまでヌいてんじゃねーよ。
でもだからって、可哀想だからじゃぁちゃんとしたの撮ろうな、なんてことになるわけねーだろ。
「ヤだ」
「なんでだよ」
「ヤだから」
本気で嫌でそう言ってるのに、ヒル魔はなんか全然本気にしてないように受け流して、携帯を掴んだまま頭を撫でたり腰を押し付けてきたりする。
「ヤメロつってんだろっ!」
このままじゃホントに撮られかねないと思って携帯を取り上げようとすると、抵抗するヒル魔とそれを巡って揉みあうような形になる。
コイツマジでブン殴ってやろうかとまで考えた矢先に、振り回した手の甲が携帯に当たって、それが弾かれたように床に落ちて転がった。
「テメェ……」
その携帯を見送ったヒル魔の顔が、今までのニヤけてた顔から一転して険しくなったので、ちょっとだけドキっとする。
「ま、どーせテメェはスグいいよって言うけどな」
ただ、それは本当に一瞬だけで、スグに口角がニっと上がり、笑みのような形をつくる。
ヒル魔がよくやる、嘘くさくて、なんか企んでそうな、ワザとらしい笑顔。
「言うワケ、ん…………」
携帯を取りに行くかと思ったヒル魔はそうはしなくて、身体ごと上に伸し掛かるように覆いかぶさってくる。
指を絡めて握られると、甘い雰囲気に腰が痺れるような感じ。
それでもそのまま流される気はないから、空いてる方の手で、ヒル魔がまだ何か隠し持ってないか身体中なでて確認してみる。
「撮ってもいー?」
「あ……だ、だめ…………」
大丈夫。もう何も持ってない。
「どうしても?」
「う、ん……あ、あっ……」
さっきまではその気だったわけだし、普通にセックスするだけなら、こっちだって大歓迎だ。
「ここ気持ちい?」
「あン、あ、気持ちいっ」
「じゃ、撮ろーな」
コトが終わったあとは、下半身は泥のように溶けて流れてどっかに行っちまったんじゃないかと心配になるくらいだった。
手で触って、ちゃんと脚があるか確かめたいくらいなのに、指一本動かせない。
100メートルでも全力疾走したかのような息が全然整わないのに、ヒル魔は上機嫌に笑って、ちゅっと額にキスをしてベッドを降りる。
顔を向ける力もなくて、ベッドにへたばったまま待ってると、すぐにヒル魔が上に戻ってくる。
手に、携帯を持って。
「…………や、やだ」
喉がカラカラで、声がかすれる。
顎がバカになったみたいで口がうまく回らない。
舌を動かすのすら億劫で、やっとそれだけ返す。
「なんで? いいって言ったろ。ごめんなさい、もう許して、なんでもするからーって」
「……………」
「あぁ〜ん、死んじゃう〜、なんでも言うこときくから〜」
「……そ、んな言い方してねェだろっ!」
わざとバカっぽく口調で言うヒル魔を睨みつけようとしたら、驚いたことに眉間にさえ力がいれられない。
でもまぁそうだな。言ったよ。
認めたかねーけど、概ね、そういう感じのことは。
「あ……触んなっ…………」
イカされまくった身体は、過敏になりすぎて腕に触られるだけで神経を直接撫でられてるみたいに感じる。
死ぬほど気持ちいいけど、感覚が強すぎてもう苦痛との判断がつかないくらい。
最後の方は、内臓が全部ひきつれるようで、本当に死ぬかと思った。
「ほら、四つん這いになってケツこっち向けろ」
テメェ、どういう写真撮ろうとしてんだよ。
「なに? まだ嫌? じゃぁまた撮る気になるまでスルか?」
「や、やだ……待てよ…………」
ベッドの上で目を瞑って、いっそ気絶して動けないフリでもしようと思ったのに、ヒル魔はそういう可哀想なオレに誤魔化される気なんてサラサラないらしく、無視してると肩を掴んでまたキスをしてこようとする。
「撮らせる?」
「………………」
そうだな。そうだったよ。
ベッドの上でされるテメェのオネガイってやつに、逆らえるハズなんてなかった。
よく考えりゃ、初めてフェラチオされられたときだって、騎乗位したときだって、こうやって言うこときかされたんだ。
「ひ、ひるま……」
でもな、そういう奥の手だったら、オレだって持ってんだよ。
「ん?」
仰向けのまま腕だけ持ち上げると、冗談みたいに手がブルブルと震える。
一体なにをどうしたら、こんな状態にまでなれるんだ。
力の入らない両腕に鞭打って、ヒル魔の肩に触れるくらいまでくると、呼ばれたヒル魔が身体を傾けて近づいてくれる。
「ひるま、ひるま」
力ない腕で抱き寄せると、ヒル魔も腕をまわして、頭を撫でてくる。
その動作が、可愛い可愛いと言われてるようで恥ずかしいけど、今の状況ならそう思ってくれた方が幸いだ。
「やだ……撮るなよ」
喉がひきつってうまく声が出ないけど、そのせいでやたらと甘えた感じになった。
恥ずかしすぎて顔が熱くなるけど、肩に頭をあずかるように寄りかかってるヒル魔は、なにかを考えるように黙ったので、自分の思惑は多分成功したんだと思う。
そーだよ。
ベッドでテメェのオネガイには逆らえねーけど、オレがこうやって名前呼んで、甘えてお願いしたとき、テメェがそれを結構聞いてくれるっての、実は知ってる。
普段は人のいうことなんて一個もきかねーけど、そうやったら優しくしてくれるって。
そういうとこも、テメェに落とされた要因の一つだから。
ヒル魔が黙ったまま髪を撫でてる。
身体は結構落ち着いてきたけど、耳にかかる息が、くすぐったくて気持ちい。
「…………なんで?」
なんでって、まだちょっと粘るのかよ。
そんなに撮りてーの?
「恥ずかしいから」
背中を撫でながら言い返すとヒル魔がちょっと身体を離して、スネたような顔が見える。
珍しくて、なんとなく可愛い。
「じゃ、しゃぶってるとこだけでいーから」
「………………」
そりゃ、それなら、自分の身体撮られるよりは恥ずかしくはねーだろうけど。
「いい?」
今度はさっきと逆にヒル魔が甘えるような声でいって、またちゅっとキスをする。
しまったな。
そういうの、オレが使える奥の手だと思ってたのに、テメェに使われても、結構ヤバい。
確かに、裸やら性器やら撮られるよりは、しゃぶってる顔だけってのはいい落としどころかもな。
お互い妥協して、半分くらいで手を打とう、みたいな。
「…………変なとこ撮るなよ」
あきらめて言ったら、ヒル魔はニコっと笑ってベッドの上に座ると、腕をひっぱってこっちの身体も起こさせようとする。
え? 今?
「はやくしろよ」
もーいいけどさ。
ノロノロと膝をついて、座るヒル魔の前ににじり寄る。
肘をついて顔を近づければ、ヒル魔が頭に手を置いて、もう片方の手で携帯をかまえてるのが視線の端に見えた。
それから、リローンと携帯からシャッターの音が鳴る。
携帯の角度を見て、変なとこは撮ってないことを確認してから、ヒル魔の萎えてる性器に手を伸ばした。
さんざんヤリまくった後だから勃つとは思えなかったけど、それっぽくマネゴトでもすれば満足するのだろうと思い、手で持って舐めたり口に含んだりしてみる。
「もっと音出せよ」
音? 音ってなんだよ。
動画か。写真じゃなくて動画とってんのかよ。
抗議のつもりで睨みつけてみたけど、上目使いに喜んだだけだったみたいなのですぐ止めた。
もうここまできたら、どっちでも一緒か。
唾液をたっぷり出すようにして、唇を鳴らしたり、ジュルジュルと音が出るように吸い上げるとヒル魔の手にちょっとだけ力が籠る。
それから驚いたことに、性器が反応して硬くなってくる。
お前、アレだけヤっといて、まだ勃つわけ?
まさかまたヤル気じゃねーだろうな。いっとくけど、オレは絶対無理だからな。
これ以上したら、腰が外れてとれるぞ。ダルマ落としみてーに。
「美味しい?」
なんかもう、分かったよ。
そんだけ持て余してんなら、そりゃオナニーくらいするよ。
「…………うん」
こんなもん美味いわけねーけど、そうやって答えてだってやるよ。
写真の一枚や二枚撮らせてやるし、動画だってヌけるような演出に、ちょっとくらい従ってやってもいい。
だから、頼むからテメェもっと自分でヌいとけ。
'13.07.04