ヒルルイでルイ誕




ここまでだいたいいつも通りだったはずだ。
泥門に迎えに来た葉柱に「メシ」と指示して簡単にファミレスでメシ食って、「ドラッグストア行ってコンビニ行ってオレんち」の指示で家に至る。
そっからもいつも通り、葉柱が淹れたコーヒーを飲みながらソファに座ってテレビを見てる。

そういえばこの前撮ったNFLの試合まだ見てねェなぁと思いだすが、デッキを弄るのが面倒臭くて、たいして面白くもないバラエティを流したままにする。

で、もっと面白くないのが葉柱の態度だ。
コーヒーのマグを抱えながら、ヒル魔の横に座ってテレビを見てるフリをしているが、さっきからコチラの様子をチラチラ伺ってきてる。

別にいいけど。正直そんな態度も可愛らしいとさえ思ってるよ。我ながらどうかとは思うけど。
ただ30分もそうされてっと、可愛いは通り越してもうメンドクセェよ。

「……なんだよ」

しょうがねェから、そうやって促してやる。
舌打ちはしないでやったよ。優しいだろ。

「あのさー……」

葉柱は決まりの悪さを誤魔化すように、もごもごとマグカップを指で弄ってる。
バカだなお前。ここで言い淀んだら、また口開くタイミング失ってさっきのチラチラの繰り返しじゃねェか。
ほら、一旦言葉切ったから、もう話し辛くなってんじゃん。

「うん。なに」

だから相槌だっていれてやるよ。ほら、話し易いだろ。
明日も朝練あるから、ウダウダやって遅くなるまえにセックスに持ち込んで寝たいの。オレは。
そんでせっかくすんなら、雰囲気甘い方がいいから、機嫌損ねないようにしたい。
だってお前そういうの好きじゃん。いちゃいちゃっぽいの。
名前呼んだりすんのも恥ずかしかったけどもう慣れた。
気づいてねェかもしんないけど、お前の喜ぶように、結構気ィ遣ってやってんだよ。

「お前さ、誕生日、いつ?」

ヒル魔の機嫌が悪くなさそうだと思ったのか、さっきまでの緊張をちょっと解いて葉柱がそんなことを言う。
ただなんでか、コッチの目は見ずに、マグの中で半分くらいになったコーヒーを見つめながら。

(あー、なるほど)

それ切り出したくて、もじもじしてたんだ。
正確には、その後に「そういえばオレの誕生日は来週なんだよなー」とか続けたいんだろ。

誕生日気にしたりするの、コイビトらしくていいと思うよ。
ただ、それ言うタイミングが、自分の誕生日の一週間前ってのがどうかと思うだけで。

だってもうお前、それ、完全にオレの誕生日じゃなくてお前の誕生日の話がしたいんじゃん。
いわば「ヒル魔の誕生日」というのを、「葉柱の誕生日」という本題前のクッションにしただけじゃん。

「教えねー」
「はぁ? なんでっ?」

だってこう言ったら、お前自分の誕生日のこと話し辛くなるだろ。
「そっか。じゃぁお前の誕生日はいいとして、オレの誕生日だけど……」なんて言えるワケねェ。

「なぁ、いつだよ」
「教えねーつったろ」

確かに、葉柱と誕生日の話はしたことなかったなと思う。
だから葉柱は、なんとなく自然に自分の誕生日をヒル魔に伝えようとしたんだろう。
お前そういうイベント事大好きだし、オレが知らなくて誕生日スルーされちゃうのが嫌だったんだろうな。

でも、知ってるよ。オレ。
つーか知らねェわけねェじゃん。
なんだったらお前が学校で使ってるロッカーの位置まで知ってるのに、誕生日を知らないワケがない。

逆に、お前がオレをコイビトの誕生日も知らない男だと思ってることがショックだよ。
お前はオレの誕生日知らないみてェだけど。まぁそれはいい。そう言われりゃ教えてねェし。

このままだと「教えろよ」「教えろよー」と際限なく続きそうなので、ワザとデカい音で舌打ちしてやる。
葉柱を見れば、とんでもなく不満そうな顔で眉を顰めて睨んできたが、口は噤んで喋らなくなる。
オレがこういう態度に出たとき、余計なこと言うと更に機嫌を損ねることを知ってるからだ。

ただ、デカい目がギョロギョロ動いて、次になんと言えば大丈夫そうか熱心に探っている。
どうにか頑張って、この話を続けたいみたいだ。
ただな、オレは終わらせてェの。

お前の誕生日、土曜日じゃん? だから金曜日の夜はいつもみたいにウチ呼んで、お前明日タンビョービだろっつってケーキ出して、ビックリする顔見てェの。
そんで、だから明日はお前の好きなコト付き合ってやるよっつって、ほら、お前いっつも言うじゃん。デートしたいって。
だからソレしてやって、ついでになんか好きなもん買ってやる予定。
プレゼントもサプライズで用意してもいいけど、お前オレと趣味合わねェんだもん。
趣味合わねェっつーか、オレが適当に選んだもの全て、服でも食器でもなんでも、葉柱に言わせると「なんで星の数ほどもある物の中からわざわざそれを選んだの?」ってものになるらしい。
せっかくだから喜ぶもんやりてェじゃん? って、そんなことまで考えてる。

甘臭すぎて死にそうだけど、お前がそういうの好きってだけで、やってやろうって気になるよ。
まぁ、たまにだけど。

「風呂入る」

葉柱の口がちょっと開いて、なにかを言いそうになる前にそう言った。
多分、決心して言おうとした言葉はそれでもう言えなくなったはずだ。

「一緒に入る?」
「入らねェよ」

腰に手をまわしてちょっと抱き寄せたら、不機嫌に突っぱねられた。可愛くねェの。
お前じゃなかったら、「もう帰れ」っつってるトコだよ。

「オレ、いちゃいちゃしたいんだけど」
「カッ! 嘘つけっ!」

誕生日の件をバッサリ切って捨てたことで、葉柱はそうとうおかんむりのようだ。
誕生日を教えてもくれない相手が「いちゃいちゃしたい」っつったって、そりゃ確かに嘘クセェもんな。

しょうがないのでソファに片膝を乗せるようにして葉柱に向き直る。
警戒して後ろに退こうとした腰を掴んで引き寄せて、キスしようとしたらフイっと顔を逸らされて逃げられた。

「可愛くねーことすんな」
「そーゆー気分じゃねェ」

だから、キスしてそーゆー気分にさせてやろうってんじゃん。
耳の横から髪に手を差し入れて頭を捕まえるように支える。そのまま親指でこめかみの辺りを撫でてやる。
いつもだったらそれでうっとりするくせに、生意気にこっちを見ようとせず口もぎゅっと結ばれたままだ。

「ルイ……」

自分にできる最上級に甘い声で呼んでやる。
葉柱の目じりが一瞬困ったように下がったが、それでも顔は背けられたままで、体も強張ったまま拒否の意思を示してる。
いい度胸じゃねェか。

「なに? オレのこと怒らせてェの?」
「…………」

声を低くして耳元で言ったら、少し逡巡する気配がして、それから観念したように体の力が抜かれた。
お前のそういう聞き分けの良いトコ、好きだぜ。

「手ェまわせ」

今度は反抗せずに、長い腕がヒル魔の腰に回された。
いつもみたいにぎゅっと抱きしめてこなくておずおずと置かれただけだけど、まぁいい。
どうせこの後すぐ、しがみついて離れなくなんだから。

「キスして」

お願いするように優しく言ってやる。
小首を傾げて顔が近づいてくる。唇の感触を思い起こす前に、本物のソレが押し当てられた。
口を開くと、すぐに熱くてヌルついた舌が差し出される。

そのまま体に伸し掛かるようにゆっくり押し倒すと、狭いソファで収まりのいいトコを探してぞもぞと体をくねらせる。
その仕草、結構好き。
欲しがってるみたいで興奮するから。

服の下に手を入れて直に腰を撫でると、冷たいせいかビクっと体を硬くする。
うん。それも好きかも。

「ヒル魔……」

いつもと違って、ちょっと心細そうな声で呼ばれるのも好き。

「あの、ここですんの?」

そのセリフは余計だな。
無視して手を更に突っ込んで、まだ反応してない乳首を探るように撫でる。
葉柱はまだ何か言いたそうな雰囲気をしていたが、セックスの時みたいに腰を押し付けて軽く揺すると、喉の奥で犬みたいに「くん」と鳴いて大人しくなった。

そうそう。その声もいいぜ。カナリ気分出る。








今日もいつも通りだったよ。
昨日との違いと言えば、メシはファミレスじゃなくてうどん屋で食ったことと、ドラッグストアに寄らなかったことくらい。
ゴムもローションも昨日買ったのでまだ足りてっから。

そんで葉柱がまた昨日みたいにそわそわしだして、またかと思った。
今度はどうやって切り出そうか迷っているのか、それとも切り出し方は決まってるけどいつ言おうかとタイミングを計っているのか。

もしかして、葉柱の誕生日の話を聞いてやらなかったら、当日までずっとこんな感じか?

お前ちょっとはコイビトを信頼してさ、誕生日まで黙って待っててくんねえかな。
まぁ今までイベント事なんかは全部シカトして、お前が「明日はウチこいよな」とか言うのをすっぽかしたことすらあったから、警戒してんだろうけど。
あんときは別に特別な日だとか言われてたワケじゃなく、ちょっと忙しいなーと思ったから事後承諾でなかったことにしたんだ。

あらかじめ言ってりゃオレだって考慮してやったのによ、とか、後で言ったオレのセリフにポカンとした顔をしてたのを覚えてる。
そういや、勝手に期待してそれが叶わなかったからって逆ギレしてんじゃねェ! とか怒鳴りつけすらしたな。

で、そんときに散々お前が文句言ってたから、今度はちゃんとしてやろうとしてんのに。
お前に言わせりゃ、これまでが散々だったから、今度はちゃんと事前に言ってやろう、ってことかもしんねェけど。


「……コーヒー飲む?」
「ん」

葉柱がそう言って立ち上がった。
鷹揚に返事してその背中を見ると、あからさまにションボリした空気を出してる。

多分、ヒル魔の機嫌があまりよさそうじゃないと察して、今日は誕生日の話題を諦めたらしい。
タイミング悪いときに言って、「くだらねェ」とか切って捨てられるのを恐れたんだろう。

別に落ち込ませたり寂しがらせたりしたいわけじゃねェのに。
うまく行かねェのな。

「お前土曜、誕生日だろ」

だから言ってやるよ。
あーぁ。せっかくサプライズでお祝いしてやろうと思ってたのに。

「え、う、うん。知ってた?」
「うん。だから土曜日部活休むっつっといた」

ここまで言えば満足だろ?
オレがアメフトより優先してやるって相当だろ? まぁ、たった一日、ただの練習の日のことだけど。
正直試合と重なってたら、試合行ってるわ。試合が近かったら練習でも休まなかっただろうなー。
よかったな。お前誕生日オフシーズンで。

「〜〜〜〜っ!!」

コーヒー要るとか聞いといて、そんなもん持たずに戻ってきた葉柱がソファの隣に座ってぴったりくっついてきた。

「嬉しい?」
「……おぅ」

肩口に顔を埋めるように懐いてくる。
サプライズはダメになったけど、こんだけ喜ぶならまぁ悪くねェよ。

「もしかして、タンジョービのプレゼントとか、くれる気、ある?」
「どう思う?」

嬉しそうにすり寄られるのは気分がいい。
腕をまわして腰を撫でても逃げないのがイイ感じ。

「……欲しい」

それ、違うシチュエーションで聞きてェな。
つーか、もうちょっとこうやってベタベタすんの楽しもうと思ったのに、すぐセックスに持ち込みたくなっちまっただろ。

「お願い」

その言葉も結構クるのな。
話の続きは一発ヤってからでイイ?









「金曜は何時に終わんの?」
「いつも通りだよ」

ベッドの中の葉柱は大概可愛いが、正直今日は一番ヨカッタかも。
ちょっと拗ねてるのも可愛いし、ワザとイジメて泣かせんのも好きだけど、今日はどっちもナシで散々甘やかした。

だってずっと甘えてくんだもん。
お前ホント、気分が体に反映されるよな。
スゲェ感じてたし、いつもよりイクの早かった。まぁオレもだけど。

二回目を積極的に欲しがったのって初めてじゃねェ?
いつもは疲れてちょっと嫌がるのをオレが無理やりその気にさせるか、したくてももじもじして「オレ、別にも一回やってもいいけど?」みたいな態度とるのが
精一杯のくせに。

一回終わってちょっと休憩してるとこに、「ヒル魔、ヒル魔」って名前呼びながら背中や胸を弄られたことを思い出すと、これからまたもう一回ヤってもいいかな? って気になる。
今も裸でくっついてんのが気持ちいし。

「じゃぁ、迎えに行って、泊まってもいい?」
「それ今更だろ」

だいたい毎日そのパターンじゃん。半同棲っつーか、お前もうこの家入るとき「ただいま」っつってなかったか?

「で、なにが欲しいんだよ」
「なんでもいーの?」

いいわけねェだろ、と思ったが、そんなこと言ったらこの雰囲気が終わりになりそうでちょっと黙る。
その沈黙をどう受け取ったのか、葉柱はニコニコしたまんま脚を絡めたりしてくるもんだから、更に言えなくなった。
お前結構、オレを使うのウマいかもな。

「当日言ってもいい?」

当日? 金曜の夜に言うってこと?
当日でどうにかなるもんなんて、どうせ「一日デートして」とかになるんじゃねェの。
バカだなお前。デートくらい、最初からしてやろうって思ってたのに。

「いーよ」

だからもう一回な。






その例の誕生日まで、そりゃぁ葉柱は上機嫌だった。
ヒル魔がちょっと無理な注文を付けても全力で叶えようと頑張ったし、くだらないことでイチャもんつけても「ごめんね?」と上目使いで謝りすらした。
そんな調子だから、もちろんヒル魔も相当気分良く過ごせた。

で、その金曜の夕方。
部活を終えて、部室でいつもの排気音が聞こえてくるのを待つ。
明日自分がいない分、練習メニューの指示もしといたし、やり残した仕事はない。
今日から明日にかけて、思う存分楽しめる算段だ。

どんな葉柱でも可愛いけど、やっぱオレのこと大好きって感じで懐かれるのが一番イイ。
普段だと、お互いの気分とか雰囲気、タイミングがバッチリ合ったときタマに、って感じだが、このトコロは誕生日仕様のせいでずっと甘々だ。

この誕生日マジックとも言うべき楽しい日々が終わるのは残念だが、今日明日とウマくやったら、単純な葉柱はあと一週間くらい浮かれて過ごして、ヒル魔に上げ膳据え膳の生活をさせてくれるはずだ。

(いつもより早ェじゃん)

地面から伝わるようなバイクの重低音を感じて苦笑した。
期待してんじゃねェよ。
ほんの2、3分だけど。
まぁコッチも、いつもより2、3分早く作業切り上げてたけどな。





「メシは?」

当たり前のように葉柱が跨るバイクのリアに座ると、まずは行き先の確認。

「んー、ピザでもとる?」

いいトコで外食、ってのは、運動部の部活終わりには無理がある。
葉柱んトコにはシャワールームが付いてっけど、泥門にはないし。
それに、オタンジョービにピザっての、らしくてイイじゃん。

帰ったら注文して、それ待つ間に一緒に風呂入って、あぁ、でも途中で届いたら困るな。
ちょっと触りっこするくらいにしよう。
大丈夫。昨日もしたし、そんなにガッツかねェで済みそう。

「ウチ寄ってイイ?」
「は? お前んチ? なんで?」
「ケーキあるから」

なんだそりゃ。買っといたの?
別に帰り道すがら買えばいいかと思ってた。だって男二人だし、デッカイ特別仕様のケーキが食いたいとは思わなかったし。
そこまで拘んのかー。つーか、自分で用意すんのって、ちょっと空しくねェ?

「いや、家から送ってきたから。朝受け取ったのがウチにある」

なにも言わなかったのに、なんとなく察したのか葉柱が決まりわるそうにごにょごにょ言う。
あぁ、実家からの贈り物ってこと?

「ケーキまで送るか? 普通。中身潰れねェ?」

コイツの実家からって、だいたいスゲェ高いもんとか送ってくるから好きだけど、配送と冷蔵庫の長期保存でクリームの乾いたケーキを想像するとなんか美味くなさそう。

「ヘーキ。アイスケーキだから」
「ほぅ」

オレ、食ったことねェな。それ。
つまりケーキの形したアイスクリームってこと?

「あー、別に、オレはいらねェつったけど、去年までは毎年家で食ってたし、今年は帰んねェつったら送るって言うから……」

そんな言い訳ならべなくても平気だよ。
そりゃお前はイイトコの坊ちゃんで、コーコーセイにもなって色々甘やかされてっからそれをからかったりすることもあるけど。
オレお前んチのこと嫌いじゃねェし。
っつーか、そうやって甘やかされて育てられたから、こうやってちょっと頭が弱くて股の緩い、オレなんかに捕まっちゃうような葉柱が出来上がったと思ってるから。

「それ旨いの?」
「うん。オレ好き。あ、あと良いワインとかある」

それも持ってく? と聞かれる。

「なんでそんなんあんの?」
「んー、もらった」

酒は大好きって程じゃないけど嫌いじゃねェ。
ただ飲めりゃなんでもイイじゃんって思うのはオレだけで、お前そういうの好きだもんな。

たださ、その「んー」っていうので気付いたよ。
誰からの誕生日プレンゼント?
名前出したらオレが機嫌悪くなりそうな関係の相手ってことだな?

葉柱は多分、平常心で答えることに成功したと思ってる。
でもそれっきり黙ったから、「ワインの話出したの失敗したなー」と考えてるのが丸分かりだ。
最初から言わなきゃいいのに。そういうとこウカツなのな。

でもまぁいいよ。わざわざ今日こんなことで押し問答したくねェし。

「つーか荷物持ってくの面倒臭ェから、もぅお前んチでいいだろ」

ワインはともかく、アイスケーキなんつー氷の塊をこの寒空の中抱えて走るのは想像するだけで鳥肌がたつ。
いつもはオレんチの方が泥門に近いから、送り迎えの関係だけでソッチにいるけど、明日は部活無ェし、ベッドと風呂があったらドコでもいいじゃん。

「え、いや……」

なんの意図もなく、本当にただドッチでもイイと思って言っただけだ。
それにそんな返事するか?
なに、お前、ワインのことだけじゃなく、まだオレに隠してるコトあるんだ。
せっかく気分よくこの日まで来てんのに、ここでムカつかせんじゃねーよ。

「お前んチな」
「いや……、散らかってるから」

嘘つけ。いつ行ったってお前んチが散らかってたことねェじゃん。
キャラに似合わず綺麗好きのクセしやがって。

「あのー……」

何か喋りたそうにする葉柱に、腰に回した腕をぎゅっと軽く締めることで制す。
分かっただろ、決定事項だ。お前んチな。





「あの、本当に」
「散らかってんだな。気にスンナ」

葉柱宅のドアの前、ノブに手をかけてもまでグズグズする葉柱にそう言って促す。
オレが舌打ちするまえに言うこと聞いとけよ?

「ホントに散らかってるかんな」

諦めた葉柱は大人しくドアを開いて、中に招き入れられる。

「…………」

うん。そうな。散らかってる。正直部屋に入れたくないための言い訳だと思ってたから驚いたよ。

いつもはリモコンくらいしか乗ってないガラスのローテーブルの上には、ビールやチューハイの空き缶が点々と転がってるし、包みを乱暴に破られた食べかけの乾きものが散らばってる。
床にはゴミを簡単に纏めたんであろう口の結ばれたコンビニの袋。

「片づけっから座ってて……」

まぁ、テーブルの上さらってゴミ箱にでも突っ込んどけば、それで終わりだ。
チラっと目に入ったキッチンの方にも、ツブれた空き缶が袋に纏められてるのが見えた。どんだけの酒量だよ。

言われた通りソファに座ると、置いた手に何かあたる。
摘みあげるとマッシュルーム形をしたコルクだ。シャンパンまで空けてやがんのか。

「で、どういうことがあったらこんな惨状になるんだ?」

だいたい予想はつくが、聞いてやろう。

「今日の夜も、明日も明後日も用事あるつったら、ウチのヤツらがじゃぁ今日の昼間ならイイだろっつって……」

ウチのヤツら? あぁ、アレか。
賊学アメフト部という名の、葉柱親衛隊な。
で、そいつらと盛大なお誕生会が開かれたワケか。ココで。

まぁ確かに、毎日夜はオレが独占してんだから、アイツらにとっちゃチャンスは昼しか無ェな。
でもさ。

「じゃ、なんでお前長ラン着てんの」
「…………」

朝、オレを泥門に送ってって、一回は賊学に行ったのかもしんねェが、スグにバックレて家にいたんだろ?
ずっとそれでいる必要ねェじゃん。

あててやろうか。
まるでいつもと同じようにガッコウ行ってましたよっていう、謂わばアリバイを装うためだ。
オレをこの部屋に入れるのを渋ったのだって、散らかってるってことよりここでパーティが行われたのを隠すためだろ?

オレが怒ると思った?
そうだな当たりだな。かなりイラつく。
お前がそれを隠そうとしたトコなんか、最高にポイント高い。

「総番の家で騒いで散らかしっ放しか? 片づけていくように躾とけよ」
「いや、いつもは片づけてくけど、今日はもうお前迎え行く時間だからって慌てて帰らせたから」

つーことは、ホントについさっきまで飲んでたんだ。

「あ、オレ午前中の、最初にちょっとしか飲んでないから飲酒運転じゃないぜ」

そうな。お前別に酒臭くねェし。乾杯だけ付き合った程度ってこと?
つーか午前中からやってたのかよ。

「風呂も入ったし、完全に酒抜けてたから」

それは何? アイツら帰らせてから風呂入ったの? それともいるときに入った?
確かに思ったよ。バイクのケツに乗ったとき、汗臭くねェなって。
ただお前んとこシャワールームついてるし、今日オレに会うのにはりきってシャワー浴びてきたのかと思ったよ。
バカクセェ。

葉柱の肩がビクッと惨めっぽく寄せられて、伺うような視線でコッチを見る。
あぁ、オレ今舌打ちした? 悪いな。あんまりムカついたんで無意識だったよ。

誕生日マジックの甘臭ェ雰囲気は、もう欠片も残さず霧散した。
だいたい、いつもオレんチだからって、隠したいなら油断して証拠なんか残してんじゃねェ。
カラオケボックスにでも行ってりゃよかっただろ。

「……怒った?」

テーブルを片づけ、簡単に拭いて掃除を終えた葉柱が隣に座る。

「なんで? オレが怒るようなことしたワケ?」

シャワーも浴びてるし? ってセリフまでは言わないでおく。
賊学関連でセックス系の軽口は異常に怒るからなコイツ。
相当ムカついてっけどまだそのくらいは気ィまわせる。

「……いや、してないケド」

そう答えるしかねェよな。
トモダチと飲んでて悪いことなんかなんも無ェよ。
だからオレもそんなことしてんじゃねーなんて言えねェし。

ただタイミングだよ。
オレがせっかく祝ってやろうっていう誕生日を、先に他の誰かに祝われて楽しくやってたってのがムカつく。
ガキ臭ェヤキモチだってことがわかるから、そんなことコッチから言いたくねェし、お前も言えねーのな。

「ピザ、なに食う?」
「辛いやつ」

せめてなんとか空気を和ませようとする葉柱にそんな雑な返事。
お前辛いの好きじゃねェよな。知ってて言ってんだよ。あー、もう、こんなのもホントバカクセェ。

「風呂入っから適当に頼んどけ」

惨めっぽい目ェすんじゃねェ。余計ムカつくから。
制服の上着をソファの上に投げ捨てると、いつもだったら「ちゃんと掛けろよ」とかハンガー出して言ってくるクセに、それもしねェし。



脱衣所に入ってシャツを脱いでると、そういえば一緒に風呂入ろうとか考えてたことを思い出す。
イベント大好き葉柱程じゃないが、コッチだってそれなりに楽しもうと思ってたのにどうなんだコレは。

頭から熱いシャワーを被り、これからどうしたものかと目を瞑って思案する。
ベストなのは、部屋に入ってきてからの葉柱お誕生会どーのっつー件をサッパリ忘れてなかったことにする。
で、まるで今日の朝イチャイチャして別れたすぐ後みたいな空気で楽しく過ごすことだ。

でも多分、ヒル魔が風呂から上がったら、葉柱はきっと必要以上にオドオドして眉を下げきった困り顔をしてるだろうし、そんな態度されっとどうしたってさっき感じたムカつきを思い出してしまうだろう。

葉柱の不審な態度を気にしてこの部屋になんて来てみるんじゃなかった。
いやでも、あそこでそれを無視してヒル魔の家に行ったとして、理由を問い詰めずにいられただろうかと考えると、どっちにしろ一緒だった気がする。

(どうすっかなー……)

まっさきに思いつくのは、とりあえずキスしてセックスに持ち込んでうやむやにしちまうって手だが、そういう適当なセックスがしたい日じゃねェんだよ今日は。
いっそ罵り合うくらいの大ゲンカをして、お互いのストレスを発散してから仲直りセックス。
こっちの方が大分よさそうに思えるが、問題は「大ゲンカ」になりそうにないってことだ。

だって、何を言えっつーんだよ。
「オレがいるのに他のヤツと楽しくやってんじゃねェ!」とでも言うのか?

そりゃイラつきの原因っつーのはつきつめればソレなんだが、そんなクソみたいなコト死んでも言いたくねェ。
葉柱がオレに言うならともかく、オレがそんなこと言うなんて絶対無理。

じゃぁいっそ葉柱が「くだらねェヤキモチ妬いてんじゃねェ!」とか怒鳴りつけてくれば、コッチも「調子のってんじゃねェ」って感じで応戦して、舌戦の上当然オレの勝利。ついでに葉柱が「でも好き」とでも言ってこれば、めでたく仲直りセックス一直線だ。
それが現状を打破するのには一番よさそうに思うけど、問題は葉柱がケンカをふっかけてくることは無いだろうってこと。

普段ならともかく、さっきの雰囲気じゃ葉柱も誕生日の甘々タイムに未練タラタラで、もごもごしながらどうにかヒル魔の機嫌が直らないかなーと下手に出てくるだろう。
その態度のせいでコッチもイラつきが収まらねェっつーのにアイツ頭悪いから分かんねェんだろうな。

「はー……」

熱いシャワーがじんわり身体に染み込んで、寒さで固まっていた筋肉が弛緩する。
普段だったら心地よいと感じることが、なんだか疲れてただただ体が重いだけのように思える。

(メンドクセーなー……)

コックを捻ってシャワーを止めた。
なんにしたってこのままじゃしょうがねェ。
とりあえず風呂から上がって葉柱の態度みて、それでどうするか探っていくしかねェよな。



脱衣所にあがると、葉柱のうちに置きっぱなしのヒル魔の部屋着が綺麗に畳まれて置いてあった。
しかもご丁寧に、オレが肌触りが良くて気に入ってるやつ。
よく覚えてんなテメェは。

下着とTシャツとスウェットを着て、髪をガシガシ拭きながら部屋に戻ると、やっぱり葉柱はショボクレタ顔をしてソファに座っていた。
頼むから、嘘でも明るく迎えろよ。

ソファーの前のローテーブルには、既に届いたピザの箱が乗っていて、もうそれすらどんより思い空気に疲れ果てているように見える。

「…………」

なんとなく、「よぅ」とか「おぅ」とか声を出すのすら憚られて、黙ったまま葉柱の隣に座る。
間にはなんとも言えない微妙な距離。

あぁもう分かったよ。認めるよ。
ホントは「バカがオレに隠し事なんかしようとしてんじゃねェ」とか、もっと言えば適当に顔が気にいらねェとか態度が悪ィとかナンクセでもなんでもついてケンカしたっていいんだ。
人のことムカつかせんのは得意だから、そうすりゃ葉柱もいつまでも愁傷な顔してないで乗ってくるだろう。
で、そこまで行っちまえば普段のペースだし、適当に切り上げて仲直りしてやって、この微妙な空気とはお別れだ。

たださ、そうやっても、戻るのは「いつも」の空気なのな。
そうだよ。あのさっきまでの甘臭ェ雰囲気に未練があるのは、コッチも同じだよ。だからしたくねェの。

お前が「誕生日」ってので、どれだけ楽しみにしてたかもこの一週間で散々分かってんだ。
普通にコイビトとして、そんくらい叶えてやりたいって思うんだよオレでも。
まさかそのミッションが、こんなに難しいものだとは思わなかったけど。
慣れてねェんだよコッチは。そんなんしたこと無ェんだから。

ソファの前では、テレビがつけっ放しになったままだ。
どっちも喋りだせねェし、無音じゃないのがせめてもの救いだな。

チラっと横の葉柱を盗み見ると、前のテレビを見てるんだか見てないんだか、とりあえずコッチは見ずぎゅっと口を結んだままでいる。

手って、いつもどうやって触ってたっけ?
ソファの上に置かれた葉柱の手を見るが、あらためてそうしようと思うと、いつもどうしてたかが思い出せない。
それとも、いつも手なんか触らずに肩を抱いてたんだったか?

ちょっと身を乗り出せばすぐに抱きしめられる距離だ。
ここはやっぱ、とりあえず抱き寄せてキスしてみるしかないな。

そう思って肩に手を伸ばそうとしたら、コッチに顔も向けずに葉柱が抱き着いてきた。
肩に顔を埋めるようにしてシッカリ長い腕を首に巻きつけてくる。

なに、お前以外と気が利くじゃん。
ちょっとビックリしたけど、同じようなこと考えてたか?
あんまりシッカリ抱き着いてくるからキスが出来ねェけど、まぁ不器用なりに必死な感じがいいんじゃん?

体を離してキスしようと肩を掴んで軽く押したら、葉柱が抱き着いた力を緩めずにそれに失敗する。
なんだよ。そんな力いっぱい抱き着かなくても、別に突き放そうってワケじゃねェよ。
どんだけオレのこと信用してねェの。

まぁ、ソファで10cmの距離開けてぼんやり座ってるよりは気持ちイイからいいけど。
キスを諦めて髪に顔を埋めるように顔をよせると葉柱の匂いがする。

「…………あの」

ちょっと気分が良くなって葉柱の背中を撫でてたら、瀕死みたいな声で葉柱が口を開いた。
どんだけ緊張してんだよ。

「んー?」
「あの、誕生日プレゼント」
「あ?」
「……くれるって言ったよな?」

出来るだけヤサシー感じで返事をしようと思ってたのに、あまりにも予想外のこと言い出したから「あ?」のあたりが呆れたような口調になった。
違ェよ。別に責めてんじゃねェ。オレの普通の口調だろ。
だからまたそうやって体硬くすんなよ。

つーか、この状況でプレゼント強請りだすとか、度胸あんなお前。
こっちは気まずくなっちまったからどうしよーかなーなんて考えてたのに、その間プレゼントを貰う算段をたててたのか。
お前ちょっと凄いな。

「……おぅ。なに?」

まぁいいケド。
やるよプレゼントくらい。
当日言うからとか言ってたやつだろ? まぁ大概予想は付くけど、なんでも言ってみろよ。

「怒んなよ」

別に念を押さなくたって怒んねェよ。
それとも、そんなにとんでもないプレゼントでも強請る気か?
なんでも良いから早く言ってみやがれ、と思ったのに、葉柱はそれっきり言葉を続けない。

「あぁ?」
「……頼むから」

葉柱がやっぱりか細い声でそう言って、また黙る。

(えーと……)

プレゼントの注文に言いよどんでるワケじゃないらしい。
しがみついたままの背中を撫で続けても、葉柱はもう言うことは言い切ったとばかりに沈黙のままだ。

(つまりアレか?)

「怒んなよ」っつーのが、プレゼントとしてのお願いってことか?
葉柱が、こっちの反応を伺うように緊張しているのが分かる。

マジかよ。
年に一回、オレがプレゼントなんてやろうって大チャンスに、アホだっつーか欲が無いっつーか。

「別に怒ってねーよ」
「嘘つけ」

相変わらずくっついたまま離れない葉柱が、今度は間髪入れずに答えてくる。
まぁそうな。さっきまで多少イラついてたのは認めるよ。
でもさー、可愛いコイビトが、せっかくの年一回のチャンスを棒に振ってまで仲良くして? って甘えてきてんだ。そりゃ機嫌も直るって話だろ。

「怒ってねーって」

そう言って葉柱の頭にキスすると、ようやく恐る恐る葉柱がしがみつ腕を緩めて顔を見合わせる。
デカい目がギョロギョロとヒル魔の顔を観察するように動く。
本当に怒ってないかどうか確かめようとしているようだ。

「ホントに?」
「ホントに」

もう一回、今度は瞼にキスをする。とっさに目を閉じた顔が可愛かったので、そのまま眉間と額にも。

「で、ホントは何が欲しーんだよ」

葉柱は、まだ眉がちょっと下がった困り顔をしる。
ヘーキだよ。ほら、オレ全然機嫌イイだろ?
今だったらどんなことでも聞いてやってもいいかなって気分。

「あのー……」

今度は本当に、プレゼントのオネダリに言いよどんでいるようだ。

「なに?」
「……一日、オレの言うこと聞いて……とか?」
「…………あ?」

予想してなかったお願いに一瞬反応が遅れる。
葉柱は「別にムリだったらいいケド」とかどうとかこうとか、小さい声でごにょごにょ続けてる。

前言撤回するわ。
お前とんでもなく欲深いのな。
この年一回のチャンスを、最大限に生かそうとしてねェ?

「……怒った?」

いや、別に怒りゃしねェけど。
一日言うこと聞けって、あれだよな? 明日の誕生日一日中、お前の奴隷になれって話?

ちょっと考えてみる。
正直言って、オレは葉柱が可愛い。
多少の我儘やらお願いやら、たまに叶えてやってもいいくらい。
たまにっつったって、破格だろ。オレ、人の言うこと聞くの大嫌いだし。

で、それが一日中か?
つーか良く考えたらズルくねェ?
一回のプレゼントのお願いにそんなこと言うなんてて、ランプの魔人に「願い事を100個にしてください」つーのと同じような手段じゃねェ?

「嘘。やっぱいい」

黙ったオレに葉柱は、また機嫌悪くされちゃかなわないと思ったんだろう、慌ててそんなこと言い出す。
そう愁傷にされるとさー、きいてやってもいいかなーって気にもなる。

「うーん……」

でも、コイツどういうこと言い出す気?
一日言うこときくってどんなんだ?
喉が渇いたと言われては茶ァ淹れてやったり、なんか足りないつっては買い物行かされたり、まぁ、つまりはいつもの葉柱みたいなことするってこと?

あー。無理無理。絶対嫌だな。
葉柱のことは可愛いけど、オレ途中で面倒臭くなってお前ことぶん殴って終わりそうな気がする。
人に顎で使われるとか、想像しただけで腹たつわ。

「ヒル魔。ごめん。嘘だって」

黙って考えてたら、また葉柱が泣きそうな顔になってた。
恐る恐るといったような手つきでヒル魔の髪を撫でてくる。

あー、もぅ、可愛いなクソ。

「いいぜ。それ」
「え?」

だからいいよ。そんくれェ聞いてやるよ。
まぁ、コイツも大概オレに惚れてっからな。無茶な命令とかしてこねェだろ。

「ただし、一日じゃなくて一時間な。はい、今から」
「え? え?」
「はい、あと59分50秒ー」

なんつーか、素直にお願いってやつを聞いてやるのって、気恥ずかしいのな。
だから思わずそんな意地悪なこと言っちまった。
まぁ、いいだろ。一時間でも破格だよ破格。こんなこと、多分もぅ一生ねェぞ。

「あの、じゃぁ」

なに? 命令したいこと決まってんだ?
まぁ、もしかしてあの一週間前のときから、オレに言うこと聞かせるならーって、色々考えてたのかもな。
ホントおめでてーよお前。

「えーと……ベッド、行く」
「…………あ、そう」

なんだよ。「言うこときけ」って、ソッチ系かよ。
お前って、ホントバカで可愛いな。




「で、どうすんの?」

一時間の時間制限にせかせかしてる葉柱に、寝室まで引っ張られて連れてこられる。

「えーと、座れ」

焦ってるくせに、モジモジしてんのな。
ワザワザベッド来て座ってどうすんだよ。
押し倒しでもすりゃいいのに、今更なに恥ずかしがってんだか。

「次は?」
「……やっぱ寝ろ」
「はいはい」

仰向けに寝っころがると、すぐに葉柱が上に跨ってくる。
そのままキスされる。
既に鼻息が荒い。なに興奮してんだよ。

でもまぁ悪い気はしねェなと思ってキスを深くする。
上顎を舐めると、葉柱が震えるように息を吐くのに気をよくして、手を腰に回したら払いのけられた。

「お前はなんもすんなっ」

そんでちょっと怒られる。

あぁ、そうな。
お前、「オレの言うこと聞いて」って、つまりは偶にはベッドで主導権とりたいってことだもんな。
オレに触られたらすぐ気持ちよくてワケわかんなくなっちまうから、いつもと同じになるもんな。

「はいはい」

全然いーよ。
だってそれってつまりさ、お前が一生懸命ご奉仕してくれるってことだろ?
期待してるから、頼むわ。

もう何もしませんよって意思表示に、手を頭の横に投げ出す。
ちゃんと言うこと聞くオレに満足したのか、葉柱は今度は額や頬、それから首とキスを落としてきた。

それがオレがやるやり方と一緒だから、笑っちまいそうになる。
意識してやってんのか無意識なのかは分からないが、そうだな。お前オレしか知らないもんな。

ただ、そこまで考えてちょっと不安になる。
もしかしてお前、オレに突っ込もうと思ってる?
正直オレ、お前が騎乗位で乗ってくれんの期待してんだけど。

服を捲られたので、体を捩って脱がせやすいように手伝う。
嬉しそうな顔をしてそれを続ける葉柱が、どっちで考えてるのかは分からない。

ただこうして身体を撫でられるのは相当気持ちいし、とりあえずは大人しくしといて、いざとなったら無理やりこっちが突っ込んで有耶無耶にしよう。

葉柱の手が下のスウェットにかかる。
膝上のあたりまで脱がされると、既にちょっと熱を持ったアレが外気にさらされてヒンヤリする。

「ふーん?」

すでに立ち上がってるソレを見ると、葉柱がニヤニヤと満足そうにそんなこと言う。お前、ホント楽しそうだな。
でもいいから、早くシテ。

期待通り、スグにソレに手が伸びてきた。
あー、やっぱお前の手、好きだわ。
なんか指先がマルっとしてて、吸い付くみたいでカナリイイ。

「気持ちイ?」
「うん」

素直に言ったら、そのままゆるゆるとシゴかれる。

「声だせよ」

お前、それ、絶対言おうと思って準備してたんだろ。
いつもオレに言われてばっかだから、言い返したかったんだ。
オレにアンアン言わせたかったら、もっとウマくなってからにしろよ。

「ん……」

ま、ちっとくれェサービスしてやるけど。

ちょっと声を出すだけで、葉柱はとんでもなく楽しそうな顔をする。
先端を親指でグルっと撫でられると腰が浮きそう。

腿の上あたりに跨ってた葉柱が、膝たちでずりずりと後ろに下がったからなんだと思ったら、そのまま身を屈めて下半身に顔を寄せてくる。
え、そこまでしてくれんの?
お前しゃぶるの、あんま好きじゃねェのに。

「して欲しい?」

息がかかるくらいの距離で聞かれる。

「うん」
「じゃ、オネダリして」

お前がそういうこと言い出す度にさ、笑いそうになるの抑えるのに苦労するよ。
だってにオレがいつも言うことばっか言うんだもん。
ホントに言い返したくてたまんなかったんだな。

「しゃぶって」

笑ったら機嫌悪くするだろうから、我慢してんの。
オレって優しいだろ。
まぁ、葉柱は自分が優位だって思って楽しそうだけど、傍から見たら献身的にご奉仕してるだけなのな。
ホント笑えるわ。

オレのオネダリが気に入ったのか、すぐに葉柱がソレに口をつけてくる。
ちゅっと先端にキスされたかと思ったら、そのまますぐにデカい口に飲み込まれた。

「は……」

ヤベェ。興奮しすぎて、スグ出そう。
葉柱の頭を撫でるように手を置いたら、今度は怒られない。
これくらいなら許容範囲?

長い舌にアレがぐるっとまかれてる感じがする。
くびれの辺りを丁寧にこするように舌を使われるとマジで声出そう。

「葉柱……」

腰を突き上げたくなるのを我慢する。
何もすんなって言いつけちゃんと守ってんの、偉いだろ。

「あ、スゲーイイ、もっと吸って……」

だからお願い。
返事はないけどちゃんと聞いてくれてるっぽい。
頬が凹んだ間抜けな顔を撫でる。葉柱のデカい目がこっちの反応を伺うように見てくるのがさらに感じる。

「もっと唾だして、音たててしゃぶれよ」

そう言ったら、パチンと脇腹のあたりを叩かれた。
なに? あぁ、命令すんなってこと?
はいはい。今命令できるのはお前の方だもんな。

そのくせ、すぐにジュルジュルって水音が聞こえてくる。
素直っつーかなんつーか、お前ゴシュジンサマ向いてねェよ。

「もぅイキそう?」

口は離されたけど、手ェ使われてっからマジヤバイ。

「うん」

だからやめんなよ、と思ったのに、葉柱は続きをしてくれる気がないようだ。

「イキたい?」
「……うん」

あぁ、それやりたかったのな。

「ダメ」

言うと思ったぜ。

葉柱がニヤニヤ笑ったまま、今度は自分の服を脱いだ。
なんだよ、凄ェ勃ってんじゃん。オレ触ってやんなくていいの?

それから葉柱が身を乗り出して、ベッドサイドの引き出しからゴムとローションを取り出す。
あ、やべ、オレどっち?

そんな心配をよそに、ローションを手に溜めた葉柱は、それを自分の後ろに回した。
手ェ長いと便利だな。

「手伝う?」
「……いらねーよ」

そっか。まぁ、オレの上に跨ったお前が、自分で後ろ弄ってるの見てんのは楽しいからいーけど。

「見てんなよ」
「だって他にすることねェじゃん」

ゴムもつけてくれんのかなと思ったら、一個ちぎったのを投げ渡してきて「自分でつけろ」だとよ。
サービス悪ィな。

まぁでもそんなの一瞬だから、さっとアレにゴムつけて、そっからはニヤニヤ葉柱を観察する。
まさか誕生日にオナニーショー見せてくれるとは思わなかったよ。

「見んなっつったろ」

恥ずかしがった葉柱がそうそうに切り上げる。膝で歩くように上に上ってくる。もう入れるってこと?

「まだ入んねェだろ」
「ヘーキだよ。触んな」

腰の辺りに伸ばした手をはたかれる。

「乾いたとこに突っ込んだらオレが痛ェからヤダ」
「……ちゃんとしたって」
「コッチこい」

葉柱はちっちゃく「命令すんな」とか言ったが、大人しく腹のあたりまでまたじりじりと膝歩きで上ってくる。
ケツに手を伸ばすとヌレてヒクついた穴にあたる。
そのままヌルヌルする表面を撫でてから、指を一本差し入れる。

「ん……」

余裕そうなのでもう一本増やしてグルッと中を探るように回すと、なるほど。確かにちゃんと濡れてんな。

「ヘーキだろ……」
「んー?」

葉柱が緊張したように体を硬くするのが面白くて、「どうかな」とか言いながらいつもみたいに弄ってやる。

「ぁ、やめ、ろっ」
「んー」

楽しいからのらりくらりって適当なこと言いながら続けてたら、またパチンと腹を叩かれる。
痛ェなこの野郎。

「約束っ!」

約束? えーと、なんだっけ。

「オレの言うこと聞くつったろ!」

そうだったそうだった。
なんか、あんまりにもお前がご奉仕ばっかしてくるから忘れてたよ。

「あー」
「手ェ上げてろ」

しょーがねーから指を抜いたら、そんな命令をされる。
はいはい、と、降参するようにバンザイの体制をとると、葉柱は拗ねたような顔をしてたが、まぁ一応納得したようだ。

悪かったって。せっかくお前がオレの上のって踊ってくれるっつってんだ。
大人しくするよ。

葉柱はまたじりじり膝で後ろに下がる。
それからちょっと考えるように動きを止めると、オレのアレ掴んで位置を合わせるように腰をくねらせる。

先端が入口にあたると、いやがおうにも期待が高まる。
さっきちょっと焦らされてっから、結構ヤバい。

それなのに、葉柱はもたもたと手を前に持って来たり後ろに回したりして挿入を試みては失敗し、上手く入らないソレがツルツルと入口だけを擦る。

「……手伝おーか?」

二回目の進言。

「……いい」

そんなこと言っても、オレずっとこのままなのツラいんだけど。
あんま慣らしてない上に、膝立ちしてるせいで力が入ってるソコは全然入っていくことを許さない。

「…………支えろ」

しばらく往生際悪くじりじりやってたけど、どうにもならないと思って諦めたらしい。
命令口調なのが、辛うじてゴシュジンサマとしての威厳をたもってるつもりなのかもしれない。

「アレを? お前を?」
「……どっちも」

ニヤニヤしてたらまた怒られそうだけど、だっておもしれーんだもん。

左手で葉柱の腰を掴み、右手でアレ握って穴にあてがう。

「手、こっちにつけよ」
「そーゆーことはオレが決めんだよ」

はいはい。いーから大人しくしてろ。

「そのまま腰下ろせ」

葉柱は、なんか困った顔してる。
そんくらい出来ろよテメェは。

またちょっと迷ったような仕草をすると、結局はオレの言った通りに少し身を屈めてベッドに手ををつく。

「ふ…………」

力が入ってんのか、やっぱいつもより穴が狭い。
じりじりと腰を落とす葉柱が、詰めた息を吐くたびに穴がヒクついて気持ちいい。

「あー、ヤバイ、オレ、すぐ出るかも」

そう言ったら葉柱は元気を回復したようだ。

「勝手にイクなよ」

あ、それも言おうと思ったリストに入ってたセリフ?

「はー…………」

全部入ったところで、葉柱が大きく息をつく。
ホントは、すぐ揺さぶって突き上げたいトコロを我慢する。
だって、これから葉柱が何をしようとしてるか想像つくから。

でもそれ、うまくいかねェと思うよ?

一息いれた葉柱は、気を取り直したようにまた腿に力を入れて腰を少し上げる。
それからまたゆっくり腰を下ろすっていうのを、もたもたと二回繰り返す。
で、また困ったような顔をして、手を前についたり後ろについたり。

色々試行錯誤してるみたいだけど、多分自分の想像通りにはできてないんだろう。
助けを求めるような目でこっちを見てくる。

「思ってたのと違った?」

ダメだ。ホント笑いてェ。
多分コイツ、AVみたいに騎乗位で腰使ってオレのこと責めたかったんだろうけど、そんなこと出来るワケねェじゃん。
今まで騎乗位なんてしたことねェくせに。
どうやったら上手く出来るか分かんねェんだろ?

「……うん」

挿入から続けての失敗に、葉柱の心はちょっと折れたようだ。
可哀想で可愛いなお前。

手コキして、口で焦らして、そんで最後は騎乗位で、多分オレに「ダメ、もうイッチャウー」とでも言わせたかったんだろうけど。
騎乗位はまた今度じっくり仕込んでやるから、今回はあきらめれば?

「で、この後は?」

上に跨ったままにっちもさっちもいかなくなった葉柱を見て、どうしてもニヤニヤ笑いが漏れる。
しょーがねぇって。オレよく我慢してた方だよ。

「オレ、何もしちゃダメなんだろ?」
「……動けよ」

葉柱は、まだどうにか偉そうに見せようとしているようだ。
相当無理あるっつーの。

「どうやって?」
「…………」

命令してくんねーと分かんねーよ、って言ったら、腹をグーで殴られた。
軽くだけど、酷いことすんなよお前。

まぁでも、オレも限界近いから、意地悪続けてんのムリだな。
腰を掴んで前後に揺すったら、葉柱が安心したように目を閉じる。

良い眺め。たまんねェ。

今度こそ遠慮せずに下から腰を突き上げた。
下から見上げる葉柱は、顔を仰け反らせて白い喉を晒してる。

「ぁ、なぁっ……きもち、い?」

てっきりもうあきらめたのかと思ったのに、葉柱はガグガク揺さぶられながらそんなことを聞いてくる。

「ん?」
「言え、よっ……気持ちいだろっ……」

頑張るねお前。
まぁそうだな。誕生日だもんな。

「うん……スゲーイイ」

サービスしてやる。感謝しろよ。
だから、お前も声出してくんない? オレ、その方が興奮する。

「葉柱、も、イキそー……」
「んっ……」

葉柱もイカせてやろうと思って前に手を伸ばしたら、長い手に手首を掴まれはばまれた。
なんだよ。イキたくねェの?
訝しんで葉柱を見ると、ニヤンと笑われる。

「い、ぜ。イっても……ぁ、イキ顔、見せろよっ」
「あ? うぁっ……」

言いながら急に後ろを締められて、思わず声が出た。
上に乗るのに慣れた葉柱が、ベッドのスプリングを利用して腰を跳ねさせる。

「テメ、クッソ……あァッ」

チョーシ乗んな、まで言えなかった。
このクソバカ。マジでヤバイ。もう出るって。

「んっ……ほら、早くイケよっ」
「ちょっと、まて、マジでっ……」

上に乗った葉柱がニヤニヤしてんのがムカつくが、ダメだ。止まんねェ。
そうだったよ。お前不器用なくせに、セックス関係だけは覚え早かったよな。

「イク、くっそ、ぁ、葉柱っ……イクッ」

葉柱の腰を掴んで思いっきり突き上げて、そのまま射精した。
ヤベー、凄ェイイ。出る度に腰が跳ねて止まんねェ。
くそ、見てんじゃねェよ。

「はぁ……はぁ……」

出し切ってから、ベッドの上で脱力する。

「ヨかった?」

葉柱がニヤニヤしながら聞いてきた。
うるせーよ。ヨかったよ。
お前はオレをヒイヒイ言わすっつー念願叶ってよかったな。

ただ、なんだこれ、スゲー悔しい。
しかもオレ、結構声出てなかったか?

葉柱の思い通りになったっつーのも悔しいし、一人だけ先にイカされたのも悔しい。
葉柱の分際で。

「……退け」

思いっきり睨みつけて言ったが、葉柱のニヤニヤ笑いは引っ込まなかった。
この野郎。

手で押すと大人しく上から退いたので、忌々しげにゴムをとって捨てる。
結構大量に出てるってのがまたムカつく。

楽しくってしかたないって顔で笑ってる葉柱の腿を引っぱたいて仰向けに転がす。

「あ、おい、約束っ」

うっせー黙れ。

「もぅ一時間たった」
「え? 嘘」

嘘。さっき時計みたけど、まだ50分くらい。
でもこれ以上好き勝手されてたまるか。

「じゃ、今度はお前が一時間オレの言うこと聞く番な」
「は? なんで??」

上から伸し掛かると、葉柱がそんなこと聞いてないって顔で腕を突っ張って抵抗してくる。

「はー? プレゼント貰ったら、オカエシすんのがジョーシキだろ」

葉柱の顔がサーっと青ざめる。
なにヒいてんだよ。そんなに酷いことはしねェよ。コイビトだろ?

せいぜい、さっき好き勝手してくれたオカエシに、ちょっといじめるだけじゃん?

「葉柱、誕生日おめでとう」

最大限の作り笑いで言ったら、葉柱は諦めたように体の力を抜いた。
そう。いい子な。おめでと、葉柱。


'13.04.22