※このお話は、以前の小説と同じ設定の別視点になります。
 お話はそれぞれ完結していますが、よろしければそちらからご覧ください。
 →ヒルルイの安宅正路
ヒルルイの安宅正路B




「別れよーぜ」

って葉柱が言ったのは、オレんちで、しかもベッドの上で。

最近は、そこ言葉をいつ言うのかなと待ってたフシもあったから、とうとうきたかと思ったけど、お前ヒデーな。
なにも、ヤルことだけヤった後に言うことでもねーだろ。

少し前から葉柱の様子がおかしくて、ちょっと探れば事情は色々分かった。
オレには相談するつもりも愚痴るつもりもなかったようなので、知らないフリをしてた。

葉柱がオレにどう出てくるかってのはいくつか想像してて、その中にこのパターンも当然あった。
そんで、その事態にどう反応してやろうかってのも、いくつか考えてた。

例えば、「そんなの許さねェ」って言って、ハメまくって泣かせまくって、葉柱が謝るまで離してやらないとかな。

「なんで?」

なのにいざそうなってみたら、口から出たのはそんな陳腐な言葉だった。
おかしーな。そんな切り替えしは、想定してなかったんだけど。

葉柱が、どういうつもりでさっきのセリフを吐いたのか分かってる。
死ぬほどオレに惚れてやがるくせに、死ぬほどオレに惚れてやがるから、言った言葉だってのを知ってる。

なのに胸が痛いような気がして、もしかしてオレは傷ついてんのかなと思ってちょっと驚いた。
そりゃ、驚く。オレって、もしかして自分で思ってるよりも、結構繊細に出来てんのかもな。

「オレ、大学、辞めるし」

そうみてーな。
口には出さなかったけど、オレの誘いは気付かないフリして賊大に拘ってたくせに。

「それに、アメフトも辞めるし」

葉柱が同じチームにいたらどうなるかなとか、考えたことが無いワケじゃない。
ただ、ずっとオレの後ろについて来いと言えるわけもなかったし、遠く観客席の上から、フィールドに立つ葉柱を見るのも好きだった。

「アメフト辞めるなら、余計別れる必要なんてねーんじゃねーの?」

これも散々考えてた想定の中にあった言葉じゃなくて、ほとんど無心の中で出た言葉だったから、やっぱりオレは傷ついてんだなーと思った。

なにせこれは、3年付き合ってきた中で、お互いタブーのように触れなかった話題だ。
それを、嫌味な口調で突きつけた。

とうとう言っちまったなと思って葉柱を見たけど、葉柱の表情はそんなに変わって無かった。
でも、「なんのことだ?」ととぼけもしなかったし、「それは関係ない」と否定もしない。

どうやったって勝ち負けが付いて回る世界で、葉柱がぐちゃぐちゃと苦しんでたことを知ってる。
アメフトに本気すぎて、本気だから、それはそれなんて簡単に割り切れなくて、クリスマスボウルの話題も、ライスボウルの話題も、葉柱と話したことはない。

オレのことが好きで、アメフトが好きで、苦しんでたのを知ってる。
それを知られたくなかったのも、知ってるよ。

お互いがジジイになって引退するときまで触れられる話じゃねーかもななんて思ってたことを、一突きにした。

「辞めなきゃいーじゃん。次の大学アメフト部ねーの?」
「でも辞める」

でも辞めて、それで、別れるか。

それって、自分がアメフトを諦めなくなくちゃならなくなたっとき、オレだけがフィールドで楽しんでるのを我慢できないってことだろ。
アメフトが出来ないなら、いっそ全て忘れてしまいたいのに、それにはオレが邪魔だってことだろ。

結局テメェって、オレよりアメフトが好きなのな。

オレは、どうかな。
比べたことはないけど、テメェのことも、結構好き。結構、死ぬほど好き。

一目見たときからそうだったけど、死ぬほどだったかな?
気付かないうちにこんなに好きになったのか、こうなって初めてそれを自覚したのか。

「ひるま…………」

試しにキスしてみたら、葉柱は嫌がらないどころか、甘えた声で名前を呼んできて脚を開く。

そのくせ、目の奥にはどうしようもなく揺るがない決意のようなものがあって、溜息は胸の内でついた。

今オレが、一つでも間違えた行動を取ったら、全てが壊れてしまうような気がした。

腕の中のコレを、好きだなぁと思う。
多分、大事なんだなとも。

オレのことが嫌いになったんなら、殴って縛り付けてでもここに置いておくのに、甘えたように背中に回ってくる腕を感じると、そんなことできそうにない。

なんでかコイツ、そういうの上手いよな。
性悪ってやつ。

それが狙ってやってるんじゃないんだから、お手上げだ。

いいよ。別れてやるよ。
そんなにオレのことが好きなら、別れてやる。

そんくらい、オレがテメェに惚れてるってことを分かって、ずっと引きずってろと思うけど、きっと気づかないんだろうな。


糞野郎。










葉柱と別れてからの生活は、そう劇的に何が変わったってわけじゃない。

もともと、お互いのタイミングが合わなくて一ヶ月くらい会わないことなんでザラだったし、最初のうちはそれと同じような感覚でいた。

やりたいこともやるべきこともたくさんあったし、切ない感じで別れたわりには、楽しく過ごしてたといっても過言ではない。

ただなぜか数か月後、朝目が覚めたときに葉柱が腕の中に居なかったことに、自分でも驚くくらい急激に気持ちが落ち込んだ。

オレの葉柱が、ここに無い。

付き合うとか別れるとか、ヤルとかヤラないとかじゃなくて、ただそれだけが単純に悲しいような、苦しいような気持ちになった。

葉柱に、今特定の相手がいないことは知ってる。
それどころじゃないって感じで過ごしてることも。

フラっと会いに行ったら、どうなるかな。
それは楽しい空想のような、苦しい想像のような気がしてた。

結局それはズルズルと行動に移さなくて、実際に動きがあったのは、ぼんやりの意識していたアメリカ行きを、現実のものとして目の前に見たとき。

アメリカへ行くまでへ片づけること、行くための準備、行ってからの計画、展望、全てが順調に整っていく中で、「葉柱」という存在だけが、ポツンと横に置いてあった。

これだけが、「行くまでに片づけること」に含まれるのか、「行くための準備」に含まれるのか、はたまた「行ってからの展望」に含まれるのか分からず、どれにも分類できずに置いてある。

どこにも整理できないならいっそ捨てちまえと思うのに、隅の方においやるようにしてまで、ただずーっとそこにあった。
捨てないけど、見ないようにしてた、そんな感じの物だ。

ずっとそうしておいたけど、こうして今色々なものを片づけていってる中、それだけを中途半端にしておくことが急に気に入らなくなった。

そもそもオレは、別れはしたけど、「終わった」つもりはねーんだよ。

あの野郎がぐちゃぐちゃ悩んでるようだったから距離を置いてはやったけど、ずっとそのままにしておくつもりなんてない。
ただ、どうしたもんかは分からなくて、手を出しあぐねていたのは認めるよ。

何をどうするのが一番いいのか、タイミングを待つようなつもりでいたけど、本当はただバカみたいに葉柱から来るのを待ってたってのまで認めたっていい。

オレが遠くに行くって言ったら、アイツ泣いちゃうかな。

高校のとき、一ヶ月だけアメリカに行ったことがある。
あのときはまだ葉柱もアメフトに夢中で、夏の大事な時期にオレにかまけてる暇なんてそうそうなく、オレの邪魔するつもりだってサラサラなく、それなのに拗ねたような顔をしてたのを覚えてる。
日本に戻ってきたとき、尻尾振りそうなほど喜んでるくせに、久しぶりだったからイチャイチャする方法を忘れたみたいにもじもじしてたことも。

今度は、一ヶ月なんて限定された期間じゃない。
オレ、アメリカ行っちゃうぜ。そしたらお前、どーすんの。

きっと嫌がる。悲しむ。離れたくないって言う。

顰められる眉と、大きく開かれる泣きそうな目を思い出す。

そうなるような気がするし、そうなって欲しいと思ってるだけの気もする。

2年前、決定的に壊れるのを恐れて手を引いた。
泣きそうな顔をしてる葉柱に、何も言えなくてただそーっと手放した。

今会ったら、今度は何か出来るだろうか。









生意気にも引っ越していた葉柱の新居は当然知ってて、小奇麗な単身用のマンションなんかに一人暮らしで、相変わらずのお坊ちゃんぶりだ。

外から部屋の電気が付いてるのを確認して、2階の葉柱の部屋の前に立つ。

重厚な扉から中の雰囲気が分かるはずもないけど、もぅ時間は23時にさしかかるところ。多分、一人だろう。

インターフォンのボタンを押して、それからそれに付いてるカメラのレンズを見る。
わざわざカメラ付きのドアホンってとこがまたお坊ちゃんだよな。

丸いレンズを見てると、誰かと目を合わせているような気分になる。
このレンズの向こうから、葉柱はこっちを見てるだろうか。

「………………」

そこまで考えて、オレはもしかして緊張してんのかと思いなんとなくムカついた。
なんでオレが、こんなチンケなことで緊張なんかしなくちゃなんねーんだ。

「オラー! シカトしてんじゃねーぞカメレオンっ!」

自分の手に握る汗を無視するように、目の前のドアを蹴りつけた。

そうだろ。よく考えたら、何を律儀にインターフォンなんか押して待ってなきゃなんねーんだよ。
葉柱に対するオレのスタンスなんて、こんな感じだったはずだ。

3回蹴った辺りくらいで、もう緊張なんて一切なく、むしろ楽しくなってきた。
慌てた葉柱の顔が目に浮かぶようだ。

「ばっかやめろ! 迷惑、迷惑っ! 近所のっ!!」

ドアが開いて、まさに思った通り困った顔して慌てた葉柱が顔を見せたので、なんて単純なやつだとやっぱり楽しくなった。

「寒ィから早く入れろ」

慌てた様子の葉柱を手で押すようにして一歩中に入らせ、自分がそれに続いた。
後ろ手にドアを閉めて、改めて葉柱を見る。

情けなく八の字になってる眉と、はわはわしてる口元を見て、こういう顔させるのが好きだったなってことを思い出した。

そしたら急にキスしたくなったので、殆ど無意識にその欲求に従って手を伸ばす。

腕が首の横を通って、後ろ頭を掴むと同時くらいに、唇が重なる。

そこからなぜか時間が飛んで、我に返ったときには葉柱を横の壁に押し付けて、口の中を貪るように舐め回してた。
気が付けば我が物のように、葉柱のケツまで鷲掴みにしてる。

なんだ? 今の。

どのくらいの時間だ?

多分、一瞬だ。
2人相変わらず玄関に立ってるし、葉柱からは、たった今顔を合わせたばかりの戸惑いの気配がまだ消えてない。

そのくせ腕は背中にまわってきてて、上顎を擦ると切なそうに息を吐く。

音をたてて重ねる唇の角度を変えると、葉柱の指に弱く力が籠る。
それが背中を撫でるのが、酷く気持ちいい。

「ん……んっ…………」

逃げねェな。

身体を押し付けて腿を撫でても、葉柱は目を閉じたまま舌を突き出してる。
試しにシャツの下に手を入れて直接脇腹を触っていても、まったく意に介した様子はない。

意識が飛ぶような興奮は収まって、とりあえず「ベッドどこだろう」と思うくらいには落ち着いた。
そんな思考を、「落ち着いた」と呼べるのかはどうかは怪しいけど。

「ベッドどっち?」

口を離して、こめかみの辺りに顔を寄せる。
こうやってくっついてると、顔が見えなくても葉柱の反応がよく分かる。

「は? な、なんで…………」

アホみたいな声を出してる葉柱の首筋に顔を埋めると、くっつけてる身体の感じがやけにしっくりくる。

「なんでって、そりゃ、ベッド行ってヤルことなんか一つだろ」

ベッドが玄関に無いコトだけは確実だったので、葉柱の腰を抱きながらとりあえず靴を脱いで部屋に上がる。
入ってすぐの部屋にはベッドは見当たらなかったけど、一つ見えるドアの向こうがそれだろうってのはスグ分かった。

「あっち…………」

だからもぅ葉柱に教えてもらわなくても何の問題もなかったのに、葉柱はバカみたいに、絶対にそこでしかあり得ないドアを首を傾げるようにして指す。

教えてもらう必要性はなかったけど、それはこれからすることへの了承の返事と同じで、また顔を寄せてキスをした。

ほんの数歩の距離なんだから、一旦離れてさっさとベッドに向かった方が良いのは分かってたけど、背中に回った葉柱の腕が離してくれないし、掴んだ葉柱の腰を離したくなくて偶に横目で床を確認しながらもたもたと移動する。

ベッドがえらく遠く感じて、でもイライラするどころか焦らされてるような気分で興奮した。

「ま、待てよ……」

ようやくベッドまでたどり着いて、あとはここに葉柱を転がすだけってとこまで来て初めて葉柱がそんなことを言う。

無視して身体を押したら、大した抵抗も見せずに膝を折るようにしてベッドに仰向けになり、その上に覆いかぶさる。

「ハバシラ」

ハバシラ、と、自分の口から出る音が酷く懐かしい。
ハバシラのという音に動かす口の形も懐かしい。

「ひ、ひる……」
「オレさー、この2年、イイコにしてたんだけど」

これは本当。

誰か口説いてベッドに連れ込むような労力が面倒臭かったってもが本音のような気もするし、そうでないような気もする。

「なに言って」
「だから、コレはテメェにしか使ってねェって言ってんの」

既に勃ってるのが分かるように、葉柱に腰を押し付けた。
それだけで、ちょっと気持ちいい。

「それって……ん、おい、ひるまっ……」

葉柱の目が、なんかうるうるしてる。
興奮してるときの顔だ。

そういう顔を見ると急に気分が良くなって、顔を寄せてみる。

「なぁ、それって、それって…………」

葉柱が何か言いたそうに顔を背けて避けるけど、大して気にならない。
シャツを脱ぐと一気にエロに空気が濃くなって、葉柱がジロジロと見てくる視線に興奮した。

葉柱のシャツのボタンを開けて、キスするのに顔を寄せると裸の胸が重なる。
温かくて気持ちいい。

しばらくじっとそうしててもいいくらいの気分だったのに、葉柱の手がせわしなく背中や頭を這いまわる。
なんだこれ、オレ、煽られてんの?

期待に応えるように葉柱の身体を撫で返したら、葉柱も身体をくねらせながら腰を押し付けてくる。

葉柱の唇が、拗ねてるときみたいにちょっと尖ってる。
キスして欲しいときのクセだなと思って顔を寄せると、思った通り口を開いて舌をつきだしてくる。

身体を起こして体勢をかえたかったけど、葉柱の腕ががっちり頭を掴んできてるので叶わない。
多少のやりにくさを覚えたけど、葉柱に必死な感じに掴まれてるのは結構気持ちよかったので、潰さない程度に下の葉柱に寄りかかりながら服を脱いだ。

葉柱もなんだか脚をばたばたさせながら脱がされるのを待ってるので、ベルトを外して前を広げてやると、溜息のような震える息を吐いてる。

葉柱は、なぜかちょっと目を伏せて、斜め下を見るようにして目を合わせてこない。
初めてのときと、ちょっと似てる。

でも、まぁ、初めてのときはこんなイヤラシイ身体じゃなかったけどな。

「あ、あっ…………」

ちょっと触るだけで、すぐ声をあげる。
恥じらう顔とは逆に脚を開いて腰を突き出してる。

「ゴムある?」

そういう葉柱をじっくり楽しむ余裕はなかったので、早急に準備だけ整えた。

「え? な、ない…………」

それに気づいたのはまさにもう挿れようってときだったから、「じゃぁちょっと買ってくるわ」なんて思えるはずもなく、どうしようかと思って葉柱を見る。
どうしようかというか、どうするつもりかはとっくに決まってたけど、葉柱がどう出るかなと思って適当に「まいっか」とか口に出してみて、反応を伺う。

「………………」

葉柱は、怒る様子も躊躇う様子もない。

試しにまた顔を寄せてみたら、中断する気配も見せずに口を開いて腕を回してくる。

これは、いいって、ことだよな。

「ぅ……ん…………」

葉柱がそうやって声を上げたのはオレの胸中への返事ってわけじゃないけど、肯定を貰ったような気になって葉柱の脚を抱え上げた。
身体を起こしてそうしようと思ったけど、葉柱が二の腕を強く引いてきて離さないので、覆いかぶさるようにしながら手で位置を探って押し当てた。

「あ、ひるま……なぁ…………」
「……っるせー、黙ってろ」

名前を呼ばれるのが、結構好きだった。
でも今はなんかは興奮しすぎて結構ヤバイ。

上から覆いかぶさって、殆ど叩きつけるような勢いで腰を振ってるから、葉柱の骨が当たって痛いくらい。

そこまで思ってから、そういえばコイツ、最初からあんまりガツガツいかれるの得意じゃなかったよなと思って、葉柱の肩口から少し顔を上げて様子を伺ってみる。

「う……ぅ…………」

泣いてるみたいな声。顔も、泣いてるみたいな顔。
泣いてるかな? いや、どうかな。

目を閉じて、耳を澄ませてみる。

「…………るまっ」

この声を、よく知ってる。
泣いてるみたいな、でもこれは、甘えてるときの声。

コイツ、急にオレが来て、勢いでムチャクチャされて、なのに、オレに甘えてる。

「……………………っ」

胸が気持ちよくて、気持ちよすぎて痛い。

「ん、ハバシラ、も、出る…………」

油断したら派手な声を上げそうになるから、歯を食いしばるようにしてそれだけ言った。

甘えきった葉柱の声が気持ち良くて、顔が見たくて閉じていた目を開いた。

「あ、あ、オレも、オレもイク…………っ」

そしたら葉柱とちょうど目があって、なんでかもぅ「助けてくれ」ってくらいの気分でそのまま射精した。







「はー…………」

息が、メチャクチャ上がってる。
心臓がうるせェ。

指一本動かす気になれなくて、遠慮なしに葉柱に寄りかかった。
このくらい、平気だろ。
なんだかんだいって頑丈な男だし。

くっついてる肌の感じも、なんだか良い。
ちょうどオレ用に作られた感じで、大きさも、弾力も、温度も、全てがちょうど良い。

だからやっぱり、これを、どうしても、こうやってオレの腕の中にいつも収めておきたい。

「お前……」
「オレ、アメリカ行くから」

葉柱が何か言いかけたのにちょうど被る形になったけど、ここに来た本来の目的をやっと口にした。

オレ、アメリカ行くから。

そしたら、凄く遠く離れることになる。
それがなんか、嫌だなぁ。

テメェもそうだろ?

いつまでも腐ってたってしょーがねーじゃん。
ここらがキリだろ。

葉柱がなんて返してくるのか楽しみなような怖いような気持ちで待って、ただそんな気持ちは、葉柱の顔を見たら一瞬で失われた。

「な、なに……アメリカって……ひ、んっ」

だからもぅ返事は聞きたくなくて、遮るように強引に続きを始めた。

「あ、あっ、待てって……」

待たねーよ。だって、テメェ来ねー気じゃん。
来ねーし、止めもしねーし、何もしねー気じゃん。

「なんで…………っ」

なんでなんて、オレが聞きてーよ。

なんでテメーは、今アメフトしてねーの?
なんでテメーは、今オレと一緒にいねーの?

なんでテメーは、これからも、オレといねーの。

「テメェも来いよ」

テメェも来い。
面倒臭いもんなんか全部捨てて、オレと来い。

葉柱の顔は、もう見なかった。
見なくても、葉柱がオレとは来ないってことだけは、手に取るように分かった。

「なに言って……」
「テメェも来い、ハバシラ」

意味のない言葉を吐いてる。
葉柱は来ない。

泣いてるみたいだった甘えた葉柱の声は、ただの泣いてる声になってた。

泣きてーのはオレの方だ。

「家は別に狭くていいよな。あ、でも、風呂は広い方がいいなー」
「………………」
「ベッドは1個な。クイーンサイズの」

ここに来るまでの間、そんな甘臭ェことさえ考えたぜ。バカみてーだろ。笑えよ。

「ひるまっ…………」

名前を呼ばれるのが、好きだった。
今も。

2年間、オレの名前を呼ぶこの声を、いつもずーっと耳を澄ませるような気持ちで待ってた。

別れたくなかった。
別れたくない。

「ひるま、もっと、言えよ…………それ……」

それって、どれ?
オレがバカみてーに考えてた、甘臭ェ夢の話?

「ひるまっ」

お前って、残酷なのな。

オレについて来る気もねーくせに、そうやってオレと過ごす気なんかねーくせに、それをオレに言わすのか。

「ひるま…………」
「ん」

でもいーよ。
そうだな。
最後だし、いくらでも語ってやるよ。

夢見すぎてて、人にはとても言えないような話まで。


全部言って、全部吐き出して、全部置いてくよ。


'14.12.07