ヒルルイと電話




いつものようにヒル魔を送ってきて、そのまま家に上がりこむ。
そっからもいつも通りコーヒーを淹れてたら、ヒル魔の携帯が鳴りだした。

ポケットやら鞄からやら、いくつも出てくる携帯をローテーブルの上に置くと、そのままヒル魔は電話を無視していつものノートPCを開きだす。

「……出なくていーのか?」

電話はしつこく、まだ鳴りやむ気配がない。
淹れたコーヒーを持って行きながら聞いてみる。

「いい。それ、オンナ用だから」

オンナ用って、オンナ用? 「しかもイマイチのヤツ」と付け足される。
イマイチって、お前、そんなんで携帯使いわけんなよ。

つまり、どっかで引っ掻けたけどあんま良くなかったオンナには、この携帯の番号教えとくってことか。
で、かかってきても出やしねェと。

でも嘘の番号教えてるワケでもないから、気が向いたときなら相手する気があるのかもな。

なんとなく携帯を見たままヒル魔の隣に座ると、ほどなくして諦めたようにそれが静かになった。
それから、少し思う。

オレがかけたら、何用の携帯が鳴るんだろう。

ヒル魔の携帯の番号を、教えてもらって知ってる。
ただ、実はまだ一回もかけたことが無い。

だいたいヒル魔から迎えに来いとか買い物して来いとかかかってくるのが常で、オレからかけることが無い。
だってほとんど毎日ってくらい会ってんだから、用事がねェ。

ポケットに手を入れると、指が自分の携帯に触れる。
気になる。けど、なんとなくかけるのが怖い。

実はヒル魔と、キスしたりセックスしたりしてる。
なんかよく分からない流れみたいなのでそうなって、でも好きって言ったことも言われたこともない。

オンナ用に携帯一個使うくらいなんだから、オレもそういう遊びの一人なんだなと思わなくもないけど、困ったことにコッチは結構、というか、カナリ、ヒル魔に惚れてる。
ウザがられたら堪んねェから、そんなこと言ったことねェけど。

やっぱオレが掛けたら、「奴隷用」とかが鳴るのかな?
そんでそれは、掛かってきたら出るやつ? それとも、今みたいに出ないで無視するやつ?

一度気になると止まらない。
ヒル魔が目がPCに向いてるのを確認してから、自分の携帯からこっそりヒル魔の番号を探し、通話ボタンを押してみた。

ここまでやって、今と同じ「イマイチのオンナ用」が鳴ったら笑えるな、と自嘲気味に思う。

ただ、鳴りだしたのはさっきと違う携帯だったんで、ちょっとだけ安心した。

新しく鳴りだした携帯に、ヒル魔がチラっと目を向ける。
なのに、それには手を伸ばさない。

「……それも、出ねーの?」
「必要ねェ」

ヒル魔はあっさりそう言って、もぅ携帯には興味を無くしたようだった。

なんだよ。やっぱりオレに教えたのも、「出なくていい用」かよ。
だったら、番号なんて教えてくんなきゃ良かったのに。

ホントは、ちょっと出てくれること期待してた。バカだなオレ。
結局奴隷とご主人様だし、セックスしてたってそういうのじゃねェのにな。

オレはそういうのちゃんと分かってるし、わきまえてるしって、自分に言い聞かせて電話を切った。
たまにキスが優しいから、そんな勘違いするんだよ。
そういうの、ウマくやってくれよ。オレが、勘違いしないように。
お前、そういうの得意だろ。






携帯が鳴り終わると、葉柱が目に見えてションボリした顔をした。
分かりやすいなお前は。

しょーがねーじゃん。あの携帯は出る必要ねェもん。

だってお前はここにいるし、アレはお前専用のヤツだから。


'13.04.22