ヒルルイの酔った勢い
なんでか分からないけど、気が付いたら自室のドアの前で、葉柱の肩に手を回して立っていた。
立っていた、というのは、多分正確じゃない。
下半身には殆ど力は入って無かったし、葉柱の腕が腰に回ってて、ほとんど葉柱にもたれてるような状態だ。
「おい! 鍵! 鍵は!?」
「あー?」
肩を組むようにしてるから葉柱の顔が近い。
その葉柱が、耳元でがなり立てるように大声で叫んでる。
「鍵! テメェの家の!」
「えーと、ポケット…………」
ふわふわして考えがまとまらない頭でそれだけ言ったら、葉柱の手が身体をまさぐってきてくすぐったい。
どうやら、鍵を探してるらしい。
あー、これは、酔ってる。
オレは今、酔っている。
頭も身体もふわふわしてて、気持ちがいい。
なんで飲んだんだっけ。
葉柱とか?
いやー、全然記憶にねーわ。でも多分違う。
葉柱は酔ってないようだったし、どっかで飲んで、帰るのがメンドクサクなって葉柱を呼んだのかも。
ボトムのポケットから鍵を見つけ出した葉柱が、もたもたと鍵を鍵穴に突っ込んで回してる。
ずり落ちていくオレの身体をときどき抱えなおして、鍵が開くとドアを開いて、入ってすぐの玄関に転がされた。
床がヒンヤリして気持ちいい。
「じゃーな!」
葉柱は、なにやら怒っているようだ。
それもそうか。
多分、夜中に急に電話かなんかで呼び出されて、酔っ払いの世話をさせられたんだろうから。
どうやって送ってきてくれたかは知らないが、律儀なもんんだ。
「ハバシラー……」
家まで連れ帰ったことで、用は済んだと言わんばかりに踵を返そうとする葉柱を呼び止める。
「あ?」
「…………ベッドで寝たい」
「……………………」
床は冷たくて気持ちいい。だけど、ここで寝るのは良くない。
酔っぱらった頭でもそれは分かった。
なぜなら、ここは硬い。
柔らかいベッドで寝たい。
「テメェはもーっ!!」
無視して置いて行かれるかもと思ったのに、葉柱はプンプンしながらもまた腰に手を回してきて、腕を掴んで肩に回させるとまた立ち上がらせてくれる。
「ちゃんと歩けよ」
ブツブツ文句を言うけど、自分の靴を脱いで、ついでにオレの脚からも靴を抜き取って、オレを抱えたままよたよたと部屋に入る。
「ベッドどこだよ」
「あっち………………」
指をさそうと思ったけど腕が上がらない。
葉柱は「もー」「もー」と牛のように鳴きながら部屋を見渡して、寝室のドアを見つけるとそこに向かった。
つま先を引きずるようにして運ばれて、ドサンとベッドの上に落とされる。
あぁ。これは良い。
とても柔らかい。
「もぅいいな!?」
ベッドの横に立った葉柱が、怒りながらもそんな確認をしてくる。
「うーん、水」
「………………」
返事はなかったけど、ドンドンと葉柱の怒ったような足音が離れていって、流しの方から水の流れるような音が聞こえてきた。
うん。テメェは中々、優秀な奴隷であるといえよう。
「ほら」
戻ってきた葉柱はコップに水を持っていて、身体を起こそうと思ったけど背骨をどこかに忘れてきたようで芋虫のようにもぞもぞと動くことしか出来なかった。
見かねた葉柱が背中に腕を回してきて、上半身を起こしてくれる。
「零すなよ」
コップを手渡されたけど、葉柱はオレが指の骨もどこかに落としてきているかもしれないと思っているのか、手は離さずにそのままコップを支えてる。
コップを口元に近づけているのがオレの力なのか葉柱の力なのかは分からないが、うまく傾けて水を飲むことが出来た。
葉柱はまだコップを持ったままで、もしかしてこの水を飲み終えるまで面倒見てくれる気なのか。
律儀でバカでアホだなーテメェは。
こんなバカな男は見たことが無いから、よーく見てみようと思って顔を見てみる。
ちょっと傾いた顔の耳から、髪がサラリと流れてる。
色が白くて、額の辺りがツルツルしてるように見える。
目が大きくて、長い睫がそれを縁取ってる。
「…………あれ?」
「なんだよ、どーした?」
声を出したら、葉柱が心配そうに問いかけてくる。
吐くのか? 吐くのか? とか言ってるけど、いや、吐かねーよ。
なんかテメェがさ。
「お前、結構可愛いな」
「……………………はーぁ?」
率直な感想を伝えたら、葉柱がただでさえデカい目をさらにくわっと見開いて、口をポカンとあけてマヌケな顔を作った。
「マジで。オレ、結構タイプ」
「は? はぁ?」
前屈みの体勢でバカみたいにコップを持って固まってる葉柱の首に腕を回す。
さっきは骨がなくなってて何も出来ないと思ってたのに、今度はうまく腕を動かすことが出来た。
「うわっ」
葉柱は首に手を回されたことより、それによってコップの中の水が零れたことに驚いて声を出してるようだ。
葉柱が慌てたようにサイドテーブルにコップを置くのを確認してから、腕に力を込めて葉柱をベッドに引きずり込む。
「おいっ!」
身体を入れ替えて葉柱を下に敷いて、首筋に顔を埋めるといい匂いがするような気がした。
鼻先や頬にあたる髪は、思った通り柔らかくてサラサラしてる。
シャツを引っ張って中に手を突っ込むと、もちもちした手触りがとても良い感じに思える。
「な、なにして…………」
顔を開けると薄赤い唇が目について、思わず顔を寄せた。
唇をすり合わせてみると、柔らかくて中々良い。
舌を入れようとしたら、食いしばってる葉柱の歯に阻まれた。
「口開けろ」
気の利かないやつだなと思って一度口を離してからそう伝える。
葉柱はビックリした顔して、頬が赤くなってた。
その顔も、なんだか中々良い。
これはもうヤルしかねーなと思って、葉柱の腿の上に跨って逃げ出さないように押さえつけながら自分のベルトを外す。
「お前、お前、なに考えて……」
「可愛いーぜ葉柱。大丈夫。ヨくしてやるよ」
葉柱は口をはわはわさせたまま固まっていたので、いいぜってことだろうと思い葉柱の服にも手をかける。
それなのに、ベルトを引き抜いてジッパーを降ろしたところで、葉柱が脚をバタつかせて下から抜け出そうとするように暴れ出した。
「なんだよ」
「なんだよじゃねーよっ! なに、なにしてんだよっ」
なにって、ここまで来たらナニするに決まってんじゃねーか。
オボコいこと言ってんじゃねーよ。
「うるせー。大人しくしてろ」
「出来るか! ばかっ!」
大声を出されると、頭が痛むような気がした。
「黙れよ。オレのオンナにしてやるよ、葉柱」
「………………」
すんなりコトが進まないことにムカムカしてそう言い捨てたら、なぜか急に葉柱が更に頬を赤くして、もじもじと顔を背けだす。
「それって…………オレと付き合いてェってこと?」
「あ?」
付き合いてェ? なんで?
あぁ、オレのオンナがどうこうとか言ったから?
それは、物理的にテメェにブチ込んでやって、女みてェに犯してやるぜって意味だったんだけど、なにを勘違いしたのか葉柱は顔を真っ赤にしてまんざらでもない顔をしてる。
「テメェが、そうなら……オレは…………」
なに言ってんだコイツって思いで呆れて葉柱を見たけど、もじもじした葉柱はそんなことをもにゃもにゃ言いながら照れた顔して俯いてる。
眉が垂れてて、心細そうな、期待してるような顔。
赤い頬と、ちょっと開いた口から覗く濡れた舌。
なんだよ。やっぱりコイツめちゃくちゃ可愛いな。
「んー? うん。いーぜ、付き合ってやるよ」
それを見たら、まぁ付き合ってもいいかなーって気になって、そうやって返した。
遠慮がちに顔をあげる葉柱に口を寄せたら、今度は歯は食いしばられてなくて、温かい口の中に舌が招き入れられた。
「………………」
頭痛ェ。
目が覚めたときの気分は最悪だった。
カーテンが開きっぱなしで、太陽の光が思いっきり入ってきて顔に当たってる。
眩しくて鬱陶しいのに、ベッドを抜け出してそれを閉めに行く気分にはなれない。
なんだっけ。確か、昨日飲んだんだよな。ムサシとかと。
どうやって帰ってきたのか定かじゃねーけど、どうにか無事ベッドまでは辿りつけたようだ。
「あ?」
日の光から顔を背けるように寝返りを打ったら、見慣れた顔がそこに寝てた。
「え?」
葉柱だ。なんでコイツがオレんちで寝てんだ。
葉柱に送らせたんだっけ?
いや、だからってなんでコイツもここで寝てってんだよ。
ずうずうしいにも程があるだろ。
泊まるにしたって、せめてソファで寝てけよテメェは。
葉柱を蹴り起こして追い出そうとちょっと身じろぎをして、自分が服を着ていないことに気が付いた。
「………………」
布団の中でシーツの感触を脚に感じる。
何も履いてない。
…………え? これと?
ビックリして、マジマジと眠ったままの葉柱の顔を見てみる。
呑気な顔だ。
それから、布団から出てるところを見る限り、葉柱の首も、肩も、なにも着ていないように見える。
マジで? これと?
オレ、もしかしてコレとヤったわけか?
いやいやそれは無いだろうと思って、痛む頭の中、定かじゃない昨日の記憶を掘り返してみる。
やっぱりムサシと別れた後、どうやってここまで来たのか、いつ寝たのか覚えてない。
ただ薄らと、白い脚を抱え上げて、なんかムチャクチャ気持ちいことをしたような、してないような、曖昧な記憶だけは蘇った。
そのおぼろげな記憶と、服を着てない自分。そして隣で眠る葉柱。
おいマジかよ。完全にヤってんじゃねーか。
これは一体どうしたもんかと思い、葉柱の顔を見直した。
相変わらず呑気な顔して寝てる。
いくら酔ってたからって、これに手ェ出すか?
世の中の顔を「可愛い」「可愛くない」に分けたとしたら、「気持ち悪い」にあてはまる。
分類不能な爬虫類だ。
仕草が女らしいワケでも身体が華奢なわけでもない。
男らしい男で、爬虫類らしい爬虫類だ。
一体なにがあったら、コイツと寝ようだなんて思えるんだ。
合コンで、始まったときはブサイクで無しだなと思ってた女が、酒が入るにつれてアリだと思うようになるあの心理か?
ってことはきっと、昨日はものすごい泥酔っぷりだったに違いない。
それにしても、これは結構マズいんじゃないだろうか。
一夜限り、通りすがりの知らない女なら、酔った勢いにまかせてヤっちまったとしてもまぁ後腐れはないだろう。
ただ、これはどう考えても後腐れる。
「う……ん…………」
これからどうしようかと迷ってるうちに、葉柱の瞼がピクピクと痙攣して、それからゆっくりと目を開けた。
マズイ。起きた。
固まったままでいるとバッチリ目があって、葉柱も状況が飲み込めないようなポカンとした顔をしてる。
これ、オレ殺されるんじゃねーの。
賊学の番長さんをベッドに連れ込んで、ヤリたい放題したんだよな、多分。
力ずくでやったのか、脅しつけたのか知らないけど、あ、思い出した。後ろからケツ叩きながら、バックでもヤりまくった気がする。
葉柱が何か話そうと口を開くのがまるでスローモーションのように見えて、一体どんな言葉が飛び出してくるのかハラハラして待つ。
「………えーと、おはよ」
頭は痛ェし、銃は今持ってないうえに素っ裸だし、どうやって逃げ出そうかと思ってた。
なのに、少し頭がハッキリしたらしい葉柱は、なぜか照れた顔してのんびりとそんなことを言う。
え? なんだこれ。
どいういう雰囲気なわけだ?
葉柱は気まずそうだけど怒ってはいない様子で、もじもじしながら布団を少し引き上げると顔を半分隠す。
いや、気色悪いことしてんじゃねーよ。
なにしてんだテメェは。
これは、もしかしてアレか。
和姦だったってことか。
強姦したんだとばかり思ってたけど、普通にお互い了承の上で楽しみましたってことか。
じゃぁ、まぁ、いいか。
いや、よくはねーんだけどな。
気まずいわ気色悪ィわでしょーがねーから。
でもとりあえず、殺される心配はないってことか。
「あー、じゃぁ、オレ…………、帰るから」
「………………おぅ」
だからってどうしたらいいんだと思ってたら、葉柱が先にそうやって切り出したので、それは何よりだと思って相槌を打つ。
ベッドから身を起こした葉柱は、布団から出ると思った通り裸だったので、やっぱり確実にヤったっぽい。
葉柱がベッドの下に放り出してある服を拾い集めるのを、あまり見ないようにして待つ。
その動作があまりにももたもたしてるようで舌打ちの一つもしたくなるけど、よく分からないこの状況に変な爆弾を持ち込みたくなかったので我慢した。
「えーと…………じゃぁ」
もたもた服を着た葉柱は、全部着終わった後もなぜかもたもたもじもじして、何か言いたそうにしてたようだけど結局何も言わずにそう言って帰って行った。
あー。
とりあえず難を脱したといえばそうなんだけど、メンドクセーことになったなと思う。
別に、女相手でもねーんだから、責任どうこうなんて関係ないし、そもそも別に女相手でも責任なんて取る気はない。
なにが面倒臭いかっていったら、せっかく便利だった奴隷を、1人失ってしまったってことだ。
買い物にも送迎にも、こんなに便利は手駒は他になかったのに。
もう二度と使えねーな。
気まずいし、それになにより気持ち悪い。
もう今日のことは全部忘れて、ついでに葉柱という存在も忘れてしまうに限るな。
いくら酔っぱらったからって、あんなカメレオンに手を出した自分のバカさ加減にウンザリしながら、窓から入ってくる明かりから逃げるように布団を被って、もう一度眠るべく目を閉じた。
そういう経緯があった3日後くらい。
また飲みに行っていい具合に酒が入った状態でふらふらと夜道を歩いた。
飲み会の後、酔って火照った顔に風が心地よくて歩いて帰ろうと思ったから。
飲んだ後の無敵感ってなんなんだろうなー。
背中には羽が生えてるようで、このまま歩いてったら月まで行っちゃうんじゃねーだろうかなんて思うくらい。
歩いてるのか飛んでるのか定かじゃないくらいの、いい具合のふわふわ加減だ。
ただ、そうやって軽快に歩いてたのはせいぜい3分くらいで、すぐにここから家まで歩くという作業が、死ぬほど面倒臭いことに思えてきた。
なにやってんだ。電車乗れば良かったのに。
よく考えたら、歩いたら30分はかかるじゃねーかよ。
やってられるか。
だからって今来た道を歩いて戻る気にも到底なれず、これはもう誰か呼ぶしかねーなと思って携帯のアドレスをぐるっと確認する。
あぁ、いたいた。これだ。
「よー、オレ。迎え来い。泥門5分。あれ? いや、泥門じゃねーわ。どこだここ」
こういうときは葉柱に限る。
小回りは利くし早いしで、フットワーク軽くて打ってつけだ。
「駅。駅から歩いた途中。5分な。あ? まっすぐだよ。どっちに? えーと、月の方」
葉柱は電話の向こうでなにやらぎゃいぎゃい言ってたけど、居場所を確かめてきてるってことは迎えに来てくれるらしい。
ホントこいつは便利でいいなぁ。
「あと水買ってこい」
それだけ言って電話を切って、道の端の縁石に座り込んだ。
「はー…………」
座ると一気に倦怠感と眠さが襲ってくる。
もう二度と立ちあがれる気がしない。
早く水と葉柱が来ないかなーと思いながら、そよそよ頬を撫でる風が気持ち良くて目を閉じる。
このままだったら寝ちまうなと思い始めたくらいで、遠くにバイクの音が聞こえた。
来たな。
ただ、全然近づいてこない。
パカパカ音を立ててるけど、どうやらかなり低速で走ってるらしい。
まったくなにをチンタラしてんだよアイツは。
うろうろしてるらしく近くなったり遠くなったりする音を聞きながら、もう寝っころがっちまおうかなーとも思う。
あと3分もしたら耐えられなくなって転がって寝るところだったと思うけど、それより前に葉柱のバイクの音が目の前にきて、それで止まった。
「お?」
目を開けると、待ちわびてたタクシーが眼前にある。
良かった。危うく野宿するとこだったじゃねーかよ。
「テメェ、あんな説明じゃドコにいるかなんて分かるわけねーだろ……」
葉柱はこの辺をウロウロ探してたらしい。
バイクに跨ったままブスっとした顔をしてるけど、オレが一向に立ちあがらないのを見ると小さく溜息をついてバイクをとめ、歩いて寄ってくる。
「ほら、立てって」
やたらと長い腕がにゅっと近寄ってきて、腕を掴まれる。
しょうがねーなって気分でそれに引かれて立ち上がると、目があった拍子に葉柱がさっと俯いて目を逸らす。
それで、思い出した。
そういえばオレこいつヤっちまったんだった。
いつだっけ? えーと、3日前?
オイつい最近じゃねーかよ。
スッカリ忘れてた。だからもうコイツは使わないようにしようと思ってたんだった。
それにしても、コイツもまぁよく律儀に来たな。
この反応を見るからに、葉柱の方は忘れてもいなかったらしいのに、夜中のお迎えに早々と馳せ参じてんじゃねーよ。
ちっとは気まずいとか気色悪ィとかねーのか。
まぁそれだけ、これまでのオレの躾が万全だったってことか。
こんなバカな男は見たことが無いから、よーく見てみようと思って顔を見てみる。
ちょっと傾いた顔の耳から、髪がサラリと流れてる。
色が白くて、額の辺りがツルツルしてるように見える。
目が大きくて、長い睫がそれを縁取ってる。
あれ、なんかもしかしてさ。
「お前、結構いいな」
「………………」
なんか、実は偉く可愛らしい顔してねーか?
全然アリだろ。これは。
なぜか黙ったまま動かない葉柱の腰を掴んで引き寄せてみる。
細くも柔らかくもないけど、抱き心地は悪くなさそう。
「ホテル行く?」
なんか知らないけど葉柱の反応も悪くないし、押したらイケんじゃねーかと思ってストレートに言ってみた。
そもそも1回ヤってんだから、2回も3回も一緒だろ。
「な、なんで…………」
葉柱の反論の声は小さい。
反論というか、もじもじと照れてしぶってるだけに見える。
「いーだろ」
掴んだ腰に力をいれて、もっとぎゅっと引き寄せる。
全然抵抗はない。
この前のことは殆ど覚えてないけど、多分そんときもアッサリヤらしてくれたんだろな。
なにせ、こんな急にホテルに誘っても付いてきそうなビッチっぷりだ。
もともと男好きなのかも。
ダメ押しに、正面から抱きしめて背中を上から下に撫でたら、葉柱は「うん」みたいな返事を小さくして、ちょっとだけ頷いてた。
葉柱のバイクの後ろに乗って、目についたホテルに転がりこんだ。
そのままの勢いでベッドにも転がり込んで、葉柱の首辺りに顔を埋めて匂いを嗅いでみる。
なんか分からないけど、やっぱり中々いいな。
「おい、なぁっ……シャワー…………」
「別にいい」
メンドクセーし、今イイ感じに酔っぱらってるから、この酔った勢いでセックスってのがいいんだよ。
風呂なんかでチンタラしてたら酔いも冷めるし、気分も冷める。
黙らせるとの、あとはなんとなくお決まりの手順というか義務みたいな感じで顔を寄せて口をくっつける。
適当に雰囲気だけ出してすぐ止めようと思ったんだけど、口の中がいい具合に温かいのと、あとは緊張して力の入ってる舌が気持ち良かったので、これは意外といいなと思って結構続けた。
アホみたいに口を半開きにさせたまま固まってる葉柱の腕を撫でながら、舌で催促するとやっとおずおずとそれを差し出してくる。
ずっと舐めたり吸ったりしてると、力が抜けて柔らかくなってきて、くたっとしてて濡れてる舌がとても気持ちいい。
葉柱の態度が控え目なのも中々気に入った。
ホイホイホテルに付いてくるような尻軽だからどうかと思ってたけど、ベッドの上では嫌に大人しいし、たまに小さく息を吐いたり声を漏らしたりするくらいで丁度良い。
尻軽の割には初心い反応だなと思うけど、こんな簡単に脚開くくらいだからそんなわけないし、もしかしたらこれは葉柱が今までで培った、男をその気にさせるテクニックの一つなのかもしれない。
とんだビッチだな。
お互い全部服を脱いで、後ろを慣らしてる間も葉柱は黙ったままで、頬を紅潮させて目を閉じてた。
閉じた瞼がたまにピクッと震えて、詰めた息を吐く。
さっき舌が気持ち良かったことを思い出してもう一度顔を寄せると、葉柱が気配を察したのか薄く目を開いて顎を上げる。
唇を舐めてみたら舌を差し出してきて、柔らかいそれを舐める。
そういえば、長いんだ。
多少雰囲気を出し始めた葉柱が口の中を舌で探ってきて、それが気持ちいい。
枕元にあるコンドームを取り出すと、葉柱はまた俯いて大人しくなってた。
ゴムを付けてるなんともいえない時間の間、葉柱の視線はうろうろ辺りを彷徨ってて、着け終わって身体を寄せると溜息のような息を吐く。
腰の位置を調整するのに脚を抱え上げたら、葉柱は腕を上げて口元を隠してた。
うるうるした目だけ覗かせて、さぁどうぞ召し上がれって感じだ。
狭い入口強引に腰を押し進めると、中の柔らかい肉に性器が包まれた。
なんだこれ。
むちゃくちゃイイじゃねーか。
「う、ぅ…………」
気持ちいいなと思って腰を動かすと、葉柱がやっぱり控え目に喘ぐ。
もう一回あの口を味わいたくて身体を倒すと、二つ折りにされて苦しいのかちょっと顔を歪めてる。
親指で唇をなぞったら薄く口を開けて舌を出してきた。
褒めるような気持ちで頭を撫でたら、ネコが擦り寄るみたいに懐いてくる。
やっぱりコイツムチャクチャ気持ちいい。
触る身体の感じも、オレの手用に丁度あつらえたような感じでしっくりくるし、なにより挿れてる穴が相当イイ。
これはスグ出ちまうかなーと思って、先にイクのは嫌だったから、葉柱の性器に手を伸ばした。
擦ってやると、顔を更に赤くしながら腰をくねらせてる。
手を速めて追いつめたら、あげる声が少し大きくなって、それも気分を盛り上げた。
あー、もうイクかも。オレ。
コイツはもうチョイかなと思って、顔をよく見てみる。
目を開けたり閉じたり忙しそうな葉柱は、目が合うとまた燃えるように顔を赤くした
「あ、ぁ……ひるま…………っ」
泣きそうな声で名前を呼んでくるのにもぐっときて、思わず目を瞑って興奮をやり過ごし、葉柱が射精したのを確認してから腰を押し付けながら思いっきり射精した。
葉柱の腰を捕まえたまま最後まで出し切って、興奮にあがった息が整うのを待ち、そして見る。
「………………」
ヤバい。これ、カメレオンだ。
「う、ん…………んっ……」
腰を引いて性器を抜くと、カメレオンが長い舌を出しっ放しにしたままヒクヒク蠢く。
マジか。またヤっちまったわ。
またカメレオンとベッドインしてんじゃねーか。
今日は、この前と違ってそこまで酒が深くなかったから、ある程度時間が経ったことと一発ヌいてスッキリしたことで急激に酔いがさめる。
もちろん記憶も失わない。
酔うとストライクゾーンが広がるのは自覚してたけど、まさか爬虫類までOKだなんてどういうことだよ。
さっきまでは、なぜかこれがとても良いものに思えてた。
なぜかこの珍妙な顔が可愛らしく思えて、セックスするしかねーなと思った。
が、実際どうだよ。
ナシだろナシ。これはナシ。
他でもない自分自身に裏切られたような気分になって、ウンザリした気持ちで葉柱と反対を向くようにベッドに寝転がった。
コイツもう帰ってくれねーかなと思ったけど、そしたらオレはここから自力で帰らなくちゃいけないことになって、それはそれで面倒臭い。
背中の向こうでカメレオンがもぞもぞ動いてるのを感じながら、目を瞑って気にしないように努める。
そうやって、オレの後ろには誰もいないんだと思い込むように頑張ってたのに、背中にペタっと何かが触れてきて、それが葉柱の手だと理解した瞬間、ぞわっと全身に鳥肌がたった。
「………………」
それでも無視を続けてると、あろうことか身体ごとペタっとくっついてくる。
なんだこれ。勘弁してくれよ。
まさかもう1タッチダウン決めよーぜみたいな誘いじゃねーだろうな。
ムリムリ、絶対無理だから。
カメレオン相手には勃たねーから。
いや、でもコイツ身体だけはメチャクチャ気持ちいいから、口で勃たせてもらって目ェ瞑ってだったら出来るかも。
そういや舌長ェもんな。もしかしてフェラチオ超うまいのかも知れない。
そうなると、ちょっと試してみたもいいような気にもなる。
目ェ瞑りながらだけど。
「あの、さ…………」
いやでもどうかなーとかもやもや考えてたら、葉柱が後ろから声をかけてくる。
汗をかいた身体が冷えてきて、くっついてくる葉柱が温かいけど気持ち悪い。
「なんだよ」
もう1回したいなら、声かけられたら萎えるから無言で咥えてくれねーか。
「日曜…………ヒマ? 部活、ないよな?」
「…………」
なんでだよ。
「あのさ……、デートとか…………」
いやもうコイツ何言ってんだよ。
え? なんで?
まさか1回寝ただけでカノジョ気取りとかしだすわけか?
いや、寝たのは1回じゃねーけど。2回。
だからってなんでオレがテメェとデートするようなことになると思うんだよ。
完全な地雷女じゃねーか。地雷カメレオン。
つーかそういう系なの? ちょっとホテル誘ったらついてくるセックスしたいだけ系ビッチ野郎じゃねーわけ?
ちょっとホテル誘ったらつくてくるけどカノジョ面します系ビッチ野郎なわけか?
もうメンドクセーよ。
死んでくれ。
「ヒル魔…………?」
無言でいると、催促めいた声で呼んでくる。
セックス中は中々いい感じの声だと思ったのに、今聞くとブン殴りたくなるなこれは。
「行かねーよ」
「え? あー、用事ある? だったら来週でも……」
「行くわけねーだろ」
「…………」
そもそも、コイツと2人ベッドの上でピロートークみたいなことしてることにもウンザリする。
ホントなんなんだよこれは。
「なんでオレがテメェとデートしなきゃなんねーんだよ」
「え、だって…………」
「悪ィけど、そんなつもりねーから」
もう、なんでこんなことワザワザ説明しなきゃなんねーんだよ。
普通分かるだろ、テメェ鏡見て来いよ。
「だって、付き合ったら……デートとかしたって…………」
「………………はーぁ?」
付き合ったら? そうだな。普通男女が付き合ったら、そりゃデートくらいするかもな。
でも、オレはテメェと付き合ってねーから。セックス2回しただけだから。
「付き合ってねーしデートもしねーし、率直に言うとウザってーからもう帰れ」
このメンドクササに付き合うくらいなら、一人で歩いて帰った方がマシだと思って言ってみる。
後ろにくっついてる葉柱は、ビクっとして固まってる。
いや、なにビックリしてんだよ。
ビックリしてんのはオレの方だから。
まさか、2回セックスしただけで付き合ってることにされるとは思わねーだろ普通。
「だって……だって…………」
背中に触ってきてる葉柱の手がわなわなと震えてる。
なんだよ。まだ粘るのかよ。
「だって、テメェが、付き合いたいって言うから……」
「…………あぁ?」
オレが? テメェに? おいそれはどこの夢の中での話だよ。
「言ってねーよ」
「い、言っただろ、この前…………っ」
この前? この前って、この前セックスしたときか?
言うわけねーとは思うけど、あの日の記憶は定かじゃねーというか、もう殆どすっとんでて覚えてねーよ。
「知らねーよ。つーか覚えてねーし」
「………………」
「酔っ払いのたわごとだろ。そもそもセックスの流れでのセリフなんて、本気にしてんじゃねーよ」
そこまで言い切ったら、今度こそ葉柱は黙って大人しくなった。
それから背中の手がそーっと離れる。
「か……帰る…………」
おー。そうしてくれ。
後ろでもぞもぞ動いてる葉柱を無視してると、バタンと派手な音が聞こえてきて、思わず振り返ってみる。
葉柱はもうベッドの上には乗って無くて、ベッドの横の床に、へたり込んで座ってた。
なにやってんだコイツは。転がり落ちたのか。
「う…………ぅ………………」
なにやらメソメソして、なぜか手で這って歩くように床を這いずってる。
どうやら葉柱は自分の服を探しているようだけど、残念ながら葉柱の服は、葉柱が転げ落ちてへたり込んでる床からは、ベッドを挟んで反対側だ。
こいつは一体どうするんだろうと思って見てると、手を付いてずりずり床を移動して、ベッドの下を通って回り込んでる。
なんでこいつはこんな爬虫類みたいな移動をしてんだ。
そりゃ顔はカメレオンみたいだけど、オレの記憶にある限り、一応二足歩行の生物だったはずなのに。
どうやら、足腰立たないらしい。
そんなにムチャクチャしてないのに、なんでそんなことになってんだ。
「………………」
鼻をぐずぐず鳴らしながら服をかき集めてる葉柱を見ながら、嫌な仮定が頭を掠める。
まさかコイツ、初めてだったとか言い出す気じゃねーだろうな。
いや、正確には2回目か。
そういや、この前帰るときも、いやにもたもたしてたな。
「……………………」
だからって、関係ねーけどな。
今どき処女食ったからって責任どうこうなんてありえねーだろ。
そもそも男だし。
ただまぁ、誰の手垢もついてない身体で、かつあれだけ気持ちい穴っていうのは貴重のようにも思える。
そういえば、最中の反応も仕草も、変なクセがないというか、まっさらというか、例えばこれからオレ好みにしようと思ったら、中々育て甲斐がある感じだと言えなくもない。
素直そうだし、従順そうだし、もともと奴隷としては便利だし。
下半身が動かないからか、メソメソしながらシャツを着ようと座ったまま身体を捻ってる葉柱を見てみる。
いつもきっちり整えられてる髪が、今はちょっと崩れて前髪が一房顔にかかってる。
うーん、アリ、か?
アリといえば、アリのような気がしなくもない。
まだちょっと酒が残ってるのかなー。
もう1回ヤリたくもなってきたし。
そういえばフェラチオも試してねェ。
初めてだったら期待できないような気もするけど、あの舌のポテンシャルはきっと計り知れない。
「いっ…………!!」
へたり込んでる葉柱の腰を掴んでベッドに引き上げたら、葉柱は大げさにビクっとして声を上げる。
ケツ痛ェのかな。
だとしたら、よくもまぁ最中はあんなに大人しく可愛らしく振る舞ったもんだ。
それを思うと、やっぱり扱いやすそうで便利そうで、都合良さそうに思えてしょうがない。
「ウソウソ。冗談。ビビった?」
鼻の頭を赤くしる葉柱を後ろから抱きすくめながら言うと、葉柱は首根っこ掴まれたネコみたいに身体を硬直させてる。
「な、なに……」
「冗談だって。付き合ってるよなー?」
「……………………」
結構ムリがあるかなーと思ったけど、軽めに言った言葉にも、葉柱がまたじわじわと耳を赤くしてる。
「ほ、ほんとに…………?」
「ん? うん」
腕の中の葉柱がもぞもぞ動こうとしてるので、手伝ってやるとくるりとこちら側を向いた。
顔が近い。
カメレオンだ。
「……………」
「ほんとに?」
「………………おー」
カメレオンだけど、コイツメチャクチャ気持ちいからと自分を納得させて答える。視線はどうしても明後日の方を向いたけど。
コイツと付き合ったって困ることはないだろう。
別に他に付き合ってるヤツもいねーし、付き合いたいヤツもいねーし。
キモチイ身体をタダでヤリ放題できる契約だと思えば、別になんてことない。
「じゃぁ、じゃぁ……日曜日に…………」
「あ?」
あぁ、そうか。なんかそんなこと言ってたな。
「いーぜ」
そんなもんは、メンドクセーの一言で切って捨てても良かったけど、まぁ最初の一回くらいは付き合ってやれば、後々言うことを聞かせやすいだろうなんて打算が働いた。
2度目はねーけどな。
「じゃぁさ、じゃぁさ」
頬が紅潮してる葉柱は、すっかりご機嫌な様子で興奮してる。
「ネズミの国……行きてェの」
そんでそんな爆弾発言をして、きゅーっと鳴きながら布団に顔を隠した。
「………………」
なに言ってんだコイツ。
よりによってどこ行こうとしてんだよ。
その辺でメシ食って終わりでいいだろ。
百歩譲って、映画までだろ。
なにが悲しくて、男2人、いや、カメレオンと人一人で一大テーマパークなんて行かなきゃなんねーんだよ。
「………………海の方にしろ」
ただ葉柱が顔を隠すと、思い出すのは気持ちいい身体のことばかりで、まぁいいかと思ってそんな返事をした。
なにしろ、海の方は酒が飲めるらしいから。
浴びるほど飲めば、カメレオンとのデートでも、まぁ楽しいものと思えるに違いない。
'13.10.24