ヒルルイの禁欲生活
「お前、ちょっと痩せた?」
そんなコト言ったのは、ソファでちょっといちゃいちゃしてキスしてるとき、近くで見た顔の線が少し細くなったような気がしたから。
ヒル魔の顔を指で撫でながら、なんとなく思いついただけのことがスルっと口から出たんだ。
「…………ア?」
だから、その言葉に一瞬でヒル魔が不機嫌になったのを見て、しまったと思った。
さっきまで、キツめの目は細められて少しは優しげだったのに、今は眉と一緒に完全に吊り上り、口を歪めてる様は悪魔と呼ぶに相応しい。
まいった。完全に間違えた。
キスしてんの、気持ちよくてぼんやりしてたから。
どうしようと思っている間に、ヒル魔が立ち上がって脱衣所の方へ向かう。多分、体重計ってくるんだろう。
どーして言っちまったかな。
せめて「疲れてる?」とかにしとけばよかったのに。完全に言葉を間違えた。
ヒル魔が忌々しげにバン! っと音を立てて脱衣所のドアを閉めて出てくる。
さっきよりも凶悪な顔してるから、やっぱり体重が落ちてたんだろう。
「あの……」
「帰れ」
なんとかご機嫌とろうと思ったら、間髪入れずに言い捨てられた。
え、いきなりそれは酷くねェ?
さっきまで、完全に今日はお泊りの雰囲気だったじゃん。
なんと声をかけようかと思ってるうちに、ヒル魔はいつものノートPCを取り出して弄りだす。
「なぁ」
「帰れつったろ」
そんなに本気で怒ることか?
ちょっと間違えただけじゃん。
別にお前のこと「このもやし野郎」とか呼んだわけでもあるまいし。
「でも……」
続きの言葉は、ヒル魔が舌打ちをしたのであきらめた。
最近にしては珍しく、マジで怒ってるっぽい。
「明日は?」
迎えにくんの? って聞いたのに、シカトかよ。
いつも通りでいいってこと?
様子見で、ホントに帰っちまうぞーって雰囲気で荷物をまとめたり上着を着たりしても、一向に無視。
あー、はいはい。本気かよ。
「……じゃーな」
家を出る前にかけた言葉すら無視される。
朝までにはヒル魔の機嫌が直ってることを祈って、大人しく静かにドアを閉めた。
「マズイ」
「……うん」
他になんて答えろってんだよ。
昨日の夜にヒル魔の機嫌を損ねて、朝迎えに行ったときも、ムッツリ黙ったままだった。
部活が終わるころにいつもの買い出し&お迎えの電話が入って、泥門についたら部室の中でヒル魔が親の仇みたいにバリバリとプロテインを食ってるとこだった。
「買ってきたもん寄越せ」
買い出しの注文の中には、そのプロテインも含まれてた。
ヒル魔が今食ってる固形のやつじゃなくて、粉のやつ。
どうやら筋肉増強に本気らしい。
ヒル魔は渡した袋の中身に買い漏らしがないかを確認すると、またそれをこっちにつき返す。
「コンビニ。オレんち」
単語のみかよ。
つーか、あのたった一言だけで、よくそこまで怒りを持続してられんな。
で、ヒル魔を乗っけてコンビニに寄って、家の前に着いたとこで当然のように付いて行こうとしたら「じゃあな」だと。
え? 家入れてくんねェの?
別れ際のキスも当然なし。
いつもだったらちょっと腰を撫でたり、髪を触ったりしてくんのに。
ヒル魔は荷物だけ持って、こっちの返事もまたずスタスタ歩いてった。
薄情すぎるだろ。
追いかけてみようかと思ったが、振り向きもしないヒル魔の背中が冷たすぎてあきらめた。
いーよ。昨日の今日だし。
たまには家に帰るのも悪くねェよバカ。ゆっくりできるっつーの。
そう思ったのは最初の一日だけで、それが一週間続くと流石に参った。
「コンビニ。オレんち」
いつものお迎えも、どーせ家の前ですぐ捨てられんだと思うと億劫だ。
お前んち行かないと、2人の時間って全然ねェのな。
送り迎えだけはしてるけど、無言でバイク乗ってるだけだし。
なんとなく、奴隷になりたての頃を思い出す。
でもさ、あの頃だって、お前もうちょっと愛想よかった気がする。
オレのことからかって遊んできたりして。あんときはムカついてたけど、今はそれもねェってのがちょっと寂しい。
「なぁ、家行っていい?」
「あ?」
家の前に着いて、ヒル魔が「じゃーな」って言い出す前に言った。
「なんで?」
なんでって……。
コイビトを送ってきて、その後ちょっと家に寄るのに理由がいるか?
正直オレさ、この一週間の生活で、お前とコイビトだったりセックスしてたりしてたの、夢だったんじゃないかと不安になってるくらいなんだけど。
この一週間、セックスはおろかキスだってしてない。
こっちから仕掛けようと思っても、送り迎えの途中じゃ人目があり過ぎて無理。
だからさ、お前んチいって、そんでちょっとくらいオレのこと甘やかしてくれてもいんじゃねェの?
「いーけど」
拒否されるかと思ってかなりドキドキして言ったのに、ヒル魔は別になんでもないことみたいにそう言った。
「いーの?」
いーの? いや、いいよな。
よく考えたら、家に行きたいっていうだけで、こんなドキドキする必要なんてなかったんだ。
普通だろ?
ヒル魔が規格外なんで変に意識しすぎたけど、もっと早く言ってもよかった?
もしかしたら、この一週間、ヒル魔もなんとなく引っ込み付かなくて待ってたのかなーなんて考えてみる。
そうだったら嬉しいけど。
ただ、それっきり淡々と前を歩いていく背中を見るに、全然そんな感じじゃねェのな。
いーよ。お前冷たいのなんて慣れてるよ。
そうじゃないかとは思ってたけど、家に入ってからもカケラも甘い雰囲気なんてものにはならなかった。
コンビニで買ってきた弁当食ってちょっとコーヒー飲んで、それからヒル魔は鉄アレイを取り出して左右10回ずつを3セット。
ここで邪魔したらまた怒られるしと思って、いつ終わるのかも分からないそれをただソファの上に座って待つ。
なんだこの時間。
プロテインを溶かした牛乳を立ったままグビグビ飲んでるヒル魔の喉仏が上下するのを見ていると、なんとなくムラムラしてくる。
ヒル魔の筋トレも一段落ついたのか、ソファにどっかり座り、空になったコップを乱暴にテーブルの上に置く。
そのコップを握る指も、Tシャツが張り付いた胸も、汗が伝って濡れているうなじも、つい目がいってしまって、そうするともう堪らなくなる。
なぁ、今日のノルマはもぅ終わりなんだよな?
だったらさ、ここからは楽しい時間ってことでいいよな?
「くっつくな」
なんて言って誘ったものかと迷いながら、とりあえずすり寄るようにソファの上でヒル魔の方へ詰め寄ったら、ビックリする程冷たい声で言われる。
なんだっけ、あぁ、そうだ、お前が「これ捨てとけよ」つってゴミ渡してくるときと同じ声だなそれ。
「なんでだよ」
あんまりにも冷たすぎねェかそれは。
退いてたまるかと思って、多少ケンカ腰で言い返す。
「ヤリたくなるから離れろ」
「…………あ?」
なんで、いいじゃん。
ヤリたくなったらヤレば。
つーか、オレがここに来る理由なんて、9割ヤルためじゃん。
「ヤレばいいじゃん」
なんとなく、自分から強請ってるみたいで恥ずかしいけど、事実そうなんだからしょうがない。
ヒル魔の首に腕をまわしてキスしようとしたら、顔をそむけて避けられる。
「痩せるからヤダ」
「…………ハァ?」
「オレが痩せたの、よく考えたらお前のせいだから」
何言ってんだコイツと思ってヒル魔の顔をみたら、真顔だ。
冗談言ってるワケじゃないらしい。
「毎日毎日バカみてェにオレの精力と体力と養分をお前が搾り取ってくから」
「そ、んなの、関係ねェだろ」
「オレ、それまで体重落としたことなかったもん」
まぁ、たしかにアレって結構体力消費するから、そんなこともあるか?
だからって、なんでオレのせいみたいに言うんだよ。
「いつもヤリたがるのお前の方じゃん」
「おう。だからそうなる前に帰れ」
皮肉のつもりで言ったのに、アッサリ認めんなよ。
それ認められたら、これからオレがオネダリしにくいじゃん。
「…………」
なんと返したものか分からなくて、抱き着いた姿勢のまま黙る。
もう押しのけてこようとはしてこないから、そんなに怒ってはねェ?
「いつまでしねェの」
「体重戻るまで」
「それっていつ」
「さーな」
ここで「じゃぁセックスしなくていいから一緒にいたい」とでも言えたらいいのかもしんねェが、正直ムリ。
一緒にいたいし、そしたら触ったりキスしたりして、セックスもしたい。
「浮気すんぞ」
「すれば? 死にてェならな」
分かってるよ。する気ねェし。
あと、一応別れる気がないんだなと思ってちょっと安心。
でもやっぱダメだ。オレはこのまましばらくしないなんて無理。
でもオレお前みたいに口うまくないし、言い合いじゃ絶対負ける。
やっぱ実力行使しかない。
さっきのキスは避けられたから、今度は慎重にヒル魔の頬に手を添えて、逃げられないように顔を寄せる。
何か言われるかと思ったが、今度は抵抗なく受け入れられた。
ヤバイ。久しぶりだから、口くっつけただけでカナリ感じる。
ヒル魔がこっちに手ェまわしてこないのが気に入らねェけど、催促するように唇を舐めたらそれが薄く開かれて、舌を差し入れると軽く吸われた。
「ん……」
弱い電気が背骨を通って下に降りてくみたいで気持ちいい。
じわじわ股間に熱が溜まって、もうちょっと勃ってる。
「ヒル魔……」
息継ぎで名前を呼んだのに、いつもみたいにあの器用な手が体に触ってこない。
それに焦れて、ソファの上で身を乗り出して、半分押し倒すようにヒル魔に伸し掛かる。
ヒル魔の腿が丁度股間にあたって、それが気持ちよくてこすり付けるように体をくねらせる。
「んんっ……」
ヒル魔の腿を挟み込で、腰を動かしてこすり付ける。
みっともなくて恥ずかしいけど、気持ちよくて止めらんねェ。
顔の角度を変えてキスを深くして、ヒル魔の髪に手を突っ込んでかきまわす。
耳を撫でるとヒル魔が小さく息を吐く。感じる?
オレの方は結構ヤバい。
今耳元で名前呼ばれたら、それだけでちょっと出そう。
そう思うのに、ヒル魔はの腕は相変わらずダラリと投げ出されたままやる気がない。
キスには答えてくれるのに。したくねェってこと?
ちょっと心配になって、ヒル魔の性器に手を伸ばす。
服の上から撫でるように触ったそこは、既に熱を持って勃ちあがってたから安心した。
なんだ。勃ってんじゃん。
今だったら、フェラチオとかしてやってもいい気分。
オレ、あれあんま好きじゃねェけど、お前好きだろ?
「はい。ここまで」
そう思ってヒル魔のを直接触ろうと服に手を突っ込んだところで、手首を掴まれ止められた。
「……なんだよ」
今、かなり雰囲気出てたじゃん。
「ヤラねェつったろ」
「勃ってんじゃん」
「おぅ。だから帰れ。オレ一発ヌいて寝るから」
はーぁ? 全然意味分かんねェからそれ。
オレのこと家に帰して、オナニーして寝るってこと?
どんな意味があんのそれ。
「オナニーすんなら、セックスしたって一緒じゃん」
お前が言う、精力を搾り取られるってやつ、自分でやってたら意味ねェじゃん。
「だってお前、一回チンコ銜え込んだら離さねェから、一回じゃ寝かしてくんねェんだもん」
「…………」
なんつー物言いだよ。
だいたい嘘つくな、一回始めたらしつこいのはお互い様っつーか、オレのせいにばっかしてんじゃねェよ。
「じゃ、一回したら帰るから……」
言い返してやりたかったけど、ここでケンカ始める余裕ねェのオレ。
さっきのキスで気分も身体も盛り上がってる。こっから何もしないで一人で帰るなんて無理。
絶対離さねェ、って意味を込めて抱き着いた腕に力を込めた。
ヒル魔はそれからちょっと黙ったから、なんか考えてる?
やってもいいかなって迷ってんならいいな。
でももしかしたら、オレのことどうやって追い返そうか考えてんのかもしれない。
そう思うと、なんだか惨めになってきた。
最初にヒル魔とヤったときから、間を開けずにセックスばっかしてきたけど、もしかして飽きた?
精力がとか体力がとか体のいいこと言って、ホントはオレとヤル気が失せてんだったらどうしよう。
(ヤバい、泣くかも)
鼻の奥がツンと痛くなったから、ちょっと焦る。
「抱いて」って迫って、泣きだすなんて情けなさすぎる。
「そんなにシテェの?」
ぴったり抱き着いてて顔が見えないから、あきれてんのかどうか分からない。
声の感じはさっきより大分優しげになってるけど、どうだろう。
さっきまで触って欲しいと思ってた手に髪を撫でられて、本格的に目頭が熱くなった。
「…………うん」
「お前に付き合ってたら、オレミイラにされそうなんだけど」
「……オレのこと、もぅ好きじゃねェの?」
言ってから、しまったと思う。
なんて女々しいセリフ吐いてんだよ。
でも今「バカか」って返されたら、本気で泣くかもオレ。
「なんて答えてほしいワケ?」
こんなときでも意地悪ィなテメェは。
「別にいらねェよ。いいからシロよ」
声が震えないように注意して、精一杯の虚勢を張った。
うん。うまく言えたと思う。
「じゃ、一回だけな」
言うのと同時に服の中に手を突っ込まれた。
じりじりと胸の方に指が上ってきて、そうされながら体を入れ替えられてソファに背中を押し付けられる。
ヒル魔の手を冷たく感じるのは、多分オレが相当のぼせてっからだろう。
「ふっ……」
おざなり程度に指で乳首を撫でられたと思ったら、その手はすぐに下に向かった。
いつもは結構ねちっこく前戯とかするくせに、なんだよ。お前も結構焦ってる?
ベルトを抜かれて前を開けられ、下着ごと引き下ろされるのを腰を上げて手伝う。
膝辺りに中途半端に引っかかるのを、脚をばたつかせて全部抜き取った。
下しか脱いでないから、くっついてても肌があんまり触れ合わないのが寂しいけど、上は脱がしてくれる気はないっぽい。
自分で脱ごうか少し迷うが、抱き着いた手を離すと逃げられそうな気がしてやめる。
「ベッド行く?」
「……いい」
一瞬でも離れたくない。
「あっそ」
特別何の感情もないような声でそう答えられて、すぐに口に指を突っ込まれた。
そっか。ローションとかも、アッチの部屋だもんな。
意図を察して、差し出された人差し指と中指を丁寧に舐める。
できるだけ唾を出して、濡らすように。
ついでにヒル魔が感じるトコに一つである指の間を舐めて、それからちょっと吸う。
親指で唇を褒めるように撫でられたのにちょっと気を良くする。
ヒル魔も脱がしてやろうと思ってベルトに手を伸ばしたら、ちょっともたついたところで舌打ちされて、手を払われた。
なんだよ。見えないから、ちょっと手間取っただけじゃん。
いつもは「脱がせて」って言うくせに、やっぱ結構切羽詰ってんだろお前。
自分で手早く前を広げたヒル魔の性器に手を伸ばす。
硬いし熱ィ。
ヤル気なのがこっちだけじゃないってのが嬉しくて、緩めに握って、コイツの好きなやり方で先端を親指で撫でる。
「イタズラしてっと出ちまうぞ」
多分余裕っぽく言おうとしてんだろうけど、声が結構焦ってて笑える。
「オレが一回イったら終わりだからな」
え、なんだよそれ。このままお前が手コキでイったら終わりってこと?
「ふざけんな」
「じゃ、大人しくしてろ」
片足を肩に抱えあげられて、濡らした指が後ろにあてられる。
探るように中をぐるっと撫でられると、それだけで腰が浮きそう。
お前のこと全然笑えねェかも。オレも余裕ない。
腰を突き出すようにして強請ると鼻で笑われた。
「なぁ……」
脚を背中に回して引き寄せる。
いつもだったらここでちょっと焦らされたりすんのに、黙ったままアレの先端がぐっと後ろにあたる。
「ヒル魔……」
名前を呼ぶと、押し当てられてるとこから電流が走るみたいに背筋にゾクゾクとした快感があがってくる。
手の指先が甘くしびれて、溶けてなくなったかと心配になるくらい。
「ん」
いつもより言葉少なにそんな返事だけ帰ってきて、そのままゆっくり身体が埋められた。
全部入るとヒル魔が一旦体を預けるように寄りかかってくる。
耳元で聞こえる荒い息に興奮して、しびれて定まらない指先で背中を掻き抱くように撫でまわす。
それに答えるように、髪に手を突っ込まれて耳の後ろを撫でられた。
オレ、それ弱いのに。
挿れただけでまだ動かされてないのに、後ろが痙攣するみたいに収縮してどんどん快感が生まれてくる。
このままだと、頭撫でられてるだけでイキそう。
久しぶりにするから、もっと長く味わいたい。でも、もうイキたくて体が震える。
「なぁ、動けよ……ぁ」
催促するようにちょっと腰を揺すると、咎めるように身体を押さえつけられた。
なんだよ、ここまでは性急にやっといて、ここにきて焦らすなんてねェだろ。
「……今動いたらスグ出ちまうから、ちょっと待て」
抱き着いてた身体を起こして、ヒル魔が苦々しげに言う。
離れたせいで顔が見える。怒ってるような、苦しそうな顔。
それが凄ェ感じてるときの顔だって知ってるから、眼があったら堪らなくなった。
「……オレもっ、あ、すぐイク、すぐイクから、ぁ、あ」
下からむちゃくちゃに腰を振って催促する。
腰ちゃんと使えって、お前が教えたの、上手く出来てる?
「テメッ……」
指が食い込むくらい強く腰骨の辺りを掴まれた。
また止められるかと思ったら、そのまま強く揺さぶられて腰を打ちつけられる。
ガンガンに突かれながら、必死になってヒル魔の首に手を回す。
「あーっ、あ、あ、イイ、ん、イイ、気持ちイ」
「ちったぁ黙れっ……」
いつもと真逆のこと言って、鎖骨のあたりに噛みつかれた。
噛みつくのは、興奮したときのヒル魔のクセだ。
コイツほんとイクんだと思ったら一気に射精感が上がってきて、イクって言う前に堪えられなくて腰を思いっきり突き出しながら射精した。
ヒル魔がぐいぐい腰を押し付けながら射精してるのを感じて、身体の芯が痺れるように幸せな気持ちになる。
離れないように脚を思いっきり巻きつけて抱き寄せる。
出されてる間、内腿が痙攣して止まらない。それに合わせるみたいに中がヒクついて、貪欲にヒル魔のを飲み込んでるようで恥ずかしい。
「はー…………」
ヒル魔の身体から力が抜かれて、覆いかぶさるように寄りかかってきた。
ヤバい。笑える程早かったな今。
ただ、腰が溶けてなくなってるかと思うくらいヨかった。
ヒル魔が整わない息の間にゴクっと唾を飲み込む音がして、それから少し咳き込む。
お前もヨかった?
やっぱり服、脱げばよかった。
抱き着いてる体の間の布が邪魔でしょうがない。
服脱いで、ベッドで仕切りなおしてゆっくりシタい。
ただ、まだ入ったまんまのヒル魔のアレが硬いままで、このままここでもう一回でもいいかなって気もしてくる。
「じゃ、一回したから帰れよ」
「…………あ?」
ヒル魔がくっついたまま頭をちょっと撫でてきて、それから上半身を起こして離れようとする。
「待てよ」
背中に回した脚を交差させて、抜かれる前にそれを引き留める。
「……まだ硬ェじゃん」
「だから?」
だから……って、だから、もう一回してもいいんじゃねェの?
「一回ってヤクソクだったよなー」
「ヤクソク」の辺りを嫌味に強調してそんなことを言う。
そりゃ、そうだけど……。
「……だっていつもより早かったし」
「ア?」
いや、なんでもねェよ。睨むことねェじゃん。ヨかったよ。
ただ全然足りねェだけで。
「だから言ったじゃん。テメェ一回銜え込んだら離さねェから嫌だって」
「…………」
ニヤニヤ笑いながら酷ェこと言うなよ。
この状況じゃ、その通りすぎで反論できねェじゃん。
「オラ、離せよ」
そう言ってパチンと腿の辺りを叩かれる。
そうすると反射的に中が締まって、まだ硬い性器を感じて声が出る。
「感じてんじゃねェぞマゾ野郎」
声が笑ってるから、本気で止める気は無ェ?
そう思っていいよな? お前もまだ満足してねェみたいだし。
でもコイツ、オレのこと苛めるためには労力惜しまないとこあっから油断できない。
疑うような目でヒル魔を上から下まで確認する。
機嫌は悪くなさそう。むしろ、結構良さそう。
でもここでオレが「もう一回」ってゴネたら、やっぱ機嫌悪くなる?
それに、困ったことにもう一回じゃ足りない気がしてる。
最初は、ホントに一回ヤったら帰る気でいたんだ。嘘じゃなくて。
なのに一回繋がったらどうしても離れる気になれない。
ヒル魔の身体が離れるのが、切なくて苦しい。
「お前さー……」
ちょっと目を伏せたら、上から呆れたような声が降ってきてドキっとする。
「こんなことくれェでイチイチ泣くなよ」
「泣……いてねェよっ」
……まだ。
そんでこんな状況なのにオレ、「どうやったら続きしてもらえるかな」って考えてる。
背中に回してる腕から振動が伝わって、ヒル魔が喉の奥で笑ってるのが分かった。
それから「しょーがねーな」って声が聞こえて目じりの辺りにキスされる。
「ま、お前に泣かれたら弱いからなオレは」
嘘つけ、って言う前に、ちゅ、ちゅ、と続けてキスをされて、ヒル魔の手がイヤラしく身体を撫でてくる。
「まだお前のこと好きだし」
急に「好き」なんて単語が飛び出してきてビックリする。
なに。なんで。
あ、オレがさっき「もう好きじゃねェの?」とか言ったから?
あんなん、ポンポン交わしてた会話の中の弾みの一つなのに。
「で、あと何回シタいわけ?」
「…………」
それって、言っただけシテくれるってこと?
今言われた「好き」って単語が胸の中に大きく陣取って、熱くて堪らない。
ヒル魔の頭を引き寄せて、耳元でギリギリ聞こえるくらいの声で言った。「死ぬほどシテ」って。
翌朝、どっちも腰が立たなかったのには笑った。
それから、ヒル魔が体重が100g減ったとかってイラつきだして、実家から慌ててお中元やらの余りの食糧を送ってもらって、それを献上して機嫌をとった。
だいたい、ヤんねェで溜めといたら弾みでヤリすぎるって分かったんだから、これからは適度に愛して。
'13.04.22