ヒルルイの成長比べ
「なんかお前……」
ベッドの上でいちゃいちゃしたりベタベタしたりキスしたりして、
で、本格的に始めっかって感じにTシャツを脱がされたところで急にヒル魔がピタっと動きを止めて、真剣な顔してツブやいた。
「…………」
さっきまでぴったり重なるように上に覆いかぶさっていた身体を起こし、上に馬乗りになったままこっちの体を撫でてくる。
でもそれがセックスするぞーっつーイヤラしいやつじゃなくて、例えるなら医者が患者の容体を確認してるような手つき。
「なんだよ」
なに、オレ、なんかした?
別にここまで普通にキスしたり触ったりしてただけで、特に怒らせるようなことはしてない。と思う。
ジロジロと観察されるような目で探られると不安になるけど、怒られるような心当たりはない。
浮気もしてないし、変なキスマークが発見されるとかそんなワケもない。
「お前、育った?」
「…………は?」
育ったってなんだ?
ヒル魔は真剣な顔つきのまま、二の腕を握ったり腹筋を押して来たりする。
んで、腰回りを両手で計るように掴まれたところでようやく気付いた。
育ったって、アレか?
えーと、逞しくなったかなーってこと?
「……まぁ、そうかも」
ヒル魔はアメフトバカだから、その為になることならなんでもやるし、当然自分の身体も鍛えてる。
標準的な同い年の男よりは大分筋肉質で引き締まった身体だ。
ただ悲しいかな、そこまで抜きん出て逞しいわけじゃない。
それはヒル魔が練習や訓練をサボってるってワケじゃなくて、ひとえに体質の問題だ。
といったって、別にヒル魔がヒョロいわけでもなんでもない。
ただ、同学年にいる、例えば阿含とか。
あいつ、高校1、2年の頃は練習サボって身体に多少の脂肪がついてた。
まぁそれも、常人よりは遥かに鍛え上げられた身体にうっすら乗ってるくらいで、体力とか色々考えたらまぁいいんじゃね? って程度。
それが泥門に負けてからやたら練習に精を出すようになったらしく、その脂肪があっというまにバキバキの筋肉に様変わりしていった。
同じスポーツ選手として、妬ましくないといったらウソになる。
ヒル魔も大食いなのに、太りにくい体質のせいか中々身体が大きくならない。
コンプレックスとまではいかないが、ヒル魔はそれが気に入らなくてイラついてるのは知ってる。
「今の体重とベンチプレスと40ヤード走は?」
始まったよ。
これから楽しくセックスしようって感じだったのはドコ行った。
ヒル魔の頭ン中は、すっかりアメフトにスイッチしてるようだ。
オレだって高校のころからはモチロン、大学入ってからは更に筋肉負荷を増やした練習をしてる。
ヒル魔がいつと比べて「育った?」なんて聞いてきてるのかは分からないが、
身体が出来る前の高校当時なんかと比べたら、大分厚みが増している。
「……いや、最近計ってねェから」
分かんねェ。までは言い切れなかった。だって嘘だし。
でも正直に言ったらお前機嫌悪くすんじゃん。
同じようなもん食って、同じような、かどうかは分からないけど、お互い練習も訓練もして、身長も似たようなもんなのにオレの方が筋肉つくとか。
いーじゃん別に。ポジションも違うし。
お前QBでオレLBだぞ。
頭脳派売りにしてるQBに、ベンチプレスまで負けらんねェっつーの。
ヒル魔はまだ相変わらず熱心に葉柱の身体の「観察」を続けて、真剣だった顔はもう不機嫌と言えるくらいになってる。
よっぽど悔しいのか眉を顰めて舌打ちまでしてきた。
お前それ、ベッドでコイビトにする態度じゃねーよ。
「いつと比べて言ってんだよ」
「高2」
高2ってお前、ホントに最初にヤったくらいのときじゃん。
今大学2年だぞ。三年前と同じなワケねェだろ。
「そんなん、お前だって大分違うだろ」
「…………そうか?」
追撃を交わそうと言った言葉に、意外とヒル魔は食いついた。
じっと自分の腕を見たかと思うと、おもむろにTシャツを脱いで裸の上半身を晒す。
コイビトとベッドの上で服脱いでるっつーシチュエーションなのに、まったくエロい空気になんないのが逆に凄ェよ。
「そうだろ。体重増えてんだろ。高2んときと比べたら」
「まぁ、そうだな」
ヒル魔は座ったままペタペタと自分の身体を触る。
ちょっと機嫌が直ったようだ。
そうだろそうだろ。実は半分でまかせで言ったけど。
だって3日と空けずに裸でどうこうしてるし、高3くらいから半同棲だったのが大学入って完全に同棲になったから、ヒル魔を見ないでいる期間つーのが全然なくてあまりピンとこない。
だからヒル魔も今までこっちにたいしてこんなこと言い出さなかったワケだし。
「んー、でもよく分かんねェな」
まぁ、自分の身体なんかそれこそ毎日見てんだから、変わったかどうかなんて分かんねェかもな。
「比べてみっか」
オレと? と思ったのに、ヒル魔はそのまま楽しそうにベッドから降りるとリビングの方に出ていく。
いや待てよ。これからしようと思ってた、楽しいコトはどうすんだよ。
「なにしてんだよ」
しょーがねェからそれ追っかけて部屋を出ていくと、ヒル魔が段ボール箱の中をガサガサ漁ってる。
同棲始めてから閉口したのがヒル魔の散らかしグセで、いくら言っても聞かねェから、通称『ヒル魔箱』っつーのを設置して、どうにか自分のものはとりあえずそこに突っ込むようにだけ躾けた、その箱だ。
「高2んときに撮ったヤツがどっかにあるはず」
ヒル魔が手元に何枚かのDVDらしきものを取り出して、パタパタとケースを捲る。お目当てのものを探しているようだ。
「あったあった」
白い表面にサインペンで日付と『泥門』とだけ書かれたDVDをヒラヒラさせななが今度はTVの下のデッキに向かう。
「座れば?」
とか言ってくるので、一緒に見ろってことか。
しかたなくソファに座ると、何が楽しいんだかうかれたヒル魔も隣に座る。
さっき脱いだり脱がされたりした服がそのままだから、お互い上半身だけ裸で、それで一緒にソファなんか座ってたらやることは一つだろってハズなのに、さっきまでの余韻で盛り上がってるこっちの気分なんかおかまいなしか。
もういいけど。
ヒル魔のアメフト好きなんて今に始まったことじゃないし。
ハッキリ言えば、そんなとこも好きだっつーの。
DVDは、日付からして高校の頃だから、なんかの試合を撮ったやつか?
練習試合だったら泥門と賊学でやったこともあったし、ラベルが「泥門」だけだから、都大会とかクリスマスボウルのもんかもしれない。
正直お前のアメフトしてっとこ結構好きだし、懐かしいなーと思うから、実のところ結構興味をそそられる。
だからヒル魔が楽しそうにリモコンを弄って明るくなった画面に映ったのが緑豊かなフィールドじゃなくて、狭苦しい泥門の部室の中だったので、一体何が写されだしたのか、一瞬わからなかった。
「なっ…………!」
「やー、懐かしいな」
懐かしい。確かにな。
そういえば泥門の部室は、運動部のくせになぜかカジノになってたんだってのも思い出した。
カメラは何処かに固定されてるらしく、斜め上から見下ろすよう画像のまま動かない。
真ん中のルーレット台に、裸で乗り上げてるヒル魔と葉柱を映したまま。
「音小せェな」
「なんだよこのカメラはっ!」
確かに音は小さい。
風の吹く音のようなノイズと、ルーレット台がガタガタいってる音、それに微かに葉柱の声が聞こえる程度だ。
音を大きくしようとするヒル魔からリモコンを取り上げようと掴みかかるが、どっちも離さずジリジリと鍔迫り合いのようにせめぎ合う。
ただ慌てて画面から視線を離した葉柱と違って、ヒル魔の方はニヤニヤしたまま流されてる映像を見たままだ。
見ないようにしても音は聞こえてきて、微かに聞こえる自分の声は、認めたくないが盛大に「あ」行で喘ぎまくってる感じだ。
ただその他の雑音と混ざって分かるか分からないかって程度だからまだいい。
音量なんか上げたらハッキリ分かっちまうから絶対避けたい。
「止めろっ!」
「ヤダ」
「ヒル魔!」
「ダーメ」
名前を呼んでのお願いのときは、大抵叶えてくれることが多いのに、今回のはどうやっても譲らない気らしい。
「いーからテメェも見てみろよ」
「見るわけねェだろ!」
改めて見なくても、さっき見た映像は一瞬で頭に移りこんで忘れられそうにない。
ルーレット台の端に仰向けに乗り上げた葉柱に、上だけ脱いでるヒル魔が伸し掛かってる。
ヒル魔の肩に担がれた自分の脚が、ゆさぶられるリズムに合わせてガクガクと振れていた。
つーか、これが『ヒル魔箱』に入ってるのおかしいだろ。
同棲して引っ越してきて、メンドクセーとかいって段ボールのまま収納にしまわれてる荷物があるのに、散らかし防止に設置した新しい箱にこれが入ってるっつーことは、少なくとも一回は引っ越してきてからこれを見たってことか。ふざけんな。
「試合のじゃねェのかよ……」
ガッチリ掴んで離されないリモコンを諦めて、せめて画面だけ見ないようにうつむいてソファに座りなおした。
「あんなガチガチに防具着たヤツじゃ、変わったかどうかなんて分かんねェだろ」
変わった? あぁ、そうか。
あんまりのことに忘れてたけど、そもそもの趣旨は高2から体つきがどれだけ変わったか? って話だったな。
服を脱いでるハメ撮りがベストってことか?
「音消して」
だったら、音はいいだろ音は。画像だけで判断してくれよ。
こっちは目だけ瞑って我慢するから。
「ヤダ」
そう言うと思ったけど。
でもこっちがリモコンを離したのに音量を上げないでいてくれるっのが、せめてもの優しさか?
もうどうにでもしてくれよって気分で俯いて時間が過ぎるのを待ってたら、しばらく画面を見たヒル魔が立ち上げる。
なにかと思えば、部屋の隅にあった姿見を持ってきたようだ。
「ふーん」
そんで自分を映して身体を確かめるように正面から見たり横から見たり。
ちょっとバカみたいだとは思ったが、まぁスポーツ選手は身体が資本だし。
急にハメ撮りなんか流しだすからどうかと思ったが、一応本来の目的はちゃんとそこらしい。
「まぁまぁかな」
ヒル魔は、高2の自分と比べて、今の自分にまぁまぁ満足したらしい。
で、そんなこと言われると、ちょっと気になってくる。
毎日毎日見てたから、変わってくのを実感できなかったけど、高2のヒル魔ってのはどんなだっただろうか。
さっき一瞬見た映像じゃよく分からない。
いやいや、でもな。
まぁ、そうだな。
自分主演のハメ撮りなんか見たくないって思いと、今ちょっと芽生えてしまった興味が胸中でぶつかり合う。
さっき見たことを思い出してみる。
確か映像の中じゃ、ヒル魔が覆いかぶさってるせいで葉柱自体はあまり見えてなかったはずだ。
ヒル魔の背中で隠されるようになっていて、声はともかく顔は分からないし、見えるのは脚ばかりだ。
そのくらいだったらなんとか、と思って、恐る恐る顔を上げる。
「…………」
まぁ、平気平気。
揺さぶられる脚が生々しくて嫌だが、恥ずかしいのと居心地が悪いのを我慢すれば、このくらいどってことない。
やっぱり葉柱の顔はヒル魔の影になって見えないから安心した。
あんなときの自分の顔ほど、見たくないものはない。
で、本題のヒル魔の様子を見てみる。
画像は粗いしちょっと遠目から写されてるせいで分かりにくいが、テレビの中のヒル魔の背中は、確かに今隣にいる大学生のヒル魔と大分違っていた。
まだ栄養が縦の成長にとられている時期なのか、今より細い身体に尖った肩が目立つ。
発展途上な感じの、腰の線が頼りない。
こうして比べてみるとたしかに全然違うのな。
当時はまったくそんなこと思わなかったけど、やっぱ高校生ってまだガキなんだな。
ここまでくると、ヒル魔の顔が見えないのが残念だ。
顔つきもやっぱり、あの頃と今じゃ大分変ってるんだろうか。
自分の身体のチェックに満足したらしいヒル魔は、またソファに座りなおす。
そんで今度は画面とこっちを見比べてきた。
「ふーん?」
テレビの中でヤってる相手と、それを見てるっつーのがかなり気恥ずかしくて居たたまれない。
「これじゃ良く分かんねェな」
そりゃそうだろう。画面の中の葉柱は、裸なんだろうけどほとんどヒル魔の影になってて分からない。
それでも、あんな様子をジロジロ見られていると恥ずかしすぎたから、ヒル魔がそう言って葉柱を見るのをやめて立ち上がったのに安堵した。
ついでにテレビも止められたので、このむず痒い遊びは終わりらしいの思ったのに、ヒル魔が向かったのはまた『ヒル魔箱』。
「おいちょっと……」
慌てて立ち上がった時には既に、ヒル魔はもう一枚取り出したDVDをデッキにセットし終えたとこだった。
待て待て。
なんかこの流れはとてもよくない気がする。
さっきの映像じゃよく分からなくて取り出したもう一枚ってことは、今度は「よく分かる」ヤツってことか?
嫌な予感に咄嗟にリモコンを探したが、それは既にヒル魔が握っていた。
「やめ……」
そうだよな。ヒル魔がニヤニヤ笑ってるから、「ヤメロ」なんつったって聞くわけねぇし、止めるには遅すぎるって分かってたよ。
『……ヒル魔、ぁ、ヒル魔っ』
ヒル魔の名前を呼んだのは、葉柱じゃなくて、うつ伏せになった背中が大写しになった高校生の葉柱の方だった。
「テメーはっ!!」
あんまりのことに殴り掛かってでもリモコンを奪い取ろうとしてのに、ケケケと笑った悪魔にサラリと交わされる。
続けて飛びかかろうと思うのに、バクバク言ってる自分の心臓に眩暈がして動けなかった。
『イク、ぁ、もぅイクからっ……』
(本格的にハメ撮りかよっ!!)
さっきの固定カメラの映像と違って、今度の画面はガクガクと手振れて揺れている。
多分葉柱の後ろに乗っかってるヒル魔がカメラを手に持ってんだ。
カメラが近いせいか、部室のものと違って声がよく入ってる。
『勝手にイクなよ』
ヒル魔の声の方が大きいのも、よりカメラに近いせいだろう。
「いつ撮ったんだよこんなもんっ!」
裸の背中がベッドの上でのたうって、手が逃げようとするようにシーツをかいている。
こんなん撮られた覚えは全然ない。
さっきみたいな隠しカメラならともかく、どう見てもこれは完全にヒル魔が堂々と手に持って撮ってる映像だ。
「コレは高2んときだよ」
「コレは」ってなんだよ! 他にもか? 他にはどんだけあんだよ!
「いーから後ろ向け」
床の上にへたり込むように座ってた葉柱の肩を足で蹴るようにヒル魔が押してくる。
なんて酷ェことすんだ。
確かに画面に映ってるのは背中だから、後ろを向かなきゃ比べられないだろう。
「死ねっ! テメェは!」
立ち上がる気力はまだ湧かないが、辛うじて気を奮い立たせ脚を払いのける。
画面からは目を逸らしたし、音も聞かないようにと思うのに、「イイ」とか「ダメ」とか言ってる単語をどうしても頭が拾ってしまう。
「お前サイアク……」
本当に心からそう思って項垂れて言ったのに、ヒル魔はとんでもなく楽しそうな顔のままだ。
そんで今度は何を思ったのか、葉柱を仰向けに倒そうとするように伸し掛かってきて、体を手で撫でてくる。
「テメェ……」
しかもそれが、もう身体のチェックって感じじゃない。完全にヤラシイ感じのソレで。
「ふざけんなっ!」
完全に乗りかかられる前に手で押し返して応戦する。
お前このテレビ流したままヤルつもりだろ。
「大人しくしろよ」
「するワケねェだろっ!」
自分のハメ撮り見ながらセックスなんてマニアックなマネしてたまるか!
顔を寄せようとしてくるのも頬を手で押して阻止する。
キスされるとちょっとヤバいから。
こいつマジうまくて、そうされっとスグ「もうどうでもいっか」って気になっちまうもん。
でも、今回だけは絶対無理。
だから得意パターンに持ち込まれないように手も足も肩でも全身で抵抗してると、段々と思い通りにヤラせないことにヒル魔がイライラしてきたようだ。
煩ェバカ。いつでも寝技なら勝てると思ってんじゃねェよ。
「テメェ怒るぞ」
「オレは既に怒ってんだよっ」
とりあえずテレビ消して、そのDVDを破棄して、あとそれ以外に何があんのかは知らねェがそれも全部破棄して話はそっからだ。
そうするまでは絶対にしねェ。
「葉柱……」
そんな声で呼んでもダメ。
お前ホントよく分かってるよ。それ、凄ェ好きな声だもん。
だから余計に顔を耳元に近づけさせないように手を突っ張ると、どうやっても無理だと思ったのかヒル魔が舌打ちしながら上から退いた。
「可愛くねェな」
「いーからテレビ止めろ」
「ヤダ」
「アァ?」
傍から見たらアホみたいな攻防だっただろうけど、セックスに持ち込もうとするヒル魔のあの手この手のせいで、それでもちょっとじんわり臍の下辺りに溜まるエロい気分がたまってる。
でもそんな場合じゃねェから、それを振り切るように立ち上がる。
「オレ、こっちの可愛い葉柱でヌイてるから、お前先に寝れば」
ヒル魔はそう言うと、テレビの前のソファにどっかり座り、履いてたスウェットを下着ごとずらして性器を露出する。
で、ご丁寧にもローテーブルの端に乗っていたティッシュを引き寄せて、自分の隣に置いた。
「…………はぁ?」
テメェ、マジで言ってんのかソレ。
「あー、この頃は素直で可愛いのになー」
てっきり嫌味とか皮肉でそんなこと言い出したのかと思ったのに、ヒル魔の手が本気で自分のアレをシゴきだすのをみて閉口した。
怒るべきなのか悲しむべきなのかも分からずポカンとしてると、「はぁ」とヒル魔が少し詰めた息を吐く。
お前本気でヨクなってきてんじゃねェよ。
『ヒル魔ぁ……』
「んー?」
まるでテレビに返事でもするように相槌を打つ姿にはさすがにカチンときて、怒鳴りつけようと思ったところで急にヒル魔がこっちを見る。
「あ? なに? お前もすんの?」
「もっとヌケるやつ貸してやろうか?」まで言われたら、今度こそ怒鳴りつける言葉も失った。
何が悲しくてお前と並んでオナニーしなくちゃなんねェんだよ。
しかも言うだけ言って、すぐにまた画面の方にばっか集中しだすし。
「ん、ルイ……」
感じてる声を出されると、すぐに下腹の辺りが疼いてしょうがなくなった。
ワザとだろ。ホント意地悪ィ。
言われた通りに先に寝るのも悔しくて、だからといってどうにもできずにバカみたいに突っ立てったら、画面の中の葉柱がひっくり返されて仰向けになった。
自分の顔を大写しになったのを見て、心臓がドキっと大げさに跳ねる。
だって、ボロボロに泣いてたから。
『ムリ、も、イク……』
『勝手にイクなっつったろ』
パチンと一際大きい音がしたのは、多分ヒル魔が葉柱の身体のどこかを叩いたんだろう。
『ムリ、ァアッ、ムリだか、ら……』
『ダメだっつってんだろ』
泣きじゃくって懇願する葉柱に、画面には映ってないヒル魔が楽しそうに冷たい言葉を浴びせてる。
『イク、ヒル魔、も、出るっ』
『アー?』
『イ、あぁ、イク、イクぅ! ごめんなさい、ごめ、なさいっ……』
ごめんなさい、ごめんなさい。って、ずっと謝りながら、画面の中の葉柱はガクガクと体を痙攣させながら射精した。
謝ってんのは多分、「勝手にイクな」って言いつけを守れなかったから。
「…………」
それみて、ぎゅっと胸が痛んだ。
だって、思い出したんだ。
ヒル魔と付き合いだして始めの頃から、本当にヒル魔のことが好きだった。
ただヒル魔ってのは、本当にとんでもなく冷たいヤツで、オレはいつ捨てられるかってビクビクしてたんだよ。
だから命令されればなんでもしたし、ヒル魔のすることにちょっとだって「嫌だ」なんて言わなかった。
そいえば、さっきの部室でヤったときのこと、思い出したよ。
ホントはあんなとこでスルのなんて死ぬほど嫌だった。
泥門なんてそもそも居心地悪いし、確か鍵もかけてなくて、誰か来るんじゃないかって不安で堪らなかった。
でもヒル魔がそこで脱げっつったから、逆らえなかった。
使えねェヤツって思われたらもぅ呼んでもらえなくなるんじゃないかと思って。
ヒル魔が好きで、セックスも気持ちよくて好きだけど、あんときは本当に不安だったんだ。
ヒル魔の持つカメラで撮られてた葉柱は、正常位になってからもヒル魔にしがみ付こうとしてなかった。
多分遠慮してたんだ。あの頃は、そんなことしていいのかどうか分からなかったから。
ハメ撮りされたの覚えてなかったけど、画面の中の葉柱は完全に出来上がってるみたいだからもうワケがわかってないんだろう。
でも多分、普通の状態でも、あの頃なら撮らせろって言われても多分断れてなかった。
画面の中ではまだ、ヒル魔に突き上げられてる葉柱が苦しそうに呻いてる。
イッてスグなのに遠慮も容赦もない動きをする高校生のヒル魔に、下の葉柱は文句も言わずにされるがままになってた。
「……も、いいだろ」
画面を隠すように、ソファに座るヒル魔の膝の上に前から跨る。
「なんだよ」
ヒル魔の機嫌はもう悪くなさそうだ。相変わらずニヤニヤしてんのがムカつくけど。
「止めろ」
「だって可愛いんだもん。アッチの葉柱はオレのコト大好きで、しかも素直だし」
「そんなん……」
そうだよ。お前のこと大好きで、お前に気に入られようとなんでも素直に言うこと聞いたよ。
「そんなん、今の方がもっと好きなんだから、コッチのがいいだろ」
言ったら、ヒル魔はちょっとビックリしたような顔をした。
わざとそんな顔することもあるけど、これは本当に驚いたみたい。
「……ふーん? そんなに?」
ちょっと目を細めて聞いてくる。キスしてこいっつー合図だ。
こういうの、分かるようになったのいつからだっけ。
昔は、自分からなんかするのって、やって良いのか悪いのか分かんなくてなんも出来なかったのに。
「うん」
頭を抱えるように抱き着いてキスをすると、ヒル魔もこっちの腰に手を回してきた。
普通にコイビトがするみたいに、たまに我儘言ったりするようになったのっていつからだっけ。
お願いしたときにヒル魔がいうこときいてくれたのって、何のときが初めてだ?
大学生になって同棲して、部屋散らかさないで『ヒル魔箱』にちゃんと閉まっとけって言ったとき?
でもあんときは確かもう、ヒル魔のやることに口出したりすんのって当たり前になってた気がする。
そもそもなんでオレ、こんな当たり前みたいに、不安にならずにヒル魔といれるようになってんだろう。
「凄ェ好き」
キスの合間に言って、でもまだしたくても一回口を重ねる。
腰の辺りを撫でてたヒル魔の手が片方離れたから、なんだろうと思ってたら、プツッと音が聞こえて静かになった。
どうやらテレビを消したらしい。
あぁ、そうか。ちょっと分かったかも。
3年ずっと一緒にいたから、お前の身体が段々逞しくなっていく様子に気付いてなかった。
で、3年ずっと一緒にいたから、やっぱ気付いてなかったよ。
お前、優しくなったのな。
今だって大概酷いけど、昔だったら、このタイミングでテレビ消してなんてくれなかったはず。
「オレも好きだぜ」
ほらな。高校の頃、お前そんなこと簡単に言わなかったし。
'13.04.22