はじめての成功




「なぁ、もぅ寝る?」
「まだ10時だぞ」

テレビを見る葉柱に寄りかかって誘いをかけたら、笑いながらそう返される。

確かに寝るには全然早い時間。
でも、なんといっても今日は週一の特別な日だ。

「いーじゃん。寝ようぜ」

当然、眠たいわけじゃない。
ベッドに行って、楽しいコトしようって話だ。

「はー?」

言葉こそ冷たいものの、すり寄ると葉柱もクスクス笑ってるから、嫌がってない。
多分、どっちかっていったら、結構その気のはず。

今日は土曜日だから、葉柱が泊まっていく日だ。
そして、これが重要なんだが、週の中で唯一挿入が許されてる日でもある。

別に約束したわけでもないけど、一回目も二回目も土曜日で、そのときも両方泊まっていったことから、なんとなく暗黙のルールみたいな感じでそういうことになった。
セックスした次の日は、葉柱がひたすらダルそうにしてるので、朝練なんかがある平日はしないし、泊まることもない。

平日はなんとなくイチャイチャしてるか、しても手まで。
昨日も家に来たけど、こっちが溜まった作業なんかを片づけてる間、葉柱がぼーっとテレビなんか見て、ちょっとキスしてサヨナラだ。

で、じゃぁなんで溜まった作業なんか昨日のうちに片づけたかっていったら、今日の為に決まってんだろ。

「オレ風呂入るし」
「後でいいじゃん」
「止めろって」

待ちきれなくて服の下に手を突っ込むと、ちょっと本気でそれを止められる。
なんだよ。マジで言ってんの?
風呂なんかどーでもいーじゃん。

「後になったら入れねーだろ」

まぁ、そうかもな。
いっつもぐったりして、そのまま寝るから。
で、朝になってもベッドから出られないでダラダラして、昼過ぎくらいにシャワー浴びて帰るってのがだいたいのパターン。

「別に入んなくてもいーだろ」
「やだ」

面倒臭ェな。
だいたい、部活の後シャワー浴びてきてるくせに。

「じゃ、オレも一緒に入る」
「…………はーぁ?」

しょうがないので首に顔を埋めながら妥協案を出すと、呆れた声が返ってくる。
あ、これは、ダメなやつだ。
こういう口調で返してきたときは、結構ねばっても「いいよ」って言わねェんだよなコイツ。

「いーじゃん。洗ってやるから」

でも、どうせ風呂でどうこうできなくても、その後に楽しいことが出来ると分かってたので、対して落胆もしないで冗談みたいな口調で言う。

「ばーか」

葉柱も、こっちが本気じゃないと分かってるのか、軽い返事。

「じゃ、オレのカラダ洗わせてやるから」

ただのジャレ合いのつもりで続けた言葉にも、当然「ばーか」とか「はいはい」とか、そんなのが返ってくるの思ったのに、なぜかそこで葉柱の返事が途絶える。

なんだろうと思って身体を離して顔を見たら、なぜか急に本気で悩みだしたっぽい。
あぁ、そっか。
お前って、ほんとオレのカラダ好きだよな。

「脱がして」

ちょっとだけイヤラシイ色を含めてお願いすると、葉柱が少しだけ迷った気配を見せたあと、そのまま無言でTシャツを引っ張って捲りあげてくる。
本人はバレないようにコッソリやってるつもりなのかも知れないけど、手の動きが「脱がせる」って目的以上に身体に触ってくる。
どんだけ好きなんだよ。

このまま風呂なんかすっとばしてヤラしてくれないかなと思ってこっちも葉柱に触ろうとしたら、それを察した葉柱に腕をつっぱって阻まれた。

「先行ってろ」

そんで未練たらしく胸を撫でたりしてから、完全に身体を離される。

まぁいいか。
まさか、風呂で楽しいことさせてくれるとは思ってなかった。
ベッドでのお楽しみがちょっと遅くなるくらいなら、オツリがくる。

先に行って、本当に葉柱が後から来るかなと思ったが、未だに裸の上半身をジロジロ熱心に見てきているので、「身体を洗う」という名目でそれに触りまくれるチャンスを逃したりはしないだろう。

最後に口にちょっとだけキスをして、ソファから立ち上がって脱衣所に向かう。
別にわざわざ時間差にする必要なんてなくて、一緒に行って一緒に脱ぎゃいいのに、葉柱の意味のない照れ隠しは相変わらずだ。

全部脱いでから、冷たい浴室の床に足をつける。
シャワーの温度を確かめて頭からかぶると、熱いお湯が心地いい。
入口に背を向けるように座って、後ろに耳を澄ませてみるが、まだ葉柱の来る気配はない。
特にすることなんてないはずなのに、なにグズグズしてんだか。

お湯をかぶったまま顔を擦って、いつものクセですぐにボトルからシャンプー液を手に取る。
泡立った頭を指で擦りながら後ろを気にしても、やっぱりまだ来ないようだ。
もしかしたら、怖気づいて来ない気かもしれない。

ただ、一旦風呂に入りだしてしまうと、心地よい脱力感も手伝って、なんとなくどうでもよくなってくる。
どうせこの後、セックスはさせてくれるはずだし。

頭の泡を洗い流し、いつもの習慣通りにスポンジにボディソープをとって左腕を擦りだした辺りで「あっ」と、後ろから多少の怒気を孕んだ葉柱の声が聞こえた。

「なに勝手に洗ってんだよ」

勝手にもなにも、オレの身体だろ。

「だってテメェ遅ェんだもん」

ドアを開けて入ってきたらしい葉柱に、振り向きもしないで答える。

「遅くねェよ、バカ。寄越せ」

無視して洗い続けようとしたら、長い腕が顔の横からにゅっと伸びてきて、持ったスポンジを奪い取られた。

遅くねェわけねェだろ。
ソファからここまでたかだた数歩の距離を歩いて、服を脱ぐってだけにどんだけの時間がかかるんだよ。
十二単でも着てんのかテメェは。

「なぁ、頭洗った?」
「うん」
「ふーん」

スポンジを奪い取った葉柱は機嫌を直したようだけど、質問の返事には少し不満そうな声を返す。
どうやら、頭も洗いたかったらしい。

確かに、それもよかったかも。
オレ、テメェに髪触られんの好きだし。

なんというか、葉柱は「やりたがり」だ。
もともと世話焼きっぽい性格もそうだし、キスも「される」より「した」がる。
触られるより触りたいらしいし、手でしてもらうときも、「気持ちいい」というと、異常に喜ぶ。

まぁ、自分の方がされるのが恥ずかしくて嫌だっていうのもあるかもしれない。

気を持ち直したらしい葉柱のもつスポンジが背中にあたって、丸く円を描くように擦られる。
ついでに、スポンジも持ってない左手が、用も無いのにそーっと背中を撫でまわしてくる。
これで本人はバレてないと思ってるらしいからお笑いだ。

でも左手がするすると首の方に伸びてくると、結構気持ちいいので、指摘はせずに好きにさせる。

背中を一面洗われると、今度は腕をとられてそこも。
どうやら背中を流すだけじゃなく、全身洗ってくれる気らしい。
まったく甲斐甲斐しいことこの上ない。

この後はどうすんのかなと思って成り行きを見守ってたら、脇の下から両手が差し込まれて、泡まみれのスポンジが胸を擦る。
例の用のないはずの左手は、既にそーっとなんて可愛らしい仕草じゃなく、無遠慮に腹を撫でまわす。

背中には葉柱の胸がぴたっと合わさって、泡でヌルヌルする感じが、なんだかやたらとエロい。

お前さー、それ、ワザとだろ。
だって、前洗うなら、オレのこと正面に向かせればいいのに。
そうしなくても、お前の腕の長さなら、こんなに身体くっつけなくても余裕なはず。
それが、腹を擦る手の動きに合わせて、身体をくねらせて胸を押し付けてくる。

こっちとしても願ったり叶ったりで、オレへのサービスのつもりかなーと思うけど、そうじゃない。
多分、自分がやりたくてやってんだ。
オレのカラダ大好きだし、自分優位だと思ってるときは、意外とスケベヤロウなんだよなコイツ。

これだけべったりくっつかれると、泡のエロさも手伝って、まだ肝心な部分には触られてないってのに勃ってきそう。

「気持ちいい?」
「うん」

すっかり泡姫と化した葉柱の楽しそうな声が後ろから聞こえる。

「じゃ、こっち向け」

必要以上に肩や胸や腹を撫でまわして満足したようで、言われた声に身体の向きを直すと、正面で膝をついた葉柱が今度は腿を撫でてくる。
湿度の高い浴室で、葉柱の髪がちょっとヘタってて、なんとなく可愛らしい。

引っ張り上げてキスしようかと思ったけど、やめておく。
葉柱は「ヒル魔洗い」に夢中なようだし、そういうときにちょっかいをかけると機嫌を損ねるから。

腿や脹脛を洗いながら、葉柱の視線がジロジロと性器に集中してるのが分かる。
お前、オレがそういうことすると「見んな」とか言って怒るくせに、自分はやりたい放題だな。

「くすぐったくねェの?」

足首を掴んで持ち上げられて、足の裏を擦られると、なぜかやってる方の葉柱の方がむず痒そうな顔をする。

「別に」
「えー、オレ、自分で洗うのでもくすぐったいのに」

確かに、くすぐったがりだもんなお前。

足の指の間を、丁寧に指で擦られると、確かにちょっとくすぐったい気もするけど、それよりゾクゾクして気持ちい。

「なぁ、こっちも」

いい加減じれったくなってきたので、葉柱がいつまでたっても触ろうとしない性器を、左手をひっぱって握らせる。

「……しょうがねェなー」

なにが「しょうがねェ」だ。
そんなセリフは、そのシマリのねェ顔なんとかしてから言いやがれ。

腰を抱き寄せると、葉柱がデレデレした顔のまま、慣れた動作で腿の上に跨ってくる。
今でも、挿入禁止の平日の日なんかは、ソファの上でこうして遊ぶこともあるから、見慣れた光景だ。

それでも、浴室の独特の黄色っぽい光の加減と、ちょっと泡が付いて濡れた身体がエロくて興奮する。

背中に手を回すと葉柱が何も言わなくても寄りかかるようにぺったりくっついてくる。
これはオレの趣味。
いつも必ず、最初にこうしてぎゅっと抱き着く。
なんでか分からないけど、これが堪らなく気持ちいい。

気のすむまで胸をくっつけたまま背中や腰を撫でる。
葉柱は散々人の身体を撫でまわしてすっかりエロいスイッチが入ってるようで、すり寄るように身体をこすり付けてくる。
身体中泡だらけのせいで、舐めたりできないのに少し不満が残るけど、どこを触ってもヌルヌルしてエロいことこの上ないし、風呂遊びも中々楽しいものだ。
葉柱も楽しんでるみたいだし、これからは土曜日のプランにこれをデフォルトで追加してもいいかも。

顔を上げると葉柱がキスしてくる。
首の後ろに回された手が下から掬うように撫でてきて、それに息を漏らすとさらに熱心にそれが続けられる。
やっぱりお前、したがりだよな。

くっつくのに満足して身体をちょっと離すと、スグに間に手をつっこまれて下を握られる。
ついでに胸を弄られて、親指がしつこく乳首を撫でて、勃たせられる。

「お前、髪下ろすとちょっと幼く見えるよなー」

葉柱がどうでもいい感想を、やたらと楽しそうに言う。
お前は、そうやって笑ってると、なんかアホみたいだよな。

葉柱はよっぽど下ろした髪が気に入ったのか、額や生え際あたりにキスを繰り返す。
そうしながらも、下を弄る手は淀みなく追い上げてくるんだから、ほんとスキモノだよ。

「キス」
「ん? んー」

こっちは額よりも口にして欲しいので、そう言って顔を上げて催促すると、すぐに薄い唇が吸い付いてくる。
気持ちい。
ちょっと口を開くとすぐ差し込まれる舌も、ゆっくりと口の中を探ってきて、たまに舌を甘噛みされる。

葉柱は、相当機嫌が良さそうだ。
背中を撫でおろしてケツのあたりを撫でてみても、警戒しないで身体をくねらせてる。

葉柱と挿入有りでセックスしたのは、まだ両手に余るくらい。
それでも、最初のときは挿れたらどうしても萎えてたのが、今は挿れても勃ったままでいられる。
ただ、挿れたままで葉柱がイケたことは、まだないけど。

今日は挿入していい日のはずだけど、このまま風呂で、ってのも、いいのかな?
こんなにご機嫌みたいだし、いいのかもしれない。

「なぁ、挿れていい?」

なのに、その問いにはやっぱり葉柱の身体はピタっと動きを止めて、キスも止めて苦々しい目でこっちを見てきた。

「…………後でな」

すぐに「やだ」とか「ダメ」とか言い出さないだけ、まだマシか?
ただ、ケツに這わせた手を煩わしそうに払われて、なんとなく可愛くない。

「いーだろ。ヤラせろ」
「後でつってんだろ」

さっきまで結構可愛かったのに、急にツンケンしだして腹が立つ。
笑った顔も引っ込んで、そのくせ下を握る手は引っ込めない。

「後でも今でも一緒だろ」

腿の上を滑らせて、腹がぴったりくっつくくらい葉柱を引き寄せる。
それからケツの間に指をすべり込ませて、泡の助けを借りれば簡単に指が一本挿入できた。

「おいっ」

葉柱が焦ったような声を出すけど、暴れたりはしない。
これは、いつもそう。
指でもなんでも、後ろに挿れられると、葉柱は首根っこ掴まれたネコみたいに大人しくなる。多分、なんとなく恐いからとか、そんなんだと思うけど。
だから暴れさせないには、とりあえずこうやって後ろを弄ってやるのが一番だ。

「やめろって、後で、ヤルから……」

あぁ、そう。
でも、後でヤルなら、尚更今こうやって慣らしてやんねェとダメなんじゃねェの?
まぁ、オレは「後で」なんて悠長に待つ気全然ねェけど。

「今がいい」
「……やだ」
「ダメ。いいって言え」

これから身体流して、お前が頭洗って身体洗って、ちょっと湯船で温まってみたりして、なんてのを待てってのか?
バカ言ってんじゃねーよ。
待てるわけねェだろ。

「テメェが勃たせたんだから、責任とれよ」

エロい顔して人のアレ弄りまくっといて、いざとなったらヤラれたくありませんなんて通じるか。

「手でシテやるから」
「やだ。挿れたい」

せっかく挿れていい日なのに、一番気持ちい最初の一回目が手なんて勿体ない。

葉柱の首を撫でながら、慎重に指を増やす。
泡で滑る床と身体を不安定に思うのか、葉柱がぎゅっと抱き着いてきて気分がいい。

葉柱の耳が泡に濡れてないのに気付いて、顔を寄せて噛みつく。
軽く歯を立てると小さく震えるような反応があるのが可愛い。

「ヤラせろ」

耳に口をつけたまま低く言うと、葉柱が肩をぎゅっとすくめる。
やだやだ言わなくなったから、諦めたんだろうか。

大分ほぐれた穴に、指を差し入れる動きを早くする。
葉柱の緊張した硬い身体をそーっと撫でる。
うん。いい感じだ。

「……ヒル魔」

葉柱が身体を恐る恐る起こして、すがるような目で見てくる。

「ダメ。ヤラせろ」

「やだ」とか「ヤメロ」とか、そんな言葉は聞きたくねェの。
可愛くオネダリしろとまでは言わねェけどさー、ちったぁ素直にヤラせろよ。

「…………ベッドがいい」

眉がちょっと困ったように垂れていて、目の淵がじんわり赤い。
そんでちょっと拗ねたように口を尖らせて言うんだもん、なんだよ。凄ェ可愛いじゃん。

「我慢出来ねー」

だから、やっぱりお前のせいだろ。


'13.05.22