はじめてのSM




「おい、ゴム」

ベッドの中で、そろそろ挿れてもいいかなーと思うと、必ず葉柱がそうやって言う。

「もーつけた」
「嘘つくな」

考えるより先に口が適当なことを言って、でもそれはすぐに葉柱に悟られて睨まれる。

なんだよ。
いーじゃん。たまにはナマでヤラしてくれたって。

ナマでしたことあるのは、2回だけ。
最初のときと、あとは一回風呂で遊んだとき。

風呂にはゴムなんてないし、後始末も簡単で、中出しするには最適の場所で気に入ってたのに、なんだかその風呂場では葉柱を怒らせる何かがあったらしく、あれ以来頑なに一緒に風呂に入ろうとしなくなった。
まぁ、怒らせる何かってのが、多分、約束を破って中出ししたからなんだろうけど。

「いーじゃん。ナマでハメたい」
「嫌だっつってんだろ」
「好きだぜハバシラ、いーだろ?」

葉柱の上に伸し掛かりながら、甘えるように抱き着いて耳元で言う。
こういうやり方をすると、ちょっとしたことなら結構聞いてくれる。
ただ、今の葉柱はぎゅーっと眉を潜めて、口を尖らせて怒ったような目をする。
変な顔。
お前、たまにそういう顔すんな。

「テメェ、オレになんか頼みごとあるときだけ、それ言ってねェ?」
「そうか? 気のせいだろ」

「それ」ってのは多分、「好きだぜ」なんて言ってるやつのことだと思うけど。
まぁ、ホントは、気のせいじゃない。
だってそう言うと、お願いを聞いてくれる確率が2割は上がるから。

こうやって指摘されるってことは、そういう場面で多用しすぎたのかも。
でもコイツ、ホントオレの言うこと聞かねェからなー。
すーぐゴチャゴチャ文句言ってきてよ。

「つけないならしねェからな」

小賢しい知恵つけやがって。
素直に喜んでりゃいいのによ。

「じゃ、つけて」

裸で抱き合ってる葉柱からは、非常に離れがたい。
胸をくっつけて、脚をすり合わせて、手は髪を撫でるのに忙しいから、ゴムなんて取ってつけてる暇無ェもん。

そのまま葉柱の首や耳を舐めて楽しんでると、葉柱は機嫌を直したようにちょっと笑う。
それから「もー」みたいなことを言って、身体を捩ってゴムのある引き出しに腕を伸ばす。

長い腕が引き出しを引っ張って中を探る。
それを邪魔するように体を引き寄せたり、引き出しの方を見させないように顔を掴んでキスをしてみる。
葉柱は「やめろって」なんて言いながら、クスクス笑って身を捩り、引き出しの中を探ってる。

こんなジャレ合いみたいな可愛い抵抗をみせたところで、どうせすぐにゴムが見つかってつけさせられるんだろうなーと思ってたら、引き出しの中からカチャンと小さな金属音がした。

「…………あ?」

それで、思い出した。

あの引き出しの中には、さっき取り出したローションと、今から取り出そうとしてるコンドーム、それから。

「なにこれ」

手錠が入ってる。

なんと答えるか考えてるうちに、葉柱は取り出した手錠を見て、それからこっちの顔を見て、手錠を見て、また顔を見る。

「手錠」

葉柱の顔が真顔になって、ぐっと手で押しのけられると、身体を起こして改めて引き出しを探り出す。

別に、もう他には何も入ってねェよ。

「…………」

葉柱が無言で、また一つ手錠を取り出す。

あぁ、そうそう。あとは手錠がもう一個あるだけな。
それだけそれだけ。

「なんだよこれ」
「だから、手錠だろ」

葉柱が、二個の手錠を持ったまま、何かを考えるような顔をして聞いてくる。

「そりゃ見たら分かんだよ。なんでそんなのがあるんだってことだろ」

なんでかって聞かれたら、まぁ、テメェに使うために用意してたんだけどな。
結構昔の話。
まだキスどころか指一本だって触ってない頃、無理やり犯してやろうと思って用意してたんだよ。
結局止めたけど。
もうスッカリ使う気なんてなかったら、忘れてたわ。

だから理由は簡単なんだけど、それをコイツに言ってもいいものか、ちょっと迷う。
正直過去の話だしどうでもいいと思うけど、コイツの怒りポイントってよく分かんねェんだよな。
くだらねェことですぐぎゃーぎゃー言い出すから。

そう思ってちょっと黙ると、葉柱が極めて自然な動きでゆっくり動いて、こっちの手首にカチャンと手錠をかけてきた。
あんまり自然なんで、されるがままになっちまったじゃん。

ていうか、なに? 手錠で遊ぶの?
オレ、かけられるより、かけた方が興奮すんだけど。

まぁ別にいいかなーと思ってそのまま任せてると、両手首の間の鎖にもう一個の手錠の片方ををはめて、そのままぐいっと腕をひっぱら、もう片方が枕の方の頭上に固定される。
チラっと視線を向けると、ベッドのフレームだ。

そうそう、二個あるのはまさに、そうやって使おうと思ってたんだよ。
お前意外と頭いいな。

肩を使って仰向けになって、葉柱を見てみる。
今、もうまさに挿れようとしてたとこだったし、騎乗位で乗ってくれんのかなーと期待して待ってみたのに、葉柱は横に座って、じっとしたままだ。
なんだよ。遊ぶんじゃねーの。

「おい」
「…………」

あ、これ、全然楽しくプレイしようぜって雰囲気じゃねーな。
それどころか、なんかちょっと怒ってんねェ?

「…………で、誰と使ったんだよ」
「あ?」

あー、そうだった。
お前のトンデモ思考を忘れてたよ。
なんかあると、全部悪い方に考えるからな。

「使ってねーよ」
「使わねーもんがあるわけねーだろ」

なるほどな。そういう考えもあるだろうな。

「テメェと使おうと思ってた」
「使ったことねーじゃん」
「やっぱ止めたから」

とりあえず全部本当のことを言ってみたけど、葉柱は「納得いかない」みたいな顔をして黙る。
なんでだよ。

やっぱ、最初に言いよどんだのがダメだったんだろうなー。
あの一瞬で、多分葉柱の頭の中では、こっちからは想像もつかないようなヒネくれた理論が展開されたんだろう。

「もーコレ外せ」

だからって、ここまで気分も身体も盛り上がってるところで、そんなアホみたいな問答に付き合う気になれない。
ちょっと楽しむ程度なら手錠プレイにつきあってやろうって気は失せて、手首を揺らし、カチャカチャと音をたてて開錠を催促する。
なのに葉柱は、ブサイクな顔して怒ったまま、プイっと顔を背けて拒否の態度を表してくる。

いい度胸じゃねェか。

「テメェ、誰に何してんのか分かってんのか」

低い声で言ったら、葉柱の肩がビクっと竦められて、視線が戻ってくる。
眉がちょっと困ったように下がって、それでもどうにか怒った顔を作ろうとしてるらしく、唇をとがらせて睨んできた。

それに応戦して睨み返すと、じわじわ葉柱の口の端が下がって情けない表情になってくる。
ここで舌打ちでもすれば降参するかなと思ったところで、葉柱がおずおずと胸に手を置いてきて、それから頭が近づいてきてちゅっと口にキスをしてくる。
それから、そーっと耳を触って髪も撫でてきた。

テメェさー。
オレに「頼みごとあるときだけ好きっていう」とか言っといて、テメェだってなんか困ったときはそうやってキスしたり撫でてきたりして誤魔化そうとしてねーか?

葉柱が、こっちの顔色を伺いながらちゅっちゅっと唇を吸ってくるのが分かってるのに、どうしても眉間から力が抜けてくる。
だって気持ちいんだよなー。

葉柱の親指が眉をなぞるように顔を撫でてきたあたりでは、目からはすっかり力が抜けてた。
もっとしてこねェかなと思ってちょっと口を開けると、唇に舌が触れてきて、そのまま中に差し入れられる。

手は脇腹の辺りを撫でてきてるし、結構気持ちい。
ただ、手錠のせいでこっちからは触り返せないのがなんとなくもどかしい。

手錠はやっぱ、かけられるよりかけた方がいい。
でも、葉柱に触られるの好きなんだよなー。

頭上に挙げた腕を、辿るように撫で上げられると、かなりゾクゾクする。
そのまま手を繋いで欲しかったけど、手首まできた葉柱の手は残念なことにそのまま来た道を辿って腕を撫でおろす。

「で、ホントは誰と使った?」

その話、まだ終わってなかったのかよ。

「使ってねーって言っただろ」

甘い雰囲気が戻ってきたと思ってたのに、まだそんなこと言い出す葉柱に呆れた声が出る。
手錠遊びも急につまらなく感じて、もう一度睨みつけようと思ったら、それより先に、目元にちゅっとキスが降ってきた。

「怒んねーから言ってみ?」

なにが怒んねーからだ、さっきすでに怒ってたじゃねーか。
しかもオレは嘘なんてついてねーんだから、怒るのはオレの方だ。

だからさっきみたいに睨みつけてやりたいのに、葉柱が相変わらず髪や腕を撫でたり、啄むようにキスをしてきたりしてそれに失敗する。

なるほど。
睨み合いになったら、先に白旗を振るのはいつも葉柱の方だ。
だから、こっちからは睨みつけさせない作戦に出たらしい。

「…………ホントにしてねーよ」

そこまで分かってるのに、こうやって愛撫されてると、どうしても目に力は入らなかったし、反論の口調も柔らかくなる。
お前、ホント最近小賢しくなったな。

「ホントに?」
「うん」

葉柱が、その辺に転がってたローションのボトルを取って、中身を掌に溜めてる。
それが性器に触れてきたので、このまま挿れさせてくれるのかなーと思ったけど、手が緩やかに上下するだけで、葉柱は跨って来ない。

「ホントは?」
「………………」

お前オレが何言っても信じる気ねーだろ。

「しつけーよ」

ちょっとのキスと撫でてくる攻撃くらいじゃ誤魔化されないくらいイラついてきたので、葉柱を蹴りつけてやろうと思ったのに、それと同時くらいに性器を擦ってくる手の動きを早くされて、そこまでされると流石にイラつきよりも気持ちい思いが勝ってくる。

「も、離せ…………」

もっと色々言ってやろうと思うけど、使ったローションでグチュグチュ音がたつくらい激しくシゴかれると、それ以上に声が出そうで言葉が続けられなくなる。

「ホントは?」

本気でしつけーな。
ここでオレが「ホントはその辺のオンナひっかけてSMプレイで楽しみました」って言ったらどうすんだよ。
満足か?

「ぁ、あっ……」

それでも、耳にキスされながらそうやってシゴかれると、気持ちいしもうどうでもいいかなーって気にもなってくる。
葉柱の舌がヌルヌルと身体を這って、首から胸を辿って乳首を吸われた辺りまでくると、挿れたいって気持ちよりもとりあえす出したいって気持ちの方が強くなる。

「ん、ハバシラ……、気持ちい、あっ」

甘えた声を出すと、もっとよくしてくれるのを知ってるのでそうしたら、期待通り性器を擦る手がより熱心になる。
ちょっと顎をあげるようにすると、すぐにキスが下りてくる。

「浮気した?」
「してねー」

もっとキスが欲しくて舌を突き出すと、丁寧にそれがしゃぶられる。

「テメェだけ」

甘えた声で言ったら、口がより深く重ねられて、性器を握る手も強くされる。
気持ちいい。もう出そう。

「じゃぁさ」
「ん?」

葉柱の顔からは不機嫌そうな色が消えて、すっかりニコニコしてる。

「愛してるって言えよ」
「………………はーぁ?」

そんでそんなことを言いだして、なぜかちょっと照れたように顔を赤くしてる。

「バカかよ。何言ってんだ」

なんで急にそんなこと言い出したのか知らねェけど、照れるくらいなら言ってんじゃねェ。
つーか、言うわけねェだろそんなこと。

盛り上がってた気持ちがなんとなく萎えて、膝で葉柱の脇を押すようにして続きを催促すると、葉柱がまた拗ねたような表情になる。

「じゃ、浮気したんだな?」
「してねーつったろ」
「じゃ、愛してる?」
「…………」

なんだその二択。
なんなの? なんかのドラマの影響か?
くだらねーこと言ってんじゃねェ。

「続きしねェならコレ外せ」

手錠の鎖を掴んで乱暴にガンガン音を鳴らすと、葉柱がちょっと怯んだ気配を見せて、性器を握る手の動きが再開される。
正直、もうこんな手錠をとって普通にセックスしたかったけど、イキそうだし、なんだかんだ葉柱の手は気持ちいいし、恐る恐るって感じで近づけられる唇も可愛くて、それに答えながら快感を追う方に集中する。

「気持ちい?」
「うん」

カナリ。
身体中撫でられながら責められると、腰が浮きそう。
やっぱコイツ、こういうの上手くていいな。

「も、イキそう」

そう言ったら、いつもは強めに握って最後まで追い上げてくれるのに、今は逆にゆるゆると手を緩めて、せっかく高まった射精感を逃がすようにゆっくりと撫でられる。

「…………なんだよ」

ただ、手は止められてないから、気持ちいいものは気持ちいい。

「愛してる?」
「ハァ? テメェ、あっ」

逃げてった射精感は、ちょっと手を早くされるだけでスグに戻ってくる。
そのくせイキそうになると、また手が少し止まって、でも完全には冷めないようにじっくりじっくり性器を弄ってくる。

「コロスぞ……」

気持ちいけど、もどかしくてイライラする。
腰に溜まった熱が解放されたがってるのに、それが許されない。

かなり不機嫌に睨みつけたのに、葉柱はなんだか機嫌良さそうにコメカミの辺りに口を寄せてくる。

「言う気になった?」

あぁ、そう。よく分かったよ。
テメェ、こうやってオレのことイジメるつもりか。
ふざけてんなよ。
奴隷が調子ノってんじゃねーぞ。

「あ、ぁ……」
「イイ?」
「イイ、んっ…………ハ、バシラ、イカせろ……」

そう思っても、もうコイツホントうまい。
イキそうなような、でもイケないような、そのくらいのとこでジリジリ弄ばれてると、気持ちよさで怒る気力が湧いてこない。

「あ、ン、やめんな……」

またイキそうになって、自分でもちょっと情けないと思えるような声でお願いしたのに、葉柱は注意深く探るように反応を見ながら平然と手を止めてくる。
なんだこれ。悪魔かよお前は。

いっとくけど、あと2回くらいこれ繰り返されたら、オレ泣くかもしんねーぞ。
いいのかよ。泣くんだぞ。オレが。

「……テメェ、今止めんなら許してやる」
「ん?」

手を止められて、少しだけ呼吸が整ったところでそう脅しつけてみる。

「これ以上すんなら、許さねーぞ」
「ふーん?」

睨みつける目には、力がうまく入らない。
そういう顔だから、葉柱は余計に調子にのったんだろう。

また手がじりじりと追い上げるように気持ちいところを擦ってきて、でもまた途中で止められるんだと思うと、気持ちいのに恐怖すら感じてくる。

「テメェ、あ、マジで、許さねェからな……あ、あっ」
「なにが?」
「コロス、はァ、犯す、犯してやる、マジで、メチャクチャに犯すからな、ん、んーっ」
「うん?」
「泣いても許さねェ、あ、ナマで、ぁ、ン、中出ししてやる、あ、ハバシラ、やめんなっ」

下から腰を突き上げるようにする動きもいなされて、またギリギリのところで葉柱が手を止める。
なんかもう、頭がクラクラする。
酸素か、血液か、なんかわかんないけど足りてない感じ。

しかも息が整う前にまた葉柱が追い上げる手を速めてくるから、思考がうまくまとまらない。

「あ、ハバシラ……」
「ここ、イイ?」

気持ちいい。もう、イキたい。イキたくて死にそう。

「……わかった、わかったから」
「ん? あぁ、愛してる?」
「…………そう。だから、も、イかせろ」

葉柱は嬉しそうに目をキラキラさせたけど、こっちはもうそれどころじゃない。

「ダメ。ちゃんと言えよ」

絶対に後でコロス。

「……愛してる」
「なに?」

嘘つくな。聞こえてんだろ。

「愛してる、あ、ハバシラ、イカせろっ」
「もっと言って」

葉柱が満足そうな声でキスをしてくる。
性器をシゴく手がいつもみたいにイイトコを擦って追い上げてくるけど、言う通りにしないとまた途中で止められるかもしれないと思うと恐ろしい。

「あ、愛してる、愛してるからっ」

こんなもんもう、一回言ったら後は何回言おうと一緒だろ、なんて自分を誤魔化そうとしてみるけど、やっぱりこんなフザケた言葉を吐く度に頭に血が上るように熱い。

「それ、イイ、あ、やめんな……」
「うん」
「イク、あ、ハバシラ、愛してる、やめんな、イク、イク、あ、アッ!」

ここで止められたらホントに死ぬかも、と思ってたけど、約束通り今度は最後まで擦って出させてくれた。

「あ、ン……」

跳ねる腰を愛しそうに撫でられて、最後にぎゅっと絞るようにキツ目に握られる。

「いっぱい出たな」

…………。
AVみたいなこと言ってんじゃねーよ。

キスしてこようとする葉柱に、整わない息が苦しくてそれを避ける。
なのに満足げな葉柱はそんなこと気にもしてないようで、上機嫌にちゅっちゅっと瞼や頬にキスしてくる。

「…………これ、外せ」
「ん? あぁ」

力の入らない身体に鞭打つようにして辛うじて手首を揺らして音を出すと、葉柱が今気づいたとでもいうように手を手錠に伸ばす。

「鍵。引き出し」
「おー」

葉柱が引き出しを探って鍵を取り出し、それからもたもたと時間をかけて手錠を弄繰り回し、やっとそれが解かれたときには、呼吸も大分整って、頭も冷静さをとりもどしたくらい。

手首を気にして見てみても、跡はついてなかった。
もともと緩めにつけられてたし、気ィ遣ってあんま暴れないようにしたからな。
SMプレイでハシャいで、手首怪我しましたなんて、冗談にもなんねェ。

「なぁ……」

気持ちいいいことは気持ちよかったけど、ムカムカしたまま手首をさすっていたら、葉柱が上機嫌なまま横にコロンと寝っころがって、肩に頭を乗せるように懐いてくる。

「あのさー、オレも、愛してる」

そう言って照れまくって、喉の奥でなんか「きゅー」みたいな音を立ててる。
笑ってるらしい。

「あっそ。オレは愛してねーけどな」

冷たく返したら、葉柱がビックリした顔をして、それからまた変な怒った顔を作る。

「愛してるって言ったじゃん」
「あんな状況になったら、嘘でもなんでも言うに決まってんだろ」

拷問だぞアレは。

それよりも。

「テメェ、許さねェって言ったよな」

ワザとらしく拗ねた表情を作る葉柱を、押さえつけるようにして上に伸し掛かる。

「泣いても許さねェからな。ケツからザーメン垂れ流すまで、中出ししまくってやる」

手錠をかけられてるときと違って、今度は怖い顔も低い声もうまく作れたはず。
なのに、なんでか葉柱は、目を細めて笑ってる。

なに余裕こいてやがんだコイツ。

「なに笑ってんだよ」
「だって」

だってなに? 言っとくけど、怒ってんだからはコッチは。脅しじゃねーぞ。

「テメェ、オレに乱暴にしたことねーもん」
「………………」
「いつもみてェに、優しくして?」
「…………やなこった」

そう答えたのに、葉柱の顔から笑みは引っ込まなかった。

だってしょうがない。
「優しくして」なんて言葉の前には、オレの手はいつも以上に慎重に、そーっと葉柱をなでたから。


'13.06.12