はじめての進展




多分オレは、相当機嫌が良さそうに見えたんだろう。

なにせ練習の途中、糞チビが自分から話しかけてきたりしたくらいだったから。
ハンドオフの練習付き合ってください、とか言ってよ。

しかもオレと糞チビが二人で話してるってシチュエーションだと、すぐさま警戒した糞マネが割り込んできそうなもんなのに、その糞マネが子供を見守る親みたいな目で微笑ましそうに見てきたりして。

まーそうなんだよ。
機嫌がいいっつーか、浮かれてるって言ってもいいかもな。
それでも、「どっちの必殺技がかっこいいか」なんてフザケてる糞サルと糞バカはブチ殺してやったが。

なにせ、最近出来たカノジョが可愛くてよ。
つい一週間くらい前からなんだけどな。

毎日迎えに来て、そんで家寄ってってよ。
キスしたり、触ったり触らせたりしてくれんの。
色々制約は多いんだけど、ソファの上で気持ちいことしたりして。

しかもアイツ最近は、イクときちゃんと教えてくれるし。
小っちゃい声で「イク」とか言っちゃってよー。
そんで、そんときキスしたがるんだぜ。
ちょっと顔引くと、必死に追いかけてきてよ。
オレにしがみ付きながら、チ×ポビクビク痙攣させてイキやがんの。可愛くって堪んねェ。

そんで当然今日も練習終わったらスグ呼んで、楽しいコトする予定だから。

おー、お前ら、気を付けて帰れよ。
気を付けてっつーか、早く帰れ。
おーおー、お疲れ。

全員帰ってのを確認してから、携帯を取り出す。
いつもだったら「泥門10分なー」とか言うところ、今日はちょっと思いついて、違うことを言うことにした。

「葉柱、会いたい、早く来て」

電話の向こうからとんでもない音が聞こえたから、アイツ携帯落っことしやがったな。

悪戯が成功したのに気を良くして、そのまま通話を切り葉柱が来るのを待った。
いつもより早く聞こえてきた排気音に、おいおい最短記録じゃねェかなんて思いながら。





部屋についたら、途中のコンビニで買った握り飯なんかを、試合のテープかテレビを見ながら食う。
オレとしちゃ、そんなことすっ飛ばして色々してもいいんだけどよ、コイツは毎回会ってスグは、なんでか照れてやたらせかせかしてるし、慌てなくてもどうせ後でたっぷり触らしてくれんのは分かってっから。

それに、今日はちょっと試してみたいこともあって、コイツの機嫌損ねたくないし。

今日は葉柱が見たいテレビがあるからーとか言って、試合じゃなくて地上波を見てる。
それが余計に都合がいい。
だって、試合見はじめっとなんだかんだ長いからな。
せいぜい1時間くらのバラエティの方が、この後のお楽しみが早くなる。

メシ食い終わってもちょっとダラダラテレビ見て、その間、手を握る。
葉柱がどのくらいテレビに夢中か確認するように親指で手の甲を撫でたら、その手が緊張したように硬くなったので、コイツあんまテレビに集中してないな、と確信した。
そういうときは、ちょっかいを出しても怒られない。
むしろ、多分コイツもそろそろイイかなーって思ってるはず。

「葉柱」

身体を近づけて呼ぶと、やっぱり照れて視線がうろうろ宙を彷徨ってるけど、待てとも止めろとも言われないので、やっぱりこれはもういいよってことだろう。

顔を近づけると、目がゆっくり閉じられることに満足感を覚える。
そのままキスすると、葉柱の手が身体に触ってくるのにも。

一回こうやってくっついちまえば平気になるくせに、なんで毎回、最初だけは照れんだろうな。コイツは。

キスしながらお互いを撫であったりしてると、その先の気持ちいいことを覚えてる身体がすぐその気になってくる。

「なぁ……」

葉柱がいつも通り膝に乗ってこようとするのを、遮るように話しかけた。

「…………あ?」

葉柱がちょっと拗ねたように「なんだよ」とか言うのを、腰を撫でて宥める。
まぁ待てよ。今日はちょっとさー。お願いっつーか、試してみたいことがあるっていうかさ。

「なぁ、服脱いでやらねー?」
「………………」

葉柱が、何か考えるように黙る。
今まで、お互いの性器を触りっこなんてしてきたけど、前だけ開けて、多少下を下ろす程度で、服を脱いでたことはない。
コイツはオレに掘られること警戒してるから、アレはダメだコレはダメだって色々文句つけてきてよ。
今オレがしていいのは、抱きしめるのと、首より上までのキスと、手を握ること。あと、性器を擦って出させてやることだけ。

前に、服の下に手ェ突っ込んだときは怒られた。
オレとしちゃ、そろそろそれを解禁してもらいてェわけだ。

「制服汚れたら面倒だろ」

最近はアレが服につかないように気を付けたりもするけど、気持ちいいとその辺おざなりになって、すぐ汚したりする。
そういや、わざと蜥蜴の刺繍狙ってかけたときは、それがバレて怒られたりもして。

葉柱の目が、何かを伺うようにコッチを見てくる。
大丈夫だって。別に脱がした瞬間ヤっちまったりしねェ。
オレって結構、気が長いのな。

今色々つけられてる制約を、一個ずつ、ちょっとずつ取っていって、それから最後にヤラしてくれりゃいいから。
その一個目ってことで、今日は裸でやるのとかどうかなーって話。

「…………」

葉柱が黙ったまま答えないが、実は、オレはこれに関しちゃ結構勝算がある。
全裸ってのは、掘られたくない葉柱にとっちゃ、かなりハードル高いように思えるけどよ。
コイツ、オレが汚れた服着替えるとき、凄ェヤラしい目で見てきてっからな。
初めてエロ本みたチューガクセイかってくらい。

「……お前も脱ぐならいーぜ」
「とーぜん」

ほらな。裸に興味津々なのは、お互い様ってわけだ。
葉柱が疑わしげな視線を向けてくるので、さっさと先にシャツを脱いで上半身を晒す。
そうするとすぐに目の色を変えてきて、ホント、オレの方が食われんじゃねェかってくらい。

下も全部脱いでソファに座ると、コッチが脱いだのを確認した葉柱もそれに習って服を脱ぐ。
どうせジロジロ見てたら、照れた葉柱が「見てんなよ」とか言い出して面倒臭いことになるので、わざと気のない振りで葉柱を待った。

全裸になった葉柱が前に立ったので、腰を掴んでいつもの通り膝の上に座らせる。
ヘーキヘーキ、緊張すんなよ。服脱いでるだけで、やることは別にいつもと一緒だから。

「…………」
「…………」

…………ちょっとこれは、予想外だったけどな。

膝の上っつーか、腿の上に跨らせると、服着てるときは全然意識してなかったが、葉柱は結構脚を開いた状態になる。
下のオレが結構脚開いて座ってるから、余計に。

大きく広げられて見える内腿がイヤラシくてたまらないし、見えはしないが、すぐそこに無防備に晒された葉柱の肛門があると思うと、急に緊張感がこみ上げてきた。

多分、葉柱も同じこと考えてる。

このままケツ掴んで引き寄せたら、すぐブチ込めそうな体勢。
一瞬、衝動的にそうしてしまいそうになるのを、葉柱がまるで気づいたかのようにガシっと二の腕を掴んできて、それから腕を突っ張って近づけないように力を込める。

「……お前、変なこと考えてないよな?」
「…………全然?」

いやまぁ、考えたよ。多分、テメェと同じことな。
でも、それは今日はやりゃしねェから、安心しろ。

「手、離せよ」

このままじゃ、くっつけねェからそう言ったのに、葉柱が警戒を解かず、離してくれない。
探るように目を見てきて、まるでそうすれば、オレが本当はお前のことヤっちまおうとしてるかどうか分かるとでも言いたいみたいに。
まったくメンドクセェな。

「ケツに突っ込んだりしねェよ。ちっとは信用しろ」

直接的な言葉で、葉柱の身体にビクっと力が入る。
なんだってんだよ。オレはこんなにケナゲなのによ。
だいたい、いつもテメェのいいつけだって聞いてやってんだろうが。
ムカつく野郎だな。

不機嫌になるのを隠さないで葉柱を睨みつけたら、葉柱の視線が、ゆるーっと逸らされてその辺を彷徨う。
なんだよ、まさか、「オレは別に疑ってなんかなかったぜー」とでも言いてェのか。
ガチガチに警戒してたくせしやがって。

ブスっとしてたら、葉柱が髪を撫でてきた。
あー、オレ、それ結構弱いんだよなー。
髪に手ェ突っ込まれると、ゾクゾクする。

謝るような手つきで肩と腕を撫でられたのに気をよくして、改めて前の葉柱をよく見た。

男にしちゃ色の白い方だと思ってたけど、服で日に晒されないところが更に白い。
半袖くらいの位置で色が変わるのは、ユニフォーム焼けだな多分。

特に、さっき見た内腿がヤバい。
真っ先に触りたくなったが、まぁ落ち着けと自分に言い聞かせて、いつも通り葉柱の背中に手を回して引き寄せ、身体がぴったりくっつくように抱きしめた。

「…………」

なんだこりゃ、ヤベェな。

「はばしらー、凄ェきもちい……」

思わず、声からも力が抜けるくらい。
服着てる時も、身体をくっつけて抱きしめると気持ちよくて堪んなかった。
今はその邪魔な布とっぱらって素肌を直接くっつけると、身体が溶けそうなくらい。

胸にも、抱きしめる腕にも肌が触れる。
温かくて、少し力を込めると薄い脂肪と筋肉の弾力と感じる。
女ほど柔らかくない身体が、それでもこれ以上ないくらい気持ちいい。

首筋に噛みつきたくなるのを我慢して、顔を上げるとキスしてもらえる。
幸せで死にそう。
オレ、こんな甘臭ェこと、どっちかっつーと苦手だったはずなのに。

葉柱の手が触ってくる背中が、熱を持ったようにじんじん熱い。

「なぁ、もっと触れよ」

体中撫でまわされたら、それだけでイケるかも。

「じゃ、ちょっと離れろよ」

ぎゅうぎゅうに抱き着かれてる葉柱が、背中を撫でながら笑ってる。
そりゃ、こんだけしがみ付いてたら出来ることも出来ないけど、気持ちよくて、離したくない。

笑いながら、脇腹から腰骨の辺りを撫でおろされると、身体が震えた。

「離せって」
「んー?」

この姿勢じゃアレも触ってもらえないのに、くっついた胸を離したくない。

「お前ってさー、意外と甘ったれだよな。ちょっと笑える」

うるせーなー。
つーかよ、お前は奴隷なんだから、謂わばこの身体はオレのもんなはずで、これに触ろうとくっつこうと、オレの勝手なんだよ。

もうひとしきりくっついた肌の感触を楽しんで、満足してから身体を離した。
そうすると葉柱がすぐに性器に手を伸ばしてくる。

相変わらず、物欲しそうな顔しやがってよ。
こっちがちょっと触ると、すぐに照れて恥ずかしがったりするくせに、初心いんだか淫乱なんだか、分かりにくいんだよ。

触る順番は、いつも葉柱がしてくれるのが先。
どうせその後やらせるくせに、先にされるのは恥ずかしがって嫌がるから。

アレしごかれながら、素肌の腕を撫でられるとかなりいい。
葉柱は興味津々とでもいうように、首や胸、腹なんかも熱心に撫でてくるから、それも。

やっぱ、裸でやるってのは、凄ェいい。

ただ、一個だけ、計算違いがあったけど。

「……なに、ヨくねェ?」
「凄ェイイ。続けろ」

不穏な空気を感じたのか、葉柱がちょっと不安げな目をして聞いてくる。
アレももうすっかり勃ってるし、今までで一番いい。

ただ問題は、今目の前に、葉柱の乳首がこれみよがしにさらけ出されてるってことだ。

「…………」

今のところ、オレはコイツの首から下にキスする許可をもらってない。
それってのはつまり、首から下には、唇で触ったり、舐めたり、噛んだり出来ねェってことだ。

膝の上に乗せてるから、どうしたってすぐ目の前にある葉柱の胸の、薄い色の乳首が目に入る。
葉柱が熱心にこっちの身体を探ってくるたびに、それが誘うように揺れて見えるから堪らない。

一応今日は、服を脱いでもらうっていうお願いをきいてもらったわけで、それに満足して、それ以上のことは、またコイツが慣れてからゆっくり頼んで行こうと思ってた。
あんまりガッツいてアレもコレもっていうと、どうせすぐ例の「ダメだ」「嫌だ」が始まるから。

ただな、これは、ムリだな。

「葉柱」
「んー?」
「乳首舐めたい」

なので、直球で追加要請をすることにした。

「…………なんで」
「なんでもクソもねェだろ」
「いや、意味が分かんねェよ」
「テメェだって、目の前におっぱいあったら揉むし、乳首があったら吸うだろーが」
「……そりゃ、オンナの話だろ」

こんなことしといて、今更女も男もあるか。

「いーだろ」
「……嫌だ」
「舐めるぞ」
「ムリ」
「いーんだな?」
「ダメだっつってんだろっ」

そーじゃねーかと思ってたけどよ。早速「ダメだ」「嫌だ」の全否定か。
その間もずっと、裸の胸から目が逸らせない。
葉柱は、さすがにオンナみたいに手で胸を隠したりしなかったけど、なんとなく嫌そうに身を捩って身体を引いてる。

葉柱が呼吸するたびに胸が上下して、ほんの何センチか先くらいにあるのに、どうしてこれを舐めたらダメなんだと思うと、死ぬほど腹が立った。
興奮しすぎてムカつくことがあるなんて、生まれて初めて知ったぞオレは。

つーかよ。

「おかしかねェか?」
「……あ? 何がだよ」

イラついた口調で言うと、葉柱が一瞬怯んだような気配を見せるが、生意気にも強気に言い返してくる。

「テメェは、オレに惚れてるって話だったんじゃねェの? それがイチイチ、アレは嫌だコレはダメだってよ、別に変態プレイやらせろつってんじゃねェんだよ。身体舐めるくらい普通だろ」
「…………」

衝動のまま一気に吐き捨てたら、葉柱の目に怯えたような色が走ったように見えて、しまったと思う。
一瞬、「ごめん」なんてバカみてェな言葉が口から飛び出しそうになるのを、歯を食いしばって堪えた。

だって、どう考えてもオレのは正論だろ。
これは絶対譲れない。

そう思ったのに、葉柱の眉が下がって、泣きそうになってる顔を見たら、それ以上何も言えなくなった。
葉柱に、無理やりただ手で出させてたときの顔にちょっと似てる。
それを見たら、ぎゅっと心臓を掴まれたみたいに、苦しくて堪らない。

しょうがないので、胸の奥にある燃えるような欲求に抗って、無理やり俯いて目を瞑った。
白い胸を見ないようにして、意識して興奮を散らすように。

落胆しすぎて、小さく溜息が漏れる。

いーよ。分かったよ。
そんなに嫌なら、しなくていい。
そんな顔させてまで、やりたいことじゃねェんだよ。

まぁ、これも、一生ダメってワケじゃねーんだよな?
ちょっとくれェ、また待てばいいんだろ。

「もーいい」
「……あの」
「続きしろよ」

また身体撫でて、アレもしごいてくれりゃ、気持ちいいし、イラつきだってすぐ収まる。


'13.04.22