ヒルルイとヒル阿
「よーカス」
玄関をしつこく蹴られるのに根負けしてドアを開けると、開口一番そう言われて睨みつけられた。
「なんの用だよ」
他人がみたらそれだけでビビって口も利けなくなりそうな凶悪な顔をしてる阿含が、開けたドアのスグ向こうに立ってる。。
でも実はそんな顔してても、機嫌は悪くない、むしろ良さそうってのが分かるのは、結構長い付き合いだから。
「いーから入れろよ」
返事も待たずに靴を脱いで家に上がりこむのを黙認する。
止めたって聞きやしねェし。
コイツから来る用事なんてのはいつも決まってるから、どうしたもんかと少し考える。
いつもだったら別に断りゃしねェんだけど、オレ最近、そういうことは自重してんだよな、一応。
「ヤろうぜ」
ソファに座れば、茶一杯出す前にそう言って押し倒された。
いや、茶なんざ最初から出す気は無ェけどよ。即物的すぎんだろ。
「オレ今、本命いんだよね」
「テメェが〜?」
一応断る努力はしてみるかと軽く言ったら、鼻で笑われた。
まぁ、悪いアソビなんてのは大抵コイツと一緒にやってたから、そんなこと言っても信じらんねェだろうけど。
「そう。結構可愛がってるし」
「へー」
へー、じゃねェよ。
こんなこと言われたら、ちょっとくらい手ェ止めろ。
まったく意に介さないって感じで、シャツの中に手を突っ込まれて、そのまま上を脱がされる。
そりゃ、こっちも抵抗してねェけど、オレがそうしたらお前途端に機嫌悪くなるからメンドクセェんだもん。
「で、なに? カノジョに怒られるから浮気は出来ねェって?」
「そーだよ」
分かってんなら、脱いでんじゃねェ。
目の前に晒された裸の上半身を見ると、最後に見た時よりまた一回り筋肉が付いているように思える。
練習サボり気味にくせに、ムカつく野郎だなテメェは。
睨みつけるようにその身体を見ていたら、何を思ったのか笑いながらキスされた。
バカ、違ェよ、別にそういうんじゃねェ。
すぐに差し込まれる舌に、そういえばコイツのはこんなだったなと、ちょっと懐かしい気分で思い出す。
ちょっと厚みがあって、柔らかくて熱い。
舌を絡めてからすぐに上顎を擦ってくる手順が、前と変わってなくて笑える。
少しだけ口を開いたまま、でも舌では答えないでいたら、舌打ちして阿含の顔が離れた。
「テメェ、ヤル気ねェのかよ」
だから、そう言ってんじゃねェかよ。
オレの話聞いてたか?
「なに、オンナにフられたの?」
そのまま「無い」っつったら殴られかねないので、話題を逸らしてみる。
コイツがこうやってオレんとこくるときは、大抵女関係でむしゃくしゃしたときって決まってるから。
「違ェよ、オレがフったの」
「なんで」
そのままその女とよろしくヤってくれてりゃ、こんな面倒臭いことになんなかったのに。
「脱いだら、足首太すぎて萎えた」
「そんなん声かける前に気づけ」
だいたい足首って、相変わらずマニアックなとこ見てんなコイツ。
しかも脱いだらってことは、ホテルか女の部屋かには行ったってことだろ?
そんくらい目ェ瞑ってヤってこいよ。
「だってそいつ、ブーツ履いてやがったからさー」
あー、それなら分からねェかもな、とちょっと納得する。
だからって、それだけでそれまでヤル気満々だった女捨ててこれる神経は信じらんねェけど。
「で、テメェんちの近くだったから、来てやった」
来て「やった」ってなんだよ。頼んでねェ。
下に手をかけられたとこで、手首を掴んで押しとめる。
「あ゛?」
睨んでも怖くねェよ糞ドレッド。
刃傷沙汰になる前に切り上げるにはどうしたらいいのか思案してたら、何を思ったのか今度は阿含が楽しそうにニヤっと笑う。
「なぁ、ソイツそんなに上手いの? 一回貸せよ」
ソイツって? あぁ、オレの本命?
「いや、全然。むしろ下手」
手も口も満足に使えないし、下の方だって多少慣れてきたくらいで、まだ全然オレ好みの反応じゃねェ。
「え? なんで?」
らしくねェじゃん、って、ちょっと驚いた顔で言う。
「お前のオンナって、いつも凄ェド淫乱に仕込まれてるから、オレわりと好みだったんだけど」
あぁ、まぁな。
オレがそういうの好きだし。
でもさー。
「アイツは、オボコいとこがまた可愛いっつーか」
仕込んでやるのは簡単だけど、初々しさってのは、一回失われたら戻って来ない。
そう思うと、恥ずかしがる顔やら上手く出来なくて泣いてる顔ってのを、もうちょっと楽しみたくて甘やかしてる。
「惚気てんじゃねーよ」
「しょーがねーじゃん、惚れてっから」
恥ずかしげもなく言うと、疑わしげな視線が向けられた。
ちょっとは信じる気になったか? オレが最近はイイコになったって。
「それ、オレの知ってるヤツ?」
唯我独尊野郎が、珍しく他人に興味を持ったのか、そんなことを聞いてくる。
「んー?」
知ってるっちゃ、知ってるかな。
お前が覚えてればだけど。
江の島あたりでボコボコにしてくれたヤツがソレなんだけど。
「お前んとこのマネ?」
「違ェよ」
あの女、結構イイよな、とか、何を思い出してんだかニヤつきながら言われる。
「あの女はどうだったワケ?」
つい今してた本命の話よりも、思い出したマネの方が気になりだしたらしい。
相変わらず気が多いのな。
「どうだったもなにも、手ェ出してねェよ」
「は? お前が?」
当たり前だろ。部内で手ェ出すなんて、そんなアメフトに支障きたしまくりそうなこと、オレがするワケねェだろ。
「オレだったら速攻行くけどな」
お前だったらな。
「じゃぁ、その本命ちゃんにはお前の昔の悪いコト黙っててやるから、とりあえずシようぜ」
どうやっても、結局そこに戻ってくんのな。
悪いコトって、悪いコトか?
まぁ確かに、あんま酷いのは、アイツの耳に入ったら困るかなー。
「別に問題ねェよ。アイツオレに死ぬほど惚れてっから」
ま、バレても大丈夫な自信はあるけど。
「あ゛? さっきからイチイチうるせーなテメェは」
阿含の声が、急にガラっと変わって低くなる。
のらりくらりかわしてしたけど、そろそろホントに機嫌がヤバい?
コイツは実はオレに結構寛容だけど、それでも一定超えると平気で殴りやがるから困る。
「じゃ、お前が勃たせて、騎乗位で上乗れよ」
殴られながらヤるのと殴られないでヤるのだったら、後者の方がいい。
顔にみっともねェ痣なんか作ったら、誤魔化しようもなくなるし。
「なに? なんもしたくねェなら、お前下の方がいいんじゃねーの?」
ヤル気があるのを見せたら、急に機嫌を直して声が軽くなった。
簡単でいいよなお前は。
「だってさー、オレ、ソイツにはヤらしてねェから、他のヤツにヤらしたら可哀想じゃん」
「なんだ、男かよ」
「まーな、オレがオンナにしてやったんだけど」
「はいはい」
どうでもいいとばかりに、下着ごと下半身を一気に剥かれた。
ちょっとくらい意に介せよお前は。
「オレが勃たなかったら諦めろよ」
萎えた性器をデカい手に捕まえられながら言う。
「あ? オレがしてやって、勃たねェワケねェじゃん」
そうなんだよな。
それが一番困るトコだ。
つまるところ、もっと強気に断って追い出せないのも、実は結局その辺の理由がデカい。
正直、口だったらコイツのが一番気に入ってる。
まだ慣れてないアイツが、眼に涙溜めながら一生懸命舐めてくれんのもカナリ感じるんだけど、身体の快感だけでいったらコイツめちゃくちゃ凄いから。
お互い、ドコがイイとかアレがイイとか教え合っちゃってるから、完全にポイント捉えてくるし。
寿司も好きだけどたまにはステーキ食べたい、とかベタな文句が頭を掠める。
これって結構真理だよな。
濡らすように2、3回舐められて、スグに咥えられる。
コイツの口の中がどう動いてんのか一回見てみてェと思うほど、舌がイイトコばかりを擦ってきて、そうしながら吸われると簡単に勃起した。
「ほらな」
「うるせー、やめんな」
得意げに言って顔を離すのを、頭を掴んで押し付ける。
「テメェをヨくさせる為に来たんじゃねェっつーの」
そんなコト言いながら、またすぐに熱い口の中の感触がやってくる。
なんだかんだ言って、「あの」阿含にしゃぶらせてるってのが、またイイんだよな。
普段の、2、3人くらいなら余裕で殺してそうなあの目が、今は伏せられて、熱心にアレ咥えてんの。堪んねェだろ。
ニヤニヤしてそれを見てたら、上目づかいに睨まれた。
咎めるなんて可愛い目つきじゃなくて、殺されそうなくらいのやつ。
それが、さらにイイっつーの、多分お前気づいてやってんだろうけどな。
「あー…、やっぱお前凄ェ、メチャクチャイイ……」
強く吸われながらそう言ってやると、頭の動きを更に早くされた。
意外と可愛いことあるよな。
「ベッド行かね?」
あんま続けられっとすぐ出ちまいそうで、頭を撫でてそう誘った。
「そんなとこ使ったら、怒られんじゃねーの?」
だって、お前と2人じゃソファでヤるには狭すぎんだろ。
大体ベッドどうこう以前に、身体使う時点で怒られるっつーの。
「バレなきゃ問題ねェ」
「酷ェヤツだなお前って」
お前が誘っといて言うんじゃねェよ。
さっさと立ち上がってベッドの方行ってるしよ。
ベッドサイドの引き出しを見て、そういえばゴム減ったりしたらアイツ気づくかな? とちょっと思う。
まぁ、いつも何回ヤってんのかも分かんなくなってるくらいだから、多分大丈夫だろう。
「なぁ、口で一回先イカせろよ」
スグにでも上に乗ってきそうな阿含を軽く押して、ベッドの上で脚の間に座らせる。
「そういうのはカノジョにやらせろよ」
「だってアイツ下手すぎて、口じゃイけねェ」
ワザと口を尖らせて拗ねたような口調で言ったら、阿含がバカにしたように笑う。
「だから、そういうの仕込むの得意だろ? あぁ、もしかしてテメェ、意外と尻に敷かれてんのか?」
「あー? まぁ、ある意味」
ゴシュジンサマはオレなんだけどさー。
アイツにお願いされたり泣かれたりすっと、オレ結構弱ェの。
だってオレさ、アイツ泣いたりしたら、涙舐めて目にキスしてやったりすんだぜ?
ちょっと笑えるだろ。
面白い冗談を聞いたって顔で阿含が笑って、期待通りに顔が下に向かう。
チロチロと先端を舌で遊ばれてから、また深く咥えられる。
「なぁ、アレやって」
コイツがオレの好きなやつ、覚えてんのかなと思ったらそれは杞憂だったみてェ。
横から甘く歯をたててシゴかれ、先端の穴にねじ込まれるみたいに指で擦られる。
空いた手でタマも弄られると、ヤってるときみたいに勝手に腰がガクガク跳ねた。
「イキそ……、咥えろよ」
最後は吸われながらってのがイイ。
しゃぶられながら下から腰を使っても、うめき声一つあげないで舌を使って吸い上げる。
ホント上手いなお前。
「ん、出る、吸って」
タイミングもバッチリに、ぎゅうぎゅうに吸われながら射精する。
ヤバい、やっぱコレ凄ェイイ。
こんなにイイんだから、ちょっとくらい浮気しちまうのもしょうがなくねェ?
最後まで吸われながら出し切ると、自然と力の入ってた背中からそれが抜けて、ベッドに沈み込んだ。
ちゅっと音を立てて口が離れたと思ったら、そのまま上に上がってきてキスされる。
珍しいことすんなと思いながらも口を開けてそれに答えると、口の中に溜めてたんであろう、今出したばかりの精液が流し込まれた。
なんてことすんだよお前は。
こんなもん飲んで溜まるかと舌で押し返すと、口から溢れたそれが顔を濡らして顎へ向かう。
その間も好き勝手舌を使われて、ひとしきり楽しんだ阿含がやっと離れる。
「いー顔」
自分の精液で汚れてるオレの顔を見て、心底楽しそうに笑う。
「悪趣味なことすんじゃねェよ」
「中々似合ってんぜ」
手で口元をを拭うと、またすぐにキスされた。
しゃぶってたことに興奮してんのか、かなり荒っぽい。
そういうの嫌いじゃねェし、と思ってコッチも荒く口の中を探ってやりながら、ベッドの脇からローションを取り出した。
身体を重ねて忙しなく動いている阿含を上手く制しながら、中身をとって掌に溜める。
「うわっ、なんだよ」
それから上に乗る阿含の後ろを慣らすようにそれを塗り付けたら、驚いて弾かれたように阿含が上半身を起こして離れる。
「なにって、今日はお前下だって言ったじゃん」
やっぱ上がいいとか?
「だからって、気色悪ィことすんじゃねェ」
「濡らさなきゃ入んねェじゃん」
「……お前、マジで言ってんのか?」
だって、普通そうだろ? と言おうとして、そういえばと思い出す。
コイツとヤるときって、どっちが下だろうと慣らす行為なんてのは自分でやってたな。
お互い結構ガッツク方だから、自分の身の安全は自分で守るっていうか。
「まぁいいじゃん、口のお礼にサービスしてやるよ」
腰を掴んで引き寄せ、入口を濡らすように指で撫でる。
阿含を見ると、怒ったような困ったような、なんとも言えない顔。
お前って、そういう顔も出来んだな。
珍しいもんを見たと思って鼻先にキスをすると、舌打ちしながら照れたように顔を背けられたんだから、更に珍しい。
とりあえず抵抗はないのでそのまま指を進めると、2本くらいなら余裕で後ろに飲み込まれた。
お前オンナ好きのクセに、オレ以外とも結構コッチ使って楽しんでんの?
これならもぅ、余裕で出来そう。
それにお前、キツい方が好きだったよな?
「ゴムとって」
視線でサイドテーブルの引き出しを指すと、上の阿含が手を伸ばしてそこを探る。
「減ったらバレねェ?」
「ヘーキ、アイツ頭悪ィから」
それから、何も言わなくても阿含がそれを開けて性器にかぶせてくる。
後ろを弄ってた手を止めて、掌に残ったローションを塗り付けるようにゴムが被された性器をシゴく。
「じゃ、乗れよ」
命令口調に多少ムカついたような顔をしたが、文句は言われずに腰の位置を調整される。
ヤバイ、オレ、騎乗位久しぶりだなー。
しかもコイツ激しいんだよな。期待しちまうじゃねェかよ。
「ァ、アッ……」
ゆっくり腰を下ろしながら、阿含が高い声を上げる。
でも実は、それがワザとだってのを知ってる。
別にコッチを喜ばそうとしてるワケじゃねェ。
自分の声で興奮するから。
実はオレもそうだし。
後ろにアレ突っ込まれてるとき、「チンポ気持ちイイ」とか「ケツマ×コイク」とかワザと下品な言葉を選んでオンナみたいに喘ぎまくると、背中がゾクゾクするように気持ちいい。
阿含とのセックスで自分が下のときを思い出すと、次は交代してもイイかな? って気になる。
まぁ、だったらアイツにもヤらしてやりゃいいのかもしんねェけどさ。
アイツの前だと、カッコつけたいんだよね。可愛いとこあるよなオレも。
「なに気ィ散らしてんだよ」
ぼんやりしてたら、腹をパチンと叩かされ抗議された。
「やっぱカノジョのことが気になって」
悪びれもせずに言ったら、「ふざけんな」って言われて急に後ろを締められる。
「なぁ」
「なんだよ」
機嫌を取るように腰の辺りを撫でながら、言ってみる。
「これ、アイツにバレたら、一緒に謝ってくれるか?」
聞いた阿含は、やっぱり最高の冗談を聞いたって感じで顔を歪めて笑った。
笑ってんじゃねーよ。共犯だからな。
言っただろ。オレはアイツに弱いって。
'13.04.22