ヒルルイで姫ルイ




何がキッカケだったか忘れたけど、葉柱がギャーギャーと文句を言い出したので、まぁキスでもしてやればスグ機嫌を直すだろうと手を伸ばしたら、「いつもそうやって!」とかなんとか、余計に火が付いたように喚きだしたので、面倒臭くなって全部無視をしてみた。

何を言っても聞いてないフリ、というか、まぁ全然聞いてないでパソコンを弄ってると、とうとうテーブルをバン! と勢いよく叩いて「もう帰る!」とか宣言する。
そのくせ、その言葉の後はこっちの反応を伺って待ってみたりしてんだから、バカみたいだよなアイツ。

「帰るなよ」とか「ごめん」とか言われるのを期待してるんだろうなーと思ったけど、散々怒鳴られて多少イラついてたのもあってそれも無視してると、「帰るからな!」「本当に帰るからな!」とか言いながら、葉柱がバーンとドアから出て行って、ついでにドアの向こうからは「バーカ!」みたいなアホみたいな罵り文句が聞こえてた。

バカはテメェだろ。
どうせ、2、3日したら、寂しくなって泣きながら「ごめん」とか言って帰ってくるくせに。

ようやく静かになった部屋の中で、3時間後には携帯が鳴りだしたんでちょっと笑った。
もう深夜2時だし、こんな時間にかけてくるやつなんて他にいないだろう。

表示を見てみれば案の定葉柱からで、出ようかどうかちょっと迷ったけど、さっきずっと無視してた葉柱が、最終的にはちょっと涙目になってたのを思い出して、可哀想だから出てやることにする。

『あのー、もしもし…………』

まだ怒ってて罵ってくるのか、もう寂しくなって謝ってくるのかドッチかなーと思って通話ボタンを押したら、電話の向こうから聞こえてきた声が葉柱じゃなかった。

「あ? 誰だよ」
『あの……、すいません、井上です……』

電話の向こうのソイツは、なぜか謝ってそう名乗る。
井上って、アレだろ。
いつも葉柱の横にくっついてるヤツ。

なんだってこんなヤツが、葉柱の携帯からオレに電話なんかかけてくんだよ。

「なんの用だよ」
『あの、今、部室なんですけど』
「だからなんだよ」
『あー、葉柱さんが、ヒル魔呼べって…………』

何言ってんだコイツと思ってると、後ろからガチャーンと何かが割れるような音と、「コロス!」「アイツコロス!」とか喚いている葉柱の声が聞こえてくる。

「なに、飲んでんの?」
『まぁ、ちょっと……カナリ…………』

大会も近ェのに、コーコーセイが学校で飲酒なんてしてんじゃねェよ。
まぁ、あんなガッコだし、ヘタに外で飲むより安全なのかもしんねーけど。

「行かねーよ」
『え、いや、困ります……』

テメェが困ろうと、知ったこっちゃねェよ。
なんで、オレが奴隷に呼びつけられてノコノコ出かけなきゃなんねーんだよ。

「用があるならテメェが来いつっとけ」
『いや、でも……』

なにちょっとねばってんだよ。
まぁ、酔って暴れて手が付けられなくなったから、こうやって電話してきてんだろうけど。

『あの、葉柱さん、ヒル魔、来れないって……』

電話の向こうの声がちょっと遠くなって、泣きそうな声で葉柱にそう言ってるのが聞こえたなと思ったら、またガチャーンと派手な音がして、それから携帯を落としたんだろう床に落ちて転がってるようなノイズが聞こえる。
なんだろうな。殴られたのかな。

まぁいいか、と思って、そのまま通話を切った。

テメェがオレを呼びつけるなんて百年早ェんだよ。



我儘な番長を持つと手下も苦労するなーと思いながら、風呂に入って戻ってくると、またけたたましく携帯が鳴ってた。
一度止まっても、またすぐに鳴りだす。
既にかけてきてから相当経ってるのかも。

無視してやろうかと思ったけど、今度は葉柱が直接かけてきてるかもなーと試しに通話ボタンを押してみる。

『あの、ヒル魔さん、すいません、井上です』

またテメェかよ。

『迎えに行くんで、どこに居ます? 泥門っすか?』

こんな時間に学校なんかにいるワケねェだろ。

「行かねーつったろ」
『マジで。迎え行くんで。スグなんで』

スグかどうかなんて関係ねーよ。

電話の後ろの葉柱は、「コロス」に飽きたのか、今度は「もう別れる!」とか喚きまわってる。

いや、なに普通にオレらの関係バラしてんだよ。
つーか、それ聞いても誰も驚いてねェのな。
普通にバレバレかよ。

バカだとは思ってたけど、ホント頭悪ィなアイツは。

『……かれるっ……! …………もー別れるっ!』
『こんな感じなんで、迎えに来てもらえれば…………』

葉柱は完全に酔いが回ってんのか、駄々っ子のように舌ったらずな声で別れる別れると繰り返してる。

「別れてーなら別れてやるよっつっとけ」
『いや、ムリです……』
「いーから言え」
『ムリです、言えないっす…………』

まーそうだよな。
あんな感じの葉柱にそんなこと言ったら、またさっきみたいに殴られかねないもんな。

「早くしろ」

ただ、オレ、それ期待してるから。
イチイチ電話かけてこられてイラついてんだよ。
しかも葉柱からならともかく、鳩みたいに葉柱からの伝言を繰り返す三下からってんだから余計にだろ。

『…………葉柱さん』

電話の向こうの声が、泣きそうなくらい緊張してる。

『あの、ヒル魔…………別れるって』

か細い声で続けられた言葉に、またさっきみたいな派手な音が聞こえてこないかなーと耳を欹てて待つ。
なのに期待したような音は聞こえてこなくて、ちょっとの沈黙の後、かわりに聞こえたのは葉柱が「うわーん」と子供みたいな泣き声をあげてる声だった。

『ヒドイ! ヒドイ! 銀! 銀ーっ!』

おもしろいくらい泣いてんなと思って電話から様子を伺ってると、葉柱が誰かを呼んでる声がする。

『銀! 銀! ヒル魔がっ!』
『はいはい、聞いたっすよ、酷いっすね』

向こうに何人いるのか知らないが、葉柱に呼ばれた男の声は、なんだか妙に軽くて、なんとなく癇に障る。

『ヒドイ、冷たいし、変態だし、ヒドイ』
『うんうん。冷たいし、変態っすよね』

なんでテメェにそんなこと言われなくちゃなんねーんだよ。

『フェラチオばっかさせる! ヤるときも、ベッドでしない、立ってさせる、しかも、泥門の部室とかで!』

オイオイ、なに勝手に人の性癖バラしてんだよ。
いーだろ別に。立ちバックが燃えんだよ。

『あー。それは酷い変態っすねー。葉柱さん、後ろからされちゃうんすか?』
『う、う……後ろからされる、ゴムもしない…………』
『うわー。そりゃ酷い。ちゃんと外に出してくれます? まさか中出しされちゃうんすか?』

なんかコイツ、会話を変な方に持ってこうとしてねーか?

電話の向こうの葉柱がどんな顔をしてるかは分からないけど、その葉柱に向かって、明らかにイヤラシイ言葉を吐かせようとしてる銀とか呼ばれてるヤツにムカつきを覚える。
そういう風に葉柱で遊んでいいのは、オレだけに決まってんだろ。

「オイ、泥門まで来い」
『え?』
「そっち行って欲しーんだろ」
『あ、はい、泥門っすね、スグ行きます!』

これ以上葉柱と銀の会話を聞いていてもムカつきが増すばかりで、返事を聞いたらスグに電話を切った。

アイツの頭弱い加減もムカつくし、アイツをやたらと甘やかしてる取り巻きも更にムカつく。

せっかく風呂に入った髪を、軽く立てる。
クソー、メンドクセェ。





死ぬほどムカムカした気分で泥門に向ったら、既にバイクが二台待機していた。

なんで二台だよ。
オレ一人つれてくのに、二台も必要ねーだろ。
一人じゃ夜道が怖ェのか? バカどもめ。

そのうち一人が歩いて寄って行くコッチを見つけて、何かを言おうか口を開きかけて、結局何も言わないで小さく会釈してたりしてる。

ソイツの顔が、おもしろいくらい腫れてる。
コッチが井上だな。

「よー。そんだけ殴られてんなら、あと一発くらい殴られても一緒だろ。オレにも殴らせろ」
「え、いや、ちょっと……」

なにヒいてんだよ。
ジョークだよジョーク。
人間関係を円滑に進めるためのユーモア溢れる会話の一端だろ。

そのままズカズカ歩み寄って、後ろに座ると井上はまだ及び腰になってもたもたしてる。

「早く行けよ」

脚を蹴って催促すると、隣のヤツと目配せして、ようやく発進される。
こんだけグズなら、葉柱の方がまだマシだ。

途中、気晴らしに後ろから髪や帽子を引っ張って嫌がらせをしてみる。
相変わらず「ちょっと」「ちょっと」とか言うだけの反応も面白くなくて、まったく気晴らしになんてなんなかったけどな。





賊学の部室に入ったら、泣いてるかと思った葉柱はそんなことはなく、どっからもってきたのか部室には似つかわしくない皮張りのソファに一人どっかり座って、不遜な態度で顎を少しあげるようにしながら横柄に睨みつけてきた。

そのクセ、目は赤いし、瞼もなんとなく腫れぼったい。

「なんの用だよ」

って言うのはコッチのセリフのハズなのに、周りに立ってる他の生徒を数えてるうちに、葉柱が先に言ってきた。
テメェが泣きながら迎えに来てって呼んでたんだろーが。

葉柱の周りに立ってたのは7人。迎えに来たのは2人で計9人。
よくもまぁこんな真夜中に、自分が寂しいからって理由だけでこんだけ集めたもんだ。

ついでに、転がる空き缶の量にも辟易する。
せいぜい2、3時間で、どんだけ飲んでたんだよ。

生意気な口聞きやがって。
ここは葉柱のホームで、しかも酒なんか入ってるから、気が大きくなってんだろう。

「帰んぞ」

それだけ声をかけると、周りの何人かが「ほら、ヒル魔ですよ」とか「迎えに来てくれましたよ」なんて、ネコナデ声で話してる。
多分、もう付き合いきれないから早く帰りたい派のヤツなんだろう。

「やなこった」

こっちだってメンドクサイし、しょうがないから折れてやって言った言葉は更に葉柱を調子に乗らせただけらしく、勝ち誇ったような顔でそんなことを言いかえす。
なんてムカツク野郎だ。

「あ、そう。じゃーな。オレは帰るから」

そうやって言えば、葉柱が折れて謝ってくることが分かってたのでそれだけ言って、踵を返すフリをしたら、慌てたのは横にいた井上の方。

「いや、もうちょっと! 拗ねてるだけですから!」

うるせーな。そんなこた分かってんだよ。

葉柱の方はポカンとした顔をしてんなと思ったら、みるみるうちに顔をぎゅーっと歪めて、「ひっ」と喉の奥で空気を吸い込むような音を出す。
あーぁ。また泣くよ。コイツ。

「ぎん! ぎんっ!」

ただ、泣いて駆け寄ってくると思ってたのに、葉柱は目の淵に溜めた涙をぎゅっと堪えながら、さっきも電話の向こうで呼んでた男を呼びつける。

「はいはい」

あんまり大声で呼ぶから、100メートル先にでも居るのかと思ったのに、答えたのは葉柱のすぐ右に立ってたヤツ。
そうそう、コイツ、入った瞬間からムカついてたんだよ。
一人場違いにヘラヘラしてやがるから。

「ヒル魔がっ!」
「うーん、ヒドイっすねー」

なんなんだよ。
イチイチ言いつけてんじゃねーよ。

しかも、ドイツもコイツもそうやって葉柱のこと甘やかしやがって。
だからコイツはこんなに我儘なんだよ。

だいたい、その銀ってのには、やたらと懐いてるみてェじゃねーか。
そんなにソイツがいいなら、そっちに鞍替えしろ。

「じゃーな」

今度はフリじゃなくて、本気で帰るつもりでそう言ったら、右腕に井上が縋りついてくる。

「ちょっと今機嫌が悪いだけなんで!」
「触んじゃねーよ」

なんでお前に泣いてすがられなきゃなんねーんだよ。
そういうのは、葉柱がやるはずだろ。

入口近くで井上の腕を外そうと掴んだり引っ張ったり多少揉みあってると、それを見た葉柱が何を思ったのか今度は「浮気した!」と喚きだす。
この状況の、何をどうやったらそう思えるんだよ。

「ぎんーぎんー…………」
「うんうん。ヒドイっすねー」

コイツはそれしか言わねェし。
意外とメンドくさがってんのか?

「ヒドイ、アイツ酷い、最初のときだって、無理やりしたんだ、アイツが。嫌だっていったのに、ムリヤリした……」
「……………………」

とんでもねーこと言い出してんじゃねーよ。

部室内の空気が、急にざわっと剣呑なものになる。
あきらかに殺気立ってるのも2、3人。

待て待て。別にゴーカンなんてしてねェよ。
つーか、テメェだってノリ気だったクセに。

最後の最後でちょっとビビって尻込みしやがったから、勇気が出るようにそーっと背中押してやっただけだろ。
まぁ、正確には、背中は押したんじゃくて押さえつけたんだけどな。

右腕に捕まってた井上までもが睨みつけてくるので、なんだコイツと思って睨み返すと、アッサリと目を逸らす。
ケンカ売る度胸もねェなら、睨みつけてなんてきてんじゃねェ。

怯んで力の抜けた指を、腕を振るようにして振り切る。

「もう、別れた方がいんじゃねーっすか?」
「うぅー…………」

葉柱は銀の服の裾を掴んで、ぐいぐい引っ張りながら涙を拭ってる。

ダメだ。もうこれ以上この部屋にいたら、イライラとストレスで死ぬ。
それか、葉柱の騎士気取りに殺されるか。

なにかのキッカケでもあれば殴り掛かってきそうな取り巻きを無視して、ズカズカと葉柱の座るソファまで近寄る。
葉柱が警戒したようにソファの端によって、銀の服を持つ手をぎゅっと強くする。

開いたスペースにドカっと座って葉柱を見れば、なんでかプイっと拗ねたように顔を逸らされた。

「こっち向け」
「………………」

無視かよ。コロスぞ。

「こっち向いたら、ちゅーしてやるよ」

葉柱の肩がビクっと反応して、ついでに回りがざわっと色めき立つ。
うるせーよ。聞いてんじゃねェ。
オレだってこんなとこでこんなこと言いたかねーんだよ。

葉柱が、変な顔をしたまま、じわじわと身体をこっちに向ける。

「来いよ」

注意して優しい口調になるよう努めて言うと、ようやく葉柱が身体を全部向けたと思うと、そのままひしっと抱き着いてきた。

あー、可愛い可愛い。

「うぅ…………」

ポロポロ泣いてて、必死に顔を近づけて口に吸い付こうとしてくる。
言った手前しょうがないので、顔を近づけてそれを許してやると、ちゅっとキスしてから、目をパチパチさせて、首に手を回してきて頭を掴まれ、そのまま何度も繰り返そうとする。

こんなとこまで、そこまですんのかよ。
つーか、とんでもなく酒臭ェなテメェ。
そりゃ、いつもより5割増しくらいバカみたいな感じだったから、酔ってんだろうなとは思ってたけど、ほとんど泥酔状態じゃねーか。

ここは賊学の部室だし、周りには何人も人がいるってのに、葉柱はまったく意に介した様子もなく、じりじりと膝の上に上るようにして首に縋りつきながらキスを繰り返す。

「ん、ん……」

ちょっと肩を押してみても全然離れようとしないし、ムリにそうしたらまた泣き出すんだろうなと思ってどうしようかちょっと迷う。
オレ、いつまでもこんなとこに居たかねーんだけど。

「ヒル魔…………」

首をヒネってちょっと避けると、葉柱が哀願するように名前を呼んでくる。
そいういうのはいーんだけどさ、場所をわきまえろよ。

どーしたもんかと思って周りを見渡すと、当然のように驚いたり引いたりしてるのが何人か。
それから、悲しそうなのと怒ってるのも何人か。

あれ、なんかこれ、ちょっと気分いーな。

そーだよな。
テメェらは知らねーだろうけど、葉柱はオレにだけはこうやって甘えてくんだよ。

「ルイ」

なんとなく気分が良くて、オレだけしか呼ぶことを許されてないだろう名前を呼んでみる。
それから顔を傾けて本格的にキスに答えてやると、喜んだ葉柱がクンクンと犬みたいに鼻を鳴らしてる。

周りからの妬ましそうな視線をじっくり意識しながら、葉柱の口に舌を突っ込んでゆっくり探る。
ちょっと顔を離してやれば、口の端から涎を垂らした葉柱が、舌を突き出して強請る様がよく見えるだろう。

こういうの、優越感っていうんだろうなー。
わざわざこんなとこまで出向いてやった甲斐が、多少はあったかもな。

調子にのって、葉柱の腰を掴んで引き寄せて、完全に膝の上に乗せる。
それからワザとらしくケツを撫でたり揉んだりすれば、もう視線だけで射殺されそうだ。

葉柱がちょっとでも「嫌」とか言えば、すぐに何人かは殴り掛かってきそうだけど、その当の葉柱の方が必死にしがみついてオネダリしてるんだから、手出しなんかできっこないだろう。

「ヒル魔」
「ん?」

葉柱の様子よりも周りの反応を楽しんでいたら、腕のなかの葉柱が、いつのまにかスッカリ出来上がってる。
腰をイヤラシクくねらせて、明らかにセックスを期待してるような動き。

「してェの?」
「…………うん」

葉柱が腰を押し付けるようにして抱き着いてくる。
あーぁ、可哀想に。
ここのヤツら、あんまり見せつけたら泣いちゃうんじゃねーの。

「じゃ、テメーら出てけよ」

ニッコリ笑って周りに向かって言ったら、だいたいが絶句したように怒ってる。
あー、楽しい。やめらんねーなコレは。

「やだ、出てかない……一緒にいる…………」

誰も喋れない中、なぜか葉柱が自分に言われたんだと思ってイヤイヤと首を振って怒ってる。

「テメェは居ていーぜ」
「……ホントに?」
「うん。可愛いから」

頭を撫でてやると、安心したように息を吐いてまた懐いてくる。

「早く出てけよ」

もう一度、今度はキツ目に言ったら、一人が動いたのを皮切りに、バカみたいに周りに立ってた有象無象がぞろぞろとドアから出て行く。
何人かは、あからさまに睨みつけてから出て行って、特に最後の一人は、ドアの前でじっくり三秒くらいはねばって睨みつけてきて、コッチが鼻で笑ったまま相手にしないのを知ると、ようやくワザとらしく足を鳴らしながら出て行った。

怒ってる怒ってる。
そうだよな。
テメェらの大事なお姫様が、今からココでオレにヤラれちまうんだからな。

何人かは、ドアの前で聞き耳くらい立ててるかもしんねーなと思って、ぐるりと部屋の様子を確認してみる。
そしたら、窓が開いてるどころか、何枚かはガラスが割れて枠だけになってたんで、こりゃわざわざ聞き耳なんて立てなくても丸聞こえだろうな。

もたもたした手つきでベルトを外してくる葉柱の頭を撫でてると、視界の端に窓のところでうごめいている頭がいくつか見える。
アイツら、聞くだけじゃ飽き足らず、覗きまでするつもりかよ。

どうしようかちょっと迷ったけど、さっきの優越感を思い出すと、まぁ見せてやってもいいかなーって気になってくる。

それに、ちょっとしたイタズラ心ってのも湧き上がるし。

「葉柱」
「ん? んー」

名前を呼ばれると、なぜかキスしてもらえると思うのか、葉柱が顔を上げて近寄ってくる。
頬を撫でるようにしてそれをやんわり止めて、それから親指で唇を撫でる。

「口でして」

スグに可愛がってもらえると思ってた葉柱が、少しだけ不満そうな顔をする。
そういや、電話でも、「フェラチオばっかさせる」とか言って怒ってたしな。

「勃たせろよ。上手にできたら、ご褒美やるから」

親指で唇を撫でたり押したりしながらそう言うと、なんでか葉柱はもじもじしながらちょっと目を伏せて笑う。
視線がうろうろと下の方を彷徨って、照れてるらしい。

なんで照れてんだろう。
酔っ払いの思考はよくわかんねーな。

まだグズるかなと思ったけど、葉柱はニコニコしながら膝を降りて、脚の間に跪くと、慣れた手つきで前を広げて性器を取り出す。

視線の端で、窓の方を確認する。
外の方が暗くて影になってるけど、明らかに覗いてるのが何人か。
アイツら、あれでバレないと思ってんのかな。オメデテーな。

見たきゃ、全然見てっていーぜ。
お前らのお姫様が、オレのチ×ポチュパチュパしゃぶりながらケツ振ってるとこをなー。

頭を撫でると、葉柱は文字通りチュパチュパと唇を鳴らしながら、熱心にしゃぶってる。
あいつらが悔しがってるだろうと思うとその興奮も手伝って、それが簡単に勃起してくる。

このまま飲ませてやったら更におもしろいだろうと思ったけど、ある程度まで勃ってくると、葉柱がチラチラと期待したような目で顔を確認してきて、気が逸れてきてるのか手や口がおざなりになってくる。
どうやら、もうちゃんと勃ったから、ご褒美くれるはずだろうってことらしい。

しょーがねーなと思って、腕を持ってひっぱりあげると、目を輝かせながら自分のベルトをカチャカチャと外してる。
まったくどうしよーもねーなこのお姫様は。
チ×コしゃぶったら興奮して、自分でパンツ脱ぐんだから。

「コッチこい」

それでも、全部は見せてやる気がなかったので、立ち上がって葉柱の腕を引きながら、窓とは反対方向の壁に立たせる。
葉柱の後ろに立てば、窓から見えるのはオレの背中ばかりだろう。

そうしてから葉柱のベルトとボタンを外して、ジッパーを下ろせば支えを失ったソレがストンと足首まで落ちる。
下着を引き下ろして長ランの裾を捲り上げれば、葉柱が後ろを向いて、自分の両手でケツを掴むと、開くようにして腰を突き出してきた。

ムリヤリされたとか言ってたクチでこんなんなんだからな。
ホント、アイツらも浮かばれねーよ。

試しに棹で入口を擦ると、待ちきれないように腰をくねらせて息を吐く。

「も、挿れて……」
「まだ入んねーよ」

唾液で濡らした指で後ろを弄ると、葉柱がうわ言みたいに「挿れて」「挿れて」と繰り返す。
それ、もうちょっとデカい声で言ってくんねーかな。
そしたら、アイツらにもよく聞こえるだろうし。

「もーはいる…………」
「もうちょっとな」

駄々を捏ねる葉柱を、頭を撫でたり髪にキスをして宥める。
コッチだった早くヤリたいのはやまやまだけど、テメェがちょっとでも悲鳴なんて上げたら、スグに親衛隊が飛び込んできそうだからな。

葉柱を宥めすかしながらじっくり慣らして、もういいかなってところで指を抜くと、既に肩で息をしてる葉柱が、期待した目で見ながら腰を突き出してくる。

「欲しい?」
「……うん」
「なに?」
「も、欲しい……挿れて…………」

この声は、窓の外まで聞こえただろうか。
じりじりと背中に刺さるような視線を感じながら、葉柱の腰を掴んでアレを入口にあてがう。

ま、よーく見てろよ。
テメェらの大事なルイちゃんは、いつもこうやってオレに抱かれてんだよ。

「あ、あーっ!」

いつもよりはそーっとした挿入なのに、スッカリ出来上がった葉柱が悲鳴と嬌声半分ずつくらいの高い声をあげる。
まさに今犯されましたって声が、窓の向こうにもそりゃぁよーく聞こえただろう。

あー、ヤベェ、凄ェ興奮する。
オレ別にそっちの趣味はなかったと思ってたけど、見られながらヤルの、結構イイな。

ワザと音が出るように、腰を掴んで何度も強く突きあげると、狙った通りに静かな部屋に肌の当たる音がよく響く。

「あ、ぁ、激しいっ」
「ヤだ?」
「んんーっ、あ、イイ、もっと」

ここまで来たら、「ヤダ」と言おうが「ダメ」と言おうが、そんなもん嬌声や睦言の一種で問題ないだろうけど、せっかくだから、コイツはオレにベタ惚れだってのを見せつけてやった方がおもしろい。

「そういえば、別れたいんだっけ?」
「あ、ン、なに?」
「もう別れるって、言ってただろ。さっき」
「ひ、や、別れない、別れないっ……」

葉柱が泣きそうな顔をして、首をヒネってる。

「どーしよーかなー」

ワザと気のない声で言ったら、葉柱の眉がぎゅっと寄せられて、目の端からまたポロポロと涙が落ちる。

「やだ、ごめん、別れない、あ、ぁ」
「テメェが言ってたんだろ。もう別れるって」
「う、ぅ……別れない、やだ、ヒル魔っ、気持ちイ、もっと」
「なに?」
「もっとして、もっとして、あ、チ×ポ好きィ、ズボズボして、ン、ケツマ×コ気持ちいいっ」

卑猥な言葉ってのは、いつも葉柱が嫌がって恥ずかしがるのがおもしろくてムリヤリ言わせてる。
今の葉柱は、別れたくなくて、気を引きたくて、必死にオレの好きそうな言葉を思い出して喋ってるんだろうと思うと、いじましくて可愛らしい。

「いーぜ」
「ン、ホント?」
「テメェが可愛くイケたら、別れねーでやるよ」
「え? なに?」

実のところ、興奮しすぎて結構ヤバい。
葉柱の腰を掴みなおして、早く追い詰めようと前にも手を伸ばす。
両方から責めれば、コイツは簡単に根を上げるから。

「あ、ぁ……」

このままちょっとイイトコを突いてやれば、簡単にイクだろうと思っていたら、葉柱がちょっと逃げるように身を捩って、なぜか不安そうな顔をして、まだ喉をひきつらせながら泣いてる。

なんだろう。

「イキそう?」

それでも身体の方が限界が近そうだったので、コイツの好きなやり方で、耳にキスしたり、ちょっと唇で挟んだりしてみる。

「やだ、できない……できない…………」

気持ちよさそうなのに、それ以上に葉柱は悲しそうだ。
あぁ、オレが「可愛くイケたら」って言ったから?
そういや、可愛くイクって、どんなんだろうな。

別に、テメェだったらどんなイキかたしても可愛いと思うけど、葉柱は可愛くイクってのがどういうのなのか分からないから、それが出来なかったら困ると思ってイクのを嫌がってるらしい。

「ちゃんと腰使えよ。教えたろ」

逃げるのを許さないように強く腰を掴んで、追い詰めるようなことを言えば、葉柱が腰をくねらせてケツを振る。
そうすると自分も感じて余計追い上げられるらしく、目を瞑って、歯を食いしばるようにしながら必死に耐えてるようだ。

「いーからイケよ」
「あ、あっ……イク、イクッ」

葉柱が首を振りながら、手がウロウロと彷徨ってんなと思ったら、手首を見つけると捕まえられて、強い力でぎゅっと握ってくる。
まるで、絶対逃がさないとでも言いたげだ。

「イク、も、イク、あ、あーっ」

葉柱がぐっと顔を逸らすように体を硬直させて、ビクビクと痙攣する性器から精液を吐き出す。
腰を押し付けたがら中に射精して、そういや、せっかくアイツらも聞いてたんだから「中に出して」とでも言わせればよかった。
ま、そういうのは今度でもいいか。
オレ、ここでヤんの、結構気に入ったから。

葉柱が息を吸う度に泣いてるように喉が鳴って、それが落ち着くまでよしよしと頭を撫でる。
性器を抜くと、葉柱がヘタりこみそうになるので腰を持って支える。
しばらくそうしてると、腕の中でもぞもぞと抵抗するように身を捩るので、なんだろうと思って腕を緩めると、葉柱がぐるっと反転して前を向いてしがみついてきた。

「……オレ、ちゃんと出来た?」

また、目がちょっとウルウルしてる。
あぁ、可愛くイケたらってやつ?

「うん」

そうやって返事をしてキスをすると、死ぬほど嬉しそうな顔をして首に手を回してまたキスを強請る。
ついでに、片足を上げて、腰に回してきたから、もう一回しようぜってことなんだろうなやっぱり。

「帰ったらな」
「なんで」

なんでって、オレ、テメェの身体アイツらに見せる気ねーから、ここだったら立ちバックでしかしてやんねーぞ。

「家帰ったら、ベッドでしてやる。前から。ちゅーしながら挿れてやるよ。好きだろ?」

そう言や喜んでついてくるだろうと思って言った言葉に、葉柱はなんでかまた照れたような顔をして、もじもじしながら笑ってる。
だからなんで照れるのかは分かんねーけど、そういう顔可愛いな。
酔っぱらってるから?

「服着ろ」

放っといたら、裸のまま平気でその辺を歩き回りそうだったので、窓からの角度を意識しながら葉柱に服を着せる。
それから自分の服を整えてたら、葉柱が壁によりかかるようにしてズルズルと下がって、そのまま座り込む。

「ほら、帰んぞ」

腕をひっぱってみても、イマイチ反応がない。
まぁ、とんでもなく飲んでたみたいだし、その後さんざん揺さぶられたしでもう限界なのかもしれない。

脇に手を突っ込んで立たせようとしたら、何を期待したのか腕がにゅっと伸びてきて、そのまま首に巻き付いてくる。
そのくせ、立つ気はゼロみてーな。

しょうがないので、膝の下に手を入れて、そのまま葉柱を持ち上げた。
所謂お姫様抱っこみたいな体勢になると、普段は結構怒るクセに、今はひしっとしがみついたままで、なかなか可愛いといえなくもない。

そのままドアの方へ歩いていくと、窓の方からバタバタと焦ったような足音が聞こえる。
覗き組が慌てて窓から離れてるんだろう。

ドアを開けると、律儀に全員まだ待ってた。
怒ってるヤツと、悲壮な顔してんのと、赤い顔してんのと。
こりゃ、葉柱抱っこして出てきてなかったら、一発くらいは殴られてたかもしんねーな。

「コイツのバイクは?」
「あ、裏に……」
「置いてくから見張っとけ」

誰にともなく問いかけたのに、まっさきに答えたのはやっぱり井上で、それだけ言ってから後は視線もくれずに歩き出す。

「え、送ります?」
「コイツ乗れねーだろ」

四輪あるならそれでもいいけど、どーせバイクしか持ってねーからなコイツら。
葉柱は半分寝てるような顔で、自分で動く気はもうないみたいに首に巻き付いたまま離れないし。

その辺でタクシー拾って、適当に帰るから。



タクシーに乗ったら、泥酔した男がもう一人の男にしがみ付いて、たまにキスしたりしてこようとしてるのを、運転手がドン引きした様子で見てきてた。
バックミラー越しに睨みつけると、ビビって貝のように口を閉ざしたまま、二度と目があうことはなかったけど。

やっぱ見せつけんなら、賊学のヤツらにってのが楽しいな。
そのうちまた行こう。


ちなみに、家に帰ってからは、「うそつき」「うそつき」と泣いて嫌がる葉柱をバックで犯した。
やっぱ後ろからが一番燃える。


'13.06.23