ヒルルイの安宅正路
「別れよーぜ」
ヒル魔の家で、ヒル魔のベッド。
その上で散々セックスした後、ずっと言おうと思ってた言葉を、出来るだけなんでもないような声になるように努めて、一息で言った。
「なんで?」
どういう反応をするかなと思ってたヒル魔はアッサリしたもので、たわいない世間話と同じようにそうやって相槌を返してくる。
高2から付き合って今はもう大学2年。3年ほど付き合ってたことになる。
それの終わりにしては、ほんとアッサリした物言いだ。
これまで、酷いケンカだってしたことあるし、一週間や二週間、口もきかないようなことだってあった。
それでも、どっちからも「別れる」なんて言い出したことはない。
だから、もうちょっとくらい驚いてもいいんじゃねーの。
「オレ、大学、辞めるし」
一ヶ月前に、親父が倒れた。
倒れたっていっても、命に別状があるようなもんじゃない。
ただしばらくの安静が必要で、それまで病気一つなく健康そのものだった当人にとっては酷くショックなことらしく、入院生活が始まるとふさぎ込むようになった。
病気という事象は、それまでイケイケで攻めるだけだった人生に大きく影を落としたようで、多少気弱になってる。
親父が、せっかく子供に男を2人も設けたからには、どちらかには自分の地盤を継いでもらいたいと思ってることは薄々感じてた。
ただ、それをハッキリと言われたことはなかったのに、入院の見舞いに兄貴と2人で言ったとき、ボソっとそんなことを言われた。
兄貴は、もう就職が決まってる。
本人が渇望してたとこで、条件もいいし、アメフトも続けられる。
そこに就職するために、兄貴がどんなに頑張ってたかも知ってる。
一瞬の目配せだけで、兄貴が「オレが会社を辞める」と言おうとしてるのが分かった。
あんなに努力したのに、迷いなくそう言おうとするのは、きっとオレが、迷った顔をしたからだ。
黙ってたらきっと、兄貴は譲ってくれる。
好き勝手できる人生を、オレに譲ってくれる。
そう思ったら、口からは勝手に「オレがやるよ」って言葉が出た。
「それに、アメフトも辞めるし」
「アメフト辞めるなら、余計別れる必要なんてねーんじゃねーの?」
「………………」
そうなんだよな。アメフトが好きだし、アメフトやってる自分も好きだし、アメフトやってるテメェも好き。
だけど、どっちもアメフトしてるのって、結構苦しいのな。
ヒル魔を純粋にプレイヤーとして凄いと思うとき、尊敬だけじゃいられない。
認めたくて、認めたくない。自分がその上を行きたくなる。
自分が立てなかったクリスマスボウルの舞台に立つヒル魔を見たとき、それを喜んであげるだけじゃいられない。
悔しくて、悲しくて、苦しい。
ヒル魔と付き合ってると、それはずーっとついて回る。
ずっと苦しい。
お互い、切磋琢磨しあってればいいなんて綺麗な言葉だけでは片づけられない。
そんなことをヒル魔に言ったことはないのに、よく分かってるのな。
そうなんだよ。
アメフト続けてたら、テメェといるの苦しいよ。
だけどアメフト辞めたら、きっともっと苦しい。
もぅテメェのこと、苦しすぎて見ていられない。
それはオレに、アメフトに対する未練があるからだ。
散々考えた。後悔しないと決めた。
でもやっぱり、テメェといたら、苦しすぎる。
どうしたって、ヒル魔とアメフトは繋がってる。アメフトを思い出す。
アメフトをしてるヒル魔を、もうオレは見ていられない。
「辞めなきゃいーじゃん。次の大学アメフト部ねーの?」
「大学辞める」としか言わなかったのに、ヒル魔は全部分かってるとでも言うように、そんなことを言う。
そうなんだ。賊大は辞めるけど、それは別の大学に入りなおすためだ。
親父の母校で、学歴にするとしちゃ申し分ない。
これから、賊大辞めて、受験戦争の始まりだ。
オレみたいなヤツが、アメフトの片手間に勉強して入れるようなとこじゃない。
入学してからも、やることは山ほどある。
院にも行って欲しいみてーだし、部活にかまける余裕なんてない。
それに、この後のオレの人生は、アメフトには繋がっていかない。
だから、辞めるなら、今でいい。
「でも辞める」
声は震えなかった。
だって、ちゃんと考えたんだ。
昔から、色々好き勝手やらせてもらってた。
親父の名前を使ったのだって、一度や二度じゃない。
その親父を、病院で、ベッドの上で見たときに、「年とったな」なんて思ってしまった。
恩返しか、親孝行か、分からないけど、でもそうしたいと思った。
親のためだなんて思ってない。オレのために、そうしたい。
ベッドが撓んで、もぞもぞと動いたヒル魔が上に乗りあげてきた。
背中に手を回すと、脚が絡んでくる。
少しくらいは引き留めてくれるかなと思ったヒル魔は、何も言わない。
なんでもないみたいに顔を寄せてキスされたけど、それが死ぬほど優しくて、終わりなんだなと思った。
「ひるま…………」
名前を呼んで、脚を開く。
もう何回したかも分からないような仕草だ。
ヒル魔が額や頬にもキスしてきて、それから頭を撫でられる。
「はやくっ」
散々ヤリまくった後なのに、そんで別れ話をした後なのに、そう言って強請って、ヒル魔の性器を握って愛撫する。
ずーっとキスして、弄りあって、入れられるくらいになったら、そーっとくれた。
3年付き合って、こんなに穏やかにしたことなんてない。
「ひるま、ひるまっ…………」
ヒル魔のことを、死ぬほど好きだと思ってた。
そんで、多分今が、一番強くそう思ってる。
一応、別れるから、好きだなんて言ったらダメなんだよな。
だから代わりに名前だけ呼んで、キスして、そうやって終わった。
ヒル魔とアメフトを忘れる作業っていうのは、もっと大変かと思ってたのに、いざそうなってみたらそんなことを考える暇もないほどの日常に、自然と思い出さなくなるようになるのは早かった。
前の家にはヒル魔が来てたこともあったから、使ってた家財道具も一新して引っ越して、アメフトに関するようなものも全部処分して、思い出すようなきっかけを無くすように努めれば、あとは忙しさに忙殺されるだけでいい。
何浪かは覚悟してた大学の方は、賊大を止めた翌年には運よく入学を果たすことができて、でもその後も勉強に勉強に勉強。
覚えることは山ほどあったし、大学生活を楽しむ気分にもなれないから、別にそういうのもいいかななんて思うくらい。
習慣付けば、勉強ってのも割と楽しいかもしれないと思うようにまでなった頃の冬、もし賊大を中退してなかったら、今頃卒業だなってことに思い当った。
それと同時に、ヒル魔はどうするのかななんてことも思う。
2年も会ってないのに、顔は簡単に思い出せる。
だってアイツの顔って、特徴的過ぎだろ。
目と口と耳と眉が怖い。なんかもう全部怖い。
そうやって思い出して笑えるくらいの余裕がある。
時間ってのはすげーな。
で、そのヒル魔が普通の会社員ってのは、全然想像つかない。
平凡なスーツが似合うようにも思えないし、そもそも髪だってどうすんだ。
今でも、あの髪にあのピアスなのかな。
そんで、アメフト、してるんだろうな。
「………………」
アメフトに関するものは極力排除して、テレビでだって当然見ないようにした。
それなのに、たまにふっと、フィールドの匂いを思い出すような感じって、なんなんだろうな。
草と、土と、あとはボールの皮の匂い。
全部捨てて新しく暮らし始めた新しい部屋。
それなのに、急に思い出すこれは、一体いつまで続くんだろう。
なんとなくしんみりした気分になって、もう寝ようかなと思ってソファから立ち上がったところで、インターフォンが鳴った。
誰だろう。
この新しい部屋は、誰にも教えてないし、誰も連れてきたことが無い。
たまにある来訪者は宅配便か勧誘なんだけど、そのどちらにしても、来るには時間が遅すぎる。
不審に思って、部屋についてるインターフォンの応対画面を見てみる。
ドアの向こうが小さい液晶に写ると、明るすぎる金髪がすぐ目に飛び込んできた。
それから、吊り上った目と眉と、尖った耳。
「………………ヒル……っ」
呼びそうになった名前は、途中でつっかえて声が出なくなった。
ヒル魔のことを思い出しても、もう平気だと思ってた。
それなのに、こんな小さい画面に映る顔を見ただけで、心臓が飛び跳ねてどこかに行ってしまいそうになる。
今、ドアの向こうにヒル魔がいるんだと思うと、よく分からない焦燥感が突き上げてくる。
「オラー! シカトしてんじゃねーぞカメレオンっ!」
「ばっ……ちょっ…………!!」
感傷的な気分に浸っていられたのは一瞬で、ヒル魔が出会ったときとまったく同じような傍若無人さで怒鳴りながらガンガンドアを蹴りつけてきたので慌てて玄関に向かう。
「ばっかやめろ! 迷惑、迷惑っ! 近所のっ!!」
もう既に深夜と言っていい時間に、ドア蹴りつけて暴れまくる男なんかいたら、この先オレはどんな顔してここに住んでりゃいいんだよ。
「寒ィから早く入れろ」
急いでドアを開けたら、2年前とまったく変わらないヒル魔がそこに居て、無遠慮にぐいぐいと玄関に押し入って後ろ手にドアを閉める。
「お前…………」
なにしに来たんだよ、と言う前に、ヒル魔の手がするっと首に伸びてきて、自然な仕草で顔を寄せられてキスをした。
ビックリしてる、と思う。オレは。
ただ、後ろ頭を掴まれてされるキスは、懐かしいよりも当たり前って気分が強かった。
まるで、昨日だってその前だって、ずっとそうしてたような気になる。
つーか、お前なんでこの家知ってんの。引っ越したのに。
それに、2年間さっぱり音沙汰なかったくせに、なんで「久しぶり」もなにもなく、普通にキスなんかしてんの。
「ん……んっ…………」
そんでオレは、なんでそれに普通に答えて、腕を背中に回したりしてんだろうな。
ヒル魔の唇の感じとか、舌の感じとか、たまに吐く息の熱い感じとか、懐かしくもなんともない。全部違和感なく、今までずっと側にあったものみたいに思う。
「ベッドどっち?」
「……………………は?」
散々キスして、身体をくっつけて撫であって、気が付いたらヒル魔の手がTシャツの中にまで突っ込まれてた。
それさえも当然みたいな感じで全然気にしてなくて、何やってんだよオレは。
「な、なんで」
「なんでって、そりゃ、ベッドいってヤルことなんか一つだろ」
ヒル魔が腰を抱いたまま、ずかずか歩いて部屋の中に入り込んでくる。
いやいや、そりゃキスしといてなんだけど、別れただろ。
「あっち…………」
そう思うのに、腰にまわってる手があまりにも自然すぎて、思わずそう答えて寝室のドアを指した。
「ん、ぅん……」
ヒル魔が満足そうにニヤンと笑ったかと思うと、もう一回口を重ねてきて、そのまま2人でわたわたと脚をもつれさせながら移動する。
寝室のドアが背中に当たると、それをヒル魔が開いてきて、後ろに倒れそうになるのを支えられながらベッドに向かう。
「ま、待てよ……」
「んー?」
膝の裏にベッドがあたって、そのまま仰向けに倒れ込む。
ヒル魔も重なるように覆いかぶさってきて、笑ってるような口調なのに、下から見上げるヒル魔の顔が真剣でドキっとする。
「ハバシラ」
名前を呼ばれると、なんでも言うこと聞かなきゃいけない気になる。
2年もたってるのに、それは全然変わらない。
「ひ、ひる……」
「オレさー、この2年、イイコにしてたんだけど」
「…………あ?」
「イイコ」なんて、多分世界で一番ヒル魔に似合わない言葉で自分を称して、猫みたいに鼻先を頬にこすり付けてくる。
「なに言って」
「だから、コレはテメェにしか使ってねェって言ってんの」
ヒル魔が「コレ」と言いながらぐっと腰を押し付けてきて、卑猥な仕草にカァっと体温があがる。
「それって……ん、おい、ひるまっ……」
会話としようとしても、すぐにヒル魔がキスを仕掛けてきてそれが続かない。
「なぁ、それって、それって…………」
それって、2年間、ずっとオレのことが好きだったってこと?
別れてから、ずーっとオレのこと好きだったってこと?
「あ、あっ…………」
多少頭が混乱してるうちに、気づいたらシャツを捲り上げられ下も脱がされて、自分のベルトを外しているヒル魔が見える。
「ゴムある?」
「え? な、ない…………」
他に言うべきことはたくさんあるはずなのに、聞かれた質問にそれだけ返す。
ゴムなんてない。だって、この部屋に誰か連れ込んだことなんてないし、そもそもオレも、ヒル魔と別れてから誰かとセックスなんてしてない。
そんな暇なんてなかったし、そんな気にもなれなかった。
ヒル魔は「まいっか」みたいなことを言って、シャツを脱いでその辺に放り捨てる。
見えた上半身が、以前より一回り逞しくなったようにも思える。
別れてたことなんてなかったみたいにセックスしようとしてるけど、やっぱりヒル魔と離れてた期間があったのは本当で、こんなことしてるのはオカシイんじゃないか。
そういう思いは、裸の胸が重なるとどうでもよくなった。
どういう手順で進めるかは身体が覚えているようで、ヒル魔の頭を撫でて、背中を撫でて、脚を開いて受け入れる。
いつもよりキスが多いかなー、なんて、既に「いつも」のことじゃないはずなのに、そんな感想も覚える。
あとは、ヒル魔の口数が少なくて、息が焦ったように弾んでる。
「あ、ひるま……なぁ…………」
「……っるせー、黙ってろ」
久しぶりなのに激しい行為に、もう少しゆっくりして欲しくて声をかけてみても、そんなことを言って首に噛みついてくる。
やっぱり、なんか余裕ない。
もしかして、もしかしてだけど、本当に2年間誰ともしてなかったのかな。
ヒル魔の言うことなんて、1から100までだいたい嘘ばっかりで、いつも適当なことばっか言ってた。
さっきのが、本当だったらどうしよう。
それで、本当にオレのこと、ずっと好きだったんならどうしよう。
「ん、ハバシラ、も、出る…………」
ヒル魔が先にそうやって根を上げるようなことを言ったことなんて殆どなくて、しかもその声が死ぬほど切ない感じだったから、まだもうちょっとと思ってた身体は一気に火が付いたようになる。
「あ、あ、オレも、オレもイク…………っ」
ヒル魔をよく見ようと思って頑張って目をあけてると、視線がぶつかって、ヒル魔が目を細めて笑った。
「はー…………」
えらく急いだ感じでそうやってセックスして、終わっても抜かずにヒル魔が上に乗ったまま脱力してる。
ちょっと冷静になると、やっぱり変だろ。
一体なにしにきたんだコイツ。
久しぶりに会いに来た?
なんで急に。
しかもなに普通にセックスしてんだ。
ずうずうしいにも程がある。
そんで、今もちょっとダラダラして、このままもう1回しだしそうな雰囲気を出してる。
「お前……」
「オレ、アメリカ行くから」
何しに来たんだよ、と続ける前に、ヒル魔がサラっとそう言った。
「…………え? あ、ちょっと……待てよっ」
「あー、葉柱…………それ気持ちい」
明らかに重大発言をしたくせに、ヒル魔がゆるく腰を動かしてまた始めようとしてる。
アメリカって、アメリカ?
アメリカ合衆国?
高校の頃、合宿でたしか行ってたよな。アメリカ。
一ヶ月くらい。
行くって、なに。
どのくらい?
いや、そもそも「どのくらい」とか、そういう期間のあるものなのか?
「な、なに……アメリカって……ひ、んっ」
卒業後の進路ってこと?
だったらもう、そう遠くない未来だ。
あと一か月足らずで卒業になる。
そりゃ、テメェが一般企業の勤め人になるなんて想像出来なかったけど、渡米?
帰って来ねェの?
「あ、あっ、待てって……」
ホントは関係ない。
だって別れたんだから。
この2年だって、まったく会ってなかった。
だから今更ヒル魔がアメリカに行こうと、会えなくなろうと、この2年間と何も違わない。
「なんで…………っ」
なんで、アメリカなんか行くんだよ。
そんでなんで、それを今オレに言いに来たんだよ。
「テメェも来いよ」
そう言ったヒル魔の声は、そんなに大きな声じゃない。
多分こうして抱き合ってなかったら聞こえないくらい小さい声だ。
なのに、頭をガツンと殴られたくらいの衝撃があった。
「なに言って……」
「テメェも来い、ハバシラ」
上に覆いかぶさってるヒル魔は、首に噛みつくように顔を埋めてきてて顔は見えない。
それ、どんな顔して言ってんだよ。
「ふぅ……う、あ、ぁ…………」
目にじわーっと涙が浮かんできて、揺さぶられてるせいで溜まった涙が目の淵からポロポロ落ちる。
だってそうだろ。
行けるわけねーじゃん。
だってどうせテメェ、アメフトしに行くんだろ。アメリカ。
それにオレが付いて行って、どうしろってんだよ。
テメェが楽しくアメフトしてるの、ずっと見てろってのか。
苦しくて苦しくて、テメェともアメフトとも手を切った。
それなのにアメリカなんかに付いて行って、オレにどうしろってんだよ。
それに、オレは捨てられない。
日本にあるものを捨てられない。
親を捨てられないし兄弟を捨てられない。
なんのためにこの2年、こうしてバカみたいに勉強漬けでいたと思ってんだ。
「家は別に狭くていいよな。あ、でも、風呂は広い方がいいなー」
1回目と違ってゆったりしたセックスを楽しみながら、ヒル魔がのんびりした声で言ってる。
「ベッドは1個な。クイーンサイズの」
アメリカ行ったら、一緒に住むのか。2人で。
デカいベッド一個買って、一緒に寝るのか。
「ひるまっ…………」
行けるわけない。
オレは行けない。
「ひるま、もっと、言えよ…………それ……」
それでも、それを聞いてみたい。
オレが一緒にアメリカに行って、そしたらどうすんの。
「ひるまっ」
もし一緒に住んだら、どういう風に暮らすの。
行かない、行けないとは声に出せなかった。
こうやってベッドの上にいる間くらい、ありもしない未来を夢想してもいいじゃないかと思った。
「ひるま…………」
「ん」
やっと顔をあげたヒル魔と目があったら、一瞬だけ悲しそうに笑ったのが見えた。
そんな顔は、今まで一度も見たことがない。
多分ヒル魔も分かってる。
オレは行けない。
それからヒル魔は、お揃いのマグカップを買おうとか、歯ブラシはヒル魔が赤いので、オレは緑のにしようとか、そういう細かくてくだらないことまで、ずっと話してくれた。
セックスが終わったらこの楽しい夢も一緒に終わりになってしまうと思うと、何度も何度もまだ足りないと言ってはしがみ付いて、ヒル魔の背中を離さなかった。
家の間取りから、置いてある家具。
そこでどうやって起きて、どうやって寝て、どうやって暮らすのか。
そうしているのを見たことがあるくらい、そうして暮らしたことがあるかと思えるくらい、目を瞑ったらありありと想像できるまで色々話してくれた。
「ひるまっ」
でも、そんな場所なんて本当はない。
オレは行かないし、行けない。
そんな未来なんてない。
'13.10.18