はじめてのオネダリ
「なぁなぁ」
「あー?」
いつもの通り泥門にヒル魔を迎えにいって、後ろに乗っけて家まで送る。
中に入ってソファに座ったら、隣のヒル魔があまりにも上機嫌だったので、一瞬あれ? 今日って土曜日だっけ? なんて思った。
迎えに行ったときから、なんとなく浮かれモードだなぁとは思ってたけど、帰って早々イチャイチャするモードになってる。
これは、最近だと結構珍しい。
部活後はお互い腹ペコだし、何か買ってくるか、途中で食べて帰るか。
そうすると食後の満腹感というか倦怠感というか、食後はなんとなくダラダラして、イチャイチャし始めるのは少し経ってから。
ダラダラしたまま、何もしないで帰るときもあるし。
そういう中、土曜日だけは特別で、ヒル魔は出から始終ご機嫌でスグキスしたり手を繋いだりして、もうヤろうすぐヤろうみたいになる。
今のヒル魔は、そのテンションになんか似てる。
「今日スル?」
隣に座ってすぐ顔をよせてきながら、わざわざそんなことを聞いて来たりして。
そんなの、いつもは聞かねーだろ。
なんとなく隣に座って、なんとなくキスしたりして、で、流れでそのまま膝の上に乗ったりするじゃねーか。
なに今日に限ってウキウキしてんだよ。
怖ェんだけど。
なんか企んでんの?
え? ていうか、今日水曜日だよな?
スル、って、セックスのこと? え? どっち?
「…………セックスはしねーよ?」
「ん? うん」
一応念を押してそう言ってみたのに、ヒル魔の機嫌はそのままだ。
ニコニコしながら髪を触ってきたり腕を触ってきたりしてる。
なんなんだ。
「今日、素股させろよ」
「………………」
………………スマタ?
「あ? 知らねーの? 脚の間に……」
「いや、知ってるから。いいよ、言わなくて」
予想外のことに一瞬反応に送れたら、ヒル魔が「アレ?」って顔して説明をし出そうとする。
いや、知ってるよ。素股くらい。
驚いたのは、なんで急にそんなこと言い出したのかって方だよ。
え? まさか行った? そっち系の店。
「お前、ヘルスとか行ったの……?」
まさかと思いながらそう聞いてみたら、ヒル魔はキョトンとした顔で目をパチパチさせてる。
「は? 行くわけねーじゃん。なんでテメェとだったらタダなのに、ワザワザ金払ってンなとこ行くんだよ」
「………………」
オイなんかその言い方って引っかかるだろ。
タダだから? タダだからオレとしてんの?
「テメェとすんのが一番気持ちいし」
「………………」
まぁ、いいけどさ。
コイツはバカだから、多分それ褒め言葉だと思って言ってんだろうな。
褒め言葉じゃねーけどな。
「スル?」
ヒル魔はニコニコしたまま、顔に唇をくっつけてきたり、手は既にボタンを外しにかかってきたりしてて、一応「お伺い」みたいなポーズはとってるけど、自分の中では決定事項らしい。
ヒル魔が楽しそうにしてると、なんとなく嬉しいような気持ちになるのってなんでなんだろうな。
ちょっと素股プレイを想像してみたけど、別にまぁそのくらいいいような気もするし。
「いーけど」
ヒル魔の髪を撫で返しながらそう言ったら、ヒル魔は口をパカッと開いて笑った。多分。
この怖い顔を笑顔と呼ぶことには抵抗があるけど、多分笑顔。
「じゃ、風呂行こーぜ」
「え?」
てっきりベッドに行くのかなと思ったのに、ヒル魔がそんなことを言って立ち上がる。
風呂? なんで?
「ベッドでいーじゃん」
「ビチョビチョんなるぜ。まぁ、どうせ掃除するのテメェだけど」
え? ビチョビチョになんの?
まぁ、ローション的なものを、アレだろ? こう、脚の間に塗って、それで、みたいなヤツだろ?
それでそんなにか?
オレの想像する素股とテメェの想像する素股って違うの?
お前もしかして、なんか全身ヌルヌルのマットプレイみたいなの想定してんの?
ソープかよ。
「ほら、早くしろよ」
「オイ持つな持つなって」
困惑してちょっと止まってたら、ヒル魔が立ち上がりながら腰を掴んできて荷物みたいに抱えようとしてくる。
そんなのは癪に障るので自分で立ち上がると、ヒル魔は同意を得たと思ったのか上機嫌に肩に手を回してきた。
そのままズカズカ風呂に向かって歩き出して、それがあまりにも嬉しそうだから、止めるのも無粋な気がしてくる。
別にセックスだってしてるんだし、一回だけだけど一緒に風呂に入ったこともあるし、今更嫌がる理由もないかなぁ。
風呂で最後までヤルのはお断りだけど、ヌルヌルプレイで遊ぶだけなら楽しいかもしれない。
本当にそれだけで済むのかは怪しいけど、土曜日じゃないからまぁ安心してもいいだろう。
脱衣所についたら、器用に上も下も同時に脱いだヒル魔が、服を床に脱ぎ散らかしたままにするので、それを拾って洗濯機に放り込んで後に続く。
この狭い風呂に男2人で入るのってなんかバカみたいだなと思いながら、シャワーの温度を手で確認してるヒル魔の後ろ姿を見る。
腕を動かすと隆起する背中の筋肉になんとなくムラっとしてくる。
触ろうかどうしようか迷ったけど、裸になって早々無言でぺたっと背中に触ったりするのもどうだろうと思って見てるだけにした。
背中から視線を下げてケツやら腿やら脹脛もじろじろ見てると、急に振り向いたヒル魔がニヤニヤ笑ってる。
しまったな。またバレたかも。じろじろ見てたのが。
「なーに見てんだよ」
「…………見てねーよ」
見てたけど。
早いこと身体をくっつけてコトをを始めたかったけど、普段と違って風呂で裸で突っ立ってる状態から、どうやってそういう雰囲気に持って行けばいいのかちょっと迷う。
ヒル魔もシャワー持ったまま、色気っていうよりはどっちかっていったら悪戯坊主みたいな顔してるし。
そのままヒル魔がシャワーを浴び出したので、手持無沙汰にお湯のはってある浴槽からそれを汲んでかぶったりしてみる。
なんだこの時間。オレ、どうすりゃいいの。
まさか普通に頭洗って身体洗って普通にただ風呂に入ったりしたらどうしようと思ったくらいで、椅子に座ったヒル魔がこいこいと腕をひっぱって膝の上に乗せてきた。
そうやって腿に跨るのは普段からしなれた格好で、それでキスをそたらようやっと人心地ついた。
ぺたっとくっついてきてるヒル魔の背中を撫でて、離れるまで少し待つ。
首辺りをやわやわ噛んできてるなーと思ってたら、急に背中に手じゃない感触が触れてきた。
「あ? なに?」
「ん? 泡」
泡? あぁ、スポンジ? 洗ってんの? オレのこと。
ヒル魔が顎を上げるので顔を傾けてキスをすると、ご機嫌な手が背中でわしわしと動いてる。
すぐに前にもまわってきて、洗ってるというよりは泡を塗りつけるだけの作業だ。
「ちょっと立て」
そう言って手を離してきたので立ち上がる。
一通り泡まみれにされて、ヒル魔は満足したようだったので交代かなと思ったのに、ヒル魔が手に持ったスポンジをポイっとその辺に捨てる。
「はい」
「…………はい?」
そんで浴槽と反対の壁にちょっと寄りかかるようにしたと思ったら、そんなこと言いながらまさに「はい」って感じで腕をひらいてる。
「いや、なんだよ」
なに当然みたいな感じで待ってんだよ。
「分かんだろ。身体使ってサービスしろつってんだよ」
「………………」
まぁ、分かるよ。
こんな全身に泡塗りたくられて、どうぞってされたらそりゃそういうことかなって。
お前もうマジかよ。
やらすか? そんなこと。
「ほら」
ちょっと唖然としてたら、ヒル魔が腰を持って引き寄せてくる。
お互いの脚が交互に重なるくらいに近づくと、ヒル魔が膝を立てるようにしてきて腿があたって気持ちいい。
そのまま腰を持って脚をぐいぐい押し付けられてると、それだけで勃ってきそう。
「テメェだけ楽しんでんなよ」
なんか反論しようかと思ったけど、ヒル魔が機嫌良さそうにちゅっと瞼の上にキスしてきたりして、まぁいいかと思ってヒル魔によりかかるようにぴったり身体を重ねた。
ヒル魔の手はゆるーっと背中の下の方を撫でてるだけで、それ以上する気はないらしい。
つまり、オレがどうこうするのを待ってるわけだ。
「ん…………」
意を決して、軽く膝を曲げて屈伸するように上下に動いてみる。
泡まみれの胸が滑って乳首が擦れるとちょっとイイ。
でも、なんかこれ。
「………………」
オイお前笑ってねェか?
やっぱりテメェも、ちょっとオレのことバカみたいだと思ってんだろ。
ヒル魔は押し殺してるようだけど、胸がくつくつと上下してるから笑ってるのがよく分かる。
「もぅヤメる……」
「ケケケ。ウソウソ」
恥ずかしくなって離れようとしたら、ヒル魔がぎゅっと腕に力を入れて離さないようにしてる。
なにがウソウソだ。思いっきり噴出したくせに。
まさかホントにやるなんてとでも言いてェのか。
やるんじゃなかった。
やるんじゃなかった!
「可愛いって」
「可愛いってなんだよっ、もうヤメるから離せ」
「エロくて興奮するつってんの」
「………………」
ウソだ。笑ってたくせに。
反論しようと思って顔を上げたけど、ヒル魔が唇を舐めながら発情してるような顔をしてたので、急にお腹の下辺りがきゅっと切ないような感じになった。
口の中で言葉が迷子になったようでもごもごしてると、ヒル魔が顎の下を掬うようにして指をかけてきて、反射的に口を開くとすぐにヒル魔の口が吸いついてきて、舌を寄越せと催促してる。
「後ろ向け」
もう少しそうしてたいと思ったのに、ヒル魔の口はちゅっと軽く唇を鳴らすとすぐに離れていった。
ついでに身体を入れ替えられて、背中に浴室の壁があたる。
「後ろ?」
「ん」
前からするんじゃねーのか。
後ろからって、微妙に屈辱的で嫌なんだけど。
そりゃ今更といえばそうなんだけどさ。
「早くしろ」
舌舐めずりをしたヒル魔が、肩を掴んで身体をひっくり返そうとしてくる。
ちょっと身体に力を入れて抵抗してたら、ヒル魔が上気した顔で自分のアレを緩く握ってのが見えて、急に背筋が痺れるような興奮を覚えた。
視線に気づいたヒル魔が、見せつけるように軽くシゴいてみせてる。
よく分からないけどそれを見てるとぞわぞわして、思わずふらふらと手が伸びる。
その手は届く前に手首を掴んで止められて、そのまま引っ張られるようにして身体を裏返しにされた。
「オイ…………っ」
背中を押されて壁に胸があたる。冷たい。
「ケツ突き出せよ」
ヤバい。なんかコイツかなり興奮してんな。
声の感じがいつもよりちょっと低くて、冷たくて熱い。
ダメだなんだこれ。ゾクゾクする。
頭に血が上ってるようで頬が熱い。
ヒル魔がそれを見透かしたようにつーっと指で首の後ろを撫でてきたから、もしかしたら首まで赤くなってるのかも。
「は…………」
ヒル魔の興奮して上がった息が耳の後ろに当たる。
また自分でシゴいてるのかもと思ったら腰が痺れてきて、自然と少しケツを後ろに突きだすような形になった。
「脚閉じろ」
「あ……」
そうか。素股だった。
知らずと肩幅くらいまで開いてた脚を慌てて閉じると、ヒル魔がよしよしとでも言いたげにケツを撫でてくる。
「んー…………」
ヒル魔が後ろから腰を掴んできて、硬い肉がケツの表面を突くようにして撫でてる。
「…………遊んでんなよっ」
壁に縋りついてただ待ってるってのは結構恥ずかしいのに、ヒル魔が余裕綽々で遊んでるようなので腹が立つ。
「はいはい。脚、力入れてろよ」
ヒル魔が腰を掴みなおしてきて、いよいよかと思ってちょっと緊張した。
腿に力を入れるようにして待つと、脚の間にヒル魔が入ってくるのが分かった。
別に挿入されてるわけじゃないのに、腰を進められると悪寒か快感なのかよく分からないものがじりじりと背骨を通って頭に上がってくる。
「んー?」
普通の手コキと違って緊張するような心持で目の前の壁を見てると、わざわざこんなとこでこんなことヤラせてるくせに、ヒル魔が明らかに「イマイチ」みたいな声を出してる。
「なんだよ…………」
お前この状況で、「やっぱ思ったより良くねーや」とか言う気じゃねーだろうな。
「微妙」
オイ殺すぞ。
「お前、ちょっと手使え」
「あ?」
「前から手、入れろ」
意味はよく分からなかったけど、脚は開かないようにしたまま自分の股の間に右手を入れて、挟まってるヒル魔のアレを上に押し付けるみたいに押さえてみた。
いや、なんかこれもオレ微妙にバカみてェじゃねェ?
「ん…………」
後ろでヒル魔が腰を使うと、脚の間と掌をアレが擦れるのがありありと分かった。
「は、結構イイぜ…………」
「う、ん…………」
泡で滑るのか、ヒル魔が何度も腰も掴みなおしてくる。
力の入った指先が、くすぐったくて気持ちいい。
「んー……」
上機嫌なヒル魔が耳の後ろに口を寄せてる。
濡れてるせいか、狭い浴室内にたぱんたぱんと肌のあたるマヌケな音が響いてる。
「葉柱、声だせよ……」
「え? あー……」
こういう疑似セックス的な行為をするとき、ヒル魔はやたらと「気持ちいい」って言わせたがったりする。
多分、気分出るからだと思うけど。
普段は出し惜しみしてるセックスの代償にそれに付き合ったりするけど、今は、なんかちょっと言いづらい。
「ハバシラ……」
「……………………」
だって、オレ、なんかちょっと気持ちいいんだけど。
「あ、ぁ……」
腰を揺らしながら鼻にかかった声を漏らすと、ヒル魔が満足そうに後ろで息を吐いてる。
興奮してる声が近い。
息がかかる耳も、指が食い込む腰も気持ちい。
それに、抜き差しされてるヒル魔のアレが、たまに入口あたりをかすめてるのが、腰が溶けそうに気持ちいい。
腰を打ちつけられてると、ありありとセックスを思い出す。
そりゃ平日は敢えてしないわけだけど、翌日が大変だからで別に嫌だからってわけじゃないし、しかも以前と違って最近は気持ちいいし。
そんなこと考えてると余計に頭に血が上ってる感じがする。
「なぁ、気持ちい?」
聞いてきてるヒル魔の声が上ずってる。
それもセックスのときを連想させて耳がぞわぞわする。
「う……ん、きもちい…………」
試しにそれだけ言ってみたけど、急にかぁっと頬が熱くなるのが分かった。
というか、そんなこと聞くなら、多少オレのことも触ってきてくれればいいのに。
セックスじゃなくて手で済ますときは、実は完全分業制になってる。
ドッチかがしてるときは、してもらってる方はあんまり手を出さないのが暗黙のルールみたいになってて、大人しくしてる決まりだ。
せっかくヒル魔のしてるとき、色々ちょっかい出されたら集中できないというか観察できないし、ヒル魔がイタズラをしようとするときは、怒ったり宥めたり梳かしたりして諌めてきた。
で、今してる素股は、疑似セックスとはいえ手コキの延長線みたいなもので、受け身ではあるけれどオレがヒル魔にしてあげてる最中と言っていいだろう。
だからヒル魔は、多少腰を撫でたり、後ろから耳や首筋にキスしてくるくらいでそれ以上はしてこない。
これはつまり、今までのルールにきちんと則っており、悪いことなんかなにもない。
それは分かる。それは分かるんだけど、こういうときくらいちょっとその辺の融通利かせてもいいだろ。
今自分の右手は、脚の間に突っ込んで素股の手伝いで使ってるし、左手は壁について身体を支えてないと、この足場の悪い浴室では危なくてしょうがない。
そういうわけで両手が塞がっていて、率直に言えば自分で性器をシゴきまくりたい気分なんだけど、それが叶わない。
「あ、ひるまっ……」
コイツ早くイかねーかなと思って、多少サービス過剰気味に意識して声を出してみたけど、どっちかっていったら自分が余計に興奮する効果しかなさそうだ。
ヒル魔は腰を掴みなおしては、たまに休んだりしてまだまだ楽しむ気でいるようだし。
カリのところが入口をひっかけるように掠めていって、その刺激が恐ろしいような物足りないような感じでどうしようもない。
'13.10.15