ヒルルイと隠し撮り
今週末に葉柱が引っ越すので、葉柱の家では葉柱がバタバタと荷物を捨てたり纏めたりで忙しい。
なんだかやたらと物を持ってるコイツは、捨てても捨てても服が出てくるし、ホントに読むのか分からない本なんかも大量にある。
「もー、手伝わねーならどっか行ってろよテメェは」
片づけで忙しい葉柱を思って、わざわざこうして遊びにきてやってるのにこんな言い草だ。
「気にすんなよ」
邪魔にならないようにベッドでゴロゴロしてると、自分が忙しいのにダラダラしてる他人が疎ましいらしく、怒ったように食器類なんかをまとめてる。
一人暮らしのくせに、そんなに食器なんか揃えてるから悪ィんだろ。
「散らかすなよ」
ヒマすぎてその辺にある本なんかを手に取ると、その気配を察したのか遠くから葉柱が文句をつけてくる。
何の気なしに手に取った本は洋書で、こんなもんホントにアイツが読んでんだか疑わしい。
手慰みにパラパラとページを捲ってみると、中からパラリと紙が一枚落ちてきた。
栞かなと思ったけど、それにしては形がおかしい。
ベッドの上に落ちたそれを摘みあげると、それは栞じゃなくて写真だった。
「はばしらー」
「なんだよ、忙しいんだよ」
寝転がったまま葉柱を呼びつけると、怒ったような声を出しながらも、コップを持った葉柱がベッドのある部屋までやってくる。
「写真でてきた」
「はー? どっから」
「本」
「なんで? なんの写真……」
写真が出てきた本をヒラヒラと振ってみせれば、葉柱がハッと気がついたように顔色を変える。
「オレの」
笑いながら言って写真をピンと立てて見せてやれば、葉柱が真っ赤な顔をしてそれを取り返そうと手を伸ばしてくる。
それより一瞬早く手を引っ込めて、またしげしげとその写真を見てみた。
「バッカ! 返せよっ!」
写真には、いつの間に撮ったのか泥門のユニフォームを着たヒル魔が写っていて、相当望遠でムリに撮ったのか画質が荒い。
かなりアップで写っていて、ほとんど背景が分からないけど多分フィールドだ。
なんかの試合のときなんだろう。
「なに? これ。いつの?」
写真を振りながらニヤニヤ聞いてみると、葉柱が顔を真っ赤にしたまま怒ったフリなんかしてる。
「最近じゃねーよなー? 高校のユニフォームだし」
既に大学に入って久しい。
少なくとも高3。へたすりゃ高2くらいだろうか。
「どーでもいーだろ! 返せよっ!」
「どーでもよくはねーなー。肖像権の侵害だ」
「うっせーバカ! 返せ!」
葉柱があまりにも必死なので、伸びてくる腕に逆らわず写真を返してやる。
どーすんのかと思いきや、葉柱はそれをまた大事そうにポケットになんて入れてる。
「ベッドの脇に置いてある本に入ってたけど。なんに使ったわけ?」
「使ってねーよ!」
やだやだ。ヤラシーなーテメェは。
「せーぜー大事にとっとけよ」
「なんでだよ」
「オレがスーパースターになったら、プレミアついて高く売れんぜ」
「…………売らねーよ」
ケケケ。そこは普通、バーカとか返してくるとこなんじゃねーのかよ。
拗ねたような顔をした葉柱がまた片づけに戻る前に、ポケットの中から携帯を出してその横顔をカメラで撮った。
パシャッっという電子音に、葉柱がビックリしてコッチを振り返る。
「なんだよ」
「いや、オレも写真持っとこうかと思って」
葉柱の眉がぎゅーっと下がって、なんだか情けない表情を作る。
「……どーせ、もうずっと一緒にいるだろ」
まぁな。
そのための引っ越しだし。
「待ち受けにしといてやろーか?」
「勘弁しろよ」
呆れたように笑ってる葉柱の腕を引っ張ってベッドに連れ込む。
こんなことばっかしてるから、葉柱の部屋の片づけは遅々として進まないんだけどな。
'13.06.25