ヒルルイと阿含で3P
テレビを見てるヒル魔の首筋にキスマークを見つけて、またかと思った。
オレがつけたやつじゃない。
だいいち、コイツはオレにそういうの、つけさせたりしねェから。
「キスマーク、ついてんぞ」
ソファで隣に座って、精一杯興味なさげな声を出して言ってみた。
「あ? マジかよ、あの野郎、つけんなつったのに」
アッサリ認めてんじゃねェ。
つーか、野郎かよ。男かよ。
ただ、オレにはつけるなっつっといて、他のヤツには許してるってわけじゃないってことにちょっとだけ安堵感を覚える。
許したわけじゃなくて、勝手にされただけだって。
バカかよオレは。
問題はそこじゃねェんだよ。
一応、オレとコイツは付き合ってるってのに、簡単にそうやって他のヤツと寝たりするのが問題なんだろ。
「なに? また阿含?」
半分ハッタリで、そう問いかける。
「ん? あぁ、知ってたんだ」
まぁな。今知った。
ちょっと怪しいなーって思ってたけど、まさかホントにそうだったなんて。
しかも、「また」ってのに、反論もしねェのな。
常習かよ。
「付き合ってんの? 阿含と」
「あ? なに言ってんだ。オレが付き合ってんのはテメェだろ」
あぁそう。嬉しいぜ。
あんまりにも普通に阿含との関係認めるもんで、付き合ってると思ってるのはオレだけなんじゃないかと思ったからな。
「じゃ、なんで阿含としてんだよ」
「別に? 気持ちいいから」
コイツの頭は、マジでおかしい。
だって普通、気持ちいからって、付き合ってる相手以外とそんなことしねェだろ。
百歩譲ってしたとしても、もっと隠そうとしたりするもんだろ?
「阿含がいいなら、別れよーぜ」
コイツがとんでもねーやつだってのは知ってたけど、そんなことどうでもいいくらい好きだと思ってる。
でもやっぱ、ついてけねーよその感性。
「いや? オレ、テメェの方が好きだし」
意外なことに、コイツは簡単に「好き」だなんて言う。
その言葉が死ぬほど嬉しかったのは最初だけ。
だって、お前の「好き」って、なんか軽すぎねェ?
リンゴが好きとか、ミカンが好きとか、せいぜいそのくらいの重みしかねェんじゃねェかと思う。
「なに? 妬いてんの?」
ヒル魔がニヤニヤして、コッチに向き直ってきた。
そうだよ。今回が初めてじゃねェ。
最初テメェの浮気に気づいたとき、ショックすぎて問いただすことすら出来なかった。
それに、あまりにもあけっぴろげにそんなことするから、オレの被害妄想か? なんて思ったこともある。
初めてお前に「浮気した?」って聞いたとき、本当に追い込まれたような気分だった。
そんときはもう、絶対してるって、確信してたから。
でも、テメェは嘘が上手いから、「そんなことねーよ」って言ってくれて、うまくオレのこと騙してくれるんじゃないかなって思ってた。
そんで、これからはオレに気付かないようにしてくれるかもって。
浮気を止めるだろうなんてのは思えなかった。
でも、そのくらいの優しさは期待してたのに、テメェアッサリ認めやがって。
しかも、一切悪びれやしねェ。
言い訳もないし、謝ることもない。「だからなに?」って感じ。
おかげで今まではさ、あれ? 別に、大したことじゃねーかもな? なんて、半分頭がマヒしてた。
でもやっぱ、オカシイだろ。
こうやって、テメェの身体に他のヤツがつけた痕なんか見る度、ちょっとずつ心が死んでくみてェ。
それでも、ちゃんと付き合ってんのはオレだけで、オレのことが一番好きでいてくれるなら、って思い続けるのにも、もう疲れたし。
ヒル魔がキスをしようと顔を近づけてくるのを、首を捩って避けた。
少し気分を害したようだけど、めげずに手が腰の辺りをイヤラしく触ってくる。
オレさ、決めてたんだよね。
今度テメェが浮気してんの見つけたら、別れるって言おうって。
シャツの中に手を突っ込まれて撫でられると、別れるのは最後に一回ヤってからにしようかな、なんて思いも頭を掠める。
ほんとバカかよ。
そういうグタグタしたの、もうやめるって決めたのに。
だいたい、身体を重ねたら、やっぱり好きだって、どうしても思う。
そんなことしてたら、一生別れらんねーじゃん。
「やめろ」
「うるせーよ」
抵抗して、ヒル魔を押しのけるように腕をつっぱったら、もっと強い力で抱き返されて、耳元で囁かれる。
テメェの声、凄ェ好き。
だけど、テメェのことが、大嫌いだよヒル魔。
「触んな。もう別れる」
今度は負けないように、力いっぱい腕で身体を押し返した。
怒るかな? と思ったけど、意外とヒル魔はヘラヘラ笑ったままだった。
「拗ねんなよ。テメェが一番だって、いつも言ってんじゃん」
拗ねてねーよ。
ましてや、怒ってるんでもねェ。
オレはもう、あきらめたの。
「テメェとはもう無理。別れるから」
「なに? 他にイイヤツでも出来た?」
テメェじゃねんだから、オレはそんなとっかえひっかえみたいなマネしねェよ。
「違ェよ。ただ、もうテメェのこと好きじゃねーから」
「嘘つけ」
低い声で言ったのに、ヒル魔は余裕綽々でそんな言葉を返す。
あぁ、そうだよな。
嘘に関しちゃ、お前はスペシャリストだ。
オレなんかの嘘で、お前が騙されるわけねェよな。
「でも、別れる。もう終わりだから」
だからさ、こっちは嘘じゃねーって分かるだろ。
テメェのことが、大好きで、大嫌い。
もうキスしたり、抱きしめたり、セックスしたり出来ないと思うと、結構苦しい。
でも、またお前とキスしたり、抱きしめたり、セックスしたりするって思う方が、ずっと苦しい。
だって、お前は、オレのものじゃねーから。
「ダメ。別れねー」
「知るかよ。もう連絡すんな。あぁ、してきても出ねェけど」
「ダメだっつってんだろ」
手を突っ込まれたせいで多少乱れた服を簡単に整え、腰を上げようとしたら万力みたいな力で手首を掴まれてそれに失敗する。
どいういう握力してやがんだコイツ。
「離せよ」
「だいたいテメェ、オレに挿れてもらわなきゃ、三日と我慢出来ねェじゃん」
そうやって、言葉で辱められるのだってもう慣れた。
いつまでもオレが赤い顔して慌てるだなんて思うなよ。
「世の中にチンコ生えてんのがテメェだけだとでも思ってんの?」
他で間に合わすから、まで言ったら、ようやくヒル魔の顔から笑いが消える。
そうだよ。本気だよ。
テメェとはもう終わり。
男としたのなんか初めてで、当然ケツなんか使ったのだって初めてだったけど、それが凄ェよかったってのは認めるよ。
多分、テメェのことがそれだけ好きだったから。
だから他のヤツとしようって気にはなれないけど、もういい。
そういうのだって、そのうち慣れる。
「そんなん許すわけねーだろ」
許すって、なにを? オレが他のヤツとヤルのをか?
テメェは散々他でヤっといて、何言ってんだ。
「いいから離せよ」
「テメェはオレじゃなきゃ、満足できねーんだよ」
「言ってろ。バーカ」
手を振り切って立ち上がったら、またすぐに手首を捕まえられて後ろ手に捻じりあげられた。
「い……ってェなっ!」
思わずバランスを崩すと、そのタイミングで身体を掴まれ、うつ伏せにソファに押し付けられる。
そのまま肩を肘で押さえつけられると、ちょっと焦る。
だって、知ってんだよな。オレもよくやるから。
そうやって押さえつけると、下のヤツはどうやっても起き上がれないって。
ケンカの常套手段だけど、自分がこんな簡単に下に敷かれるとは思わなかった。
油断ってやつか?
確かに、ヒル魔の目も見れないほど焦ってた。
目があったら、やっぱ別れたくないなんて口走りそうだから。
「ヤんの? いーけど、最後だからな」
焦ってるのがバレないように、できるだけ興味無さそうな口調で言った。
これで怒って止めてくれりゃいいけど。
だって、ヤったらやっぱり、離れられなくなるかもしれない。
あぁ、でも、無意味だよな。
そんなことになっても、先延ばしにするだけだ。
どうせまたコイツはすぐ浮気して、オレは「別れる」って言うから。
だからやっぱ、今日終わりにしたい。
大丈夫。ヤっても、じゃーなって、別れてやる。
去り際に、「よかったぜ」とかすら言ってやる。
「じゃ、ベッド行けよ」
ヒル魔の体重が背中から離れる。
一瞬、このままコイツを突き飛ばして逃げてみようかと思う。
振り向いて、ヒル魔を突き飛ばして、ドアまで走って、鍵を開けて、ノブを回す。
どーかな。あんまり、うまくは行かなさそう。
まずコイツが大人しく突き飛ばされてくれるか分からないし、うまくいってもドアのあたりでもたもたしてるところを捕まって終わりだろう。
殴りあいになったら勝てるような気もするけど、多分オレは、この期に及んでコイツのことを殴れない。
ヒル魔がアッサリ上から退いて、後ろからオレがついていくことをまったく疑わない様子でベッドの方へ歩き出す。
ちょっと迷ったけど、結局それに続いた。
バカだよな。
でも大丈夫。これで最後だから。
ヒル魔はベッドの上に座って、チャラチャラと手錠を弄んで待ってる。
そういう趣味に付き合うのも、ホントは嫌だった。
でもテメェが好きなら、我慢出来たし、求められりゃ喜んでるフリだって出来た。
手首に冷たい手錠をかけられながら、ぼんやり思う。
この感触だって、きっとそのうち、ちょっと懐かしい気分で思い出すくらいの、なんでもないことになる。
「やめる気になった?」
「…………何がだよ」
結局いつも通り、手錠で手を上に固定されながら、たっぷり時間をかけて2回した。
最後だっていう哀愁みたいなもんなんてカケラもなく、ホントいつも通り。
「別れるの」
「やめねーよ。別れる」
途中、多分「好きだ」って言葉を何回か口走った。
だって好きだから。
頭を撫でられてキスされると、なんか愛されてんなーって気になる。
でも、錯覚なんだよなそれ。
コイツはオレのことより自分のことが好きで、そもそも誰かのことを好きになることがあるのかなんて怪しい。
あったとしても、オレじゃないってことだけは確かだ。
「なに? そんなに他の男としてーの?」
「そういう話じゃねーだろ」
ヒル魔がベッドから降りて、その辺に投げ捨てられてた服を着てる。
ヤルことヤったし、オレも服着て帰ろうと思ったところで、まだ手錠が繋がれていてそれに失敗する。
「早く外せよ」
腕を振ると、手錠がベッドのパイプに当たってカンカンと音をたてる。
多分コイツ、こういうことする為にわざわざパイプベッドにしてんだろうな。
「テメェが別れんのやめんならな」
「やめねーよ。終わりだっつったろ」
「さっきだって、好きだつってたじゃん」
「サービスだよ。本気にしてんな」
ワザとバカにするような声で言ったら、舌打ちが返ってくる。
あーぁ。機嫌悪ィな。
もしかしたら、もう一回くらいはヤラれるかも。
でもいいか。テメェがそうやって、最低なことすればするほど、オレの意思だって硬くなる。
「じゃ、他の男とヤラしてやろーか?」
「あ?」
そう言ったヒル魔が部屋から出て行って、携帯を片手に戻ってくる。
おいまさか、誰か呼ぶつもりじゃねーだろーな。
「おいっ!」
慌てて止めようと思ったけど、手錠の嵌まった腕が突っ張るだけで、ベッドの上から動けない。
「やめろよっ!」
本気で怒鳴る声に、ヒル魔がニヤニヤした笑いを返す。
あぁ、そうだよな。テメェはいつだってそうやって、オレが嫌がると余計喜こんでやるんだから。
「よー。オレ。あ? 違ェよ」
ヒル魔の携帯が誰かに繋がったのか、そっぽを向いて話し出す。
「やめろっつってんだろっ!」
「オレんチ来ねェ? おもしれーことしよーぜ。ん? いや、男」
鎖を掴んで引っ張って見ても、当然のように金属製の手錠はビクともしない。
こうなったら、電話の相手の都合が悪いか、もしくはこんな悪趣味なことに付き合わされるのは勘弁だって断ってくるのを祈るしかない。
耳を澄ませても、受話器の向こうの声は聞こえない。
ヒル魔が「うん」「うん」と相槌を打って、通話を切った時には次の言葉を、まるで判決を受ける被告人みたいな気持ちで待つ。
「スグ来るって」
そういう言葉を、優しそうな顔して言えるんだから、テメェはホントに凄ェよな。
このクズ野郎。
手錠をどうにかしようとするのは、最初の5分で諦めた。
だって、どうしようもないから。
できるのはせいぜい、ベッドの上で仰向けになるかうつ伏せになるかを選ぶくらい。
所詮全裸じゃ、ドッチだって一緒だから、楽な体勢でいりゃいいやと思って仰向けのまま寝転がる。
ヒル魔はヒマつぶしにテレビなんか見始めていて、「スグ来る」の「スグ」ってのは、一体どれくらいのことなんだろう。
裸のままでいると、汗をかいた身体が冷えてきて寒さを感じる。
だからって、早く来てくれとは思えねーけど。
もしかしたら、ヒル魔のさっきの電話は、本当は誰とも通じてなんていなくて、ただただ意地悪のつもりでそういうフリをしただけじゃないかなんて思うようになった頃にインターフォンが鳴る。
それから3秒も立たない間にガン、と強くドアを蹴るような音が続いた。
オイオイ、なんか、とんでもねー凶暴なヤツが来たとしか思えねーんだけど。
急に、やっぱりうつ伏せになろうかな、とか弱気な思考が浮かんでくる。
顔を見られたくない。
でも、相手の顔を確認できないのも、それはそれでなんか嫌だ。
玄関に向かうヒル魔を見ながら、掌にじんわり汗がにじんでいくのを感じた。
ヒル魔が電話した相手ってのは、いったいどこまでを承知でやってきてるんだろう。
「他の男とヤラせてやるよ」って言ったヒル魔は、やっぱりソイツにオレをヤラせようとしてんだよな?
電話じゃ、そんな細かい話はしてなかった。
呼び出された男は、意外と全裸でベッドに手錠で繋がれてる男を見たら、臆して帰るかもしれないなんて期待もでてくる。
できればそうなるように、精一杯凶悪な顔で睨みつけてやろうと入ってきた男を見た瞬間、今思ってたことはまったくの見当違いで、現実が見えてなかったアマちゃんのノーテンキで幸せな妄想だったと知る。
それもそうだよな。
ヒル魔がそんな詰めの甘いこと、するわけねーんだから。
「あ゛ー?」
だからって、阿含呼ぶことねーじゃん。
阿含はパーカーにジーンズっていうラフな格好で、パーカーのポケットに手を突っ込んだまま斜めに立ってる。
それからベッドに寝転がってるコッチを見てくると、特に驚いた様子も見せないで、まるで品定めでもするかのように頭のてっぺんからつま先までを視線がジロジロと往復する。
「可愛いね。なにちゃん?」
その阿含の不機嫌そうに引き結ばれた口元が、急にニッコリと笑みの形を作ったかと思えば、大凡阿含には似つかわしくない媚びたような声でそう言う。
それが自分にかけられた言葉だって気が付くのには、たっぷりと数秒の時間がかかった。
「………………」
あぁ、コイツ、オレのこと覚えてねーんだ。
同じ関東でアメフトやってるプレイヤーだってのに、オレは知っててアイツは知らない。
それに、江の島で殴られたことだって覚えてない。
裸ですっ転がされてることよりも、そっちの方がよっぽど惨めに感じて、腕で顔を覆いたくなった。
咄嗟に引っ張った腕は、僅か数センチで手錠の鎖が突っ張って、額さえ隠すことが出来なかったけど。
「結構イイだろ?」
阿含の斜め後ろで、ヒル魔がなぜか自慢げにそんなことを言う。
「つーか、コイツ、テメェがたまに言ってる本命ちゃんじゃねーの? いーわけ? オレにヤラして」
のんびり返す阿含のセリフには、ちょっとだけドキっとした。
コイツ、阿含にそんな風にオレのこと言ってたのかって。
多少嬉しいって思うのを否定できなくて、でも多分その「たまに」ってのが、ヒル魔が浮気して阿含とセックスしてるときなんだろうから笑えない。
「ソイツが他の男と試してみてーんだとよ」
「言ってねーだろ! そんなことっ!」
阿含が入ってきてから、あんまりのことに茫然としてた頭が、本題に触れるヒル魔の言葉にやっと回り始める。
「そう言ってっけど?」
「照れてんだよ」
ヒル魔と阿含の様子を見てると、自分が全裸で、あまつさえベッドに手錠でくくりつけられてるんだってことを忘れそうになる。
だってそれくらい、平然とした様子だから。
テレビか雑誌の批評でもしてるのかってくらい。
「カレシ酷いね?」
ヘッドの端に座った阿含が、顔を近づけて、まるで内緒話でもするかのように言ってくる。
そんなことしたって、スグそこにいるヒル魔に聞こえてないわけはないのに、ヒル魔は笑ったままPCラックの椅子を引き出して座る。
嫌がったり暴れたりしたら、多分ヒル魔が喜ぶだけなんだろうな。
いっそヒル魔とヤルときより喜んで見せてやろうかなんて思ったけど、阿含がぺたっと太腿に触ってきただけで悪寒が走って、その計画はどうやらうまくいきそうにない。
そのまま腰まで撫でられて、身体中にざわっと鳥肌がたつ。
阿含が笑ったまま身体を傾けて、ぐっと顔を寄せてくる。
キスされるのかと思ったのに、阿含は目の奥でも覗き込むように顔を観察してるだけで、怖がってると思われたくないから視線はそらさずに睨みつける。
そういうこっちの反応をどう思ってるのか、そのまま顔色ひとつかえずに身体を起こすと、自分の着ているパーカーを捲り上げて、頭から引き抜いた。
こうやって間近で見ると、やっぱスゲー身体してんなコイツ。
露わになった上半身は、ヒル魔や自分に比べて、ひとまわり厚い。
呼吸とともに上下する腹には、腹筋のラインがくっきりと浮かんでる。
そうやって思わずぼんやりと身体を見てると、なにを思ったのか阿含がちょっと鼻で笑う。
「なに? 濡れちゃった?」
「…………ば…………っか! 違ェよ!」
「うわっ」
フザケタことを言いながら脚の間に手を突っ込んできて、無遠慮に穴を触ってきた手が、そのくせ驚いたようにスグに引かれる。
「テメェの使用済みかよ」
阿含がそう言ったのはヒル魔に向けてで、言われたヒル魔はイタズラが成功した子供みたいな顔で笑ってる。
「2回ほど」
「汚ねェな、触っちまったじゃねーかよ」
阿含がすぐに手を引いたのは、中にあるヒル魔の精液に気づいたからだ。
探られた穴からそれが垂れ落ちるのを感じて、羞恥に顔が赤くなる。
「今さらだろ」
「まぁ、そーだけど」
テメェら、オレの前でそんなふうに身体の関係あることを匂わせるような会話してんじゃねーよ。
そりゃもう知ってっけど、イチイチそんな現実つきつけられたくねーんだよこっちは。
「じゃ、すぐ入んな」
阿含がジーパンを下ろして、自分でシゴいてるのが見える。
こんな状態ですぐにおっ勃てることができんだから、さすがヒル魔のオトモダチだよテメェは。
「ゴムは?」
「ねーよ」
「お前酷ェな」
正直なところ、ここまでは、なんだか他人事のような気分でいた。
阿含がここに何しに来たのかも分かってるし、ヒル魔がなにをさせようとしてるのかも分かってた。
そうやって決めたからには、この2人が中途半端でやめるわけないってのも分かってる。
なのに、頭のどっかでは、やっぱりそんなことするわけねーよって思いが、多分あったんだ。
「オイッ、待てよっ!」
だから、阿含が脚を抱え上げてきて、それが入口にあてられたとき、急に今の状況が現実感を持って襲ってきたように感じて、すっと凍えるように腹の中が冷えた。
「フザケンナ! 離せよっ」
「ダイジョーブ。オレうまいよ?」
暴れようにも掴まれた脚はビクともしなくて、腰を捩って上に逃げようとする動きも、腿を掴んであっさり引き戻される。
手首が痛くなる程腕を振っても、当然手錠は外れない。
阿含はそんな様子を観察してるようで、逃がさないように捕まえたまま、まだ入れてはこないで笑って見てる。
首を振っても、身を捩っても逃げ出せない。
手が抜けない。脚が離れない。
何をしてもどうにもならない。
今の自分に自由が何一つなくて、出来るのは精々文句をいうか、罵倒するかで口を動かすことくらいだと分かると、急に恐ろしさが襲ってきて、その口さえも凍ったように動かせなくなった。
「…………ひ、ヒル魔……ヒル魔っ!」
それでも、ひきつる喉をムリに震わせて、椅子に座ってるであろうヒル魔の名前を呼ぶ。
「んー?」
阿含から、目が離せない。
目を離したら、本当にそのままヤラれそうで、こうして視線を合わせておけば、阿含は動けないんじゃないかっていうバカみたいな妄想に縋るように、必死に瞬きすら堪えて目を合わせる。
「どした?」
ベッドの右側が少し撓んで、ヒル魔がそこに座ったのが分かった。
「ヒル魔…………」
嘘だよな? ヤラせねーよな?
今、ちょっと脅しにこうしてるだけで、本当にヤラせる気なんてねーよな?
だって、テメェ、オレのこと好きだって言ったじゃん。
だったら普通、他のヤツにヤラせたりしねーよな?
「怖ェ?」
ヒル魔の細い指が、そーっと頬に触れる。
顔を向けたかったけど、身体が固まったように動かなくて、乾く眼球だけ動かしてヒル魔の顔を見る。
「や、やだ……やめろよ…………嘘だろ?」
怒らせたことなら、もう謝る。
テメェの言うことだって、これからはもっと聞くから。
「オレのこと好き?」
ヒル魔の目が優しくて、泣きそうになる。
「……好き……ヒル魔、他のやつとは嫌だ……ヒル魔が好き」
震える声でこんなこと言うのを阿含なんかに聞かれるのは、本当は死ぬほど我慢ならない。
だけど、自分じゃどうしようもない。
こうやって、ヒル魔にお願いすることしかできない。
ヒル魔が「じゃ、終わりな」って言えば、きっとこんなことはすぐ中止になる。
多分それだけが、この状況を終わりにできる唯一の手段だから。
ヒル魔の口角がちょっと上がって笑みの形を作ったのが見えて、やっぱり冗談だったんだと思った。
謝ったら、許してくれて、騙されて本気でビビってたオレに「バカだな」とか言ってくるんだって。
「じゃぁ、オレ以外でイクなよ?」
ヒル魔が死ぬほど優しい顔でそう言ったのと、阿含が押し当てたそれを急に突き入れてきたのは、まるで示し合わせたみたいに同時だった。
「あ、あっ…………!」
衝撃で息が詰まって、一瞬何がどうなったのか分からなかった。
焦点の定まらない目を必死に動かして周りを見ると、ヒル魔と阿含がニヤニヤと同じような顔をして見下ろしてきてる。
「あー、なに、コイツ結構イイじゃん」
「イカせるともっと凄ェよ?」
ヒル魔が髪を触ってきながら笑ってる。
阿含が腰を持って揺さぶってきてる下半身が熱い。
「な……ん…………」
信じらんねェ。
コイツ、ホントにヤリやがった。
腰が重い。挿れられてる。阿含に。
信じらんねェ、信じらんねーよ。
なんでそんなこと出来んだよ。
なんでそんなことさせんだよ。
「なんで…………」
「あーぁ、泣いちゃったじゃん」
「ケケケ。テメェ酷ェことすんなー」
ショックと混乱で目から涙が落ちるのを見ても、2人は楽しそうに笑ってる。
ヒドイことしてんのは阿含だけど、そうさせてんのはテメェじゃねーか。
「カレシ冷たいね、別れた方がいーんじゃない?」
阿含が無遠慮に腰を振りながらも、身体を寄せてまた内緒話みたいに話しかけてくる。
「オレに乗り換える?」
冷たいのも酷いのも、テメェとヒル魔じゃどっちもどっちだろ。
「泣かしといて何言ってんだよ。オレの方がいーんだよな? 葉柱?」
「ヤリ終わったら、オレの方がよくなってると思うけどな」
「言ってろよ」
なんでそんな、普通に話してんの?
こうなことは、テメェらにとってはなんでもないことだってことかよ。
「う、あっ…………」
「乳首感じるの? 可愛いーね」
「オレが仕込んだんだよ」
「テメェには聞いてねーから」
身体がふわふわしてて、現実感がない。
話しかけられてる声が遠い。
「あー、凄ェ締まる。もー出るかも」
「早くねェ?」
「うるせーよ」
腰の動きを早くされて、それから前を握られた。
そうされて初めて、自分が勃起してるのに気付く。
「中に出していーの? これ」
「だってさ、どーする? 葉柱」
可愛いねなんて口先だけで軽く言っといて、本音は「これ」呼ばわりか。
「だ、だめ……」
「ダメだって」
「んー、スゲ、気持ちいー」
前を擦りながら突かれると、奥が気持ちよくて腰が痺れる。
ダメって言っても腰を掴んでくる阿含の手は緩まなくて、いーのかなんて聞いたくせに、コイツ返答に関わらず中出しするつもりなんだ。
「やめろ……っ」
阿含にヤラれて感じるのは、本当に悪寒なんだ。
なのに性行為に慣れきってる身体は、揺さぶられると勝手に腰が跳ねる。
「腰揺れてるよ? いーの? カレシ見てんのに」
さっきからイチイチ、阿含は「カレシ」「カレシ」ってうるさい。
どう好意的に解釈しても、嫌味のつもりでわざと強調してんだ。
「離せよ……テメェらシネ…………っ!」
「あー、もー出る」
「やだっ! やめろ……! シネっ!」
抱えられた脚を振って、踵で背中を蹴りつけた。
全然力が入らなくて、大した勢いもなかったのに、そこで急に阿含の顔色がガラっと変わる。
「あ゛ー? なんだテメェ……」
さっきまでの飄々とした媚びたような声が一気に低くなって、目が少しも笑わずに冷たく見下ろしてくる。
いや、目は多分、最初から笑ってなんかなかったんだ。
口元だけで笑みのような形を作ってたけど、最初からこういう、ゴミでも見るような目で見てきてた。
「い……てぇっ」
「オイ、壊すなよ、オレんだぞ」
髪の毛を掴んで引っ張られる。
そのまま顔がぐっと近づいて、一欠けらの笑みもない顔を目が合うと、認めたくないけど怖いと思った。
「コロスぞ」
そんな文句、今までだっていくらでも言われたことがある。
なのになんでコイツが言うと、こんなにも恐ろしく聞こえるんだろう。
「ほら、ココだろ?」
「あ、あっ」
「気持ちいーかよ、カス野郎」
身体を二つ折りにされるように上に伸し掛かられると、開きすぎた脚の股関節が痛い。
「イキそうか? いーぜ、イケよ。中出ししてやる。嬉しいだろ? 天才様の遺伝子くれてやるからなぁ?」
「やめろ……あ、ひっ……」
嫌だ。
他人の体液が身体の中に入れられる。
気持ち悪い、おぞましい。
「ヒル魔、ヒル魔っ…………」
ヒル魔としてるときは、そんなこと思わなかった。
「どした?」
「やだ、ヒル魔……助け…………」
ヒル魔が髪を撫でて、頬を撫でて、それからキスしてくる。
気持ちい。
分かってる。
どうしても、ヒル魔が好きだ。
「ん、んっ……あ、イク……嫌だ、ヒル魔っ」
なんで笑ってんだよ。
オレ、泣いてるのに。
「イケよ。カレシの前で、中出しされてイっちまえ、淫乱野郎」
「あ、あ………………っ!」
イくときに、後ろが収縮するのが自分でも分かる。
挿れられたそれを締め付けて、それが死ぬほど気持ちいい。
「う……ぅ…………」
ヒル魔がもう一度キスをしてくる。
腰を掴んでる阿含の手に力が入ってて、身体を震わせながら腰を押し付けてきてる。
オレ、今、中に出されてんだ。
なのになんでテメェは、笑ってんの。
哀しくねーの?
オレ、他のやつにヤラれたのに。
他のやつに出されたのに。
「オレ以外でイクなっつったろ」
「…………ふ、ぅ……ごめん……ごめんなさい」
オレが悪いの?
分かんねー。
でもいい。多分、オレが悪いんだ。
「オレ以外とヤるの、よかった?」
「ぅ……嫌だ…………」
「だから言ったろ? テメェはオレじゃなきゃダメだって」
「うん……うん…………」
「これからはイイコにできるか?」
「うん…………」
だからもう、二度としないで。
ヒル魔が手錠をとってくれて、痛んだ手首をさすってくれる。
ずっと上げっ放しだった肩が痛い。
「ん…………」
目を閉じると、淵に溜まってた涙が、また頬を伝って落ちる。
それからもう一度目を開ければ、身体の上で、ヒル魔と阿含がキスしてるのが見えた。
テメェらはイカれてる。
でももういい。
どうせスグに、オレもそうなる。
'13.07.12