※このお話は、以前の小説と同じ設定の後日談になります。
 お話はそれぞれ完結していますが、よろしければそちらからご覧ください。
 →ヒルルイの酔った勢い

ヒルルイの酔った勢い2




酔った勢いでセックスしたからっていうどうしようもない理由で葉柱と付き合うようになって一ヶ月。
面合臭くなったらスグ別れようと思ったのに意外と続いてる。

なぜなら、葉柱は便利だからだ。
前から便利だと思ってはいたけど、思った以上に便利だ。

「はい。コーヒー」

部活終わりに泥門まで迎えに来て、家まで送らせた後。
にこにこしながら当然のように家に上がりこむ葉柱は、部屋に散らばってた雑誌を纏め、脱ぎ散らかしてあった服を拾い集め、オレが朝飲んだままにしておいたマグカップを洗って、新たにコーヒーを淹れ、それを注いで持ってくる。

「おー」

ここまでが、全自動で行われるワケだ。
こんな便利なことってないだろう。

最近は、拾い集めた服は洗濯機で洗われて、乾燥が終わると綺麗に畳まれてしまわれてさえいる。
これも自動。

ただの奴隷だった頃も、ああしろこうしろと言えばなんでもしたけど、今は自発的にせかせかと身の回りの世話をやいてきて、しかもそれが本人にとって喜びらしい。
なんて便利なヤツなんだ。

喉が渇いたなと思えば飲み物が出てくるし、腹が減ったと言えば食べ物が出てくる。
気が向いたときには、気持ちい身体にタダ乗りできる。

つまり葉柱は、超高性能な家事機能付きダッチワイフだ。

「その辺の雑誌、捨てるから縛っとけ」

ノートPCを立ち上げながら顔も見ないで出した指示にも、葉柱は「うん」とかいう似合わない返事をしながらせっせと言われた通りに雑誌を纏めてビニール紐で縛り出す。

PCの起動音を聞きながら、さっき渡されたコーヒーを一口飲む。
これもちょうど好みの濃さに淹れられてて、黒いツヤツヤした表面が揺らめいてはいい香りを立ち上らせてる。
コイツ、なんか知らねーけどコーヒー淹れるのうまいんだよな。コーヒー淹れ機能付きダッチワイフ。

「あ?」

ただ、カップに口を付けて違和感を覚えよく見てみたら、いつも使ってるマグカップと違ってた。
別になんか拘りがあったわけじゃないし、そういえばあのカップは淵のところがちょっと欠けてたから、葉柱が気を利かせて新しいカップを用意したのかもしれない。

こんなところまで自動とはと思って葉柱を見たら、葉柱の手元の方のカップも見慣れない新しいやつになってる。
それからもう一度自分のカップを見て、それが色違いのお揃いだってことに気が付いた。

「………………」

もうコイツなにやってんだよ。気持ち悪ィよ。

なにオレんちに、オレとお前用の揃いのマグなんか持ち込んでくれてんだよ。

そうなんだよ。そういうとこあるんだよなコイツ。
外でこそベタベタしてきたりはしねーけど、家で2人きりになったら、イチャイチャしたがってウザったい。
カノジョ面機能付きダッチワイフ。

正直、そのオプションだけは外れてくんねーかなと思うけど、この機能はデフォルトらしくて外れてはくれないらしい。

しかも、なぜかオレから告白したことになってるってのがまた許しがたい。
葉柱の中では、オレが告白をしてそれに葉柱がOKをして、そしてセックスしたというストーリーが出来上がってるらしく、それはテメェの夢の中での出来事じゃねーの? と思うけど、その辺のオレの記憶はどっかにすっとんでて覚えてない。

雑誌を縛り終えた葉柱は、ソファに座って大人しくテレビを見てる。
こっちが作業中は、ホント大人しくて邪魔にならなくていい。
ただちょっとCPから目を離して伸びでもすると、「終わった?」「終わった?」って感じで、おあずけをくらってる犬みたいな目で振り返って見てくる。

今も、肩が凝ったなと思って首を逸らし腕を上に挙げて筋を伸ばしていたら、後ろに目でもついてんのかと思うタイミングで葉柱がぐるっと振り返る。
目がギョロギョロ動いて、オレの作業がもう終わりなのか、それともただちょっと手を離して休憩してるだけなのかを推し量っているようだ。

カメレオンみたいな顔だなぁと思うけど、顔に関して言えば、実は結構もう慣れた。
ブサイクはブサイクなりに、にこにこと愛想よく振る舞ってるし、そうしてれば愛嬌があるといえなくもない。
ブスは3日で慣れるっていうしな。

葉柱の視線を気にしないようにしながらノートの蓋を閉じたら、葉柱はまるでそれが「よし」の合図だとでもいうように立ちあがる。

「肩凝ってんの? マッサージしてやろーか」

そんでそんなこと言いながら、さりげなく肩に触ってくる。
ベタかテメェは。

「いらねー。ヘタクソに揉まれると余計酷くなる」

鬱陶しいその手を払って、少しぬるくなったコーヒーに口を付ける。
葉柱はちょっと拗ねたような感じで唇を尖らせたりしてるけど、いや、お前そんなことしても別に可愛くねーからな。どっちかっつーとムカつく顔だから。

「ヘタじゃねーよ。兄貴いた頃は、兄貴のマッサージとかもしてたし」
「ふーん」
「ちょっとベッド寝てみ?」

てっきり肩もみにかこつけてイチャイチャスキンシップがしたいだけかと思った葉柱は、本格的にオレを寝かせてマッサージしてくれる気らしい。
まぁどんなもんかくらいは試してやってもいいかなと思ってベッドにうつ伏せになったら、葉柱が背中の横に膝をつくようにして上に跨ってくる。

自分の腕の上に顔を乗せるようにして収まりの良い恰好を探してると、葉柱の手が肩や背中をさらさらと撫でる。
その筋肉を確かめるような手つきは確かに手馴れてる感じがして、多少は期待が高まった。

手の甲の上に顎を乗せる格好に落ち着くと葉柱の手に力が入って、ぐっと肩甲骨の辺りを指圧される。

「どう?」
「………………」

聞いてくるこえがドヤ声でムカつくけど、まぁ悪くない。
手がデカいのがいいし、そういえばコイツ、指が丸いんだよな。
その丸さが当たりを柔らかくしているようで、強すぎない力加減と相まって結構いいなと思わざるを得ない。

なんてこった。
このダッチワイフにはマッサージ機能まで搭載されてた。
最高じゃねーか。

黙ったままでいると、葉柱がそれをどう受け取ったのかは分からないけどそのままマッサージを続けてる。
筋肉のラインを辿るように首から肩を揉まれ、それから背中、腰と手が下りていく。

身体がなんとなくポカポカしてきて、血行が良くなってるような感じ。

脚の付け根までくると、葉柱がズリズリと下がって、左足首を持たれた。
また何かを確かめるように少し撫でた後、足首を回されて、それから足の裏を指圧される。

左足右足交互にそうしながら、また足首、脹脛と今度は上へ上へと手が移動する。
気持ち良くて、ちょっと寝そうになるなこれは。

完全に脱力してされるがままにまかせていると、身体中揉みほぐした葉柱は、最後にそれを落ち着けるようにゆるゆると表面を撫でてくる。
それも気持ちいいなと思ってじっとしてたら、途中から明らかに葉柱の手つきが熱っぽくなった。

オイオイと思って振り返って横目で見たら、葉柱がちょっと照れた顔をして頬を赤くしてる。
なんて簡単なんだテメェは。
ベッドの上で脚開いて跨ったら即発情か。
ダッチワイフ機能付きダッチワイフじゃねーか。

「………………」

まぁそんなところも気に入ってるんだけどなと思って、片手を伸ばして頭の後ろを掴んだら、にまっと笑って逆らわずにしなだれかかってくる。
顔を寄せたら、舌を出せと言う前にちゃんと口を開いて少し舌を覗かせてて、物覚えのいいところもお気に入りだ。

キスをしながらベッドの上に転がした葉柱の上に乗りあげると、これもまた教えた通りに自分で服を脱ぎだしてる。
このダッチワイフの最大のポイントは成長機能が付いてるとこだ。
教えれば教えるだけ、物覚えよくなんでも吸収してどんどんいい具合になる。

ちょっと触っただけで十分その気な葉柱は、全部服を脱ぎ終わると自分の膝裏に手を入れて、大きく脚を開いた体勢を作る。
これもそうしろと教えた仕草で、まだ慣れないのか恥ずかしそうにちょっと目を伏せるのがまた良い。

一旦身体を離してローションを取ると、葉柱はさらに恥ずかしそうに顔を背けるように俯いてる。
そのくせ、何度も抱いて慣れきった身体の方は、慣らす作業に入れた指に大げさに反応して身体をくねらせてる。

ウブい反応に淫乱な身体。男の夢だなこれは。

「あ、ぁ……っ」

イイ所を指で掠めるように刺激してやると、ビクっと反応して反射的に脚を閉じようとする。
それに軽く舌打ちしてみせたら、伏せてた目を開いて泣きそうな顔をしながらおずおずと脚を開きなおして腰を突き出してくる。

それを褒めるように性器も触ってやったら、怒られないと思って安心しなのか息を吐いて肩の力を抜いてる。

そういう姿を見ると、じゃぁやっぱり怒ったフリでもして苛めてやろうかなって気になるのはなんなんだろうな。

「ハバシラ」

上に覆いかぶさって名前を呼ぶと、条件反射のように背中に手を回してくる。

「オネダリしろ」
「…………あ?」

返事が可愛くねーな。
顔を覗きこんだら、目をうるうるせせたままポカンとしてる。
なんて頭悪そうな顔だ。

「欲しいだろ? オネダリしろよ」

身体をくっつけたまま後ろにアレをあてがったら、やっと意味の分かったらしい葉柱がカァっと顔を赤くする。

そう言えば、そういうことをさせたことってまだ無かったな。
葉柱はどうしたらいいのか分からないのか、赤い顔をしたままもじもじしてる。

だからってまぁ、まだ精通のないガキでもあるまいし、AVのセリフでもなんでも持ってきて、言ってもらおーじゃねーか。

「あの…………」

焦らすように先端で穴を引っ掻けるように擦りつけると、葉柱がもじもじしながらもやっと口を開く。

「も、いれろよ…………」
「色気ねーこと言ってんじゃねーよ」
「だ、だって」
「ケツマ×コにハメてってお願いしろ」
「………………」

耳に唇をくっつけると、またそこがじわじわ赤くなっていくのが分かる。
軽く噛みついてみると肩をすくめるようにして、顔をみたらぎゅっと目を瞑ってる。

「早くしろよ」

そうやって促して髪を撫でてみても葉柱は目を瞑ったままで、どうやらそうしてるうちにうやむやになって止めてくれないかなとでも思ってるらしい。

「ハバシラ」
「………………」

名前を呼んだらもうちょっと懐いてくるかと思ったのに、まだ頑張って目を瞑ってる。

「ハバシラ、オレのこと好きだよな?」
「……え? あ、う、おぉ……」

だからお前の咄嗟の返事って可愛くねーよ。

「じゃ、オレの喜ぶことしてーよな?」
「……………………」

我ながら死ぬほど意地の悪い声が出たなと思ってると、葉柱がじわじわと目を開ける。
その泣きそうな顔は、結構気に入ってんだ。
ブサイクなテメェにしては、カナリ良いって言っていい。

「ひるま」

その顔にぴったりの泣きそうな声で名前を呼んできて、震える手が頭の後ろにまわってくる。
キスでもして誤魔化そうとしてるのかなと思ったら、そうやって頭を引き寄せると耳に口元を寄せてきた。

「あの…………」

恥ずかしすぎるのか、声が大分か細い。
でもそうやっていつまで経っても慣れないところがまたいいんだよな。

葉柱が泣きそうな声で要求されたオネダリを耳元で小さく言うのを聞いてから、腰を押し付けるようにしてぐっと深く挿入した。





コトが終わった後は、必ず葉柱と反対の方を向いてベッドに横になる。
熱が冷めるのは一瞬で、火照った身体から汗が引くより先に気持ちの方が落ち着いてくる。

落ち着くって言うか、落ち込むと言った方が近いくらい。

「くっつくなつったろ」
「あ、おぉ……ごめん…………」

だからこうして反対を向いているってのに、葉柱はそういう射精直後の感情の起伏ってものがないのか、背中にぺたっとくっついてきたりする。

葉柱は、物覚えはいいし聞き分けもいい。
なんだったらもう殆どいいなりだと言ってもいいくらいなのに、なぜかそのクセだけは何度止めろと言っても直らない。
セックスする度に終わった後くっついてきては、止めろと言うと謝って離れてはションボリしてる。

またかよと思って目を瞑り、イライラした気持ちが収まるのを待つ。

だいたい、射精直後なんてそこそこの女でもウザったいのに、カメレオンなんかだったら堪ったもんじゃねーだろ。
オレが絶望して死んだらどうしてくれんだよ。

コイツ早く帰んねーかなーと思ってると、そういう気配を察してなのかなんなのか、葉柱はもぞもぞベッドから抜け出して服を整えだす。

「葉柱」
「え? おぉ、なに、なになに」
「帰るなら、縛った雑誌外出しとけ」
「………………おぉ」

呼びかけたことで葉柱が一瞬なにやら期待したような雰囲気を出したことは分かったけど、用事だけ言いつけたらまたシュンとしてシャツのボタンをはめ直してる。

まぁバカ犬みたいなもんだから、どうせ明日になったらこんなことはスッカリ忘れてキャンキャン懐いてくるんだろうけど。

ベッドの上から起き上がらずに、葉柱が隣の部屋でもぞもぞなにやらやってるのを音でだけ聞く。
しばらくすると、葉柱が出て行ったんだろう玄関のドアの閉じる音が聞こえてきて、それからようやくベッドから起き上がった。

とりあえず風呂に入ろうと風呂場に向かったら、すっかり洗われた浴槽になみなみとお湯が張られてた。

おい流石だな。
風呂焚き機能つきダッチワイフ。










基本的に、日曜日に葉柱と会うことはない。

葉柱と会うのはこちらから呼ぶときだけだし、葉柱を呼ぶのは部活後の送迎に使うときだから。
買い出しやらなんやらの細かい雑用もそのときに一緒に言いつける。

だから普段よりゆっくり起きる日曜の朝、冷蔵庫を開けて牛乳が切れてることに気付いたとき胸中で舌打ちした。

日曜日は葉柱を使いたくない。
なぜなら、買い出しなんか言いつけて持ってこさせたら、アイツはそのまま部屋に居つくに決まってるから。

平日毎日会ってるのに、日曜日まで葉柱と一緒なんて冗談じゃない。
まるで所帯持ちみたいな感想だなと思いながらも、しょうがないから顔を洗って服を着替えた。

ついでにちょっと走りに行って、帰りに買い出ししてこよう。

髪を整えるのも面倒くさいから帽子を被って、音楽プレーヤーと財布だけをポケットに入れて玄関を出る。
最近めっきり寒くなって来たけど、走りに出るには中々いい陽気だ。




サイクリング用に整備された道をずーっと走って、プレーヤーの中身が一巡するとちょうど一時間、その辺で折り返すようにしてる。
そういえば買い物しようと思ってたんだと、帰りは来た道をちょっと外れて、コンビニのある通りに向かう。

コンビニくらいならいくらでもあるけど、どうせなら一番家の近くがいい。
そう思ってすぐに見えた一件目は無視してそのまま通り過ぎようとして、その駐車場に見慣れたバイクが止まってることに気付いた。

思わず速度を緩めると、バイクの影にしゃがみ込んでる葉柱も見えて、マジかよと思ってうんざりする。
結局日曜日まで、葉柱の顔なんか見ちまったじゃねーか。

バイクは他にも何台かあって、葉柱は同じようにしゃがみ込んでる同世代の男と話し込むのに夢中なようで、まだコッチには気付いてない。

しかしこうして見ると、アイツ悪い顔してんな。
忘れがちだけど、なにせ不良校として名高い賊学の番長様だもんな。

周りのヤツらも似たような風体のばかりだし、あんなのにタムロされたらコンビニも堪ったもんじゃねーだろうな。

葉柱は、いつもの長ランは流石にきてない。
髪もいつもよりちょっと緩めに撫でつけてあるだけで、見慣れなくて不思議な感じだ。

それに一番見慣れないのは、大口を開けて笑ってるその表情だろうなと思う。

最近よく見る葉柱の顔は、照れてにまにまと笑ってる顔だ。
笑ってるって意味じゃ同じなのに、心底面白くて堪らないって感じのその表情を、今まで見たことなんかなかった。

「………………」

それを見てると、なんとなくムカムカしてくる。

なにをヘラヘラしてんだよ。
オレんちの牛乳きらしやがって。
そういうのを言われなくても補充するのが、家事機能付きのお前の利点じゃなかったのか。

「オイ」

ムカついた気分に従って葉柱に文句をつけようと近寄って声をかけたら、葉柱は「あ?」とか言いながらアホみたいな顔で首を傾げるようにして視線を上げる。

一瞬ポカンとした顔をしたのは、こっちが帽子を被ってたからかもしれない。

「あぁ、おぅ」

それからご主人様を認識したのか、驚いたような顔でそれだけ言う。
隣の男が「ダレ?」って感じで葉柱に目配せして、葉柱はその視線に困ったように「えーと」とかなんとかもごもご言ってる。

この野郎。
オレ様が話しかけてやったのに、なに迷惑そうな態度とってんだよ。

まぁそうだな。
どういう関係かと聞かれても、ご主人様ともカレシですとも答えらんねーだろう。
後者の方なんか言われたってオレも困る。

だからって、あからさまに困った顔しやがって。
テメェはオレにベタ惚れなんだから、どんなときでも喜んで尻尾振って腹を見せた服従のポーズをとるべきだろう。

「家まで乗せてけ」
「え? あ、いや…………」

今そう言われたら、困るだろうなって言葉をあえて選んでみた。
なにやらお仲間と楽しくやってるようだし、他人に追従する姿なんか人には見られたくないだろうし。

「なんか不都合でも?」
「……いや、ない。送る」

不都合だらけなはずだろう葉柱にそう続けたら、葉柱は困った顔をしながらもそう言って立ち上がった。

そうだろそうだろ。
テメェはなによりも、オレの言葉とオレの都合を優先するべきだからな。

喜んでって感じじゃない態度に多少の不満は残るものの、大人しく従う葉柱に少しだけ溜飲が下がる。

乗り慣れたバイクのリアに跨ると、葉柱が「後で連絡するから」とかなんとか話してぐずぐずしているので脹脛を蹴って発進を促す。
チラっと見てみたら、しゃがみ込んだままの有象無象が睨みつけてきてたので、それににこやかに手を振ってコンビニを離れた。





「あぁ、そこのコンビニ寄ってけ」
「あぁ?」

そういやそもそもの目的は牛乳なんだよ。
バイクで帰るなら、さっきのコンビニで買っとけばよかったなと思ってもあとの祭りで、途中のコンビニで一度止まって牛乳とついでにガムを買う。

家についたら葉柱はバイクから降りずにそのままとって帰しそうな雰囲気を出してたので、その荷物を葉柱に渡して持ってくるように促した。

普段は来いと言わなくてもイソイソと付いてくるくせに、こんなときだけそういう態度なのも気に入らない。

部屋に入った葉柱は買ってきたものを冷蔵庫にしまうとまたソワソワと帰りたそうな雰囲気を出すけど、ちょっと優しくしてやったらすぐバカ犬のように尻尾を振ると思ったのでぎゅっと後ろから抱きしめてみた。

ただ、そこまでしてやったのに、葉柱はまだ困ったような空気を出してる。
なんてムカツク野郎だ。

どうやらこの後、さっきの野郎どもと何やら予定があるみたいだけど、葉柱の都合なんて知ったことじゃない。
というか、葉柱にとってオレより優先すべき都合があっていいわけない。

ムシャクシャするから、とりあえず一発抜いてスッキリしようと思い、葉柱をそのまま壁に押し付けて後ろからベルトに手をかける。

「…………オイッ!」

いつもは大人しい葉柱が焦ったような声を出して軽い抵抗を見せるので、舌打ちしてみせると一瞬竦んだように動きをとめる。
ただホントに一瞬で、すぐに「今日はちょっと」とか「前からの約束が」とかごにょごにょ言って腕の中から抜け出そうとしてる。

葉柱がベルトを外されないように掴んでいるので、しょうがなく服の上からケツを撫でてみる。

コイツ、男のクセに結構ケツに肉ついてて、それがエロくて中々いいんだよな。

「いーケツ」

それを鷲掴みにしてそうやって感想を耳元で漏らしたら、葉柱のうなじがじわじわと赤くなってくる。

「やめろよ」

てっきり喜んで照れてるのかと思ったのに、冷めたような口調でそんな可愛くないことを言うから、もしかしたら怒ってるのかもしれない。

どうあってもヤラセねー気か。
つーか、そんなに行きてーの?

「さっきのヤツ誰?」
「え? あ、えーと、友達…………」

友達ねぇ。

「アイツ、チ×ポデケーの?」
「………………ハァ?」

すぐその気になるようなエロい身体してるくせにのってこないなんて、まさか他所で咥えこんでんじゃねーだろうな。

「セックスうめーのかって聞いてんだよ」
「し、知るワケねーだろ!!」

葉柱がビックリして手を離した隙に、ベルトを外してケツを剥き出しにさせる。
それから背中を押して壁に押し付けるようにして腰を突き出させた。

「ホントかよ。何回かくらい試したんじゃねーの?」
「んなわけ……」
「あぁ、今日これから試す気だったとか?」

本当のところは、まぁそんなことは無いはずだと思ってる。
一応聞いてみただけだけど、怒って怒鳴り返してくるかなと思った葉柱は、絶句したように押し黙った。

「シカトしてんじゃねーぞ」

これは相当怒ったかな。

葉柱は黙ったままのくせに壁に押し付けられた状態から抜け出そうと抵抗を再開したので、足首までさがったズボンを踏みつけて、葉柱をその場に縫いとめる。
こうしてしまえば、細身のパンツからは足が抜けない。

「…………っ、離せよっ!」

いつもは愁傷に振る舞って全て言いなりの葉柱が、オレの意向に反した抵抗を見せるってのに心底イライラする。
ただ、そういう葉柱を押さえつけるのは結構興奮した。

頭に血が上るのが、ムカツキなのか欲情なのか曖昧になって、最終的には「こういうのも悪くねーな」みたいな結論に落ち着く。

気分的には、なんかもう殆どイメクラだ。

「悪さしてねーか調べてやるよ」

それっぽいセリフを選んで言ってみたら、結構ぐっときた。

怒った顔をした葉柱見ると、そういえば賊学の番長さんってやつなんだなと思い出す。
それを押さえつけて犯すプレイってのは、自分の性癖にしっくりくるような気もする。

葉柱の口元に指をさしだすと、いつもだったら何を言う前にペロペロ舐めて熱心に濡らしてくるくせに、今の葉柱は嫌がるようにフイっと顔を背けた。

なんかヤベーな。それも結構燃える。

動くと痛むように、肘の尖ったところで葉柱の背中を押さえつけながら自分で指を舐めて濡らす。
その指で、わざと乱暴に入口を弄ったら、葉柱が喉を「くぅくぅ」鳴らしてる。

泣いてるのかなと思って期待して顔を見てみたのに、流石に泣いてはいなかった。
泣きでもしたら、もっと気分が出るんだけどな。

イラつきよりも楽しい気分が勝ってきて、逸る気持ちに押されるように自分のベルトを外す。
身体をひねって逃げようとする葉柱の髪の毛を掴んで引っ張ってみても、「痛い」の「い」すら言わない感じが、反抗的で中々良い。

「糞ビッチが。浮気したらどうなるか教えてやるよ」
「し、てない、してな……ぁ、あっ!」

全然慣らし足りてないとこにネジ込むと、キツすぎるし潤いも足りないしで痛い。
ただ、このシチュエーションにはピッタリすぎるなと思うとやっぱりなんか燃える。

立ちバックってのも意外と良いし、葉柱の格好が下だけ脱いで足首のとこにズボンとパンツが絡んでるっていうマヌケな格好なのもまた良い。
マヌケな格好で犯される番長様。

まぁ、傍から見たら俺も同じ格好なんだけど。

愛撫的なことは一切抜きにして、葉柱の腰骨の辺りを掴んで後ろから突きまくると、たまに揺さぶられてる葉柱が勢い余って壁に額を打ちつけてる。

オレ今、賊学の番長様にムチャクチャしてんな。
まったく勘弁してくれよ興奮すんじゃねーか。

「ハバシラ……」
「ひっ…………ぃ……っ」
「謝れよ」

葉柱の後ろ髪を、首を上に撫で上げるようにして持ち上げる。
白い首。オレが噛みつくためにある場所だなこれは。

「んで、してねェって……くそが!」

一息に噛み切ったら勿体ないのでやわやわ歯を立てると、葉柱がビビって萎縮してるのが分かる。
クソだのなんだの騒ぎたててるくせにコレだもんな。
なんだってそんなに人を煽ることにだけは長けてんだコイツ。

「テメェは誰のもんだ?」
「うぅ、う…………」

泣いてるかな? 顔が見てーかも。
でも今気持ちいいから止めらんねーな。

「答えろよ」

答えなくてもいいけどな。
いや、答えない方がいいかもな。

嫌なのに、無理やりハメられてイカされるってもうAVじゃねーか。
お前こういうのなんか似合うのな。

「ぎっ…………」

もうイキそうだなと思ったので、せっかくだからやっぱり泣き顔でも拝みながらイこうと思い葉柱の髪を引っ張って顔を向けさせた。

「…………」

そしたら死ぬほど生意気そうな顔で睨んできたので、堪らなくなってその口に思いっきり噛みつきながら腰を押し付けて中に射精した。





「はー…………」

出し切ってから、壁に手を突っ張ってアレを抜いたら、葉柱の腿が笑えるくらいブルブル震えてた。
そのままヘタりこむかなと思ったけど頑張って立っているので、まぁいいかと思い葉柱の背中にもたれかかる。

肩に顎を乗せて寄りかかっても、相変わらずブルブルしながら健気に立ち続けてる。

しばらくしたら、葉柱がもぞもぞ動くので壁に肘をついて身体を少し離してみる。

プレイとしてなら、怒ってる葉柱を押さえつけるのは楽しかったけど、ここでまたぎゃーぎゃー騒がれたらメンドクセーなと思ってたのに、葉柱は腕の中でくるりと反転してきただけで、全然暴れ出す気配がない。

それどころか、眉はちょっとへにゃんと垂れ下がって、口元はまさかと思うけどにんまり笑ってる。

なんだコイツ。どしたんだよ。

「あの、さ…………」

不思議な葉柱は、もじもじして視線を下の方に向けてる。
それから背中に手を回してきたので、ちょうどオレも疲れてるしと思って腕の力に逆らわずまた葉柱に寄りかかった。

「テメェってさ、意外と、ヤキモチ妬きなのな」

……………………。

「………………ア?」

どういう話だ?

またテメェお得意の、自分に都合のいい解釈が頭の中で展開されたのか?
もしくは、もしかして今寝てたのか? なんかいい夢でも見てたのかよ。

葉柱はピッタリくっついてきたまま、「くふふー」と照れ笑いのような音を漏らしてる。

なんなんだ。

もしかして、「オレ以外と寝てんじゃねーぞ」みたいな流れが、コイツは「ヤキモチ」だと判断したわけか?

バカかコイツは。
よく考えてみろよ。

例えば、自分の歯ブラシを、誰か知らねーヤツに勝手に使われたりなんかしたら、キショク悪くてしょーがねーだろ。
オレが言ってたのはそういう話だよ。

まぁ、どうでもいいけど。
わざわざ訂正して面倒臭いやり取りをするような羽目になるのも嫌だし。

変な勘違いをされるのは癪に障るような気がするけど、どうせ基本的にコイツイカレてるからな。

「………………」

ただ実は、オレは今一個恐れている。

出した直後なのに、しかも葉柱はこんな気持ち悪い感じで笑ってるのに。

回された腕を「まぁいいか」と思って振りほどかないでいるこの今の気分が、後に致命傷となってオレを殺すかもしれない。


'14.01.30