ルイヒルの名前
「…………なに見てんだよ」
ベッドの中で目を開けたら、すぐそこにある葉柱の顔と目があった。
まだ暗い。
なんか、変な時間に目ェ覚めちまったな。
まぁ、コイツもなんで起きてんだって話だけど。
「可愛いから」
「……あぁ、そう」
テメェ、よくそんなことサラっと真顔で言えんな。
一体今何時なんだろうとサイドテーブルに置いてある時計を振り返ろうとしたら、それより早く葉柱が手を伸ばして顔を捕まえられる。
「キスしていー?」
「どう思う?」
精一杯嫌そうな顔を作って言い返してみる。
「…………いいと思う」
そりゃ、またえらく自分に都合のいいように解釈したもんだな。
もういいとも悪いとも言わなくても、葉柱がもぞもぞ近づいてきて顔を寄せるので、しょうがなく目を閉じてそれを受け入れる。
「オヤスミのちゅー」とか、そういうアホみたいなことがしたいんだろうなと思ってたのに、一回ちゅっと唇を鳴らして離れてから、すぐにまた口に吸い付いてきて、今度は舌も入れてきた。
テメェ、あんだけヤったのに、まだヤル気なのかよ。
まぁ正直、そういうところも気に入ってんだけど。
誘うように脚を開くと、スグに葉柱そこに収まるように体の上に乗りあげてくる。
そのくせまだ挿れないで、髪を触ったり耳や頬にキスしたり忙しい。
葉柱に触られて初めて、自分が何も着ていないことに気づいた。
ヤってそのまま寝たんだな。
そのままっていうか、いつ寝たっけ?
まさか、気絶してたんじゃねーだろーな。
「なー、ゴム、つけたくない……」
急に葉柱が甘えた声でそんなこというので、なんだそりゃと思って顔を見てみる。
コイツがそういうワガママっぽいこと言うのって、珍しいし。
「ナマでいい?」
なんか、子供みてェな顔してんな。
眠てーの?
だったらヤリ始めないで寝りゃよかったのに。
眠たい子供がグズってるみたいな仕草の葉柱が、なんとなく珍しくて可愛らしい。
「どう思う?」
「…………いいと思う」
さっきと同じように聞いてやったら、やっぱりそんなことを言って、もぞもぞ動きながら腰の位置を調整してる。
まぁいいかと思って息を吐いて待ってると、冷たいローションが塗り付けられる感触があって、それからスグに葉柱の性器があてがわれる。
首に手を回すと懐いてくるようにスリよってきて、そのまま腰を押し付けるようにしてぐっと埋め込まれる。
「んー……」
ベッタリと身体をくっつけたまま、ゆっくりと腰だけ使ってゆるく快感を拾ってる。
スグに激しくなるだろうと思って、息を合わせて待って見ても、いつまで経っても葉柱がそうやってダラダラしてるから、咎めるつもりで伏せていた目を開けて睨んでみる。
「…………」
なに、変な顔してんだよ。
テメェ、オレがヤラせてやってんのに、そんな顔していいと思ってんのか。
しかも、ナマで。
「なんだよ」
ムカついた気分を隠さないで言ったら、葉柱が慌てたように目を逸らす。
そのくせ、そのままキョロキョロしたりして、表情が晴れない。
なんか変なこと考えてんだろうな。
もしくは、なんか企んでるか。
コイツ頭悪ィし、どうせ碌なことじゃねーんだろうな。
そういやこの前も、「オレのこと好き?」って一言がずっと言えなくて、なんかグズグズしてたときあったもんな。
別にオレだって鬼じゃねーんだから、ベッドの中でイチャイチャしてるときくらい、そういうのに付き合ってやってもいいと思ってんのに。
テメェがそういうの好きだって知ってるし。
「ハバシラ……」
しょうがないので意識して甘く名前を呼んで、それから髪に手を差し入れて頭を撫でる。
ついでにキスをしてやれば、葉柱の顔がちょっと緩んで、それから目に縋るような色が浮かんでくる。
なんか、オネガイしたいことでもあるのかな。
オレ、結構お前のこと可愛がってんだから、こうやってイチイチ優しくしなくても、そんくらい言えばいいのに。
「…………ヨーイチ」
ゆっくり頭を撫でながら、葉柱の口が次になんと言うのかを待ってたら、葉柱は凄く小さい声でそうやって言って、それからカァっと顔を赤くしたかと思うとそれを隠すようにぎゅっと抱き着いて肩に顔を埋めてきた。
「………………」
なに。テメェ、名前呼びたかったの。
そういや、テメェにそうやって呼ばれるのって初めてだな。
つーか、「ナマでヤラせて」は簡単に言ったくせに、名前の方が呼びにくいのかよ。
くっついてる頬が熱い。
凄ェ照れてんなお前。
それ、いつから呼びてーと思ってたわけ?
どうせ結構な間もやもや考えたんだろうな。
テメェって凄ェメンドクセェ。
「ん、ルイ……」
それでもそういうとこが、まぁ可愛いかもななんて思うんだから重症だよなぁ。
葉柱の遊びに付き合ってやるつもりで、こっちも初めて名前を呼んでみた。
確かに、ちょっと緊張するかもな。
でも、悪くねェかもな。なんか結構感じる。
「……っ」
耳元で言った名前に、葉柱の肩にビクっと驚いたように力が入って、それから中に入ってるアレがデカくなるのがわかる。
まったく、コーフンしてんじゃねーよ。
「あ、ぁ……、ヒル魔、ヒル魔っ」
オイオイ、そこは「ヨーイチ」って呼ぶとこじゃねーのかよ。
さっきまでのダラダラはなんだってくらい、急にガッツイた葉柱が興奮したように腰を振り立ててる。
「あ、ン、ルイっ」
「ヒル魔っ」
そっちから始めた遊びを思い出せるように名前を呼んでやったのに、コイツ興奮しすぎてスッカリ忘れてやがんな。
オレにばっか呼ばせてんじゃねーよ。
「あ、ヒル魔、も、イクっ」
イイともダメとも言う前に、葉柱がぎゅっと強く肩を掴んできて、そのまま腰を押し付けて中に出されてるのが分かった。
「ん、ん……」
興奮しきった顔で、出す度に声を漏らしてる。
「…………んー」
出し終わったら身体の力を抜いて、満足そうな溜息ににたような声を出しながらよりかかってくる。
まったく、テメェばっかヨクなんてんじゃねーよ。
オレまだなのに。
名前だってオレにだけ呼ばせて、テメェだけイイ思いするなんてズリィだろ。
「葉柱」
だから今度は、あえて苗字で呼んでみた。
まだ息の整ってない葉柱が、少し身体を起こして不満そうな顔をしてる。
なんだよ。また「ルイ」って呼ばれてちゅーでもしてもらえるかと思ってた?
そういうのは、テメェがうまくやったら、お返しにコッチもしてやるサービスなんだよ。
こっちの雰囲気に、自分がなにか間違えたのかもって思い当ったらしい葉柱は、機嫌をとるように懐いてきて髪を撫でてきた。
「ヒル魔?」
だから、そーじゃねーだろ。
まったく、テメェは頭悪ィ。
'13.07.01