はじめてのベッド
ソファの隣に座る葉柱の様子を、よーく観察する。
アホみたいにちょっと口をポカンと開いて、前のテレビを熱心に見てるようだ。
すぐに唇に吸い付きたくなったけど、今はまだ早そう。
コイツがもうちょっとテレビに飽きてからの方が、すんなり出来るだろう。
なにせ、今日はまたちょっとお願いをしてみるつもりだから。
土曜日、授業は無ェが部活はあって、当然葉柱を呼び出して送らせた。
明日は日曜日で、部活は無い。
こういう日は、いつもより多めに仲良くしてくれるから、いやがおうにも期待が高まる。
テレビに目を向けると、最近流行ってるらしいドラマ。
だいたい主人公の男と女が、うまく行きそうになっては、勘違いやらすれ違いやらのアクシデントで中々うまく行かない、みたいなのを毎週延々繰り返してるだけの。
前にもタイトルとキャストが違うだけで、同じようなのやってなかったか? と思うのに、糞マネなんかはトモダチと「泣ける」とか言って盛り上がってて、意外なことに、コイツもこれが結構好きらしい。
テレビの中では、結局いつも通りのすれ違いで仲をこじらせた男女の引きで終わる。どうでもいいっつーの。
結局最後はハッピーエンドってやつになるだけだろ? うだうだうだうだ、時間の無駄だろ。
呆れた顔で葉柱を見ていたら、それに気づいた葉柱が「なんだよ」とか、ちょっと口を尖らせる。
別に? テメェがこんな少女趣味なドラマみて、しかも感情移入しすぎて泣きそうになってたって、全然かまわないからオレは。
「言っとっけどな、これ、皆見てんだぞ」
「あ、そー」
「オレだけ話についてけなかったら困るだろ」
困らねーよ。
だいたい、話についていくためだけとは思えないほど、熱心に見てたくせに。
それよりも、ドラマはもう終わったから、そろそろいいんだよな?
身体ごとすり寄るように近づいて、葉柱の機嫌を確かめながら腕を撫でる。
葉柱はまだちょっと拗ねたような顔をしてたけど、嫌がらないでそのままにさせてる。
うん。もういけそう。
「なぁ……」
腰を掴んで身体を引き寄せて、背中を撫でると、葉柱も同じように返してくれる。
髪の感触を楽しむように首に触り、くすぐったがって笑う葉柱の頭にキスをする。
「……なに?」
「今日、ベッドでしねェ?」
「…………」
いつもは、ソファに座って、葉柱を膝の上に乗せて楽しむんだけど、そろそろ、違う場所でなんてどう? って。
「……なんで」
警戒したような目をしてる葉柱の顔をじっくり観察する。
最近気づいたが、オレのお願いに対して、最初の返事が「なんで」のときは、結構聞いてくれる可能性が高い。
つまりコイツは、「まぁいいかなー?」と思いつつも、オレが変なことしないかどうか心配で、もっと言うと、掘られることが心配で、「なんで」なんて聞いてくるわけだ。
「別に? なんとなく。気分出るじゃん」
最近は、葉柱のケツの方には手を伸ばしてない。
だから、コイツの警戒心は結構薄れてるはずだ。
「お前膝に乗せてんのも重てェし」
別にそんなことは全然なかったけど、そう言ってやれば、葉柱は「そうかもなー」みたいな顔で思案してるから、これはいけるな。
ここで葉柱が「変なことしねェ?」とか聞いてきて、それにオレが「うん」って答えりゃ一発だ。
「変なことしねェ?」
「うん」
あまりにも予想通りだったので、笑いそうになるのを我慢した。
ここで機嫌損ねちゃかなわねェからな。
ここは2DKだから、一応寝室というか、ベッドのある部屋は分かれてる。
そっちへ歩いていって、それから見せつけるように服を脱ぐ。
実はコイツが、オレの身体を結構好きってのを知ってるから。
わざと焦らすようにゆっくりそうすると、葉柱の目がすぐ興奮して濡れてくるのが分かる。
「テメェも脱げば?」
舐めるように見てくる視線に興奮を覚えながら促すと、葉柱も服を脱いで、ベッドの端に座る。
すぐに引っ掴んで押し倒したくなるのを我慢した。
驚かせて、やっぱナシなんてことになったら堪んねェ。
「葉柱」
隣りに座って、そーっと引き寄せると、目を閉じてくれるのでそのままキスをした。
背中に回された手が首から上り、髪に手を突っ込まれると鳥肌が立つように気持ちいい。
そのまま腰と肩を支えるように押し倒すと、裸の胸がぴったりくっつく。
相変わらず、コイツの肌ってのは凄ェイイ。
この身体は、オレのためだけにあるんじゃないかって思う程。
葉柱の反応に注意しながら腿を撫でてみる。
特に緊張はしてなさそうだったので、脚を開かせ、身体をその間に割りいれた。
「おいっ」
所謂正常位みたいな体勢になると、さすがに葉柱がちょっと焦った声を出す。
「ん?」
脚を閉じようとする葉柱に腰が締め付けられると、まるでしがみつかれてるような気になって逆にいい。
別にまだ脚抱え上げたわけでもねェんだから、そんなに焦らなくったっていいと思うのに、葉柱的にはかなり不安をあおられる体勢らしく、腕をつっぱって胸を離された。
「なに? しねェよ? 変なことは」
そんなこと、思いつきもしなかったぜって口調で言えば、葉柱が疑わしげな視線を向けながらも抵抗を止める。
ホントだって。今日はするつもりない。
かなり興奮する体勢なのは事実だけど、焦って手を出したら、もうベッドに乗ってくれなくなるかもしれないし。
ベッドでやるのが当たり前ってくらいになってから、先に進めるつもり。
葉柱に信用させるように、腰から下は触らずに、髪や腕を撫でて、いつものようにキスを繰り返す。
ほらな? いつもしてることしかしないだろ?
場所と体勢がちょっと変わっただけで、いつもと一緒だって。
なだめるように体を撫でても葉柱の緊張がとれないのは、やっぱりおっ勃ったアレが股間に押し付けられてるせいだろう。
開かされた脚の間にそんなもんがあったら、まぁ怖いってのは頷ける。
ちょっとでも油断したら、すぐ掘られんじゃないかって。
だって、しょうがねェじゃん。
身体くっつけたら気持ちいいし、ベッドの上だし。
確かに、この脚担ぎ上げてブチ込んでやったら、凄ェ気持ちいんだろうなと思うけど。
ちゃんと我慢すっからさ。
「なぁ、手でシテ」
身体を肘で支えるようにして、葉柱との間に隙間を開けてお願いする。
「じゃ、ちょっと上から退けよ」
「なんで?」
「……やりにくいじゃねーかよ」
「このままがいい」
ついでにお前が脚で腰を抱いてくれたりしたらもっといいけど、まぁそこまで贅沢は言わないから。
「いーから退けって」
「このまましろ」
譲らないで粘ってたら、葉柱が諦めたように下に手を伸ばしてきた。
もしかしたら、このまま勃ったもん押しつけられてるのは危ないから、さっさと手で萎えさせようとか思ってるのかもしれない。
「ん、気持ちいい……」
オレが声出すとコイツが喜ぶから、我慢しないで思い切り甘えた口調で耳元に囁く。
そうするといつもはスグに興奮して、首を舐めたり身体を触ったりサービスしてくれるのに、今日はもじもじしたまま視線も合わせてこない。
「ちゃんとやれよ」
「だから、やりにくいんだよっ」
膝の上でしてくるときは強気だったくせに、今はされてるときみたいに恥ずかしがってる。
手はちゃんとシゴいてはくれてるけど、それだけじゃ足りない。
「ヒル魔、お前下寝ろよ。乳首舐めてやるから。好きだろ?」
どうしても、この体勢が嫌らしい。
そりゃ、好きだけど。気持ちいし。
でもオレは、これがいいの。
ベッドの上で葉柱を押し倒して、気分だけは相当興奮してるのに、身体の快感が付いてこなくてもどかしい。
いつもだったら、アレだってもっとネチっこく色々してくれんのに、おざなりに手でゆるゆるとシゴかれるだけだし。
「うぁっ」
イラだって葉柱の首に噛みついたら、良い声が聞こえてきたことに少しだけ満足する。
ついでに、驚いたせいでビクっと力のこもる手にも。
それから思いついて、葉柱の手首を掴み、握らせたまま手を自分の下腹部に押し付けさせた。
「な、なに……?」
「そのままにしてろ」
そうして、手を固定したまま、穴を擦るときみたいに腰を使って擦りつける。
「…………っ」
意味の分かった葉柱が顔を真っ赤にするのを見て、更に興奮がこみ上げた。
「ヒル魔っ」
「動くなよ」
上に覆いかぶさって腰を振ると、疑似的にだけど、ありありとセックスを連想させて堪らなく気持ちいい。
葉柱の首や鎖骨に噛みつくと、ビクっと痙攣して握る手が強くなるのも、感じて締まる中を思い起こさせる。
葉柱は緊張したように身体を硬くさせていて、それも更に興奮を煽った。
挿れてるわけじゃないのに、挿れてる気分。
「葉柱、なぁ、気持ちいいって言えよ」
「………な、なんで」
「言えって」
葉柱の腕や脇腹を何度も撫でる。
感じてる声が聞きたい。
オレに挿れられて、気持ちいいって言わせたい。
「ん、イキそう……早く言えって」
「だって……」
分かってる。ホントは挿れてないし、葉柱の前には触ってないから、イイも悪いもないって。
でも分かんだろ? ちょっとくれェサービスしろ。
肩を掴んで思いっきり腰を振ると、射精感がこみ上げてきて堪らない。
でもまだイキたくなくて、葉柱の首に噛みつきながらそれをやりすごす。
「ヒル魔…………」
「ん……」
名前、呼ばれんの、やっぱ凄ェイイ。
「…………キモチイ」
「……くっ」
葉柱が、聞き取れるギリギリくらいの声で、そう言った。
ドクっと先走りが漏れたのが分かって、それでもまだ出ないように必死に堪える。
「もっと、言え……」
声が上ずる。もう出そう。気持ちいい。
「ん、気持ちいい、ヒル魔……うぁっ」
興奮が抑えられなくて、首を噛む顎に力が入った。
ヤバい、血がでるかも、と思ったけど、止められない。
「い……ってぇ、バカ」
「イイって言えよ。イイんだろ?」
そのまま、同じように鎖骨にも噛みつく。
葉柱が顔を仰け反らせて、見える首が白い。
「ぅ、痛ェって……」
「気持ちいって言え」
「ふ……ン……」
腰の動きを早くすると、肌がぶつかり合って音がなる。
本気でセックスしてるみたい。
「気持ちいい……、ァ、ヒル魔、気持ちいっ」
葉柱が叫ぶようにそう言ったのに満足して、そのまま我慢できずに射精した。
思いっきり押し付けて、中に出すみたいに。
出された精液が腹にかかる度、葉柱の喉がヒクっと鳴って、それに堪らない満足感を覚える。
そのまま腰をまわして手にこすり付けながら全部出し切ると、葉柱が放心したように手を離してだらりと腕を下げた。
これは、かなりイイ。
ソファでやるより、断然興奮する。
突っ張ってた腕から力を抜いて、葉柱の上に倒れこんだ。
「重たい」とか文句を言われるかな? と思ったのに、葉柱が何も言わなかったのでそのまま肌の感触を楽しむ。
イった後は、いつもキスしてくれたり髪を撫でてくれるのに、それがないから催促するように葉柱の腕を撫でる。
なんだよ。もしかして、ちょっと怒ったか?
たしかに、結構強く噛みついたような気がするし。
少し心配になって首元を見たら、くっきり赤くなってはいるけど、血が出てるほどじゃない。
それに安心して、その跡を丁寧に舐めた。
いつまでたっても葉柱が大人しいので、少し身体を起こして顔を覗き込んでみる。
目があった瞬間に、また葉柱が燃えるように顔を赤くしたので、照れてるだけだと分かった。
「なぁ」
「…………なんだよ」
そういう顔を見てると、悪戯心ってのがどうしても湧き上がってくる。
悪いクセだと思うけど、楽しくてやめられない。
「オレに犯されてるとこ、想像したんだろ?」
上に伸し掛かられて、アレこすり付けられてさ。
「興奮した?」
「黙れよっ」
顔を背けて赤くなっていることを隠そうとしているようだけど、もう首まで色づいてるから全然意味がない。
「気持ちいいって言ってたしな」
「テメェが言えって言ったんだろっ」
「ケツに挿れられてるとこ想像して、興奮したんだろ?」
むずがるように逃げ出そうとする葉柱を許さずに、前に手を伸ばして握る。
予想通り、すっかり立ち上がって先走りを漏らしてる。
「オレに犯されてるって思って、こんな漏らしてんだ?」
「ヒル魔っ」
「ケツに突っ込まれて、気持ちいい気持ちいいって叫んでたよなぁ」
「やめろって!」
葉柱が睨みつけてくるけど、顔が真っ赤で全然怖くない。
「可愛かったぜ、葉柱。凄ェヨかった」
ちゅ、ちゅ、と髪にキスをすると、葉柱が黙ったまましたいようにさせてくれる。
幸せ。死にそう。
「なぁ、ちょっとだけ試してみる?」
だから、調子に乗ってそんなことも言ってみた。
「…………」
冗談半分。期待半分くらい。
「…………でも」
だから、葉柱から帰ってきた言葉が「ムリ」でも「ダメ」でも「嫌」でもなかったことに、期待の方が大きく膨らんで動悸が激しくなった。
'13.04.22