七夕




「なぁ、お前『七夕』って知ってっか?」

夜、見張りはゾロ。
そこにいつものように夜食とか酒とか手に持ったり頭にのせたり、そんな器用な感じによじよじっとサンジがのぼってきた。

「あぁ?」

そういえば昼間、サンジとナミが七夕の話できゃいきゃい騒いでた気がする。
七夕を知らないサンジに、ナミが「女の子にプレゼントをあげる日よ」とか嘘を交えながら七夕について教えていた。

「お前は無知だから知らねェだろ。しょうがねェから教えてやんぜ」

どうやらサンジは、その得たばかりの知識をひけらかしたいらしい。

(・・・・・・・・・・・・)

確かにゾロは、ハロウィン?なんだそれ、であり、バレンタイン?誰だっけ、なのだか、『七夕』については知っていた。
自分のいた地方ではとても馴染みのあった行事だ。
多分、ちょっとナミに聞きかじったくらいのサンジよりはよく知ってる。

「七夕ってのはな、織姫と彦星がー」

それでもサンジがそんな機嫌よく喋っているから、横槍をいれるのもなんだろうと、ただ「うんうん」と適当に相槌をうつ。

「多分あれが織姫ちゃんだな。一番綺麗だから」

天気がよくて星の良く見える空を指差してサンジが言う。
ゾロは星座の知識なんてないが、まぁ違うだろうなと思った。

「一年に1回しか会えないんだ」

ちょっと愁傷な声でそんなことを言いながら、狭い見張りだいで、更にピタリと体をよせてくる。

ゾロとサンジは、「好きだ」と言って、「好きだ」と言われた、そんな仲。
今はこうして同じ船の上にいるけど、先はわからない。
別々の道に進んで、違う船に乗ることだってあるかもしれない。
どちらかが陸に降りることだってあるかもしれない。

それに、死ぬ、ことだって、きっとある。

夢とサンジを、天秤にかけるようにして考えたことはない。
きっとそれは、サンジだって同じだと思う。

サンジは、織姫と彦星の話をナミに聞いて、なにを思ったのだろう。なにを、考えただろう。

(・・・・・・・・・)

「そうか」

こんなとき、何を言えばいいのかわからないし、どうしたらいいのかもわからない。
ただもたれ掛かってくるサンジの頭に、さらに凭れるようにくっついた。

「歌もあるんだぜ」
「うん」

だからただ黙って、サンジの言うことを聞いてやろうと思った。聞いていたいと思った。





「さ〜さ〜の〜は〜 シャ〜バダバ〜」

「それは違う」


'04.07.08