独占スクープ☆コックの休日
ガシャーン
天気のいい昼食後。
ゾロが甲板で昼寝をしようと腰掛けたら、キッチンの中から突然なにかが壊れるような音が船に響き渡った。
甲板の上にいた全員が一瞬手を止め、キッチンの方を見る。
それからゾロを見て、そのまま黙々とそれぞれの作業を再開。
「ちょっとまて」
とりあえず一番近くにいた航海士を呼び止める。
「なによ」
「気にならねェのか」
「なにが?」
「キッチンからの音だよ」
「気になるならアンタがいけば?っていうか行くんでしょ?」
そのまま航海士は手を払うような仕草をして歩いていってしまった。
誰もキッチンの様子を見に行く気はないらしい。
というか、誰もがゾロが行くものだと思っているらしい。
(なんでだよ)
別に放っておいてもいいような気もするが、アレは合図だ。
なんとなく寂しかったり、どうしようもなくなったりしたときに助けて欲しくて料理人が出すわかりやすい合図。
要するに、誰かにかまって欲しいのだ。
なぜか、そのダレかがゾロに限定されているが。
たまにある。というかよくある。
形はイロイロあるにせよ、なんらかの合図をだして、素直に甘えられないコックは声を掛けられるのを待っているワケだ。
半ばあきらめの心境でゾロは立ち上がり、キッチンに向かってあるきだした。
やっぱりな、という回りの雰囲気には気付かないフリをした。
「どうした?」
ゾロがキッチンに入ると、コックは割れた皿の前で座り込んでいた。
(さっきの音はコレか)
「なにやってんだよ」
「ウルセー」
抱き起こそうとしたらパリシと手を払われた。
そのままコックはノロノロと立ち上がると割れた皿の破片を拾い集めはじめる。
「はいってくんじゃねェよ、ジャマだ」
「そうかよ、でも腹へったんだよ、なんかねェのか?」
様子を見に来た、といったらさらに逆上する恐れのあるコックに「腹が減った」という一種お決まりのセリフを吐く。
別に本気で腹が減っていたワケではないが、コレは大抵のコトに効く万能薬だ。
そうするとコックはしぶしぶといった風を装って、実は嬉々として料理を作り、「ウマい」と言えばそれで万事解決。のハズだった。
いつもなら。
(あれ?)
コックはなんだかさっきよりさらに沈んだ様子で俯いていた。
「‥‥腹、減ったんだけど」
「うぁーっ!」
突然コックは、声をあげて泣き始めた。
(オイオイ?)
とても19の男の泣き方には思えない。
「サンジ?」
「うあーんっ!」
立ったままひたすら泣き続けるコック。
そうとうな音量で泣き叫んで、おそらくは甲板にいるほかの仲間たちにも聞こえているはずだが、やはり誰かが来る気配はカケラもない。
つまりは、ゾロがなんとかしなければいけないワケだ。
「おい、サンジ」
しかたないので抱き寄せようとしたらまたしても手を払われた。
もともとそう気の長い方じゃないゾロも、イライラとしはじめる。
「おいクソコック!」
「ウルセー!オレはもぅコックじゃねーっ!!」
叫んでそのままキッチンのドアを飛び出して行こうとしたサンジがピタリとドアの前でとまると、なにを思ったのか今度は踵を返してゾロに飛びついてきた。
(最初っからそうしとけアホ)
サンジに飛びつかれた反動で、しりもちをついたゾロはそのままサンジを足の間にはさむように抱き込むと、気のすむまでしばらく泣かせてやった。
ぽんぽんと背中を叩いてやるとえぐえぐとしゃくりあげながらもようやっとサンジが顔をあげる。
「どうしたんだよ」
「う゛—」
「今度はなんだ?」
「‥‥‥」
「今夜のメニューが決まらねェのか?」
「‥‥‥」
「にんじんが一本足りなかったとか?」
「‥‥‥」
「ルフィのつまみ食いで食料が次の島まで続かねェのか?」
なにを言ってもコックはぶんぶんと首を横に振るばかり。
「じゃぁなんだよ」
「オレはもぅコックじゃないんだ」
「なんで」
「料理の作れないヤツはコックとは呼べねェだろ」
「作れない?料理が?」
サンジの顔をみるとサンジはぷいっと顔をそむけるようにゾロの胸に顔を埋めてしまった。
「作れねェってコトはねーだろ」
「作れねェ、最近ずっと作れねェんだ」
「最近って、いつも作ってんじゃねェか。朝も、昼も夜も」
「アレは違う」
「違くねェだろ」
「違うったら違うんだよっ!料理のコトで料理人に逆らうな!!」
「料理人ねェ」
とてもさっき脱コック宣言をしたヤツのセリフには思えない。
「レシピとか書こうとしても全然集中できなくてよー、料理しててもイライラするし‥‥」
「なるほど‥‥」
たしかに、このところ、新しく考えた料理の試食に呼ばれたりしていない。
前は週に一度ほどのペースで夜食に登場していたというのに。
ようするに-————。
(スランプってヤツだな)
はぁ、と短く溜め息をつく。
「少し休め」
「休むって?」
「料理作るのやめろ」
「なっにぃ!」
ガバッとサンジがゾロの胸から顔をおこす。
「別に一生つくるなって言ってるワケじゃねェよ、今日1日くらい料理作んなくたっていいだろ」
「でも」
「1日くらいコックやめろ」
「けどじゃぁコックやめたオレってなんだよ」
「サンジだろ」
「‥‥‥‥」
「違った。オレの、サンジだな」
また、サンジがゾロの胸に顔を埋めた。
すりすりと、懐くようにすりよってくる。
「でも夕食つくんないとアイツら腹減らせてかわいそうだろ」
「一日くらい自分たちでどうにかするさ」
「でも」
「いいから、1日オレに独占されてろ」
胸に埋められたままのサンジの首筋がみるみるうちに赤くなっていった。
思わずぱくりと噛み付くと、身をよじって逃げられる。
「す、するのか?」
「しねェよ」
「いや、しよう」
「なんだそりゃ」
「スゲー、したくなっちった」
座ったまま、サンジがぐいぐいと腰をおしつけてくる。
「しょーがねェな、テメェは。エロコックが」
「コックじゃねェもん」
「エロマユゲ」
「うるせー、エロハラマキ」
クスクスと、余裕ありげに笑っているのでシャツの下から手を入れて指で軽く乳首をはじいてやる。
「いやんv」
「アホか」
今度はワザとらしい嬌声をあげてカラカラと笑っている。
なんだかムカついたので今度は性急に性器に触れてやる。
「うぁ‥‥」
「オラ鳴け」
「なにをぉ」
今度はサンジがズボンごしにゾロの性器に触れてくる。
「アンアン言わせたらぁ」
サンジがガチャガチャとズボンの前をハズしにかかってきたのでゾロも応戦してサンジの服を脱がせにかかる。
目があったのでキスしようと思ったらサンジの方からキスをされた。
なんとなく悔しかったのでキスをしかえしてやるとまた返される。
しばらくキスの応酬を繰り返して、それからSEXもした。
「ナミさぁ〜ん、ご飯ですよ〜vv」
結局その日もコックはメシを作り、キッチリ翌日の仕込みまでしていた。
「とことんコックだなテメェは」
「やっぱ料理は楽しいなー」
「そーかい」
ちなみに次の日には試食と称して夜食に新メニューがでてきた。
キャベツの芯をくりぬいて丸ごと器に使った豪快な料理は、もちろんゾロだけのもの。
キャベツ1個完食する苦しみは相当。
でもサンジの嬉しそうな笑顔を見ると、残すことなんてできなかった。
'02.03.30