愛について考えてみた




「なぁ、お前オレのコト愛してる?」

コックの思考回路はかなり意味不明だ。
よくイキナリ訳のわからないことを喋りだしたりする。
今回も、まさにそんな感じだった。

「は?」
「愛してる?」
「なんで」
「ブー。質問は二択デス。イエスかノーでお答えください」
「‥‥‥」
「ファイナルアンサー?」
「や、まだ何も言ってねェし」

夕食の片付けを終えたサンジは捲っていた袖をおろし、イスの背もたれに掛けてあったジャケットを着るとそのままそのイスに座る。
ちょうど、ゾロと向かい合う形に。

「なんでイキナリそんなこと言い出すんだ?」
「愛してねェのか?」
「だからなんで‥‥」
「そうか。愛してねェのか」

サンジが大げさとも思えるような勢いでテーブルに突っ伏した。

「いや、そうは言って‥‥」
「や、いい。愛してるって言えねェのは愛してない証拠だ」
「あぁ?」
「オレの体だけが目当てだったのかっ!お前は最低だっ!!」

またもオーバーリアクションでガバッとたちあがるとビシッと指をつきつけられた。
あまりの勢いでたちあがったせいでサンジの座っていたイスがガタリと倒れる。

「‥‥‥」
「‥‥‥‥」

しばしの沈黙。
コックはこっちの反応を待っているのかさっきの姿勢のまま固まっている。

(‥‥つーか、ヒマになったんだな)

そういえばこのところ島にもついていないし、これといって変わった事件も無かった。
修羅場みたいなものを自分から作り出しておきつつも、どこかサンジの口調も冗談じみている。

なんと言ったらコックは満足するのだろう。
というかこの遊びは強制参加なのだろうか。
きっとそうだろう。

「あー、そうじゃねェよ」
「愛がねェってコトはそういうことじゃねーかっ!」

サンジがいちいち言葉の節目節目にびしっびしっとポーズを変えている。

それにしてもなぜこんなコトを突然思いついたのだろう。
コックが本気で『アイツはオレのことホントに愛しているのかな』などと考えるたまには思えない。
なにか、きっとなにか悪いものに影響をうけたに違いない。
ウソか‥‥‥魔女か‥‥‥。

とりあえず、この状況。
コックの機嫌をそこねないような返事をしなければならない。

「あー‥‥、なんでイキナ」
「あ、お湯沸いた」

ゾロのセリフもそこそこにサンジは踵を返してカタカタと蓋の鳴るヤカンにむかう。

(‥‥‥)

先ほどのわざとらしいまでの悲痛な表情はドコへやら、エプロンを巻いた腰をふりふり、鼻歌まで歌いだしそうな勢いで沸かせたお湯でコーヒーを淹れているサンジ。
つやつやと光る黒い液体をなみなみとそそがれたマグを2つもってくると、「はい」とか言いながらゾロの前にもひとつ。

「えーっと、で、なんだっけ?」

(コイツは‥‥‥っ)

落ち着け、コイツはこういうヤツだ。ドコか自分の冷静な部分がそういっている。
いつものことだ。落ち着け。剣士たるものいついかなるときも‥‥‥。

大きく息を吸い込んで深呼吸したらちょっと落ち着いた。
思わず力をいれていた拳を解くとなんだかちょっとした達成感。

(先生‥‥オレ、強くなりました)

思わず道場の師範の顔までチラついた。

「あー、そうだ、愛だ愛、らぶ」

ぽんっ、と古典的に手を打つサンジに溜め息くらい漏れるのは仕方のないことだと思う。

「あのなぁ、なんでイキナリ‥‥、あー、‥‥」
「愛?」
「そう、ソレなんだ?」
「うん、あのな、ナミさんに本を借りたんだ」

(魔女め‥‥‥)

「それではよー、恋人同士が、『お前がいてくれてよかった』『もぅ離れねェでくれ』って抱きしめあうんだっ!」

えへらっと幸せそうに頬を緩めながらぎゅっとコックは自分の肩を抱く。

「で、そのレディはバージンなんだがよ、こうなんつーの?セックスの時にさ、痛いとかキモチイとかじゃくて、ひとつになれた、みたいな?」

みたいな?といいながら御得意の上目使い。

「で、オレもさー、はじめてテメェとヤったときとか思い出しちゃったワケよ」
「あー、オレぁべつにセックスは初めてじゃなかったけどヤロウ相手ははじめてだったし?」
「バックバージン?っつーのをテメェにささげちゃったワケだ」
「まぁ場所は格納庫だし野郎2人だし色気のないことこのうえなかったけどなんか髪の毛にキスとかされちゃってよー」
「うはは。照れるなよ。オレまで照れんじゃねーか」
「まぁときかく『愛されてる』なー、とかガラにもなく思っちゃったワケよ」

コックはそこまでイッキにまくしたててチョット一息。

「トコロが最近じゃドウよ?」
「テメェは食うか寝るかヤるしか能かねェし」
「ヤるにしたって好き勝手ばっかしやがってオレがヤメロっつっても聞きやしねェ」

言いながら、目に見えてサンジの機嫌は急降下した。

「つまり、ナニが言いてェんだよ」
「まだわかんねェのか察しの悪ィやつだな」
「あんだ?セックス禁止令とかか?そんなんテメェの方が先に根をあげてブッ‥‥」

下からつきあげるように出された蹴りがキレイにゾロの顎先にきまる。

「つまり」

つい、と痛む顎を手ですくい上げられちゅぅと音をたてて唇にキスをされた。
それも挨拶とか親愛とか、そんな感じじゃなくその後の行為をうながすようなヤラシイやつを。

「はじめてのときみたいに優しくして?ってことだ」










「‥は…‥ぁ‥」

初めてのときと同じ格納庫。
初めてのときと同じようにサンジを横たわらせてキスをする。
あとは‥‥。

(どうだったかな?)

セックスなんてもぅ何十回としている。ヘタをすれば三桁越えてるかもしれない
確かに初めては特別なのかもしれないがイチイチ覚えていられない。
まぁきっとサンジも1から10まで同じことをしろと言っているワケではないのだろう。
ようは、雰囲気だ。雰囲気。

(そういえば‥‥)
(最初のときコイツ泣いてたよな)
(イテェのかと思ってまじビビった)

そういわれると、ズイブンと慎重に、大事に抱いた気がする。
今じゃサンジが泣こうがおかまいなしだ。

(つかコイツの泣き顔ってけっこうクルんだよな)
(もっとメチャクチャに鳴かせてェとか思ったりしてよ)

そこまで考えて少し反省する。

(だよなぁ、最近、優しくとは程遠かったよな)

「んだよ‥‥はやくしろよ」
「あ、あぁワリ」

ボヤっとして手のおろそかになったことにじれたサンジがズリズリとゾロのシャツをたくしあげて胸にはしる傷跡に口をつけてきた。
サンジはこうしてミホークとの戦いでついた傷をたどるのが好きだ。
はじめての時も、泣きそうな顔で胸の傷を指でたどっていた。

「‥‥‥‥っ」

急に、急にゾロの胸に愛しさが込み上げてきて、大事に、大事にしたいと思った。
そうだった。ずっと大事にしたいと思ってた。
2人で飲んだり、セックスしたりするのがあたりまえになって、少しづつ忘れていた。

「‥‥‥」

名前を、呼ぼうと思ったのに、胸につまって言葉がでてこなかった。
鼻の奥がツンと痛くなる。
自分の想いをハッキリと言葉にしてサンジに伝えたことはなくて、本当はスゴク大事に思っていることを、この目の前のコックに伝えたいと思った。
でも不器用な自分はそれを伝える術を知らなくて、変わりにキスをしようと思った。
優しいキスの仕方なんて知らなかったが、それでもできるかぎり、優しいキスを‥‥‥。

「もぅじれってェなテメェはっ!!」
「なっ」

くちづけようとゆっくりサンジの顔に近づいていったら横っ面を硬いもので叩かれた。
なにかと思ったらそれはサンジの足の裏だった。
ゴ、とかそんな感じの鈍い音がして後頭部が格納庫の床にあたる。

「ってめェ!」
「ちんたらしてんじゃねェよ冷めんダロ」

なんだかさっきの少し痛いような穏やかな気分はドコへやら、ムリヤリ前を開けられズボンを下げられる。

「ちょっ‥‥」
「わはは。イタダキまーすv」

突然覆い被さってきたと思ったら、まだ萎えているをれをイキナリ口に含まれる。
生暖かい口膣の感触とイヤラシイ舌の動きに腰が浮く。

「う‥‥く‥‥」

思わず漏れたゾロの声に興奮したのはサンジの方で、口を片手でゾロのものを扱きあげながらもぅ片方の手では寛げた前から手を入れて自分の性器を弄りはじめる。

「テメェは‥‥‥」
「あ、あっ、もぅガマンできねェよ」

素早い動作で着ているものをとりはらうと自分の先走りで適当に後ろを慣らしてゾロの上に跨ってきた。

「オイっ」

性急ともいえる強引さに焦るが当のサンジはそんなこと一切意に介していないらしい。

「あ、んっ、あ、あ、イイっ‥‥ゾロぉ」

上に跨り腰を揺らしながら、肘をついて軽く半身を起こしたゾロの髪に手をいれてぐしゃぐしゃとかきまわしながらキスを強請ってくる。
いわれるままに舌を差し出すと口をつけずに舌だけをだしあってくちゅくちゅと絡めあう。

気持ちイイ。気持ちイイ‥‥が。

(『初めてのときみたいに優しくして』っつーのはドコいったんだよ)

少なくともバージンの女は押し倒してイキナリ上に跨ってきたりしないしこんなイヤラシイ仕方のキスもしない。
一人でなにやらセンチメンタルなカンジに盛り上がっていた先ほどの自分が妙に切ない。
さっきとは違う意味でツンと鼻を奥が痛くなる。
むしろ初めてみたいに優しくしてほしいのはゾロの方だ。

「ん、ぞろぉ、もっと突いてくれよ」

いつもなら興奮を誘うようなサンジのそんなセリフも今この状況で言われてもむしろ萎えるだけ‥‥‥と思いつつも正直なゾロの不良息子は元気いっぱい。

「あ、スゲェ、デカくなってる‥‥」

溜め息のひとつくらい漏れるのもしかたない。
とどのつまりゾロもこんなサンジにまんざらでもなかった。

「こんのエロコックが」
「ぎゃはは。そりゃテメェもだ」

身を起こして上下をいれかえるとサンジは待っていたかのように脚をゾロの腰に絡めてくる。

「ひんっ、あ、ああぁっ」
「は…ぁ‥‥イイのかよ、クソコック」
「あん、あっ、イイっ、スゲ、イイ‥‥‥あ、ゾロ、ゾロ」

(ヤベ、イクっ‥‥)

おもわず反射的に腰をひこうとするのを腰に絡められたサンジの足に阻まれる。

「ヤだ‥‥、抜くな、抜かないで‥‥もっと」
「ばっ‥‥か‥‥‥‥、くっ‥‥」
「あぁんんんっ」

マズい、と思ったときにはもぅ出してしまっていた。
しかしまぁ出してしまったものはしょうがないと調子にのって搾り出すように何度か腰をグラインドさせる。

「あ‥‥、はぁ、はっ‥‥って、しんじらんねェ!なんで中出しすんだよっ!」
「あぁ?抜こうとしたのをテメェが止めたんじゃねェか」
「出すなら出すって言えよっ」
「煽るようなこと言うテメェが悪い」
「なんだよそれ‥‥しかもオレイってねェし」
「あー‥‥」

珍しく、ゾロが一人で先にイってしまった。
中出しプラスこれはさらにバツが悪い。

「別に、イイけどな。まさかコレで終わりじゃねェんだろ?」

にやん、と口の端を吊り上げるようにしてサンジが笑う。

「‥‥‥おー」

サンジの表情にまたスグに元気になってくる自分自身。 痛い痛いとぎゃーぎゃー言っていた最初の頃と比べれば、イヤラシく強請ってくるサンジは自分好みに開発された体だといえなくもないが、なんとなく自分の方がサンジ好みに調教されたような気がしてならないゾロだった。

(つーか、愛はドコいったんだよ愛は)

まぁ結局、コレもひとつの愛の形。


'02.05.24