普通な日




1.朝食前

「起きやがれクラァ!」

今日も朝食の時間になってもいつまでも起きてこないゾロにサンジの踵が直撃する。

「ぐっ、あ・・・・・・・あ?」
「まったく、ほっときゃいつまでも寝腐れやがってテメェは!朝飯の時間には起きて来いっつってんだろ!」

いつもの日課でゾロに踵落としを決めたサンジは、これまたいつものように朝食前の一運動になるだろうと、振り落とした足をそのまま持ち上げて挑発するようにゾロにフラフラと振ってみせる。
ところがゾロはいつまでたっても刀に手をかけすらせずに、ボンヤリと蹴り飛ばされた体勢そのままに座り込んだままである。

「朝……飯?」
「あー?おいおい、大剣豪様はまだ夢の中でちゅか〜?しっかりしろよ、ホラ、ご飯でちゅよ〜」

アーハー?とか言いながら立てた人差し指を頭の横でくるくる回転させてみるが、ここまでやってもゾロは無反応。

「ったく、しっかりしろよ。とにかく朝メシだからな。上がってこいよ」

ぼーっとしたままのゾロに気分も萎えて、サンジは先に男部屋から甲板にでる梯子を上る。
上についたところで覗いてみれば、おとなしくゾロも上ってくる気配。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」





2.昼食前

「・・・・・・オイ」
「?なによ、今忙しいんだけど」

グランドラインでは珍しく、この日は風も凪いでいて、もぅ少しで昼食の時間というところでナミはパラソルの下、サンジにセットさせたテーブルに肘をついてのんびり読書中。

「ちっとも忙しそうには見えないがな」
「うるさいわね、少なくともアンタに割く時間はないの」

温かいというよりは少し暑い陽気に、よく冷やされたオレンジジュースで喉を潤す。
ナミが無愛想にしっしと本でゾロをはらっても、ゾロは特に怒るわけでもナミから離れるでもなく、ただそこに立っている。

「・・・・・・・なに?なんか用なの?」
「・・・・この船、どこに向かってるんだ?」

ゾロのくせに、珍しいことを聞くものだ。

「どこって、アンタに言ってもどうせわかんないでしょ」
「・・・・・・それもそうだな」

ゾロは、ちょっとだけ考える素振りを見せてから踵を返してナミから離れて行った。

「・・・・・・・・・・・・・?」




3.昼食後

「ゾ、ゾロ、今日こそちゃんと傷を見せてもらうぞ!」

めずらしくゾロが昼寝も鍛錬もせずにただ甲板に座り込んでいるのを見つけて、チョッパーが近づいた。
「これだけは譲らないぞ!」とでもいうように傍らにはしっかりと自分の医療バッグを持っている。

「傷・・・・・・・・?」
「とぼけたってダメだぞ!アラバスタのだ。ゾロはすぐそうやって寝てたら治るって言うんだから」

いつものようにゾロにはぐらかされることを警戒してチョッパーが凄い剣幕で言い募るが、当のゾロはポカンとして、それからおもむろに自分のシャツを捲った。
巻かれた包帯を取って、真新しい傷と、それから今はもぅ塞がっている鷹の目との戦いで大きく斜めに走った傷を手で撫でる。

「麻酔した方がいいか?」
「・・・・・いや、いい」
「そうか。どうしても痛かったら言うんだぞ」

逃げるでもなく邪魔するでもなく、ゾロはおとなしくチョッパーの治療を受ける。
そしてその間中しげしげと自分の傷を眺めていた。

「よし、できたぞ」
「・・・・・・おぅ」
「ゾロ、今日は珍しく昼寝してないんだな」
「昼寝?」

チョッパーが何気なく言った言葉に、ゾロは「昼寝?昼寝・・・・」と呟いて、それから納得したように目を瞑ると、あっという間に眠ってしまった。

「・・・・・・・・・・・・・・・?」





4.夜・男部屋

ウソップが就寝準備に自分のハンモックを整えている。
ルフィはとっくに寝ていて、自分もさぁ寝るかというところでゾロが甲板から降りてきた。

「なんだ、お前もぅ寝るのか?」

いつもだったら夜遅くまで酒を飲んでいて男部屋になんか降りてこないゾロを訝ってウソップが声をかける。

「ダメなのか?」
「いや、ダメじゃねェけどよ。お前いつもなら遅くまでラウンジで酒飲んでるだろ?」
「・・・・・酒・・・・・・・」

酒、酒、と呟きながら、ゾロは降りてきた梯子を、またスグに上っていった。

「・・・・・・・・・・・・・・・?」





5.夜・ラウンジ

「よぅ、今日は遅かったな」

いつもだったらサンジが夕食の後片付けや、明日の仕込みを行っているときですら待ちきれないとばかりにラウンジに居座り、全身で酒を要求してくるゾロが、「もぅ今日はこないのか?」と思ったところでやっと姿を見せた。

「なんだ、もしかして気付いてんのか?しょうがねェな、明日何が食いたい?」
「・・・・・・・・・?」
「あー、やっぱ気付いてねェのか。誕生日だよ、誕生日!お前のな!」
「・・・・誕生日?」
「おいおい、とうとうボケたか?まぁお前日付の感覚なくなってそうだしな。明日は11月11日だ」
「・・・・・・・・・聞きたいんだが」
「あ?」
「ココはどこだ?」
「あぁっ?」
「お前は誰だ?」
「あぁぁ!?」

「あとコレが一番重要なんだが、オレは誰なんだ?」


「・・・・・・・・・・・・・チョッパーっ!!!」


'03.11.11