一泊二日カケオチの旅
「カケオチしよう」
—————。
またしてもゾロの平穏は、サンジの一言によって破られた。
「・・・・・・勘弁してください」
目の前のワケのわからない生命体を極力刺激しないように慎重に言葉を選びつつそれでもハッキリと言う。
「そうだよなー。勘弁してほしいよなー」
「こんな狭い船の上じゃよ?」
「2人っきりになれる時間なんてそうそうねェし」
「夜の営み?ってやつも?」
「なかなか愛し合う時間がねェよなー!」
ナニ言わせんだよクソ野郎!とハイになったサンジがバシバシとゾロの背中を叩く。
「お前酔ってんのか?それともラリってんのか?」
自分が頭のイイ方だとは思わない。
むしろ悪い方だとは思うが、それでも人間として最低限のことはわきまえている。
しかし今この目の前にいるラリった男は人間としてなにか大事なモノが欠落していた。
「ドラマチックだよなーv」
ウットリと、両の手をあわせるようにゾロの手を握りこんできた。
「2人で一緒に夢をつかもうっ!」
メラメラとサンジの眼が燃える。
この男にそんな言い方をされると、まるで親友との誓いに大いなる野望を掲げた自分が陳腐な三流熱血スポーツ漫画の主人公になって気がして他ならない。
「金色の髪を持つ麗しき天才コックは」
(・・・・・・麗しい?)
「大航海の末オールブルーを見つけ」
(イキナリだなオイ)
「ソコに開いたレストランはいつも大盛況」
(自分のコトばっかじゃねェか)
一緒に夢を追ったゾロは腐ってカラスにでも啄ばまれているとでもいうのか。
「そしてなんとそのレストランの用心棒は世界一の大剣豪なのでしたーっvv」
(オチはそれか)
満面の笑みで両手を広げるサンジにどっと疲れて大きな溜め息が漏れた。
「どう?オレの人生プラン」
「そりゃプランじゃなくてお前の妄想だ」
「明日島についたらカケオチだから」
「・・・イヤです」
「ダメです。決定事項です」
ゾロはもう付き合ってられるかとばかりにゴロリとサンジとは反対の方を向いて横になる。
「なんだよーっ!せっかく新聞配達の鳥に頼んで予約までしたんだからなっ!」
「・・・・・・予約?」
「そう。予約。好きだろ?温泉」
そりゃまぁ好きだし。
そういやアラバスタでデカイ宮殿の風呂に入ったときに温泉の話しでもしたかもしれない。
「ちなみに一泊二日な?」
「あ、もぅナミさんにはちゃんとOKもらってるから」
「船に帰るときは買出し手伝えよ」
「やたら食料の消費が早ェからな。この船は」
(帰んのかよ)
どうやらサンジは、『カケオチごっこ』がしたくなったらしい。
カコ————ン。
風流と言えなくもないが、ともすれば間の抜けたともとれる竹が石を打つ音。
通された部屋は和室でなかなかイイ部屋だ。
「ゾロ・・・やっとオレたち2人っきりになれたな」
「そこにまだ仲居がいるぞ」
「ここまで来れば追手はこないよな」
「追手ってダレだ」
「ジジィ・・・なんでオレたちの結婚に反対するんだろう」
「男同士だからじゃねェ?」
「もしここまで追ってこられたらどうしよう・・・」
「ていうかお前のじいさんはイーストブルーだ」
「ゾロ・・・・・・オレ怖い・・・」
「オレはテメェが怖い」
部屋に入るなり『カケオチモード』になったサンジにゾロはゲンナリする。
襖の近くでは見てるこっちが恥かしいといわんばかりに呆れた顔をした仲居が呆然と立ちつくしている。
(オレだって恥かしいわっ!)
「あの、お食事はいつごろお持ちしますか?」
昼メロな雰囲気をうちやぶったのは仲居の一言。
「あ、先に風呂はいるからー、7時頃お願いします」
布団は一組で、とかテキパキ指示するサンジにまた溜め息が漏れる。
それでも昼メロを打ち破ってくれた仲居に、ゾロは一人コッソリと感謝するのだ。
「おぉーっ!広ェーっ!!」
「走るなよ、転ぶぞ」
「外に風呂があるんだなー」
サンジにせかされるようにしてやってきたのは露天の大浴場。
もともとあまり客はいなかったが入ってきたゾロの胸の傷を見るなり大半がでていってしまった。
「サルとかいねェかなー」
「いねェだろ」
露店とはいっても山奥の秘湯でもなんでもない。
きょろきょろとアッチコッチへ走り回っているサンジを尻目にゾロは適当に体を洗ってゆっくりと温泉につかる。
「あ、なに抜け駆けしてんだよ」
「はー?テメェも勝手に入れよ」
「えへへ。おジャマしまーすv」
入ってくるなりサンジはざぶざぶと湯をわけてゾロに近づきピッタリとよりそってくる。
「アッチいけよ」
「ヤだよ」
「こんな広ェのになんでこんなくっついてなきゃいけねェんだよ」
ザブザブと膝で歩くようにして逃げるとサンジもソレを追ってくる。
たいして広くも無い露天風呂の外円を回るようにしての追いかけっこが始まる。
「クヌヤローっ!勝負だっ!!」
水の抵抗で思うようにすすめない状態にしびれを切らしたのかそう叫んだと思った瞬間ものすごいスピードでクロールをしたサンジがゾロの横を駆け抜けていった。
「わははっ!どうだ!このスピードには敵うまいっ!!」
もはや最初と趣旨がズレている。
ゾロと追いかけっこをしている間にゾロの側へいくという思考はきれいサッパリ消え去ってしまったらしい。
ぐるぐると温泉の中を泳ぐサンジにわずかに残っていたほかの客も出て行った。
「はぁ・・・」
(もともと温泉って休養とかの目的であるんじゃないのか?)
温泉にきて更に疲労を感じてどうするのだ。
でもまぁサンジといて心労を感じるのはGM号でも変わらない。
しばらくぼーっと見ていると、元気よく泳いでいたサンジが急に動きを止めた。
「あ?どうした?」
「く、クラクラする・・・」
「アホ、そりゃのぼせたんだ、出るぞ」
「だ、ダメだ・・・オレの野望が・・・・・・」
「あ?なに言ってんだ、ホラ」
熱い湯のなかであれだけ激しく運動していれば当然だ。
話しているまにも、肩を貸して抱えあげたサンジは足に力がはいらないのかクタリと倒れそうになる。
「ヤだって〜・・・・・・」
力の入らないなりにももがもがと抵抗するサンジをポイっと脱衣場の方に投げ入れる。
ゴ、とかそんな感じの音が聞こえてきたが気にしなかった。
部屋に戻ると投げられたことに腹を立てているサンジを横たわらせ、のぼせた頭を冷ますように団扇で扇いでやる。
ほどなく食事が運ばれてきてそれを全て平らげるころにはサンジの状態も機嫌もすっかり直っていた。
「なんだコリャ・・・」
食事が下げられ、サンジの指示通りに枕を2つ並べた一組の布団に無駄とは知りつつ不満の溜め息。
「やだーvオレたちってやっぱそういう風に見えちゃうのかな?気ぃ遣われちゃった?」
ことこまかに布団の向きにまで注文つけていたのはダレだ。
「ま、せっかくだし?ゾーロv」
布団に仰向けに横たわったサンジが手を広げて「私の全てを奪ってv」ポーズをする。
ゾロにしてみれば「オレに恥じかかせやがったらブっ殺すぞ」ポーズ。
「あー、オレもちっと飲んでるから先に寝て・・・」
くるりとサンジに背中をむけたとたんにぐっと腹のあたりに圧迫感を感じ、それが後ろから浴衣の帯びを引っ張られていたからだということに気付いたのはすでに布団に転がされた後だった。
「さぁゾロ、レッツ浴衣エッチだっ!」
「テメェは結局ソレが目的かっ!!」
ゾロの上に馬乗りにのしかかるサンジはなんだか欲望でイっちゃった眼をしている。
「まー、温泉エッチはできなかったけど?」
「野望がどうのとかいってたのはそれか・・・」
もがもがと抵抗はするがゾロの力を殺すよう巧みにおさえこんでくるサンジを上から退かすことができない。
「わはは、おとなしくヤらせやがれ」
あまりのセリフに一瞬クラリときた。
「大丈夫v痛くしねェからv」
「んっ・・・ぁ、ぞろぉ・・・」
「・・・くっ・・・・・・」
なんだかんだ言ってもヤってしまえばサンジの中は気持ちイイもので、「オレって若いなぁ」などとサンジを正常位で激しく突き上げながらものんびりと考えたりしていた。
「浴衣エッチは浴衣を着ながらヤることに意義がある」というサンジの意向で帯びは解かれていたがサンジの体の下には肌蹴た浴衣が布団の上で羽根のように広がっている。
(まぁ悪くねェな、こういうのも)
限界が近いのかゾロの腰にまきつけられたサンジの脚にぎゅっと力が入る。
片方の脚を肩の上に担ぎなおして更に深い挿入を試みた。
「んあぁっ・・・・・・!」
一際高い声で鳴いたサンジに気をよくしたゾロは少し上体を起こしてまじまじとサンジを観察してみる。
蒼い眼、金の髪。
よくできた顔の作りだと思う。
「・・・ぁ・・・ん、もっとぉ・・・」
野郎の顔の好みを聞かれても困るがまぁ多分好みのタイプに入る部類だ。
しかしそれ故に、非常に今更だがよくできた顔と裏腹に貧相な頭の中身が残念だ。
「は、やくぅ・・・」
貧相というのは違うかもしれない。
・・・ねじれてる・・・?もしくは渦巻いている・・・。
「もっとぉ・・・・・・って言ってんだろうがクラァっ!!」
いつのまにか上の空になっていたゾロの額にぐわん、と腹筋の力で勢いよく上半身を起こしたサンジの頭突きの衝撃とともにサンジの罵声が襲った。
虚を疲れたところにおそろしい勢いでかまされた頭突きにおもわず仰向けに倒れ繋がっていたモノがズルリとサンジの中から抜けた。
「じれったいんだテメェはっ!」
衝撃でくらくらしたままの視界が戻る間もなくサンジが上に跨ってくる。
「や、やめ・・・うっ・・・・・・」
「わはは、可愛がってやるぜv」
そしてその夜ゾロ(攻)はサンジ(受)に無理矢理何度も犯された。
起きたら腰がダルかった。
(ありえねェ)
(っていうかどういうヤツだこいつは)
ダルい腰を叩きながら身を起こし横を見ると昨夜ゾロの上で頑張りまくって疲れたのであろうサンジがなんともツヤツヤした顔で幸せそうに眠っている。
サンジがゾロに「好きだ」といってから、なにかにつけて振り回してくるサンジのペースを崩せない、どころか引きずられている。
なにかにつけて「好きだから」「好きだから」と結局ゾロにサンジの言う事を聞かせるのだ。
折れているのも苦労するのもいつもゾロだ。
(惚れた方の負けっつーのはドコいったんだろうな・・・)
「なんでテメェは、オレのこと好きなんだろうな」
寝ているサンジを起こさない程度の呟きに答える者がいるはずもなく、もう一度横目で見たサンジの顔はやっぱり幸せそうに笑っていた。
「なんでオレはテメェのこと・・・」
———あぁ、やっぱり惚れた方の負けかもしれない。
'02.09.29