あしたのために




大変なものを発見してしまった。

(これは・・・・・・・・・・・・・・・)
(マジで・・・・・・・・・・?)

それを持つ手がわなわなと震える。
まさか、こんなものをゾロが持ってるなんて想像したこともなかった。
ていうかこんなものが世の中に存在していたなんて・・・・・・・・・。

怖い。
見るのは怖い。
でも見ないでおいてまたもとの場所に戻しておくのはもっと怖い。

恐る恐る、本当は触るのも嫌なソレを指先に摘み、中を開いた。




「ぎゃーっ!!」


「んだぁ?どうした!?」

ここは、相変わらず半同棲中、いや、サンジの部屋は今は引き払っていて、完全に同棲をはじめた元ゾロの、現在ゾロとサンジの家そのリビング。
ゾロがまだベッドのなかでゴロゴロしている朝、サンジは二人分の朝食を作っていて、ふとリビングの隅にある観葉植物の位置が微妙にズレていることに気が付いたのだ。
近寄って床の後を見ると、確かにズレている。
泥棒でも入ったのかとイヤな不安を覚えつつ、実は几帳面なサンジが観葉植物の位置を元に戻そうとしたとき、『それ』に気が付いたのだ。

ひっそりと、身を隠すように、プランターの後ろに置かれていたそれ。
紙袋に入っていて、中身を取り出した瞬間には総毛だった。

「・・・・・・・どうした・・・・じゃねェよ」

目が腐ったかと、本気で心配した。
しかしサンジの目は腐って落ちることはなく、振り向いて見れば妙に堂々と裸のゾロ。
いつもは見慣れたその裸身も、今は先ほど目にしてしまったアレを容易に思い起こさせて吐き気すらおきる。

(服着てこいよ!)

寝るときは、裸だ。
いや、べつに寝るときは裸じゃないと寝れないとか、裸健康法とかしてるわけでもなく、つまりアレだ。
夜中にいそいそと運動に励んだりするからいつも裸。
イチャイチャしてカキッコして、実は挿入は一週間に一度くらいだけどまぁそんなこともしたり。

「これはなんだ」

自分でもヤバいくらい冷静で冷たい声が出たと思った。
自分でもビビったくらいだから当然サンジのそんな様子にゾロもビビってる。

「あぁ?・・・・・・・・・あっ」

あからさまに、しまったという顔。

「植物の」
「裏に」
「隠されるように」
「置いてあったんですが」
「まさか」
「ロロノアさんのじゃ」
「ないですよね?」

口をほとんど動かさずに喋っている感じ。
いかなるときも飄々とさえしているゾロが、こともあろうに気まずそうにサンジから視線を逸らす。

「あー・・・・・・オレの、っていうか・・・・貰った・・・・?」
「こんなもん貰ってくるんじゃねェクソ野郎がーっ!!」

手に持っていたそれ、所謂『エロ本』をゾロに向かって叩きつけるように投げた。
エロ本っていったってアレだ。ゾロはホモだ。真性だ。

(グロい!)
(キモいっ!!)
(モザイクがないっ!)

おかげで見たくも無いのにシッカリ見てしまった。
隅々まで検分したわけではないが、開いたページに×××が大写しになって×××を××××××××××××・・・・・・・・・・。

(あーっ!思い出しだくもねェ!)

ボツボツっと頭皮にまで鳥肌がたつ。

「ってェな!なにすんだ!」
「なにがなにすんだだ!こんなもんコッソリ隠し持ちやがって!」
「エロ本くらい誰でも持つだろ!だいたい知ってんだぞ、テメェキッチンの下になに隠してやがる!」
「なっ・・・・・・・・・」
「言えねェよなぁ、人のこと責めといて、自分はキッチンにエロ本隠してるなんてなぁ」
「なに勝手にキッチン触ってんだよ!」

クッションやら、リモコンやら、更には電話の親機も宙に舞う。
一生自分が悠々と空を飛ぶことがあるなんて思ってもみなかった電話機もビックリである。

「腹へったときなんか食いモンないか探してたら見つけたんだよ!」
「オレの城に触るな!」
「矛先かえて誤魔化すんじゃねェよ!だいたいページの角折り曲げんな!巨乳ばっかりじゃねェか!」
「うるせェうるせェうるせェっ!!健全だろ!いいだろ別に!」
「だったらオレだっていいじゃねェか!」
「野郎の裸なんて全然健全じゃねェ!勃つのか!?コレで勃つのか!?このホモがっ!!」

この時点で回りから手頃な投げるものがなくなったサンジが、例のアレが隠してあったプランターを持ち上げて投げる。
これが行き着いた先は、先ほど彼自身が言っていた、サンジ曰く『オレの城』である。

「テメェだってケツ掘られてるだからホモだろ!このホモっ!」

このホモ。
このホモ。
このホモ。

サンジが、ゾロに向かってよく使う言葉である。
ふざけ半分にからかっているときも然り、今のような口喧嘩になったときも然り。

「・・・・・・・・・・・」

しかし、自分が言われてみてコレほどまでにショックだとは思わなかった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・う・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・おい?」
「っせェ!クソゾロ!」

この日一番の大物、一人掛けソファは、やはりこの日一番のイキオイと飛びを見せた。










「・・・・・・・・・・・・それで、飛び出してきたのか」
「ゾロが悪いだろ?」

部屋を引き払ってしまったいま、サンジの駆け込む場所なんてそうない。
なんだか成り行きでストリッパーになってしまってからは、それまで健全な生活を送ってきていたときの友達とも疎遠になってしまっている。

「それは、まぁ、部外者からはなんとも」

机を挟んで向かい合っているのは店のオーナーのシャンクス。
場所も店の事務所で、ここにはサンジとシャンクス二人きり。
と、思いたい。
が。

「へー、じゃぁサンちゃん行くとこないんだ?オレん家来る?」
「あぁ!テメェは喋んな!視界に入るな!息すんなっ!!」
「酷ェー」

大して、酷いとも思っていないような表情。
ここにいるのはもぅ一人。
サンジが生涯の天敵として毛嫌いしているゾロの昔の男、エース。

「オレは事務所で寝泊りするから放っとけ!」
「あー、サンジ、そりゃ無理だ」

エースに対しては指一本触れたくない。
どころか先ほど紅茶を入れたときも、エースの存在だけは無視して、テーブルにのっているのは二つのティーカップだけである。

「無理って、なんで?別にこのソファで寝るし。水道あるし。平気だろ」

ソファに座りなおしてシャンクスに向かってもエースは極力視界に入れない。

「夜になったらココ誰もいなくなるしなぁ」
「別に一人で平気だって」
「そうは言っても一応お前はウチの大切な商品なんだから、万が一のことがあったら困るだろ?」

シャンクスが見せたのは、いつものおちゃらけたオッサン(ホモ)の顔ではなくて、営業する立場の、オーナーとしての顔と言葉。

「うーん・・・・・・でもオレ他に行くトコないし」
「ゾロと仲直りすれば?」

(仲直りっていうか・・・・・・)

もともと、喧嘩というのもおこがましいほど、ただの弾みで飛び出してきた家。
ホモ呼ばわりは、ちょっぴりショックだったのだ。

(ホモだけどさ・・・・・・・・)

一体誰のせいでサンジがホモになったと思っているのだ。

正直、エロ本を持つこと自体はわからなくない。
中身がちょっと男祭りな感じだったから、ビックリして動転して。

(アホだなー・・・・・・オレぁ)

ちょっと自分も悪かったかなとか思ってきた。
でも、イキオイよく飛び出してきてしまったのだ。
そぅアッサリとは家に戻れない。

(・・・・・・・・アホだなぁ)

「だからオレん家おいでよ」
「黙ってろ。髪一本にでも触ったらブッ殺す」

エースが、サンジのソファの後ろにまわって、肩に手を飛ばしてきたところを先に牽制した。

「あらー、嫌われたもんだなー」

(ったりめェだっ!)

「まぁそう言うなサンジ。エースんトコ広いし、別に同じベッドで寝ろって言ってるわけじゃねェんだ。だいたい、一週間も二週間も帰らないつもりじゃないんだろ?」
「そうそう、なんだったら客間から一歩も出てこなくていいぜ?オレも入らないしよ」

年上二人に大人ぶった調子で説かれると、まるで自分が我侭を押し通そうと駄々をこねている子供のような気になってくる。
だいたいホテルに泊まろうにも財布を持ってきてないから金がない。

「シャンクス・・・・・・給料前」
「ウチってそういうとこ厳しいんだよなー」

うんうんと、誰にとも無くうなずくシャンクス。
借りまで言う前にアッサリ却下されてしまった。
しまった。本気で行くところがない。

「だからさ、おいで?オレんトコ」
「うー・・・・・・・じゃぁ夜まではココに・・・・」

エースと二人きりなんて、一分でも一秒でも短い方がいい。
エースに腕を引っ張られながらも渋るサンジ。

「でもここでは仕事があるからなぁ」
「でも・・・・・・・」
「うだうだ言ってねェで行ってこい!ここには今日ベンちゃん来るんだよ!忙しいんだオレぁっ!」

そう言ってサンジを蹴り出したシャンクスが見せたのは、営業する立場の、凛としたオーナーとしての顔ではなく、いつものおちゃらけたオッサン(ホモ)の顔と言葉。


'03.05.10