休みは突然振って湧いた。
Tomorrow never knows
「海だーっ!!inニューカレドニア!」
青い空、白い雲。
そして隣にはゾロ。
あぁもぅヤバいくらい幸せだななんつって、タクシーに乗ってホテルに行く途中、見えた海に思わずちょっと降ろしてもらって。
降ろしてもらって・・・・・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・で、なんでアンタいるの」
青い空、白い雲。
そして浜辺にはエース。
「やー、奇遇だな!」
「ふざけんな!国内ならともかく海外にまできてこんな偶然あるか!ゾロ!お前喋ったのか!コイツに喋ったのかっ!あぁ!?」
ゾロの襟首を掴んでガクガク揺さぶる。
だってそうだろう。
なにが悲しくて、毎日毎日忙しい中、もぅ一生連休なんて取れないんじゃないかと思っていたその中、やっと取れた休みに旅行に来たのに、なんで・・・・・・なんで害虫がついてきているのだ。
「え?や、聞かれたから」
「・・・・・・・うがーっ!!!」
バカだ!コイツはバカだっ!!
だいたいお前エースに怒ってたんじゃなかったのか!なんで楽しく休みの計画を話しちゃったりしてるんだ!キスか!キスで絆されたのか!っていうかいつ会ったんだよ!知らねェよ知らねェうちに会ってたのかっ!
「おい、大丈夫か」
思わず頭をかかえて蹲ったサンジに、「車に酔ったか」とか見当違いなコトを言って背中をさすってくるゾロ。
(せっかくの旅行なのに・・・・・・・・)
家にいても、なにかにつけて遊びに来るエースに毎度毎度悩まされていて、ゾロはゾロで、エースが手土産に持ってくる酒に「いいじゃねェか」とか言って手なずけられちゃって、サンジがツマミ作ってるあいだ酒のんで談笑したりして、もぅなんだよオレってなによとかそんな日常から抜け出せると思って、ひたすらメンドくさがって渋るゾロを連れ出してきたというのに。
(これじゃいつもと変わんねェじゃねェかっ!!)
憎い。エースが憎い。
・・・・・・・・・憎しみで人が殺せたら。
「だいたい弟はどうしたんだよ!」
一人高校生の弟を置いてきたというのか。
「あー、そぅ言うと思って」
「あべぼぁべぶあぶばぁぶくぶくぶくぶく・・・・・・・・」
「ルフィも連れてきた」
「溺れてんじゃねェかよっ!!」
服のまま飛び込んだ海は、海外旅行の海だとサンジが思い描いていた爽快さとは程遠かった。
ホテルに入って、ベタベタする潮水をシャワーで洗い落とす。
よく考えたら、鬼畜兄弟の弟なんてあのまま海の藻屑にすればよかった。
次に溺れてたら絶対に助けないことにしようと心に決めてユニットバスのドアを開ける。
「これ美味ェな」
「そうだろ、もっと飲めよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
バタン。
開けた扉を、そこから出ることなく閉め、寄りかかり座り込む。
あぁもぅなんだよ。
ポロリなんつって涙出ちゃったかもしれないよだってしょうがないだろう可哀想だよ俺。
扉の向こうでは、いつの間に入ってきたのか鬼畜兄弟の兄とまたしても酒盛りをしているゾロ。
サンジは悲しくなったので部屋を飛び出すことにした。
もしかしたらこのまま旅行エッチかもとか思ってタオルしか巻きつけていなかった体にキチンと服を着る。
サンジが出て行ったら、エースはきっとこれ幸いと、またなんだかんだ言ってゾロを丸め込むに違いない。
例のクロコダイル事件のときだって、後で知ったのだ。実はゾロが部屋の前まで来ていたことに。
サンジが飛び出していったあとのエースの行動を想像するだけで腸が煮えくり返る思いだ。
なので。
バン!
「なっ?サん゛っ・・・・・・・・・!!」
学習したサンジはゾロを持って部屋を飛び出すことにした。
これならエースはゾロと二人きりにならないし、むしろサンジがゾロを二人きりになれちゃって一石二鳥。
飛び出したユニットバスから問答無用で掴んだのはゾロの後ろ襟で、エースに口を開く間も与えないほどのスピードで部屋を飛び出し、なおかつまだまだ走り続けているサンジにそんなところを掴まれたゾロは器用に後ろ向きに走っていたりする。
「お゛いっ・・・止ま・・・・・止まれ・・・・・ぐぇ・・・・・っ」
時々つんのめって首が絞まっているようだが、そんな小さいことは気にしない。
走って走って走っているが、どこに行ってもエースがひょっこり現れてくるような気がしてしょうがない。
どこか、どこか・・・・・・・・。
「・・・・・・・あれだ!」
ホテルを飛び出したところで、今まさに出向しようとしている豪華な客船をみつけた。
迷わず走り込んで、入り口に立っていた乗員が、英語なんかだニューカレドニア語なんだかしらないが、サンジのよく分からない言葉でぎゃーぎゃー言ってる。
「い・・・・・・・いい加減離せ!」
追ってくる乗員から隠れるように船尾の物陰に入り込んで、そこでやっとゾロの襟を放した。
「殺すきか・・・・・・・・・」
ちょっと本気でゾロの顔色が悪いような気がしないでもないが、あいにくサンジは怒っている。
「ホモは死ね」
「ああぁ!?」
「そんなにエースが好きか!あぁ!?」
「またエースかよ、エースエースって煩ェな、お前の方こそエースに気があるんじゃねェか?」
(なっ・・・・・・・・・)
よりによってこの男は、なんという言い草だ。
アレだけエースとイチャコラしておいて、せっかくのサンジの楽しみにしていた旅行をブチ壊しといて逆ギレか。逆ギレなのか。
「テメェ、ブッこもみむむーっ!」
「静かにしろ」
ぶっ殺してやるというサンジの言葉は、口にあてられたゾロのデカい手に吸い込まれた。
(な、なに・・・・・・・?)
ゾロの顔が近い。
(ま・・・・・・・・・・まさか)
(だ、ダメだぜ、こんなトコで)
(お、オレは怒ってるんだからな)
(そ、そんなことで誤魔化そうったって・・・・・・・・・)
「なに目ェ瞑ってやがる。このままじゃ見つかるぞ」
「・・・・・・・・む?」
ウッカリその気になって目を閉じてしまったサンジに、しかしゾロはサンジの方など見ていなくて、物陰から伺うさきには幾人かの乗員の姿。
(・・・・・・・・・・・・・・)
(・・・・・・・・・・恥ずかしい・・・・・・オレ)
だいたいそうだった。ゾロにケンカをキスで収めるなんて気の利いたことが出来るわけがなかった。
「・・・・・・・・素直に出てって金払えば」
「こういう船なんて予約制に決まってんだろ。金どうこうの問題じゃねェよ」
「ぐ・・・・・・・・」
「後先考えずに突っ込みやがって」
なんだよ、いつも突っ込んでるのはソッチだろとか、関係ないところで責任転嫁してもしょうがなく、いまにも乗員はサンジたちの隠れているところまでやってきそうな勢いだ。
サンジの頭の中で、二の腕に碇の形の刺青をしてパイプを咥えたセーラーカラーのマッチョにボコされる映像が浮かぶ。
(・・・・・・・・なんか前にのこんなことあったような)
しかし今はデジャヴを感じている場合ではない。
「おいゾロ、あそこ」
「・・・・・・・・・・・マジでか?」
いい隠れ場所を思いついたので、顎で指してゾロに知らせる。
スグにゾロはサンジの意図を読み取ったようで、あからさまに顔を顰めた。
「あそこなら絶対見つからねェだろ」
「・・・・・・・・・そうだな」
そんなわけで、今は船の外壁にぶら下がっている。
・・・・・・・・自分で言っといてなんだが、止めときゃよかった。
船の甲板の淵につかまっている手はやたらと疲れる。
「で、いつまでこのままだよ」
サンジに無理矢理連れてこられてとばっちりを食らったゾロとしては、さらにおもしろくないらしい。
「さぁな、ほとぼりが冷めるまでだろ」
今はまだ、甲板の方で不法侵入者を探している声が聞こえてくる。
いい加減あきらめてくれないかと、気配を探っていたら、足音がまっすぐにサンジたちの方に近づいてきた。
「おいっ・・・・・・・・・・・」
「しっ、黙れ・・・・・・・・・・・」
コツ
コツ
コツ
ちょうど真上で足音が止まる。
(・・・・・・・・・・・・・み・・・・・・つかった?)
心臓が破れそうなほどに音をたてていて、いくらなんでもブラブラ船の外壁にぶら下がっているところを御用じゃかっこ悪いなとか思った。
そうなるくらいなら、甲板を逃げ回ってマストの天辺に追い詰められ、そこから海へダイブするとかの方がかっこよくていい。
いや、格好のよさは問題ではないけど。
問題はあきらかに外国人とわかる密航者の自分たち。
今度は樽に詰められて、黒ヒゲのように横からナイフを差し入れられている自分たちのビジョンが浮かんだ。 隣でゾロがぴょーんと高く飛んだりしている。
(だからそんな場合じゃねェよ)
コツ
コツ
コツ
そんなサンジの危惧をよそに、止まっていた足音はサンジたちに気づいた様子もなく、また船の中央へと戻っていった。
「・・・・・・・・・・・・・・・焦ったー・・・・・・」
「まったくだ。ったくビビらせんじゃねェよ」
となりでゾロも詰めていた息を吐く。
どうやらゾロもかなり緊張していたらしい。
「・・・・ぶ、ふ、ふはは!」
「あ?なにトチ狂ってやがる。恐怖のあまりションベンでもチビったか?」
「アホ、そうじゃねェよ。なんかこういうの、修学旅行とか思い出さねェ?」
「テメェんとこでは修学旅行は船にぶら下がる風習があるのか」
「違ェよ!ノリだよノリ!悪さして女の子の部屋に行ったりしてさ、消灯の時間に先生が見回りとか来んのよ」
「あーそう」
なんだよノリ悪ィなーとか言いながら、本気でバカやってた学生気分になってみたりしてゾロの足を蹴ったりしてみる。
「あ、そうか、お前ホモだもんな。学生のときにはもぅホモ?オイオイ、皆と一緒の風呂入って大丈夫だったのかよ、勃起した?勃起した?」
「テメェはもぅ黙れ!」
ゾロが蹴り返してきたので、サンジもさらに蹴り返す。
拗ねたような口調とは裏腹に、ゾロの顔は笑っていたので、サンジは楽しくなってさらに捕まった手を軸に体を振り、勢いそつけてゾロを蹴り飛ばす。
ホモーホモーとか言って蹴りあいに夢中になっているうちに、冗談のようにズルっと手が滑った。
「・・・・・・・・・・え?」
一瞬後には、同じ目線だったはずのゾロが上の方に流れる。
ヤバい落ちたと思ったときには、なんかポチャンって感じに水面に潜っていた。
「アホ!」
追うようにゾロも飛び込んできて、やたらと透き通った海の中で目があう。
「っぷは!げほっ、え、えぅ、えほっ・・・・・・」
「大丈夫かよ、ったくバカみてェにはしゃいでるからだよ」
「ぅ、は、鼻に入った」
ツンと鼻の奥が痛くて、あとは突然海に落ちた動揺でわたわたしている間に、乗っている間はゆっくり動いているとしか感じられなかった巨大な船は、あっという間に海に落ちた二人を置き去りにした。
「・・・・・・・え?」
予約制の豪華客船で、名簿にも載っていないような人間が二人いなくなったところで、誰も気づいたりはしない。
「・・・・・・・・・・・・え?」
船が出港してから幾分か時間は経っており、もぅさっきまでいた島も見えない。
というか自分たちがどっちから来たのかもわからない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
もしかしたらこれは、海上遭難というやつかもしれない。
'03.06.03