で、オレは考えるワケよ




で、オレは考えるワケよ。

コックさんの朝は早いけど夜も遅い。
夜、他のクルーが散々飲み食いして散らかした食器を尻目に、瓶の底にちょっと残ったワインなんかを飲んだりしながら。

で、オレは考えるワケよ。

もし自分がコックじゃなくて、魔王とか、なんかそんな感じのものと戦う正義のヒーローだったら。
きっとその魔王ってのは、あの頭が緑なムカツク奴なんだろう。
きっと卑怯にもナミさんを攫ったりして、自分はそれを助け出したりするんだろう。

空いたワインの瓶と自分の持っているグラスを剣にみたて、軽くぶつける。
チン、と、誰もいない甲板に澄んだ音。

で、オレは考えるワケよ。

もし自分がコックじゃなくて、どっかの国の王子様だったら。
やっぱりお姫様はナミさんで、ぬいぐるみみたいなペットを飼っていて、付き人には頬に傷のあるのと、鼻の長いのと、それに、腰に三本刀をぶらさげたやつもいるだろう。
きっとそいつはコッチが王子だってのにやっぱりムカツク口をきいたりするのだろう。

「なにやってんだ」

グラスと瓶がぶつかるその小さな音を聞きつけたのか、それとも酒の匂いでも嗅ぎつけていたのか、すぐ後ろから声をかけられた。

「乾杯してんだよ」

で、オレは考えるワケよ。

もし自分とゾロが恋人同士だったりしたら。
「ロロノアゾロ」なんてのが生まれたこの晩に、パーティで騒ぎ疲れたほかのクルーを尻目にこうして一人寂しくワインの空き瓶なんか相手にしてないんだろう。
前の港で買ったプレゼントも、そういやなんて言って渡すんだこんなもん、なんて、ポケットにねじ込まれてもいなかっただろう。

「ふーん」

大して興味もなさそうにそんなことを言って、隣に座る。
まだ残ってないかと瓶を持って、ないとわかればポイと横に捨てた。

で、オレは考えるワケよ。

自分がもしゾロと恋人同士だったらなんて考えてることを、この隣の男が知ってしまったら。

スーツの上から綺麗に包装されているはずのプレゼントをぎゅっと押さえる。

オレは考えるワケよ。

これを渡したら。

オレは考えるワケよ。

例えば。

考える。

「好きだ」と言ったら。

「なにに?」
「………あ?」

ぼーっとしてたら、いつのまにかゾロは自分の手にもワインの入ったグラス。

「なにに乾杯?」
「あぁ…」

例えばここで、「お前の生まれた日に」なんて言ったら。

「オレに」
「…お前に?」

乾杯するのは、考えてばかりのオレに。

「ふーん」

今度は空き瓶じゃなく、ゾロのグラスとあわさって音がなる。

「乾杯」

考えるだけのオレに。


'04.11.11