あしたになれば
(しょ、初夜だっ!!)
ベッドの上。バスルームから聞こえてくるシャワーの水音に耳を澄ませながらサンジはガチガチに固まっていた。
忙しい忙しいスケジュールの中、やっと訪れた休日。
なんだかんだあってゾロとハッピーホモカップルになったサンジは、まだあれから一度もゾロといたしていなかった。
(オレぁ別にイイっていったのによ)
(「きっと初めては次の日立てなくなるから」とか言ってよーっ!)
(優しいなーもーっ!!)
(オレって愛されてる!?)
なんとなく半同棲のような形でゾロの家にお泊りしている中で何度も交わされた会話を思い出す。
(明日は休みだ)
(つーことはそうだよな)
(そういうコトだよな)
枕に突っ伏してもんどりうっているうちにシャワーの音が止まっていることに気が付いた。
次いでぺたぺたと近づく足音。
(ぎゃっ!来た!?)
(ど、どうする?)
(電気消した方がいいのか!?)
(でもそんなことしたら「いつでもOKバッチリよ☆」って感じじゃねェか)
わたわたと慌てている間にも足音は近づき、ガチャリと寝室のドアが開いた。
「上がったぜ」
「・・・・・・おぅ」
なんとなく姿勢を正してベッドの端の方に座っているとギシリとベッドが傾いでゾロが反対側の端に座ったのがわかった。
言葉の交わされない沈黙が、サンジをこっちへ来いと促しているような、なに固まってんだと責めてるような。
「の、ノド乾いたな!」
「あ?」
「なんか取ってくるから!!」
やたらデカい声で宣言するように言い放つと素早い動作で寝室を出てきてしまった。
(な、なにやってんだーっ!)
(せっかくの雰囲気ブチ壊してどうするっ!)
それでも出てきてしまったのはしょうがなく、キッチンに足をむけてなにか飲み物を探す。
(つーか慣れてねェんだよオレは)
(ホモのセックスなんてよー)
(もっとこぅ積極的にがっときてくれねェとよ)
(がっと!)
ゾロも飲むかなとグラスを2つ。
ゾロは日本酒の方が好きなけどなんとなくムードがねェなと適当にワインをチョイス。
寝室のドアの前まできて一呼吸。
ここを開けたら・・・。
(もぅ戻れねェな)
もとより、ステージの上でハデに熱愛宣言をしてからサンジに戻るつもりなど端からなかったが。
(ロストバックバージンかぁ・・・)
(まぁゾロ慣れてるし)
(そぅ酷いことにはなんねェよなぁ・・・)
ぐ、っとノブを握る手に力をこめて一気にドアを開いた。
「戻ったぜ!!」
また高らかに宣言する。
(だからムードがねェよオレーっ!!)
ちょぼちょぼとグラスにワインを注いでなぜか微妙に離れた位置で飲んだりして。
こうなりゃ酒の力でも借りてやる!とばかりにハイペースにぐいぐいと呷ったり。
(・・・おかしいな、そういう展開じゃないのか?)
しばらくは緊張してゾロの出方を待っていたサンジだが、いつまでたってもゾロは仕掛けてこない。
どころか適当に酒を飲んでオーナーがどうとか衣装がどうとか関係ない話しをしたりしている。
ためしにちょっと近づいて身体をくっつけたりしても笑いながら人の頭をぐしゃぐしゃと撫でてきたり。
その手にもいやらしい感じがまったくない。
(今日はそういう気分じゃねェのかな)
サンジはチョット悲しくなった。
せっかく自分が覚悟を決めて待っているというのに。
すっとぼけた隣りの男はそんなサンジの心情にも気付きもしないでただ上機嫌に酒を呷ったり話しをしたり。
(せっかくの休み前っつーのわかってんのかな)
(これ逃したら次いつ休みとれるかわかんねェのに)
うがーっと髪の毛をかきまわしてベッドに突っ伏した。
ちょっと顔をずらしてゾロをみるとなんだかニヤンという感じに笑っている。
(あ・・・)
それで、わかってしまった。
ゾロは、そういう気分じゃないわけでもなく。
サンジが待っているのに気付いてないわけでもなく。
一人慌てているサンジを見て楽しんでいたのだ。
「こんの・・・クソゾロ!!」
「ははは」
腹立ち紛れに殴りかかった手をかるくつかまれてころんとベッドに転がされた。
「死ね!ボケ!ハゲ!」
緊張して凍り付いていた血液が一気に逆流して頭に上ってしまったみたいだ。
多分スゲェ顔赤いんだろうな、とか思いつつがむしゃらに暴れているところをやんわりとゾロに押さえ込まれる。
「ヤんねェよ!もぅヤんねェ!!」
「悪かったって」
スマンスマンとか言いつつも思わずといった様子で笑みを漏らしているゾロに悪いと思っているような気配は欠片もない。
どころかやっぱり赤面しているサンジを面白がっている。
「今日はゼッテェヤんねェっ!!」
「あのなぁ・・・」
「お前がオレに好きだっつーまでオレは一年も待ったんだぞ」
「それから休みがとれるまで二週間」
「もぅこれ以上は」
——待てねェなぁ・・・。
言って耳に落とされたキスは(確信犯だコイツ)とサンジに思わせるのに充分で。
つまりそれくらいメロメロにサンジは落ちていた。
(タラシめ・・・)
そう思っても実際タラシこめられているのが自分であるのに悪い気もせず。
さっきまでの緊張がウソみたいに普通に抱き合ってキスをした。
自然な流れで服を脱がされて。
自然な流れで優しく愛撫をされて。
途中何度もキスをして。
サンジの性器からはとめどなく透明な液体が流れ落ちていて。
じわじわと溜まる熱に浮かされるように腰が揺れて。
太腿の内側をなぞった手が尻に回されて——尻に————。
「ぎゃーっ!ナニすんだテメェっ!!」
ドン、と思わず突き飛ばしたゾロがイキオイあまってペタンとベッドにしりもちをついた。
「な、なにって・・・」
何を今更、みたいな顔で溜め息をつかれる。
「野郎同士でどうするか・・・知らないワケじゃねェだろ?」
「う・・・」
(そうだ)
(そうだった)
今サンジに圧し掛かっているのはいつもサンジがセックスするような可愛い女の子ではなくて。
寧ろ自分が挿れられるっぽくて。
自分自身が一番よくわかりきってる身体に挿れる孔なんてひとつしかなくて。
(わかってるけどよーっ)
やはりヒトとして、他人にケツの穴を触られるというのは抵抗がある。いや自分でも抵抗あるが。
あんなにいい雰囲気で自然に進んでいた行為の中でも思わず我に返ってゾロを突き飛ばしてしまうほど。
はぁ、とゾロが溜め息をついたのがわかった。なんだか居た堪れない。
「そのうち慣れっからよ」
「うぅ・・・」
シーツを身体に巻きつけて縮こまってしまったサンジにもう一度溜め息をついたゾロがベッドから降りる。
やめるのか、と物足りなさと申し訳なさがちくりと胸をさしつつもやっぱり安堵してしまった。
しかしそんなサンジの期待を裏切ってベッドサイドの小さな引出しから何かを取り出してスグにゾロが戻ってくる。
「こういうのもあるし」
やっぱり止める気は、更々ないらしい。
ゾロが手に持って突き出しているのはぱっと見傷薬用の軟膏でも入っていそうな少し大きめのチューブ。
(この状況で「お前手ェ荒れてるからな」ってことはねェよな、やっぱ)
こんな状態でいう「こういうもの」がどういうものかくらい想像するのに難くない。
キャップを捻って少量を指にとったゾロがうにうにとソレを揉むようにすると体温で温かくなったソレがねっとりと指の間で糸をひいた。
「・・・どうしても?」
「中学生じゃねェんだから、カキッコで満足できるわけねェだろ」
手で、手でゾロのものをしてやってもいい。
ゾロとこうなる前の自分なら想像もできないだろうが百歩譲って口でしてやってもいい。
でも、でもどうしても・・・。
「ホラ、うつ伏せになってケツあげな」
「いやだーっ!!」
脱兎の如く逃げ出して、その辺にあった服を適当に着込むと靴を履くのもそこそこにゾロの家を逃げ出した。
——となる予定が実際はベッドの上でゾロに捕まってもがく足は虚しく空を切るに終わる。
「今更ごちゃごちゃ言うなよ」
「うぅぅ・・・犯される・・・強姦魔・・・・・・」
「合意の上だろこれは」
大きく開かされた足の間にゾロが入ってきて、片方の腕を背中の下に入れられて腰が高くあがった。
ぷらぷらとゾロの後ろでマヌケに上がった脚が心もとなく揺れている。
「うぅぅ・・・」
「泣くなって・・・」
「死ぬんだ・・・ケツの穴から真っ二つに裂けてオレは死ぬんだ・・・」
「大げさな・・・んなワケねェだろ。大丈夫だよ」
「・・・痛くねェ・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「誰かーっ!!」
「テメェは・・・」
サンジの上に圧し掛かっていたゾロが横に手をついて身を引いた。
「あ?」
「もぅいい。ヤメだ」
ぽいっとチューブをうっちゃって、側にあったティッシュで適当に指を拭うとそのままゴロリとベッドに横になる。
ゾロには大変悪いが、サンジはその言葉にやはり安堵してしまった。
あんなトコにそんなモノをうけいれるなんて、やっぱり相当な覚悟がないとできない。
それでもやはりチクリを胸を刺す罪悪感。
「あの・・・・・・よ・・・・」
「寝ろ。明日、2人でどっか行こうぜ」
ゾロは大して気を悪くしたふうでもなく、いつものようにベッドの中でサンジを抱きすくめる。
(あぁ、コレコレ)
(こういうのでいいんだ)
(こういうの、ずっとしてたいんだよなぁ)
ヤルとかヤらないとかじゃなく、それだけで済まそうというのは、やはりサンジの都合のイイ考えなのだろうか。
'03.03.02