しかも。
『なんであれからヤらせてくんねェんだ』
よりによってクソマリモだ。
××××2
『なんでダメなんだよ』
今日は風も凪いでいて、天気もいい。
朝クルーが集まったラウンジでは、とても和やかな雰囲気で朝食がとられている。
・・・・・・・・・表面上は。
「・・・・・・ナ、ナミさん、紅茶のおかわりは・・・・」
『やっぱこの前良くなかったからか?』
「えぇ、いただくわ」
『でもあんなに善がってたのに』
ガチャン。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・なにやってんだクソコック」
ゾロの声は皆に聞こえていて、多分きっと皆サンジに同情してくれている。
だから不埒な男の不埒な思念が聞こえてきたことに動揺したサンジが少しくらい食器を割ろうとも、黙認してくれるのだ。
・・・・・・・なにもわかっていないこの男以外は。
「ウルセーっ!だいたいテメェが・・・・・・・・・っ」
朝っぱらから不穏な思念を撒き散らしているから、そう続けたい言葉は、サンジの肩口から生えてきたロビンの掌に吸い込まれる。
「サトラレは世界の財産・・・・・・・」
ついでにサンジの後頭部に現れた口が、サンジにだけ聞こえるようにそんな呟きをも漏らす。
「・・・・・・・・・・・・」
ゾロが、こんなにもはた迷惑な思念を撒き散らしても、ていうかもぅこんな思念、女性クルーに対してはこれ以上ないくらいのセクハラだとしても、こんな風に誰になにを咎められることもなく黙認されているのは、単に『サトラレ保護法』の存在故に。
サンジには分からない。
ゾロに現実をつきつけて、少しは自覚を持ってもらいたい。
自分がどれだけはた迷惑な思念も撒き散らしているのか。
じゃないとあまりにもサンジが可哀想だ。
『・・・・・・・・ブチ込みてェな』
・・・・・・・・・・・・・可哀想だ。
「島が見えたぞーっ!!」
メリーさんに跨ったルフィが雄叫びを上げた。
目を凝らして見ると、確かに直線状に島影が見える。
「んん、間違いないわ。あれが次の島ね!」
ナミの腕の指針も、しっかりとあの島を指している。
「島か〜、よかった、そろそろ食材も底をつきかけてたしな」
実際は、サンジの腕ならあと一週間や二週間島につくのが遅れたとしても、食糧事情に問題はなかったけれど、新鮮な野菜なんかはとっくになくなっていたし、やはり島があるのは有難い。
島についたら思いっきり買い物を。
『島か・・・・・・・船ん中でダメなら、どっかの宿行きゃぁヤらせてくれっかもな』
思いっきり買い物を・・・・・・・・・・・・。
「荷物もちについて行ってやろうか」
(・・・・・・・下心が丸見えですお兄さん)
比喩でなく、丸見えだ。
「・・・・・・・ケッコウデス」
ていうか、サトラレなんかが島におりたら、それこそ大混乱になるのではないだろうか。
バン
『サトラレ保護法にご協力ください!』
バン
『サトラレは世界の財産!』
バン
『皆のサトラレを守ろう!』
「・・・・・・・・・・・・・・・なにこれ」
港に下りたら、そこここにポスターが張り巡らされていた。
(サトラレ・・・・・・・・・・・)
てういか、こんなに堂々と貼られていたら、イヤでもゾロの目にもついてしまうのではないだろうか。
船から下りてきたゾロが、サンジを探すように視線を巡らせるのを見て、とっさに自分の後ろにあったポスターを隠すように背中で覆った。
「なにやってんだ?」
「い、いや・・・・・・・・コレは・・・・・・・・・・」
(ロビンちゃん助けて!)
ロビンは、サトラレ対策委員会に所属している、いわばゾロのお目付け役だ。
縋るように視線を送ったのに、ロビンはコチラの状況に気づいているのかいないのか、まったく動こうとしてくれない。
(オ、オレの後ろにはサトラレのポスターがっ!)
(ポスターがっ!!)
「あぁ?サトラレのポスター?なんでこんなもん隠してんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
サンジの体から、ちょこっとはみ出た「サトラレ」という文字に、ゾロは別段驚いた様子もない。
「お前・・・・・・・・サトラレって知ってんのか?」
「知らねェワケねェさろ。アレだろ?なんかソイツの思ってることが聞こえるとかいう」
「・・・・・・・・うん」
「昔よく言われたな、サトラレに会っても、気づかないふりをしなくちゃなんねェとか」
「・・・・・・・・・はい」
「まぁオレぁ会ったことねェけどな」
「・・・・・・・・・・・・・はい」
ゾロは、頭をかきながら「面白そうだ」とか「会ってみてェな〜」とか暢気なコトをほざいてる。
「サトラレには、世間一般と同じ程度のサトラレに関しての知識を与えてあるわ」
後頭部から聞こえるロビンの声にも、最近はもぅ慣れた。
「そうじゃないと不自然でしょ?サトラレ保護法は世界共通よ」
回りを見渡すと、『腹減ったな〜』とか聞こえてくるゾロの思念に、ビクっと体を震わせながらも、気付かないフリを装う人々。
興奮したような子供に「指差しちゃいけません」とか言ってる親の声も聞こえてくる。
「私は、サトラレを知らなかったアナタに驚きだわ」
今までの町にも、こんなポスターは貼ってあったのだろうか。
気付かなかった自分が愚かなのか。
サトラレに関しての知識を与えてくれなかった育ての親の怨むべきなのか。
「アナタだけじゃ心配だから、買出しには私も一緒について行っていいかしら」
「・・・・・・・・もちろん・・・・・・・・喜んで」
『なんであの女がついてくんだよ』
『邪魔だな』
「・・・・・・・・・・・・ロビンちゃん・・・・・・・・ゴメン」
「別に気にしてなくってよ?」
この買出しは、地獄かもしれない。
いくらサトラレ保護法で守られているといっても、こうもあからさまに自分たちがホモであることを撒き散らして歩いていたら、ゾロの見える前では何事もなく装っている人々も、一度ゾロの視界から消えると、ぼそぼそとなにやら耳打ちしあったりしてサンジを見ている。
それから店先のオバちゃんなんかは、哀れっぽい目でサンジを見ながらオマケしてくれたりした。
(・・・・・・・・・帰りてェ)
船とか、バラティエとか。
いっそ「あの頃に帰りたい」とか意味不明なこと言っちゃうかもしれない。
それくらいには参っているのだ。
『あの女撒いて、そんで連れ込みとかにシケこむか』
「ほらよ兄ちゃん、これオマケだ。頑張れよ」
「・・・・・・・・・・ドウモ」
(・・・・・・・あの頃に帰りてェ)
「ちょっと待てそこの三刀流っ!!」
「あ・・・・・・・・・?」
三刀流呼ばわりされて、振り向くのはゾロくらいしかいない。
『なんだ?』
『賞金稼ぎか?』
『ちょうどいいから、この混乱に乗じて二人で抜け出すか』
「ふざけるなロロノアぁっ!!」
「オレたちホモです」を町中にバラまかれて、ぐったりと疲れ果てていたサンジは反応が遅れたが、叫んだ男とゾロの間の人がさっと引いて男の顔が見えると、すぐにそれが誰だか思い出した。
「・・・・・・・・・ギン」
'03.07.21