オレは、人の心の声が聞こえる。
ただし。

『ブチ込みてェな・・・・・・・』

ガチャン

クソマリモ限定で。




××××




『あー、堪んねェなあのケツ』

ガチャン

「ちょっとサンジくん大丈夫?さっきから食器割りっぱなしよ?」
「あ、あぁ、スミマセン、ちょっとぼーっとして」

サンジがゾロの心の声が聞こえるコトに気が付いたのは、船に乗ってすぐ。
耳から聞こえるのではない、ハッキリ頭に響いてくるソレ。
ちょっと離れた場所からでも聞こえる。
というか船の中、距離をとれる場所なんてドコにもなく、ドコにいても聞こえる。

最初の頃は問題なかった。
所詮マリモはマリモ。考えるコトといったら「酒」「酒」、「寝る」「酒」「世界一」とかそんなのばっかりだからだ。
そんなことが聞こえたところでなにも支障はなく、また他のクルーも皆なんの反応も示さないので、聞こえているのは自分だけなのだろうと思った。
だいたい本気でゾロの心の声なのか、それとも自分の妄想なのかよくわからなかったので、ゾロにも何も言わなかった。
問題なかった。

今までは。





夕食を終えて深夜、誰もいなくなったキッチンで後片付けをする。

「はぁ・・・・・・・・・・・・・・・・」

ため息くらい出るのはしかたないだろう。
だってなぜだかあのマリモは、なにを勘違いしたんだか、

(どうやらオレに・・・・・・・・・・・)

「がーっ!考えたくねェっ!!」

ドラムを過ぎたあたりから、「酒」「寝る」「鍛錬」しか考えなかったゾロの思考に、少し変化が現れはじめた。
サンジの作る食事のこととか、あとは・・・・・・・

(・・・・・・・・・・・・・・・・オレのこととか)

「はあぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・」

食事のしたくをしている間中、ケツに突き刺さるような視線を感じながら、しかも「ヤリてェ」「ヤリてェ」連呼されたら、神経も消費するというものだ。
いっそフザケルナと蹴り飛ばしてやろうかと思ったけど、実際サンジには、本当にアレがゾロの心の声なのかどうかわからない。
そしてそれを確かめる術もない。
もし、勝手に自分が考えてるだけだったら?

(妄想?)
(まさかオレの願望の現われだとか言うんじゃねェだろうな)
(断じてねェ!ありえねェっ!!)

ホモだなんて、考えるだけでも鳥肌がたつのに。

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
(・・・・・・・・・・・チョッパー精神科も受け付けてくれるかな)

「はぁ・・・・・・・」

『はぁ・・・・・・・・はっ・・・・・・・・』

「・・・・・・・・・・あ?」

『クソ、堪んねェ・・・・・・・・・・サンジっ・・・・・・』

「・・・・・・・・・・・・・・・」

『はぁ、スゲェイイ・・・・・・サンジ、サンジ・・・・・・』

「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」

多分これってアレだよな?そーゆぅことしてるときのだよな?
考えたら、ボツボツっと全身に鳥肌がたって、奇声をあげて衝動のままにラウンジを飛び出した。
確かゾロは今日見張りのはずだ。

「・・・・・・ゴルァっ!このクソハラマキ!なにしてやがるっ!!」
「・・・・・・・・あぁ?」

駆け上がった見張り台で見たのは、ヤハリというかなんというか、ズボンの前だけ寛げたサンジの想像通りのゾロの姿。

「なんだテメェ、マスくれェだれでも掻くだろ。この船にはマス掻いちゃいけねェ規則でもあったか」
「・・・・・・・・ぅ」

下半身の大事なところを丸出しにしつつ、ゾロは一向に恥じる様子も怯んだ様子もない。

(・・・・・・ていうか隠せよ)

でもやっぱりアレだよな?
このタイミングでオナニーしてるってことは、やっぱりアレはゾロの心の声ってことだよな?

しかしゾロの様子を伺ってみても、まったく動じてもいないし、サンジを目の当たりにしてもなんのリアクションも起こさない。
普通、オカズにしているような人間がその最中に急に現れたりしたら、やはりなにかしらリアクションがあるのではないだろうか。

(やっぱり・・・・・・・・・オレの勘違いなのか?)

こんなコト、聞けるワケがない。
「オレをオカズにしてますか?」「オレを掘りたいですか?」

(・・・・・・・・・・・それじゃコッチが変態だ)

「いや・・・・・・・悪かったな。邪魔してよ」
「いいからどっか行け」

ゾロの態度からは、サンジがいつも聞いているような内容を、本当にゾロ自身が発しているとは微塵も思えない。

(・・・・・・・・やっぱりオレが変なのか?)

項垂れたままとぼとぼと見張り台から降りてラウンジに戻る。

(ゾロの声なんて聞こえないんだ)
(聞こえるばずないんだ)

こうなりゃ自己暗示だ。
精神統一でもなんでもいい。

『・・・・・クソ、いいトコだったのに』

「・・・・・・・・・・うわーんっ!!」

本気でチョッパーに精神鑑定をお願いする日も近いかもしれない。








「サンジくん最近やつれてるわね、大丈夫?」
「・・・・・・・・・・・・・はい」

「ナミさんに心配していただけるなんてオレぁ幸せだ〜v」とかなんとかいつもの軽口を叩く気力もない。
やっぱり声は聞こえる。
しかもやっぱり「××したい」とか「×××で××××・・・・・・・」

(勘弁してくれ・・・・・・・・・・)

それでもやっぱりゾロの態度は変わらなくて、サンジを目が合えばガンつけてくるし、サンジがゾロの真意を探るべく回りをウロチョロしていれば、「ウゼェからあっち行け」とか平気で言うのだ。

今もラウンジから出て甲板で一服しているサンジの目の前で、ただ黙々と鉄の塊を振っていたりする。

(もぅ自分がわからねェ・・・・・・・・)

ゾロの様子を探れば探るほど、アレはサンジの勝手な妄想としか思えない。
でもなぜ。
サンジの深層心理では、ゾロとあんなこととかこんなことがしたいと思っているというのか。

(そんなワケねェ・・・・・)

『アイツの口美味そうだな』

ばっと顔を上げれば、なにごともないように鍛錬をしているゾロの姿。

(もぅオレ自信ねェよ・・・・・・・)

ナミは頑張ってねとか適当に言って、そのまま離れて言ってしまった。
本来、ナミから話しかけにやってきてくれなんて、絶対逃すことのできない絶好のチャンスのはずなのに。

(テメェのせいだ!)

イラだち紛れに、ゾロを睨みつける。
ちょうどゾロもコッチを見たので、そのまま目があった。

(・・・・・・・・・・・・)
(なんだ)
(なに考えてやがる)

こういうときこそ、あの声を聞かせてほしい。

なにも聞こえないまま、ゾロがこちらに近づいてきた。

(・・・・・・・・・ていうか近づかないで)

キッチンで後ろから視線を送られながらも嫌だが、至近距離であの声が聞こえたら、ちょっと本気でゾロを殺してしまうかもしれない。

「・・・・・・・・・テメェ、最近・・・・・・・」
「あぁ!?」

ピリピリと警戒心も露にしたサンジに、ゾロも言い淀む。

『なんか痩せたよなコイツ』
『疲れてんのか?』

「・・・・・・・・・・・あ?」
「あー、あのだな・・・・・・・・・」

『テメェがそんなんだと・・・・・・・・』
『オレぁ困る』

「・・・・・・・・・・」
「やっぱ、なんでもねェ・・・・・」

『オレぁテメェに惚れてんだ』

煮え切らない表情をしたまま、ゾロはまた鍛錬に戻った。

(・・・・・・・・・・ズリィ)

こんなのはズルイ。

アレが本当にゾロの心の声だとしたら。
嘘もなくて、建前もなくて、なんて真っ直ぐな告白だろう。
だって心で思ったことに、嘘なんかつけない。
でも本当にゾロの声なのか。
確かめる術はない。

『・・・・・・・・・・サンジ』

「・・・・・・・・・・そんなのズリィ」