Father's Day




「なぁお前さ、エプロンとかっている?」










「あ?そりゃまたなんでイキナリ」

格納庫で、2人寝転がってお互い向かい合いながらいちゃいちゃしているトコロにオレがふった話題はあまりに不自然だった。
事後のクサレハラマキは、いや、今は裸族がごとく素っ裸なのでハラマキとは呼べねェな、つかまぁオレも素っ裸だけどよ。とにかく腐れマリモはふてぶてしい態度そのままに人のケツを我が物のようになでていた。

「別に、たまたま使わねェエプロンが手元にあるだけだ」
「つかエプロンなんてもんはテメェがつけるものであって、オレが持っててもしょうがねェだろ」

マリモがケツをなでている方の手をは反対の手でオレの口がらタバコを取って自分で咥えた。
クソ体力一本勝負のヤツがタバコなんか吸ってんじゃねェよ。
いざってときに息切れじゃ剣豪様の名がすたるゼ?

「まぁそうだよな」
「で?」
「あ?」

うを、引き寄せてんじゃねェよ、脚にあたんだろ、テメェのチンコがよ。
クソ汚ねェな。ったく。

「なんて使わねェエプロンなんてもんをテメェが持ってやがんだ?」

ふっ、とタバコを吐き捨てると睨まれて、心なしかゾロの語感が荒くなる。
出たな、ヤキモチ剣豪だ。

「どこぞのオンナにでも貰ったのかよ」

ビンゴ。ホントしょうがネェクソガキだ。
その捨て犬っぽい目をヤメロ。
しょうがないので拗ねたようなツラをしたマリモの頭をぐしゃぐしゃとなでてやる。
ふん、とか鼻で息をつきながらもマリモはおとなしく胸元に収まった。

「違ェよ、だいたいレディに貰ったモンをテメェにやるワケねェだろ」
「ま‥‥、そうだな」

オレの言葉と、おそらくは撫でられている頭に機嫌をよくしたマリモは、更に調子に乗ってまたムニムニとケツを揉んで来くる。
なんつーかよ、オレぁテメェの顔はそんなに嫌いじゃねェんだ。
男前だしよ。だがヤロウのケツなでてだらしなく口元緩めてるってのはどうだよ。
いいけどよ、まぁ実はそんなトコも嫌いじゃネェんだ。

「じゃぁなんでそんなモン持ってんだ?」
「あー‥‥‥」
「言えよコラ」

コラ、とかいいながらマリモはオレの脚の間に割りいれた自分の脚でぐいぐいと股間を刺激してきた。
出たな、今度はセクハラ剣豪だ。

「んー、あ、あんっ」

硬い太腿でぐりゅぐりゅと弄られる股間が気持ちよくて思わずマリモの首に手をまわす。

「オイ、そうじゃねェだろ」
「ん、もっかいしようぜ」
「その前にエプロン」
「あ?エプロン?あぁ、裸エプロンか。お前そういうの好きなのか」
「違ェだろ」
「や、いんじゃねェ?男のロマンだし」
「だから違ェって」
「いいっていいって、今度ヤってやるよ、じゃ、オヤスミ」
「待て」

ゴロリとゾロとは反対側に寝返りをうったところを肩をつかまれ引き戻された。

「オレに言えねェようなコトなのか?」
「や、そうじゃねェけど」
「じゃぁ言え」
「んー、言えねェっつうか言いたくねェっつうか言う必要もねェっつうか」
「いいから言えって」
「じ、じじぃにやろうと思って買ったんだ」

ぶわっと、あたりがなんともいえない空気に包まれた。





「なんで、あのオッサンにンなもん買うんだよ」

チラっと、またヤキモチ剣豪が顔を出す。
コイツはバラティエの仲間とか、コトじじぃに関してはとくに敏感だ。
まぁ気持ちはわからなくもない。
そういうんじゃないってわかっててもオレだってくいなちゃんが気になったりするし?

「あー、まぁテメェは絶対覚えてねェとは思うけどよ、つかそんなもんがあること事態知らねェかもしんねェが先週の日曜日は『父の日』だったんだ」
「ふーん、それで?」
「だからまぁじじぃにエプロンでも送ってやろうかなぁ、とか思ったんだけどよ、まぁじじぃにはどっちかっつったら敬老の日のほうがあってるかもな」

ははは、とかいってから笑い。ちと苦しいかな。

「そんで先週の日曜日に贈るもんがなんで今ココにあるんだよ」
「んー」
「まぁだいたい予想はつくケドな」
「むー」

今度はさっきとは逆にオレのほうがマリモにぐしゃぐしゃと頭をかき混ぜられた。
なんだか居心地が悪いがでかい手に髪を梳かれる感覚が気持ちいい。

「やっぱらしくねェよなー」
「つうか買ったのに渡せないってトコはテメェらしいな」
「うるせーよ」
「まぁそんなもん送んなくても、わかってると思うぞ」
「‥‥んー」

クソハラマキが、わかったようなコトいいやがって。
ちくしょう。カッコイイじゃねェか。

「じじぃってさー」
「ん?」
「きっとオレのことスゲー好きなんだぜ?」
「ぶっ、なんだそりゃ。自分で言ってんじゃねェよ」
「だってさ」

だって、思ったんだ。
クソゴムの船にのってバラティエを出て行く時イロイロ思い出した。
初めてじじぃがおれのメシ食って笑ったときのこととか。
オレが風邪ひいたときに一晩中そばにいてくれたときのこととか。

「なんで今まで気付かなかったのかなー」



あぁ貴方はこんなにも


私に愛をくれたのですね




「気付いたんならイイじゃねェか」
「んー」


だからオレは、伝えたくなったのだ。
感謝していること。
とてもとても、感謝していること。
そして、

————オレも貴方が、とても大事だと言う事を。


「あのオッサンの方がお前より一枚も二枚も上手なんだ、テメェの気持ちなんざとっくにお見通しだろ」
「‥‥そっかな」
「そうだろ」

ぎゅっと抱きついたら、それ以上の強さで抱き返された。

「でもせっかく買ったんだし、送れば?」
「んー、でももぅ父の日過ぎたしなー」
「関係ねェだろ」
「まぁな」

それにしても。

「なに笑ってんだよ」
「ヤキモチ剣豪が『送れ』っつうとは思わなかった」
「るせーな、オレだってそんくらいわかんだよ」

赤くなっているであろう顔をみてやろうと体を離そうとしたががっちりと頭を押さえられていてそれはかなわなかった。
ゾロがわかると言ったのは多分、じじぃへの愛情と、ゾロが好きだという気持ちの違い。

「そっか、イイコだな」

くしゃくしゃと両手で頭を撫でるとうー、とか唸り声のような声をあげて首筋にかみかみと噛み付いてきた。
はは。獣め。

「どうせなら手紙つきででも送るか」
「あ?」
「『拝啓ジジイ、元気ですか?オレはクソ元気です』」
「ははは」
「『貴方が大切に大切に育ててくれたサンジくんは、ゴーイングメリー号に乗るなりイーストブルーの魔獣と恐れられるクソハラマキにケツを掘られてしまいました』」
「オイオイ」
「ははは。じじぃが怒って乗り込んでくるかもな」
「オッサンだけじゃなくてバラティエのやつら皆来るんじゃねェか?」
「そっか、久しぶりに会いてェな、ホントにそうやって送ってみっか」
「勘弁してくれ」










————バラティエにGM号からの小包が届くのは、それから更に一ヵ月後のこと。


'02.06.21