年輪
ゾロを叱っています。
「なんだってテメェはそうやってなにをやらせてもダメなんだ!」
「言われたとおりにやっただけだろうがっ!!」
ゾロ曰く、「サンジに言われたとおり」剥いたたまねぎは、にんにくみたいになってチョコンとまな板の上に鎮座。
剥けと言ったら際限なく剥いた。
まさか、19にもなろう男に「剥いたら中身がなくなった」とか、言われるとは、思わなかった。
お前、今までなに食って生きてきたんだ。
サンジが出してる料理、材料なにかとか、なにも、興味なしか。
たまねぎ、食ったこと、あるだろ?
「お前いつも食ってるたまねぎを思い出せっ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・どれ?」
・・・・・・・・・・・・・。
いい・・・・・わかった・・・・・・・・。
いくら忙しかったからって、手伝わせてるのがゾロなのに、たまねぎすらもわからないゾロなのに、目を離した自分がバカだった。
どっと疲れたようにため息をひとつついて、新しいたまねぎを一つ取り出しストンと横に切ってみせた。
「ほら、こういうの見たことあんだろ」
中心からいくつも円を描くようになっているたまねぎの断面図。
「ほー」
まぁ、こんな丸いまま皿のうえに乗ることなんてそうそうないから、しょうがなかったのかもしれない。
「なんかアレに似てるな。木とか横に切ったときのヤツ」
「あー、年輪な」
そんなことを言っちゃうゾロの発想力はまるで子供のようだ。
ふと。
「あぁ、そうだお前知ってっか?」
ふと、思いついただけのこと。
「木の年輪ってのは、年をとればとるほど増えていくんだ」
せっかくのたまねぎを一つダメにされ、いやモチロン「皮」と称して捨てられそうになったそれをキッチリ救出して使うけれど。
「ふーん」
「実は人間にも年輪ってやつはあるんだ」
ささやかな仕返し。ただのイタズラのような。
ウソップはいつもこんなときどんなふうに舌を滑らせていただろうなんて考えながら。
「でも人間の年輪はな、年齢じゃなくて『強さ』で決まるんだ」
「強さ?」
そこで、ボケっとしていたゾロの眉がピクリと動く。
のってきた。
「は、ウソつくな。人間に年輪なんか」
「まぁモチロンお前は知ってると思うけどよ。たまねぎ知らねェとか言うくらいだからさ。いやいやそんなわけねーよなー。常識だもんな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
途中まで言ったセリフを遮ってダメ押し。
今度こそゾロは黙って考え込みはじめた。
(けけ。バカめ)
鼻で笑っちゃいそうなサンジの表情に気付くと、ゾロはぷいっと踵を返す。
「おい手伝いは」
「もぅやらねぇ」
なんて可愛くない。
(いーさいーさ)
どうせゾロの小さい小さい脳みそン中は、今きっと「年輪」で頭がいっぱいだ。
ひょっとしたら自分の年輪とミホークの年輪はどっちが多いかななんて考えてんだ。
そんでその小さい脳みそじゃうまく考えなんてまとまるわけなくて、きっとナミさんとかに聞いちゃうんだ。
「おい、人間の年輪ってさ」とか言っちゃうんだ。
ラウンジを出て行ったゾロを、後を追わないまでも甲板の様子に耳を済ませるようにして気にしてみた。
「アンタバッカじゃないの!」とか笑われてストレート。
あるいは聡明なナミのことだから、すぐにゾロが騙されてることなんかに気付いて「あんたの年輪、数えてあげてもいいわよ」とかなんとか言ってあの小バカから金すらとるかもしれない変化球。
(どうくるかな)
きっとそろそろ、何かアクションがある頃だ。
「ゾロが切腹したーっ!!」
ホームランでした。
'04.08.09